(ブルームバーグ): 日本製鉄の橋本英二社長は19日の会見で、前日に発表した米鉄鋼大手USスチールの買収について「狙いは経済安全保障」だと述べ、中国を念頭に基礎素材の鉄で供給網の確立を進めることが目的とした。

橋本氏は、「新しい経済安全保障は基礎素材の鉄にも求められている」とした上で、そのリーダー的存在が米国だとした。また「米国は1億トンの需要を誇る先進国では最も大きな市場」であるうえ、USスチールとは米国や海外市場で競争しておらず、「客観的にベストな組み合わせ」だとの認識を示した。

買収の発表を受け、同社の株価は19日、一時前日比6.1%安の3040円と、5月10日以来の日中下落率を付けた。買収後に増資が行われ、株式が希薄化するリスクが警戒されたが、その後買い戻され、2.8%安で取引を終えた。

会見で森高弘副社長は、「資金面では問題ない状況」だとした上で、「いろんな選択肢があり、市況をみて最適な方法で」負債を組み替えるとした。

同社は18日、USスチールを1株55ドルで買収し完全子会社化すると発表。同社株の15日の終値(39.33米ドル)に対して40%のプレミアムを加えた価格で、買収総額は約141億ドル(約2兆円)にのぼる。買収が成立すれば日本製鉄は生産量で世界2位の鉄鋼メーカーとして浮上する。

日本製鉄にとって今回の買収は巨大な米鉄鋼市場への新たな足がかりとなる。USスチールは収益率が高い自動車市場への主要サプライヤーでもある。日本製鉄は国内需要の鈍化に直面し、円安傾向も続く中、海外での成長を模索してきた。

SBI証券の柴田竜之介アナリストは電話取材で、同社が巨額買収を完了させたとしても、社債など信用評価で重要視されるネットD/Eレシオ(負債・資本比率)は0.9倍にとどまり、競合のJFEスチールと並ぶ水準で信用リスクで大きな心配はないとした。ただ、投資家の間で割高ではないかとの声も上がり、会社側が巨額買収を正当化するためのシナジーを示していくことが必要だと述べた。

労組は買収に反対

米上院議員や全米鉄鋼労働組合(USW)は買収に反対を表明している。USWはこれまで、外国企業によるUSスチール買収を支持せず、米同業のクリーブランド・クリフスが8月に公表した約72億5000万ドル(約1兆400億円)の買収提案だけを支持すると繰り返してきた。ただ、当事者のクリフスは案件発表を受けて祝意の言葉を送りり、今後は自社の資金を自己株買いなどにあてると表明している。

橋本氏は、USWの反対について「労働組合を大事にする」姿勢はクリフスと同じで、「丁寧な対話を行えば、必ず理解は得られると思っている」と述べた。

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(株価の反応と、アナリストのコメントを追加して更新しました)

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