2024/2/27

【ミドルエイジ転職】よくある「3つの勘違い」と最適マッチの原則 

NewsPicks Brand Design / Editor
 「転職35歳限界説」は幻想となった。その裏付けとしてミドルエイジ向けの転職サービスも活況だ。大手人材会社は“ハイクラス人材”向けの転職サービスに注力している。

 さらに“年収600万円からのミドルクラス人材”を対象に、マイナビはスカウト型転職サービス「マイナビスカウティング」を2024年にローンチ。役職や年収に関わらずミドルエイジ人材の転職の一般化が進んでいる。

 一方で、ミドルエイジであるほど、求められるスキルや責任のハードルも高く、転職は容易ではないのも事実。ではミドルエイジ人材の転職成功の秘訣とは何か。数々の転職志望者を最適な企業へマッチングした二人の敏腕転職エージェントに聞いた。

ミドルエイジ転職。3つの「勘違い」

──お二人はミドルエイジ人材の転職を数多く後押しされています。転職がうまくいく方と苦戦する方の違いをどう考えますか。
新井 苦戦するのは、ミドルエイジの転職の常識を勘違いしている方です。
 僕の専門はIT、SIer、コンサル業界ですが、明確に間違いだと言える行動を体系化しています。
 勘違いのポイントは3つ。「年収アップの幅を間違える」「社名で選ぶ」「短期志向」です。
──なぜ勘違いなのでしょうか。
新井 たとえば、年収アップ。35歳の人が現在年収600万円なのに「次の転職では100万以上の昇給、さらに40歳では1000万円欲しい」と言ってしまう。
 現職で昇給が決まっている。現職では退職金があるが志望先はないなど根拠がないかぎりこれほどの大幅昇給は難しい。
 高成長でベース給与が高い企業もあるものの、現職の評価制度と転職先の評価制度は異なります。現職とベース給与が違うので昇給してほしいは根拠になりません。
 同感です。私の得意領域は消費財メーカーですので、ITやコンサルに比べ転職経験が豊富な人材ばかりではありません。
 転職していないため「自分の値決め」ができず「希望年収」に迷って高く言ってしまう方も多い。
 ただ根拠がなければ、アップしても現年収の約10〜15パーセント」が妥当です。
 また2つ目の「社名で応募先を決めがち」という新井さんのお話もうなずけます。外資系企業や有名企業の年収は確かに高く、福利厚生も整っています。
 ただミドルエイジの転職は自身のスキルと募集ポジションのマッチが重要です。新卒採用のリベンジという感覚では壁にぶつかります。その上、有名企業ほど倍率が高い。
 明確に自社で行いたい業務はあるか、スキルフィットはどうか、カルチャーフィットして活躍できるか。採用担当者は、常に判断にさらされています。採用基準を超えるためには、相応のスキルや必然性が求められます。
新井 また正直な話をすれば、これまで勤めていた社名を考慮し採用基準を決めている企業も多い。同業種で、営業職から営業職など同職種の転職で一定スキルがある場合でもです。
 自社の競合先にならない企業の人材を採用しても、自社と同規模の商談を常時していた経験があるのか、本当にパフォーマンスを発揮するのか疑問に思えば、厳しい目を向けます。
──では転職志望者は転職先の選択肢をどう見定めればよいのでしょうか。
新井 自分が転職する理由をしっかり見定めることです。転職慣れしていない方はエージェントを壁打ち相手としても良いと思います。
 また勘違いの3つ目である「短期志向」にならない意識も持ってほしい。
 企業側の募集ポジションに空きがないのに、転職を焦り、自身の転職の目的や、譲れない条件を焦って手放すのは本質的ではありません。
 また目的がぶれたまま「短期志向」で“転職することをゴール”にしていても、自身の持つスキルや志望動機が企業に伝わらず、決まりづらくなります。
 IT、コンサル業界は比較的、ミドルエイジ人材へのニーズが豊富ですが、メーカーの求人数はまだまだ限られています。「短期志向」になりすぎず、焦らないことは特に重要ですね。
 実際、私の担当した案件でも、長い目で転職活動を行ったことで成功した例があります。
──どのような例でしょうか。
 その方は、最終的に地方の大手精密機器メーカーの工場設計職へ転職しました。キャリアアップを経て、現在は年収が倍になりつつあります。
 新卒で中堅のゼネコンに勤めた後、家庭の事情でUターンし地元の小さな設計事務所に移りました。その後、長い間、現在働いているメーカーを志望していました。
 ただそもそもスキルを活かせるポジションが企業にありませんでした。新規の工場設立計画や、継続的な改修・改築・増築などのニーズがでたことで、新規ポジションの募集が開始された。
 そのタイミングでこちらから声をかけました。入社理由や目的も明確でスキルもマッチしていたため最適なマッチングになりましたね。

