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Chapter 4:「再定義」の時代到来

スマホベンチャー登場。大手はどうするべきか

2015/5/4
これからのグローバル化社会で戦っていける「強いリーダー」を生み出していくためには何が必要なのか? そのために何をするべきかを長年伝えてきたのが元マッキンゼー日本支社長、アジア太平洋地区会長、現ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一氏だ。
本連載は大前研一氏総監修により、大前氏主宰経営セミナーを書籍化した第三弾である『 大前研一ビジネスジャーナル No.3「なぜ日本から世界的イノベーションが生まれなくなったのか」』(初版:2015年2月6日)の内容を一部抜粋、NewsPicks向けに再編集してお届けする。本号では「イノベーションを生みだすにはどうすればよいのか」をテーマに、日本の現状を掘り下げている。
大前研一特別インタビュー(上):「疑問を持つこと」がイノベーションの種になる(3/26)
大前研一特別インタビュー(下):異質な人間同士の「出会い」がイノベーションを生む(3/30)
本編第1回:Chapter 1:ユビキタス、フリクションフリー世界の到来(4/2)
本編第2回:Chapter 1:「出版」「音楽」「農業」はテクノロジーでどう変わったのか(4/6)
本編第3回:Chapter 2:産業の垣根を越えたセブン&アイとアマゾン(4/9)
本編第4回:Chapter 2:これからの産業の姿を変えていくIoTとは(4/13)
本編第5回:Chapter 2:全ての企業が「テクノロジー企業」となる(4/16)
本編第6回:Chapter 3:垣根の消滅がもたらす“対立の図式”(4/20)
本編第7回:Chapter 3:既存自動車メーカーと対決するグーグル、テスラ(4/23)
本編第8回:Chapter 3:ITで変わるコンテンツ配信、ホテル、タクシー業界(4/27)
本編第9回:Chapter 4:再定義される「3C」、新分野に進出するIT企業(4/27)

新規事業参入のカギを握る「EMS」

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「EMS」も重要なキーワードです。EMS(Electronics Manufacturing Service)とは、電子機器の受託生産を行うサービスのことですが、このEMSによってソフトウェア企業やWebサービス企業がハードウェア事業に容易に参入することができるようになりました。

図-24は、「ソフトウェア・Webサービス・EC企業によるハードウェア事業」の一覧です。マイクロソフトはゲーム機、センサー、タブレット、PC、グーグルはウエアラブル端末やスマホ、タブレット、ストリーミング用端末、アマゾンは電子書籍端末、スマホ、テレビに参入しています。

スマホであれば、台湾のメディアテックのような会社に頼めば設計してくれます。中国に小米(シャオミ)という中国ナンバーワンのスマホメーカーがあります。この会社は設計能力をもっていないのですが、台湾の会社に頼んで格安のスマホをつくっています。マイクロソフトも、ゲーム機やセンサーなどのほとんどを、台湾のEMS企業であるホンハイ(鴻海精密工業)に頼んでいます。
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自動車も次第に注文生産ができるようになってきています。図-25の右側に記載した、アンドロイド・インダストリーズやマグナ・インターナショナルといった自動車受託生産企業が存在感を高めつつあります。

こうした会社は、1台からでもご注文の車を作って差し上げます、5人まとめて注文してくれたらもっと安くしてあげますよ、という受託方法を採用しています。こうした自動車受託生産企業は、図-25の左側のように、家電業界にEMS企業が進出してきている状況に似ています。

格安スマホベンチャーはたった2人で経営!?

