2023/12/25

【別解】コンサル×広告会社の融合は“顧客起点”なのか

NewsPicks Brand Design / Editor
 近年話題となっている、大手コンサルティングファームと広告会社の競合化。

 事業戦略立案という上流から、広告プロモーション施策の執行という下流まで、一気通貫でクライアントの事業課題の解決を目指す。この方向性が加速し、競合は激化。さらに事業買収合戦へと発展している。

 しかし「われわれもコンサル会社と統合したが、上流から下流までの一気通貫では顧客起点のクリエイティブは生まれづらい」。

 そう語るのは、近年、独立系のコンサル×独立系の広告会社という異例のブランド統合を果たした、FIELD MANAGEMENT EXPAND(FMX)代表取締役社長の安田浩之氏だ。

 では、コンサル×広告会社からどのような価値を生もうとしているのか聞いた。

一気通貫の弊害

──コンサルティングファームと広告会社はなぜ競合しているのでしょうか。
安田 戦略立案からマーケティング施策の執行まで、一気通貫でクライアントに伴走し、自社の事業領域の拡大を図るためです。この思惑は両者に共通しています。
 従来コンサルティングファームは、事業戦略の立案、基幹システムの導入の執行を担ってきました。
 しかし、企業の事業戦略にデジタル施策が含まれるのが当たり前になった。またデジタルで手軽に行えるマーケティング手法も増加しました。
 マーケティング施策の執行にも携わりやすくなり、デジタル広告の運用やブランディング広告の制作など、広告会社やネット広告会社が受託していた「下流」に進出しています。
──広告会社はどのような状況なのでしょうか。
 広告出稿費がインターネットに偏重し、これまで売上の中心であったテレビ、新聞、雑誌、ラジオなどの4マス広告は減少しました。
 その結果、広告会社であることを前面に押し出さなくなっています。
 ビジネスプロデュースやパーパス策定をはじめとした戦略立案など、コンサルティングファームが手掛けてきた「上流」へ進出しています。
 お互いが上流から下流まで一気通貫をスローガンに掲げていますが、私は、一気通貫がクライアントにとって本当に最適なのか疑問に思っています。
──どのような点に疑問を感じていますか。
 優れたサービスを生み出した後、世の中に浸透させるためには、人の心を揺さぶる高いクオリティの広告クリエイティブが必要です。
 しかし、一気通貫の体制を作ることは、クリエイティビティを低下させる要因にもなります。
 例えば、コンサルティングファームに戦略立案を依頼し、マーケティング施策の執行も任せる場合、そのコンサルティングファームが買収した広告制作会社にしか、発注されなくなります。
 利便性は高いものの、コンサルティングファームの一存で選択肢が狭まるのは、高いクオリティの広告を制作する上で制約になりかねません。
 また大手広告会社の変化も気になっています。これまで広告会社の強みの一つだったクリエイティブを担う人材の流出が加速しています。
 事業の軸足の変化に伴い、広告クリエイティブを通じてクライアントに貢献してきた人材が評価を得にくくなっている。
 まだまだ優秀なクリエイターは多く在籍していますが、この状態が続くと、クリエイティビティの低下を招くのではないかと思います。
──大手広告会社から優秀なクリエイターが流出しているのであれば、クリエイティブの価値が相対的に低下していることはないのでしょうか。
 いえ、広告費の推移を見ても、2022年の日本の広告費はコロナ禍を経て再び上昇し、約5兆7000億円。これは歴代で見ても上位です。
 クリエイティブの力を通じてクライアントのマーケティング課題を解決する機会は、むしろ増えています。
 生活者の情報取得手段も細分化し、クライアントのマーケティング課題も多様化している。
 適切なマーケティング施策と圧倒的な広告クリエイティブの力でクライアントへ成果を返すべき。そこに改めて本気になることが重要だと、われわれは考えています。