欲しがりが、転職を遠ざける

──目的を明確にし、焦らず、深く企業研究を重ねることが重要ですね。ミドルエイジ人材はどのような目的で転職を望んでいますか。
新井 現職で正当に評価されず、年収が上がらない。ワークライフバランスが悪い。自身の希望する仕事ができないなどですね。
 ただ、転職の目的の優先順位が明確化されておらず「あれも、これも」と欲しがってしまう方が多い。僕が面談する場合は目的の整理から始めます。
 たとえば「なぜ転職時にその希望年収がいるのか」を問うと、金銭へのこだわりの度合いが見えてきます。物欲、老後の不安、ライフステージの変化が起きたからなどです。
 しかし老後が不安だと言っても、実はこれまで、企業型確定拠出年金をきっちりやっていた方もいます。
 退職金がでない会社に転職しなければ、将来年収1000万円に届かなくても、老後の不安は大きくない。
 年収が欲しいのではなく、年収が上がらないような評価しか受けられないことが不満ではないのかなど、はっきり伝え目的を整理しています。
 目的の優先順位が定まれば、こちらも紹介する企業の選択肢が定まります。
──橘さんが担当されている、メーカーではどうでしょうか。
 メーカー志望で多いのは、自分の能力に自信を持てないという悩みです。ただ、自認できていないだけで優れたスキルや経験を持つ方は、たくさんいらっしゃいます。
 スキルをしっかり自己認識することで、転職の選択肢が広がり、本人のキャリアの可能性やライフステージの充実につながります。
 たしかにミドルエイジになると“異職種”転職は困難です。
 ただスキル次第では“異業種”転職は可能です。実際、自身が持っているスキルをうまく掛け合わせ、業種を超えて転職し、ご自身の望む道に辿りつくこともあります。
 その求職者の方は、老舗アパレルメーカーで洋服の商品企画に携わり、その後は有名な輸入雑貨専門店に勤めていました。50代前半の男性です。
 アパレル業界で培った「生地や素材に対する専門知識」、雑貨専門店での「若い世代向けに売れる商品の感度」を掛け合わせて、ぬいぐるみメーカーへの転職を支援しました。
 また役職を上げ、マネジメントに深く携われるようになりたいという明確な目的があった。年収は数十万円ほどダウンしたものの、課長クラスから部長クラスへキャリアアップしています。
 先ほど新井さんも転職エージェントに相談して壁打ちをしていいとおっしゃっていましたが、自身が保有しているスキルを知るために、活用いただくのも良いですね。

