2023/12/26

“中”から変革を起こし続けるために、経営者が必要としていること

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  テクノロジーのめざましい進歩に、それに呼応して形勢が一変する市場環境。さらにサステナビリティのうねりと、一気にゲームチェンジを起こす社会情勢の変化。
 しかし、何を、どうやって?
「変革の種は、企業内部にしっかりとあるのです。その強みを企業とともに見つめ直し、再定義することから始まります」
 そう語るのは、電通で顧客企業とともに事業変革=BX(Business Transformation)を推進する、山原新悟氏渕暁彦氏だ。
  なぜ、電通がBX領域のパートナーとして選ばれ始めているのか。そこにどんな強みがあるのか。同社でそれを担う2人に聞いた。
INDEX
  • 源流は、十年以上も前から社内にあった
  • 滔々と流れる「やりきる」DNA
  • 人を動かす“戦略的”クリエーティブ

源流は、十年以上も前から社内にあった

──BXとは、何なのでしょうか?
 BXとはBusiness Transformationの略で、企業・事業全体の変革をご支援するということです。
 企業の成長を実現するために、電通グループはBXだけでなく、DX(Digital Transformation)や、CX(Customer Experience Transformation)、AX(Advertising Transformation)などを組み合わせて、企業の課題を解決していきます。
──電通がBX領域の支援を始めたのは、最近のことですか?
 以前より、企業の経営層の方々から、マーケティング領域だけでなく経営や事業課題に関するご相談をいただく機会がありました。
 ご相談の入口は、マーケティングやコミュニケーションにまつわることが多いのですが、パーパスやビジョンといった企業としてのあり方や、商品やサービス、顧客体験といった事業課題にまで遡り、持続的な成長に必要なことを議論してきたことが、BXの源流と言えます。
山原 私の場合だと、15年前くらいにある企業の社長から「今はまだ広告をたくさん打てる段階ではないが、会社の成長につながるためのいろいろな相談をさせてもらいたい」とご相談をいただいたケースがあります。
 そこから、会社のベースとなるビジョン、成長戦略、そしてブランドのあり方を一緒に考え、実行する伴走をしてきました。社会貢献の一環で取り組まれた地域創生のお手伝いもしてきました。
 こういった取り組みは、当時はまだ「BX」のように、電通のサービス領域として明確に規定されてはいなかったのですが、今であればパーパス策定であり、インナーのエンゲージメント向上であり、人的資本経営やサステナビリティの戦略構築でもあります。
 つまり、今我々が取り組んでいるBXは、電通グループの様々なチームで以前からご提供していたものが集約され、強化されてきた領域と言えると思います。
──電通はやはり広告会社のイメージが強いのですが、なぜ、コンサルティング会社が得意とする「事業変革/企業変革」の支援に力を入れているのでしょうか。
山原 企業の経営、事業の課題が複合化、複雑化してきている中で、頂くご相談もいわゆるマーケティング領域だけではなく、どんどん広がってきました。それにお応えできるように、事業変革や企業変革のケイパビリティを拡張してきた経緯があります。
──具体的に企業の経営陣の方々から、どんな相談がされるのでしょうか?
山原 最近は「企業変革や事業変革に取り組む中で、次の新たな壁をどう乗り越えればよいのか」というご相談を多くいただくようになっています。
「以前より自社から新たな価値が生まれないことに課題を持ち、新規事業開発プロジェクトを複数行ってきた。自社には優秀な人材も多く、その業界では知財・知見・ネットワークも持っている。新たに専門人材も採用したし、外部パートナーもいるが、大きな柱に育っていない。周囲を巻き込むダイナミズムが生まれていない」
 というお話をよく伺います。
── 業界をひっくり返すような変革は、外部や全く異なる業界からやってきて、社内からは起こせない……。これは、なぜなんでしょうか?
山原 経営者の方々から「社内から新しい価値が生まれない理由」を伺う中で、業界問わず共通の課題が見えてきました。
  •  新規事業をやると言っても、「既存ビジネスを壊さない」前提でしか考えられない
  • これまで構築してきたあらゆる社内の仕組み・システムが逆に足かせになる
  • アイデアを創る人はいても、運営できる人はいない
  • 新規事業のモチベーションを維持し続ける仕組みと後ろ盾がない
 などなど、新たな価値創造を妨げる要因の多くは、企業の内部にあることが見えてきたのです。
 企業とその業界に存在するバイアス(固定観念)にとらわれず、新たな事業創出と、それを可能にする実行体制の構築を両輪で推進することが重要になります。
 我々が提唱する、Holistic Transformation Model(下記)はその「事業と企業内部を両輪で変革する」ということを表現したものです。
 事業が生み出す価値が変わらなければ、内部は変革されない。そして社内の仕組みが変わらなければ、新たな事業は生み出せない。
 事業と企業内部の課題を統合して、サイロ化しがちな社内をつなぎ、プロジェクトチームで変革を推進することで周囲を巻き込むダイナミズムが生まれ始めるのです。

