2024/1/10

総合商社双日が挑む「正解がない」ビジネスへのアプローチ

NewsPicks Brand Design editor
 変化が激しく、先の見えない時代。特に未知の領域でのビジネス立ち上げはマーケットやターゲット、収益性の見極めが難しく、事業創出のハードルは一層高くなる。
 クリーンエネルギー中心へと転換し、経済社会システム全体の変革を目指すGX(グリーン・トランスフォーメーション)もそうした領域のひとつだ。
 2022年以降、官民合わせて50兆円の投資が動き出しており、多くの企業がこの領域でビジネスのいとぐちを模索しているが、前例が少ないため事業化がうまく進まないケースもある。
 こうした中、自社のアセットを活用しGX領域の新規事業創出を着実に進めているのが、総合商社の双日だ。まだ正解が存在しない領域で収益性と再現性を両立させたビジネスモデルを作るために、同社はどう動いたのか。
 双日でグリーンEVインフラ事業を推進する忠鉢良明氏と、EVX(EVトランスフォーメーション)の知見を有し、同プロジェクトを支援したリブ・コンサルティングの西口恒一郎氏に、GX領域における事業創出の突破口について話を聞いた。

モビリティ×エネルギーで挑むGX

──GX実現に向け官民で大きなうねりが生まれています。双日ではこの動きをどのように捉えていますか。
忠鉢 GXは100年に1度あるかないか、ある意味、産業革命に匹敵する動きと捉えています。
 従来、再生可能エネルギーに関わる場合、メガソーラーを数十億から数百億円でドカンとつくり、20年間固定の売電収入や金利で利益を出すのが、いわゆる総合商社の「電力インフラ部隊」の仕事でした。
 しかし、現在ではそもそも発電インフラ自体の小型化・分散化が進んでいます。たとえばEVなら、車そのものを「動くバッテリー」とみなして、車が走っていない間に充電された電力を、どこかに有効活用する技術転用も着実に進んでいます。
 つまり、電力インフラの概念がこれまでと変わりつつあり、「エネルギー」と「モビリティ」の業界がEVを軸に溶け合ってきているのです。
 我々も、これまで総合商社として国内外で再生可能エネルギーのインフラ事業に携わって獲得してきた知見やリソースを活かし、GX領域で新規事業創出を進めています。
 今後、カーボンニュートラルに取り組みたい企業は、これらの領域の技術を横断的に取り入れる必要があり、そこに我々がソリューションを提供する余地が生まれます。
 この需要と供給を結びつけるマッチング、言い換えれば電力インフラにマーケティングの概念を組み込んだビジネスを新規事業として立ち上げようとしています。
 そして、EV領域で新規事業の可能性を検討する中で手に取ったのが、リブ・コンサルティングの西口さんが書かれた書籍『EVX モビリティ×エネルギー領域の融合』でした。
本記事に登場する西口氏をはじめ、リブ・コンサルティングが2022年に上梓した『EVX モビリティ×エネルギー領域の融合』(プレジデント社)。EVを起点としたモビリティ×エネルギー領域の融合により生まれる新たなビジネスの勝ち筋を探る1冊だ。
 この書籍で提唱されていた「EVX(EVトランスフォーメーション)」の考え方が、我々が実現を目指す世界観と完全に一致したのです。
──自分たちのやりたいことが、すでに書籍に書かれてあった、と。
忠鉢 おっしゃる通りです。まさに「これだ!」と思いましたね(笑)。
 その頃、事業検証やマーケティング施策立案にあたって、外部のコンサルティング会社への相談を検討していたため、ビジョンを共にするリブ・コンサルティングにお声がけさせていただきました。
 実際に西口さんにお会いしてみて、「この人となら事業創出の深い議論ができる」と思いました。
 話を聞くと、私も彼も元々自動車業界に深く携わっていました。だから、当社が策定したストーリーに共感してもらえましたし、会話をする中でGX領域における豊富な知見やノウハウを西口さんがお持ちでいることがわかり、3ヶ月にわたるプロジェクトを信頼してお任せできると感じました。
──そもそも、「EVX」とはどんな概念なのでしょうか?
西口 モビリティとエネルギーの融合による、新しいソリューションの創出。この新しい現象を我々は「EVX」と表現しています。
 これまで、リブ・コンサルティングはモビリティ領域の新規事業開発に長年取り組んできました。
 以前は、ご相談を受けるモビリティ領域のプロジェクトの多くがMaaS関連でした。しかし、ここ3年でEVシフトが日本でも進み、当社がご相談を受ける内容も変わってきました。
 モビリティ領域の企業が新しくエネルギー領域に参入し、逆にエネルギー領域の企業がモビリティ関連サービスを始めるなど「相互乗り入れ」の動きが増えてきたのです。
 カーボンニュートラルの推進やEVの広まりによって、今後「EVX」は社会を大きく変える可能性のあるビジネスとなる。リブ・コンサルティングではそう考え、この領域での新規事業創出を目指す企業の支援を行っています。

