(ブルームバーグ): 米国オフィス向け融資の追加引き当てで、2024年3月期決算が15年ぶりの赤字に転落するあおぞら銀行。一段の不動産市況の悪化に直面すれば、追加損失計上の可能性も否定できないほか、ネットバンキング時代のリスクを懸念する声も聞かれる。

業績の下方修正を発表したあおぞら銀の1日の株価はストップ安(値幅制限いっぱいの下落)まで売り込まれるなど動揺が広がった。2日の取引でも一時前日比19%下落し、終値は16%安の2150円と3年ぶりの安値を付けた。

米地銀持ち株会社のニューヨーク・コミュニティー・バンコープ(NYCB)が商業用不動産で予想外の引当金を計上したことに続く動きでもあり、米国での商業用不動産のリスクが顕在化した形だ。新型コロナウイルスを契機に広まった在宅勤務へのシフトでオフィス需要は弱い上、金利の急上昇で借り手のコストも高めている。

「流動性は潤沢で問題はない」。1日夕に急きょ設定された記者会見で、預金流出の懸念はないかと問われた谷川啓社長は不安はないと強調した。米不動産融資に対して保守的に引当金を積んだとして、「十分なバッファーを確保して、今後、損失が発生するリスクを最小化させた」と説明した。

それでも市場の懸念は残る。カタリスト投資顧問の草刈貴弘共同社長は「ネット経由の預金の割合が高いので資金移動が激しく、米シリコンバレーバンク(SVB)の件の連想が働くのではないか」と指摘。来期(25年3月期)の増配方針を打ち出したことについても、「実際にできるのかという懸念は拭えない」という。

アイザワ証券投資顧問部の三井郁男ファンドマネジャーは、あおぞら銀のネット顧客について「日本では預金者保護制度がそれなりに整っていることが周知されており、解約が相次ぐような事態にはならないと思う」と指摘。一方、こうした顧客は金利に非常に敏感だとして、今後のリテール戦略次第で顧客が離れる潜在的な懸念は残るとの見方を示した。

邦銀では異色の存在

旧長期信用銀行の一角だったあおぞら銀は店舗網が薄く、調達の強化を課題としてきた。特に、コストを掛けない調達手段としてオンラインサービスに注力してきた経緯がある。ただ、ネット調達への傾倒は危うさもはらむ。23年に米国で経営破綻したSVBはネット経由で預金が流出し、その足の速さが経営を追い詰めた。

あおぞら銀の開示資料によると、昨年12月末時点で、預金と譲渡性預金、社債を合わせたコア調達のうち、個人預金の比率は64%を占めるものの、その7割以上がインターネット経由。デジタル化で出遅れる邦銀では異色の存在だ。

SVBの預金引き出しの動きは、1日で420億ドル(約5兆5700億円)にもなった。米投資会社ブラックストーン・グループのスティーブン・シュワルツマン最高経営責任者(CEO)は、以前は預金を引き出すために銀行に足を運ばなければならなかったが、今ではSNS(交流サイト)で信用不安の情報が出回ると、ネットバンキングを通じて短時間で多額の預金が流出する事態もあると警鐘を鳴らした。

東洋大学の野崎浩成教授は「セーフティーネットの面で米国とは異なる」として、あおぞら銀での預金流出の可能性について心配はしていないと指摘。その上で「資金繰りという点では、流動性リスクには気を付けなければいけない」とも付け加えた。

また、モルガン・スタンレーMUFG証券の長坂美亜アナリストは1日付のリポートで、あおぞら銀が引当金を積み増したことで「今後損失が発生するリスクは減少見込み」としたが、海外不動産向け融資の与信費用が計画比で超過する場合を株価のダウンサイド・リスクに挙げた。

過去にも米投融資で損失 

あおぞら銀が米国関連投資で損失を被るのは初めてではない。03年に米サーベラス・ キャピタル・マネジメント傘下となった同行は、米国流の経営手法を取り入れ、デリバティブ(金融派生商品)などに収益機会を見いだした。

しかし、米サブプライム(信用力の低い個人向け)住宅ローンや米ゼネラル・モーター ズ(GM)の金融関連会社GMACの株式などへの投資で損失が拡大。09年2月、フェデリコ・サカサ社長(当時)の引責辞任に発展した。09年3月期の純損失は2426億円と巨額だった。

サーベラスは13年に保有株の大半を売却したが、同行の海外事業への関心は衰えなかった。13年2月、馬場信輔社長(当時)は北米とアジアでの海外融資を強化する方針を示した。東京を拠点とする都市銀行でありながら、メガバンクに比べて小規模で、地域金融機関のような強固な営業基盤もない。海外投融資を含む投資銀行ビジネスに活路を求めた。 

あおぞら銀は今回、外国債券の含み損処理も発表した。「米国不動産融資が貸し出し全体の約 1 割を占め、有価証券含み損によって中核的自己資本(CET1)比率が7%を割り込むというのは類似例がない」。SMBC日興証券の佐藤雅彦アナリストは、1日付リポートであおぞら銀固有の問題で他行への波及の可能性は低いとの見方を示した。

社長交代のお披露目を兼ねた1日の会見で大見秀人次期社長は今後は国内ビジネスに軸足を移すのかと問われ、内外の比重を見直す可能性はあるとしながら海外事業は「引き続きやっていきたい」と表明。その上で、レバレッジド・バイアウト(LBO)やベンチャー融資などに経営資源を配分する考えを示した。

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--取材協力:佐野七緒.

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