滔々と流れる「やりきる」DNA

──これまで顧客の声を聞いてきたからこそ、ボトムアップ的にBXの原型ができてきたわけですね。そのなかで、電通の強みは何でしょうか。
 そうですね、たくさんありますが、あえて一つあげるとすれば「もう一人の当事者であること」です。
 私が以前、ある大企業の事業変革をご支援したときのことです。その企業の常務は、本業が将来的にダウンサイジングしていくと見越して、新しい事業を立ち上げようとしていました。
 そんな中、こう言われたんです。
「新規事業開発は絶対にやらなくてはいけないが、内部から行おうとすると、組織の壁にぶつかってつぶれてしまうだろう。だからこそ、電通チームに当事者意識を持って推進していってもらいたい」、と。
 つまり、新しい事業を生み出したいが、既存事業に注力しがちな会社を、外部から「もう一人の当事者」として常に“ストレッチ”させる存在でいてほしいと、依頼されたと感じました。
 電通はこれまでも、顧客企業の課題に深く寄り添い、当事者意識を持って伴走し、成長を支えてきたという自負と経験値があります。
 つまり、事業を変革し続ける際、当事者意識を持ちながら力強く推進できるパートナーであることが、電通の強みだと言えます。
山原 戦略やアクションのプランニングだけでなく、実行のプロセスまで着実にやりきる実行力も、電通のBXの強みだと思います。
 変革は、絵を描いた先、全体をデザインしてから先、推進していくことが本当に難しい。 変革にはいろんな抵抗が起きることも少なくありません。
 その時に、臨機応変に対応し、その時その時で最適なチームをプロデュースしながら進めていくことが「トランスフォーメーション」に込められています。

人を動かす“戦略的”クリエーティブ

山原 私が企業のBXをご支援する中で、いい回転が生まれ始めたと感じるのは、その企業の役員層から現場の方までが、同じ一つのコンセプトや、1枚のアーキテクチャを、共通の言葉や「キーピクチャ」として使い始めてくださるときです。
──それは具体的に、どういうことでしょう?
山原 私たちはまず初めに、分かりやすい変革コンセプトを描き、その解像度を高めていき、その人が動きたくなるアーキテクチャをつくります。それを変革の“変革”の旗印とし、社内に広く共有されている状態です。
Getty Images / VectorInspiration
 これが、変革を推進する上でとても重要な役割を果たします。
 というのも、ビジネスが進化するのも、組織が進化するのも、何よりも社員の方々が熱量高く動いてこそ、初めて実現されます。
 でも、「人が動く」って本当に難しいことなのです。人が本気で熱量高く動くには、ロジックや正論だけでは十分ではなく、企業のDNAや文化を大事にした丁寧なコミュニケーションが必要になります。
 ましてや大企業ともなると何万人もの人が変化していくきっかけをつくることになり、それは半ばマスコミュニケーションともいえます。
 だからこそ、多くの人が、熱を持って同じ方向を目指せる“灯”が必要になる。誰もがいつでも思い出せて、いつでも口にして議論することができる。
 それぐらい、シンプルに研ぎ澄まされた設計図が必要になります。私たちは、一つのコンセプトと1枚のアーキテクチャを重視し、BXを進める動力源としているのです。
──何万人もの社員を動かす「いいコンセプト」の条件は?
山原 シンプルで研ぎ澄まされたものが望ましいのですが、かといってただシンプルであればいいわけではなく、綿密な設計が必要になります。
 必然的にコンセプトは抽象度の高いものになり、社内の方々から賛否両論が起こる可能性もありますが、むしろ賛否両論が起きるものの方が人は動きやすかったりするので、そのバランスは意識しています。
 このような、戦略そのものにクリエーティビティを込める、人の心を動かす経営・事業戦略のコンセプトやアーキテクチャをつくることを、私たちは「ストラテジック・クリエーティビティ」と呼んでいます。これが私たちの強みの一つとなっています。
 私たちは今まで、数多くの経営者の方々とプロジェクトをご一緒し、本当にワークする設計図とは何か、コンセプトは何かを、身を以て経験してきました。
 そういった経験の蓄積があるからこそ、経営層から現場の方々まで日々使ってくださるコンセプトやアーキテクチャがつくれるんです。
──今後の展望を教えてください。
 この10年で、BXのご相談は飛躍的に多くいただくようになりました。 中期経営計画をはじめとする根幹の経営・事業戦略からご依頼いただくプロジェクトも増えてきました。
 周囲を巻き込む変革を生み出すためには、企業や従業員だけではなく、ステークホルダーの視点も必要になってきています。ステークホルダーとも共有可能な変革のアーキテクチャを外部視点で描きたいという点でも、頼りにしていただいているのかもしれません。
山原 企業はやはり人で成り立っているわけで、いうなれば生身の存在です。常にその在るべき姿も変化していきます。
 ですので、企業変革にも正解はないし、汎用化されたフレームワークだけではなかなかお応えしきることができない。企業ごとに丁寧に課題を伺い、解決策も個別に丁寧に設計する。
 人の意識が変わり、行動が変わり、文化が変わり、企業が進化していく。
 これは簡単な道のりではありませんが、私たちが培ってきた経験やノウハウ、そして人の力を活かしながら、企業の方々と一緒になって、熱量高く取り組んでいきたいと思います。