「正解がないビジネス」の切り拓き方

──プロジェクトではどのように課題を整理し、事業検証を行ったのですか?
忠鉢 当社の中長期計画策定のタイミングだったため、GX事業拡大に向けて社内を説得できる事業戦略をつくる必要がありました。
 当社でもGX領域の知見は溜まってきていたため、リブ・コンサルティングには我々が立てた仮説の検証、GX領域の業界の分析、マーケティング戦略などの支援を依頼しました。
 今後、脱炭素関連のEV充電ソリューションをどう展開していくか、自動車業界のカスタマージャーニーに落とし込んだ場合、どのくらいの契約数や収益を実現できるかなどを検証。
 また、ターゲットの選定やマーケットの分析だけではなく、どのように施策を実行し、利益を上げていくのか。具体的なマネタイズの部分に関わる「HOW」の部分の検討もサポートしてもらいました。
──GXのような未知の部分が多い領域で、どう「HOW」の部分を突き詰めるのでしょうか。
西口 一言で言えば、「誰に、いくらで、どのくらいで売るのか」という需要予測と、「どのように需要を生み出すか」という需要創造の部分を主にご支援しました。
 GX領域の新規事業開発でよくあるのが、事業計画書を拝見すると、「このくらい売れるはず」と期待値がかなり高く、計画書に数字のリアリティがないケース。
 その場合、需要予測をデスクトップリサーチだけで済ませてしまっている場合がほとんどなのですが、実際に商品やサービスがどれだけ売れるかは「現場」に行ってみないとわかりません。
 そこで、リブ・コンサルティングが重視しているのは、徹底的に一次情報にあたり、お客様の生の声を集めること。
 実際にプレセールスというかたちで想定しているターゲットに対してアポイントを取り、「本当に買ってもらえるか」「買うとしたらいくら出すか」「買わないとしたらなぜか」などを丁寧にヒアリングしました。
 ヒアリング内容をもとにさらに仮説立案、検証を短期間で繰り返すことで事業計画のリアリティを突き詰め、蓋然性を高めていくのです。
 特に、双日様のケースでは、直近の1〜2年でGX領域に大きな投資をしようとしている企業の業態、ターゲット、ニーズなどをリサーチ。
 さらに、将来的にその企業群の中からパートナーになってもらうためには、組織の中の誰にアプローチをすればいいのか、現時点で抱える課題などをヒアリングしました。

