(ブルームバーグ): 日本銀行の植田和男総裁は19日の金融政策決定会合後の記者会見で、2%物価目標が実現する見通しの確度は徐々に高まっているとしながらも、出口までの距離については明確にしなかった。会合ではイールドカーブコントロール(YCC)を軸とした大規模緩和の維持を決めた。

植田総裁は、2%目標実現の鍵を握る基調的物価が2025年度にかけて目標に向け徐々に高まるとの見通し実現の「確度は引き続き少しずつ高まっている」とした上で、「もう少しデータやさまざまな情報を見たい」との考えを示した。来年1月会合の政策決定はそれまでに入手される情報次第だとし、支店長会議などを挙げつつも新しいデータは「そんなに多くない」 とした。

金融緩和からの出口対応に関しては、「確度の高い姿を示すことは現在は困難」との認識を示す一方、「見通せる状況になれば適宜発信していきたい」と述べた。利上げのタイミングを予告するかどうかは、「来月上げますといきなり言うことになる可能性はあまりない」と述べた。

来年1月の会合では、新たな経済・物価見通しを示す経済・物価情勢の展望(展望リポート)が公表される。市場では、早ければ来月でマイナス金利の解除など正常化に踏み切るとの観測が広がる中、来年の賃上げを巡る動向などを踏まえ、賃金上昇を伴う2%物価目標の達成を見通せるかどうかが焦点となる。

大和証券の岩下真理チーフマーケットエコノミストは、発表文では「今後の政策変更へのシグナルがないことが確認できた」とした上で、総裁会見で賃金と物価の好循環の評価を10月時点よりも確度を持ってするかどうかを注目点に挙げていた。「総裁が全く1月でのマイナス金利解除は考えてないと言わない限り、私のメインシナリオは1月にマイナス金利解除で変わらない」と語った。

総裁会見を受けて外国為替市場では円売り圧力が一段と強まり、1ドル=144円台後半まで1.3%超下落した。長期金利は低下(債券相場は上昇)し、新発10年債利回りは3ベーシスポイント(bp)低い0.635%。

会合では短期政策金利をマイナス0.1%に据え置くとともに、長期金利の誘導水準を「ゼロ%程度」として上限は1%を「めど」とするYCCの運用も維持した。先行きの政策指針であるフォワードガイダンスにも変更はなかった。ブルームバーグが1-6日に実施したエコノミスト調査ではほぼ全員が政策維持を予想していた。

氷見野良三副総裁は6日に、大規模緩和からの出口が家計や企業などに与えるメリットに言及し、7日には植田総裁が「年末から来年にかけて一段とチャレンジングな状況になる」と発言。これを政策正常化への地ならしと受け止めた市場では、今回会合でフォワードガイダンスが修正されるとの見方も出ていた。 

植田総裁は19日の会見で、7日の「年末から来年にかけて一段とチャレンジングな状況になる」との発言については、「国会で仕事への取り組み姿勢を問われ、一段と気を引き締めてというつもりだった」と説明した。

エコノミスト調査によると、マイナス金利解除が来年4月会合までに行われるとの予想が67%で、最多は4月の50%。日銀の金融政策予想を反映するオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)では、来年1月会合での利上げ確率が足元で約4割に高まるなど早期の正常化観測は根強い。米連邦準備制度理事会(FRB)による早期利下げ観測の高まりもこれを後押ししている。

植田総裁は会見で、FRBが利下げ局面に入ると日本経済に影響があるとしながらも、FRBが利下げに動く前に「焦って政策変更しておくというような考え方は不適切だと思っている」と語った。

政治の混迷 

一方、自民党派閥の政治資金パーティーを巡る問題で、岸田文雄政権の支持率が一段と下落している。こうした政治の混迷が、景気や市場への不測の影響を避ける観点から日銀の金融政策上の制約要因になるとの見方もある。

岸田首相は13日の会見で、「日銀と政府はアコード(共同声明)を通じて緊密に連携することを確認している」と言明。政府はデフレ脱却に向けて取り組んでいるとし、「しっかりと念頭に置いて政府と連携をしていただきたい」と述べた。

日銀には政府の取り組みも念頭に置き、適切な判断を期待-岸田首相

この日の会合には9月の内閣改造で就任した新藤義孝経済財政担当相が出席した。経済財政相の出席は2020年4月の西村康稔氏以来だった。

クレディ・アグリコル証券の会田卓司チーフエコノミストは、首相の発言は「デフレ脱却に向けて、今、金融引き締めへの転換は受け入れられない」とのメッセージと指摘。新藤氏の会合出席は「首相の発信を改めて伝えるためだと受け止めた」としている。

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--取材協力:野原良明、萩原ゆき、氏兼敬子、Mia Glass.

(総裁の発言や市場の反応を追加して更新しました)

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