2023/12/26

「無風」の壁を乗り越えろ。アウトプットのはじめの一歩はこう踏み出す

NewsPicks, Inc. Brand Design Editor
SNSなどを通じて、誰もが気軽に“情報発信”ができる時代。積極的なアウトプットは、企業のブランド力向上や人材採用、また個人の成長やキャリアの選択肢を広げる可能性を秘めている。
一方で、アウトプットをする必要性は感じているものの、「そもそも発信できるような情報がない」「うまくアウトプットできる自信もない」といった理由で、情報発信に積極的になれない企業や人は少なくないだろう。
そこで2023年11月22日に開催された「Startup CTO of the year 2023 powered by Amazon Web Services」では、「エンジニア文化から学ぶ、企業・個人の可能性を広げる“アウトプット戦略”」をテーマにセッションが実施された。
左から圓窓代表取締役 澤円氏、KDDIアジャイル開発センター テックエバンジェリスト 御田 稔(みのるん)氏、Qiita株式会社代表取締役社長 柴田健介氏、タレント兼ソフトウェアエンジニア 池澤あやか氏
澤円氏をはじめアウトプットのプロによる対話から、情報発信に一歩踏み出すための後押しとなる声をお届けする。
※本記事はセッションの内容を再構成してます。実際のセッションの流れや発言とは一部異なる部分があります。
INDEX
  • 自分の悩みは、「誰かの悩み」
  • アウトプットは小さくはじめよう
  • アウトプットが先か?インプットが先か?
  • 「無風」の壁を乗り越えろ

自分の悩みは、「誰かの悩み」

 今日の最初のテーマは「ビジネスサイドも知っておきたい、エンジニア文化(OSS精神)とは?」です。
 エンジニア文化といえば、無償でソースコードを修正したり、役立つ情報を互いに共有し合ったりと、自然と「助け合いの精神」が育まれてきた独自のカルチャーがありますよね。
 このオープンソースのカルチャーを知らないビジネスサイドの方からすると、「なぜエンジニアはそんなに惜しみなく知見を共有するんですか?」と素朴な疑問を抱く人もいるかもしれません。
 実際、エンジニアの情報発信の場となっている「Qiita」では、どのような思いやメリットからユーザーがアウトプットを行っているのでしょうか。
柴田 先人たちの知恵に自分自身も助けられたという経験から、次世代に新たな知見をつなぎたい。そんな思いが、まずQiitaやエンジニア文化の土台になっている感覚があります。
 実際、Qiitaのユーザーに聞いてみても「自分の悩みは、誰かの悩みでもある」という思いから、情報発信を通じてコミュニティに還元したいと考える方々が数多くいます。
 そのうえで、もちろん明確なメリットもありますよね。たとえば記事の執筆やSNSで積極的に情報発信をしていると、企業からスカウトがくる。
 またみのるんさんのように、セッションの登壇依頼があったりと、アウトプットはエンジニア自身のキャリアや人生がプラスになる「きっかけ」を生むものだと考えています。
みのるん たしかにエンジニアは相互に助け合おうとする、「共助の精神」を持つ人が比較的多いですよね。
 実際、Qiitaで情報発信を行う個人の視点から話すと、「いいね」や「コメント」をもらえると、それがモチベーションを高めている感覚があります。
 執筆した記事が共感されたり、感想が集まったりと、誰かから反応があると素直に嬉しいものです。単純にそんな気持ちから、アウトプットを行う人も少なくないと思います。
 エンジニアは、普段ユーザーと接する機会が少ない分、「ありがとう」と言われる機会もあまり多くないですからね。そういう意味で、しっかり承認欲求を満たしてくれる場所は大切ですよね。
 ぜひ今日帰ったら、ビジネスサイドのみなさんもまずエンジニアに「ありがとう」と伝えてみてください。そこからOSSのような助け合いの精神も育まれるはずです。