現場を熟知する人材だからこそ辿り着けた「リアリティ」

──3ヶ月のプロジェクトはひとまず終了しましたが、どのような成果がありましたか?
忠鉢 我々が設定したプロジェクトゴールは、そもそも事業化の入り口に立てるかどうかの見極めでした。リブ・コンサルティングのサポートもあり、具体的なビジネス展開や収益予測などを立てられ、説得力のある数字を経営陣に提示できました。
 GX領域の新規事業では「何年後に何億儲ける」という大きな話になりがちですが、絵に描いた餅にしないために、まずは直近3年の計画を数字に落し込まなければなりません。
 今回のプロジェクトでは、一次情報にあたる中で当初思い描いていた中間ターゲットとは異なるターゲットが見えてきました。
 改めて仮説を立て、どうやってマネタイズするか、予算策定など検討に1ヶ月かかりましたが、一次情報に当たったからこそ辿り着けたリアリティだったと思います。
──リブ・コンサルティングの支援で印象的だったことを教えてください。
忠鉢 EVXは既存の領域を越境しますが、早くからこの分野に取り組んできたリブ・コンサルティングには専門的な知見やノウハウが集まっていると感じました。
 具体的な数字への落とし込みが実現したのも、自動車メーカー出身、広告代理店出身など現場のリアルを知り、マーケティング戦略を描ける各コンサルタントの実体験に加えて一次情報から導き出す、手触り感のある事業開発手法があるからこそ。
 これはリブ・コンサルティングでなければ難しかったのではと思います。
 我々のような商社で今、本当に足りないのは人です。予算を確保できたとしても、次は「いつまでに誰がやるのか」を見せなければビジネスとして成立しません。
 これまで商社ではインハウス化を進め、価値を生み出す力を内包することで稼ぐ文化がありました。しかし、今はアウトソースを活用しながら、アメーバのように座組を変えながら価値を生み出していく時代。
 その点で、コンサルティング会社を入れなければプロジェクトを回すことが難しくなっていると感じます。
西口 コンサルティング会社によって得意領域は異なるため、プロジェクトに合わせてパートナーを選んでいただくのが良いと思います。
 当社の場合は、現場感を活かした事業開発における戦略策定や営業・マーケティング支援などを得意としています。
 現場で起きているファクトを積み上げた結果から、未来を予測していく。描いているビジネスが本当に儲かるビジネスなのかを検証し、実際にマネタイズできるところまで伴走支援することが強みです。
 また、現在ではプロジェクト次第で、モビリティ領域を専門とするコンサルタントがエネルギー領域でサポートをしたり、反対にエネルギー領域からモビリティ領域へと越境してご支援させていただく事例も増えています。
 EVXというテーマを軸に「モビリティ」と「エネルギー」の両方にアクセスし、そこで得た知見をコンサルティングに反映できるのが当社の強みであり、これが双日様をはじめ多くのクライアントがリブ・コンサルティングにご依頼いただく理由になっていると思います。

パートナーと共に「EVX」の未来を実現する

──今後は事業計画の実行フェーズになります。リブ・コンサルティングにどのようなサポートを期待していますか?
忠鉢 できるだけ早く戦える組織をつくらなければなりません。そして組織体制の構築は早めに区切りをつけ、2024年の春頃から営業活動をスタートしたいと考えています。
 実際に事業を進めていく中で、当社の事業計画で描いた未来予想図の通りにいかないことも出てくるでしょう。
 その際は、理想と現実を行き来し、狙いの正しさ、実現するために不可欠な要素を検討しなければなりません。もし、壁にぶち当たったら、業界を横断してGX領域全体を俯瞰できるリブ・コンサルティングに相談したいと思います。
西口 忠鉢様がおっしゃるように、今後何か課題が発生したタイミングでまたプロジェクトをご支援できればと思います。
 加えて、我々が発信している「EVX」の未来像はクライアント企業が実現を目指す将来の予測であると同時に、我々も「こうなったらいいね」と思っている世界でもあります。
 つまり、双日様をはじめとしたクライアントの皆様と我々は、その世界を一緒につくる伴走パートナー。
 ですから、当社を介して双日様と別の企業様をつなぎ、足りないケイパビリティを補完するための力添えもできると考えています。
「EVX」によって次にどんな動きが起こるのか。リブ・コンサルティングでは一歩先の未来を描きながら、この領域で新事業を創造しようとする企業の支援を引き続き行っていきます。