見極めの3つのポイント

──良い転職エージェントの「見極め方」があれば教えてください。
新井 大きく3つのポイントを挙げています。
 1つ目が、いきなり10社以上の応募を促してこないこと。このような転職エージェントは求職者の志向性を大まかに判断し、あらかじめ用意したいくつかのプランから、求人を紹介しています。
 これは求職者が絶対に幸せにならないやり方です。
 質の低い転職エージェントの担当者(コンサルタント)ほど、推薦企業を1社ずつ、しっかり説明できない傾向にあります。
 2つ目は、内定後の回答期限を延ばせるプロであること。回答期限を延ばせるコンサルタントほど企業とのコミュニケーション量が豊富です。信頼関係の深さが量れます。
 企業の内情を把握するほど、いつまでにそのポジションがなぜ必要か理解しているので、交渉できます。
 3つ目は、コンサルタント自身の実績を直接聞くこと。優秀なコンサルタントはどんな業界、企業に強くて、志望している企業への支援実績が十分にあるかはっきり回答できます。また、納得のいく実績だと求職者に感じてもらい、信頼関係を結んだほうが、転職活動する方がスムーズに進むため隠し理由はありません。
 この3点が「AND条件」で重なれば、信頼の足がかりになるでしょう。
 あとは書類通過率を聞くのも良いと思います。求職者の実情を知り、企業の内情を深く知るためにはコンサルタントは多大な労力をかけます。
 書類通過率が低い場合は、新井さんがいうように大雑把に応募を促している可能性があります。
 また最近はスカウト型の転職サービスも増えています。求職者へ届くスカウトの質、企業と求職者をつなぐコンサルタントの質を高める動きも見られます。
 サービスに登録できるコンサルタントも審査の上、吟味されているため、書類通過率が高倍率の転職エージェントが揃っていることもありますね。
──より良いコンサルタントと出会えば転職の可能性が広がりそうですね。
新井 そうですね。ただ求職者とコンサルタントも人間同士の付き合いです。性格やキャラクターの相性もあります。僕は相手にとってイヤなことも「はっきりと」伝えるタイプ。
 良いことであれば言うし、僕なりの成功パターンも持っている。攻撃的と感じる人もいれば、逆に自信を得て転職できる人もいます。
 メーカーという業界は、社風や協調性を重視する文化があるので、新井さんと私のコミュニケーションは異なりそうですね。
 ポジションの空きを待ってから声掛けすることもあるので、長い人では2年ほど掛けて転職される方もいます。長期的な信頼関係を重視し、求職者の悩みに寄り添うようにしています。

最適な転職につながるマナー

──転職エージェント側から、求職者に伝えたいことはありますか?
新井 面倒でも2、3人のコンサルタントと接点を持って、面談をしてみてください。誰か一人に決めないといけないわけではないし、むしろ一人に限定しないほうがいい。
 同感です。そのエージェントが保有しているクライアントの募集要件と条件が合わなければ何も紹介できない場合もあります。その状況下で、過度な期待を寄せていただいても、いつまでも転職が決まりません。
新井 また転職の進捗状況や、選考中企業の志望度を本音で教えてほしいですね。具体的な会社名までは言わずとも「現在は3社選考中で、2社の転職エージェントに相談している」などは教えてほしい。
 各企業への志望度がわかれば、エージェントはクライアントへの説明や期待値の調整がしやすいですよね。
 仮に「他社の転職エージェントを通じて受けている第一志望に落ちてしまった」 であれば、私の紹介している第二志望の企業に、現在は第一志望ですと率直にプッシュできます。
 また、こちらがご紹介する企業の過去の応募履歴もきちんと教えてほしいですね。
 応募したことがないと言っていても、クライアント側にデータが残っていることもあります。正直に伝えることはトラブル回避にもなります。
新井 企業が採用を見送る際には「経験不足」や「他の候補との比較」など、簡潔に理由を通達しています。具体的に何が足りなかったのか、知る機会はあまりありません。
 一方で、クライアントと深い関係を築けているレベルの高いコンサルタントを介せば、見送りになった理由を聞くこともできます。
 見送り後、すぐのリベンジは難しくてもある程度、年数があけば再チャレンジもできます。
 見送りの理由が、ポジションの空きがない、スキル不足などであれば、タイミング次第では転職が叶うこともあります。空きがでたら声をかけることも、転職エージェントの役割の一つです。
新井 素直に状況を伝えることは、コンサルタントに対する最低限のマナーだと思います。特に転職に不慣れなミドルエイジ人材ほど隠しがちな印象があります。
 ただ、進捗状況、回答期限、年収、本音の志望度などを聞いても、コンサルタントが悪い印象を抱くことはありません。
 僕らは、転職が成功した方の年収に応じて、フィーをもらいます。転職を成功させなければ当然もらえません。
 またクライアントにすぐ退職する人材、入社後に活躍できない人材を紹介していては自身の信頼を失います。
 そのため、求職者、クライアント、僕らの介在価値の「三方良し」を目指しています。
 ポテンシャル採用の要素がないミドルエイジ人材ほど、良いコンサルタントと出会い、本音で話し、使い倒すことが重要だと、思っていただきたいですね。