慣習を打破せよ

──では、広告会社であるFMXはどうクリエイティビティを高めているのでしょうか。
 従来の広告会社の慣習を打破し、クライアントに最適なクリエイティブを提供するよう心がけています。
 例えば、広告会社では、自社のリソースやケイパビリティが足りない際には、様々なプロダクションに広告制作を任せることが慣習です。
 しかし、プロダクションに依頼した場合、受注した彼らの意識は、広告会社などの元請けをいかに納得させるかに向きがちになる。
 つまりクライアントの課題解決のために、クリエイティビティを追求することが疎かになるケースがあります。
 われわれは広告会社でありながら、マーケティング戦略の企画立案から制作、運用までを実施する広告制作機能を有しています。
 テレビCMやWEB制作、SNS施策、イベントや映像制作など、ほぼ全てのプロモーションを内製で担える体制を敷いているんです。
 同じ組織であれば、全てのメンバーが同じ目線で、クライアントのマーケティング課題と向き合い、それぞれの持ち場で、自身のクリエイティビティを最大限発揮できます。
 一方で、他社と協業しないのかと問われればそうではありません。
 むしろ、クライアントのマーケティング課題解決のために、著名クリエイターや、クリエイティブブティックが持つ尖った力が必要だと判断した場合は、積極的にお声がけしています。
 広告制作機能を内製化するメリットは、プロジェクトによって得たノウハウが自ずと社内に蓄積されることです。
 著名なクリエイターと共に仕事をすれば、自社全体のクリエイティブ力の底上げにもつながります。
──なるほど。従来の広告会社では難しかった理想を実現し、強みにしているのですね。
 はい。また広告プランニングにおいても、同様です。
 広告会社の利益の源泉はメディア・バイイングにおける手数料です。クリエイティブの企画費、制作費は利益の中心ではありません。
 そのためクライアントから年間数億円の広告予算をもらった際に、まずは一番出稿金額の高いテレビCMをマーケティング施策の軸にするという力学が働きやすかった。
 ところが、周知のとおり、4マスの広告だけではなく、運用型広告、WEBメディア、SNSなど広告のアウトプットが多様化し様々な選択肢が生まれています。
 またクライアントも、4マスを中心に据えたマーケティング、プロモーションの費用対効果に疑念を抱いています。
 では、本当にクライアントに重要な施策とは何か。テレビCMに頼らず、時には何億円もの費用をかけたイベントを軸にした施策を提案するなど、目的に対し最も効果的なプランニングをしています。
──具体的にはどのように施策を行っているのでしょうか。
 例えば、昨年まで担当していたメルカリのマーケティング、プロモーションが例に挙げられます。
 われわれが携わった当時からメルカリというサービスの認知度はほぼ100%に近かった。
 ただそれでも利用しないユーザーはまだ多く、特にミドル層やシニア層の利用率に課題がありました。
 そのため、メルカリの機能や利便性ではなく、中古品を売買することが、世の中の人にとってどういう意味があるのか。どのような社会的意義があるのか。
 サービスの本質を改めて問い直すことからはじめ、若者にとって便利なフリマアプリという商品の受け取られ方を変えるためのブランドメッセージを作成しました。
 その上で、広告やブランドメッセージを伝えるためのミュージックビデオを作成し連動させました。
 さらにPR、オフラインイベント、デジタル、テレビCM等を立体的にプランニングし、定点で効果検証しながらメッセージを拡散しました。
 広告の力だけで達成したわけではありませんが、結果的にミドル層やシニア層を中心に利用者が伸び、月間アクティブユーザー数が2年間で1,200万人から2,000万人を突破するまでになりました。

【コンサル×広告会社】は優秀なクリエイターを生むファクトリー

──メディア・バイイングに頼らず、著名クリエイターとも協業するとなれば、かなり薄利なビジネスモデルになりそうですが。
 内製化は一見、非効率に思えますが、様々な広告を制作しながら利益を積み重ねていけば、薄利にはなりません。
 先ほどのメルカリの例のように、現在は様々な広告施策を組み合わせたクロスマーケティングが当たり前です。
 例えば、あるプロジェクトに関して、イベントを企画・実施します。その映像を押さえ、後でSNSに流すことも行いたいというオーダーは頻繁にあります。
 こうした際に、イベント会社と映像会社へバラバラに発注するのではなく、われわれのイベントチームに同じ社内の映像制作スタッフが加わるだけで対応可能です。
 広告会社が外注先に発注した場合に比べると、人件費に少し上乗せした金額を計上してもらうだけでよいため安価に提供できます。
 また、内製化することのメリットは他にもあります。企画・執行の稼働フィーを適切にいただけるよう明確に提示しています。
 自社のクリエイティビティをさらに高め、その価値を認識していただくことで、フィーの底上げにもつながると考えています。
──どうやって底上げするのでしょうか。
 われわれが戦略コンサルティングファームのフィールドマネージメントとブランド統合し、広告会社であるFMXに生まれ変わったきっかけの一つはここにあります。
 この統合は、一気通貫でクライアントの事業戦略を請け負うことが目的ではありません。
 コンサルタントとクリエイターの見てきた景色を交換し合い、お互いのケイパビリティを高めるための統合なんです。
──なぜケイパビリティが高まるのですか。
 どれだけ優秀なコンサルタントであっても、広告制作の経験が豊富なクリエイターのクリエイティビティにはかないません。
 またクリエイター側の視点で見ても、コンサルタントがどうやって事業戦略を立てているのかを知る機会は少ない。
 景色交換の一環として、戦略コンサルタントの領域で、コンサルタントが戦略を描き、コピーライターが戦略に即したコンセプトを書き、映像制作チームが映像で表現しながら、クライアントにプレゼンを行っています。
 クライアントへの企画の伝達力が高まり、受注の精度も上がっていますし、こうした協業を重ねることでお互いのケイパビリティが高まります。
 コンサルタントも自身が構築した戦略が、どんなクリエイティブとなりアウトプットされるのかという学びが得られます。
 またマーケティング戦略を考えた場合に、どんな広告会社と組めば戦略通り実現できるのか目利きもできるようになる。
 さらにクリエイターも、マーケティング戦略立案時、どんな事業戦略をもとにマーケティング戦略が立案されたのか思い浮かべながら企画できる。
 結果として、適切なタイミングで最適なパフォーマンスを上げるクリエイティブの実現に近付くと考えています。
 こうした協業で高めたケイパビリティをそれぞれの持ち場に戻って実行する。
 そして、クライアントの事業成長に貢献する。それこそが、コンサル×広告会社が融合する価値だと私は考えています。
──なるほど。統合して現在の手応えはいかがでしょうか。
 統合したのは2023年の1月からですが、明らかにクリエイターのモチベーションアップが見られます。
 われわれFMXが目指しているのは、コミュニケーションデザインを軸にした究極のマーケティングソリューション企業です。
 爆発的なクリエイティビティを生み出すには、クリエイターがモチベーション高く、自由に活躍できる場が必要となります。
 そのために、強みを渡し合い、双方の持ち場に活かせるような取り組みにどんどんチャレンジしていくつもりです。
 先鋭的なマーケティング、クリエイティブならどこにも引けを取らないと言われるまで、クリエイティビティを磨き続けていきたいですね。