それから前述のメディアテックのような会社が出てきて、自社に設計能力がなくても、誰でも格安スマホがつくれるようになりました。
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今、中国には200社もそのようなスマホ会社があります。もともと小売りをしていた会社が非常に安い値段でスマホをつくっています。日本でもプラスワン・マーケティングというスマホベンチャーがfreetelというスマホをつくっていますが、全部外部の会社につくってもらって、イオンなどで1万円で売っています。

この会社は、CEOを含めてたった2人でやっています。MVNO(仮想移動体通信事業者)として、誰でもスマホ事業者になることが可能になったのです。

図-26の右側は、格安スマホベンチャー企業と、スマホ大手企業の生産システムを比較したものです。スマホ大手が多くの社員を抱えて1年以上かけてつくっているのに対し、スマホベンチャーは企画着手から発売までわずか3カ月しかかけません。

スマホベンチャーのやり方は、今までのように巨大なシステムで設計して、製造して、売るというモデルと大きく異なるのです。

生き残りのための4つの課題

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ということで、テクノロジーの進化で産業の垣根が消滅し、「3つのC」の定義が大きく変わりました。こうした激変する環境下で、既存企業は生き残れるのか」ということですが、図-27の右側に4つの課題を挙げています。

1つ目は、「自己否定できるか」。つまり、自社の事業構造を変え、顧客を再定義することが必要になってきている、ということです。

2つ目は、「テクノロジーを取り入れ、テクノロジー企業へと変貌できるか」。これは「業界を変革する側にまわれるか」ということです。

3つ目は、「エコシステムにどうかかわるか」。ここでは、「製品を自分たちでつくるのか」「プラットフォームに参画するのか」という判断が求められます。

4つ目は、「構想を描けるか」。再定義した事業の全体構想を描けるかどうかが課題となってきます。

今までのかたちや経緯にとらわれずに、新しいサイバー空間において自社の事業の将来像が描けるのかどうか、自己否定してテクノロジーをよく勉強して、現在のすごいエコシステムにうまく乗って、そして自社の3~5年後の姿が描けるかと。

この時代に10年後の姿を明確に描ける人はいません。したがって、そんなに遠くない3~5年先の姿をいかに描けるかが重要なのです。

垣根を越えて進む「成功事例」に学べ

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最後に、産業の垣根を越えた事業で成功している企業の「自社事業の再定義の事例」、自己否定をして「自社を再定義したエスタブリッシュメントの事例」をご紹介します。

図-28は、グーグル、アマゾン、アップル、セコムの事例です。

グーグルは今後、自動運転、人工衛星、ヘルスケアの分野に進出していくと思われます。アマゾンは画像検索、ロボット配送、出店者向け融資、クラウドの分野に、アップルは車載システム、フィットネス、時計の分野に、セコムは、飛行警備ロボットや病院経営などに参入していくと思われます。

図-29は、GE、フィリップス、ノキア、富士フイルムの事例です。

ゼネラル・エレクトリック(GE)は、家電などの不採算部門を整理・縮小。また、医療診断機器や航空機エンジンに力を入れ、金融などの新事業にも次々と参入しています。

フィリップスは、事業の集中と選択により収益構造を改革。液晶パネルや半導体などの事業から撤退し、医療・照明・家電の3事業に絞り込みました。

ノキアは、かつて世界トップシェアを誇った携帯電話部門をマイクロソフトに売却。基地局事業とデータサイエンス部門に集中した結果、財務内容も改善に向かいつつあります。

富士フイルムは、コア事業であった写真フィルム事業の大幅縮小という「本業消失」の危機に直面しました。しかし、グループ会社の富士ゼロックスが手がけるドキュメント事業、高機能材料事業、メディカル・ライフサイエンス事業などの6分野を新たな成長の軸に据えて構造改革を断行。事業構造を転換させて新たな成長に向かっています。

このように各社とも自社を再定義していろいろとやっています。

皆さんもぜひ、自分の会社がどう変わっていくべきなのか、自分たちのお客さんがどう変わってきているのか、本当に今までの競合相手だけを見ていればいいのか、また、自分の会社がもっているものともっていないものを見極めて、もっていないものをクラウドソーシングで補うのか、それともEMS企業に頼むのか、そのようなことを考えながら、3~5年後の姿を設計していただきたいと思います。

(大前研一向研会定例勉強会『消えゆく産業の垣根~業種の壁を超える企業~(2014.8)』よりgood.book編集部にて編集・収録)

次回からは『大前研一ビジネスジャーナル No.4』の内容をお送りします。

※本連載は次回から毎週月曜日に掲載予定です。

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