アウトプットは小さくはじめよう

 アウトプットがもたらす可能性やその具体的な方法についても深掘りしていければと思いますが、池澤さんは情報発信を通じてどのような恩恵があったとこれまで感じますか。
池澤 そうですね。私のキャリアにおける経験上、情報発信をすることで「営業の代替」ができたのは大きかったです。
 いまは会社員ですが、これまで私はフリーランスとして活動していました。フリーランスはやっぱりある程度営業をしないと日銭が稼げないので、情報発信を通じて多くの人や企業に知ってもらうきっかけになったのは、とてもありがたかったですね。
 また「リアルタイムで細かく情報をまとめる」だけでも意味があると考えています。
 人間って、すぐに忘れるじゃないですか。だから開発の進捗や躓いたポイントを、細かくリアルタイムに書き留めて、一旦SNSに投稿するだけでも思い出しやすくなるんですよね。
 これを後で開発が完了してから記事にしようとか思うと、もう面倒になってしまっている。「細かいアウトプット」を最後に束ねるイメージで、気兼ねなくある意味雑に情報発信をはじめてもいいんじゃないかなと思います。
 たしかにアウトプットすることで、思考を整理できる良い機会にもなりますしね。
柴田 Qiitaのユーザーさんも、そういう方は多いですね。
 自分が躓いたポイントをメモ書きに残しておいて、ある程度情報が溜まったタイミングで記事を公開する人も少なくありません。
池澤 しかも自分が書いた記事に、後から何度も自分が助けられることも多いんですよね(笑)。
 良い記事あるじゃんと思ったら、自分が書いてたりしてね。これは結構あるあるかもしれない(笑)。

アウトプットが先か?インプットが先か?

 情報発信の話題で決まって聞かれるのが、「アウトプットが先か?インプットが先か?」という質問です。僕の主義主張でいうと、「アウトプットが先じゃない?」といつも伝えてはいるのですが、みのるんさんはどう考えますか?
みのるん 私も「アウトプットファースト」が大切だと思います。
 「もう少し勉強したら記事を書こう」とかインプットが先に立つと、なかなかその実現は難しいところがあるかなと。
 だから「今週末にブログを書きます」とまずは宣言して、アウトプットの予定を先に立ててみる。アウトプットする予定がはじめにないと、良質なインプットも得られないと思うんです。
 わかります。僕、それ「何々してから思考」と言ってるんですけど、たとえば「英語を勉強してから留学に行こう」とか「お金が貯まってから結婚しよう」とか。
 究極は「ダイエットに成功してからジムに行こう」っていう人が本当にいるんですよ。「ジムのかっこいい人たちに囲まれるのが恥ずかしい」から、ダイエットしてからジムに行きたいと。
 気持ちはわからなくないけど、順番が逆ですよね。何々してから思考の場合、良い未来がどんどん先に遠ざかっちゃうんですよ。
 だから「なりたい未来」を引き寄せるためにも、まずは行動するのが大切。全く綺麗に整理する必要なんてなくて、まずは気軽に発信するのが大切だと思うんですけどね。
柴田 そうですよね。「レベルが高くないとアウトプットしちゃいけない」と思い込んでいる方にお伝えしたいのは、たとえば「初心者の方が躓いたポイントは、同じ初心者にとってとても価値ある情報になる」ということです。
 自分が躓いたところは、実は何百人、何千人も同じように苦戦しています。だから同じ状況にいる人のためにも、もう少し軽い気持ちでアウトプットしても良いのかなと個人的には思います。

「無風」の壁を乗り越えろ

 一方で、「それいま知ったの?」とかツッコミが入ったり、この時代だと炎上したりすることを恐れている人も少なくないですよね。
 でも炎上は、まず燃料がないと燃えませんからね。要するに、燃えている時点で「燃料を持っている=多くの人の興味・関心を引いている」という捉え方もできます。
 またもう一つ、炎上するにはなかなか高度な「テクニック」が必要です。いまからみなさんに炎上を起こす必殺技を伝授しますので、自己責任でこれはやってくださいね。
 「大きな主語」「曖昧なロジック」「雑に殴る」。この三点セットでだいたい燃えます。
 これが炎上の鉄則ですから、逆に言うとこの3つに当てはまらなければ燃える心配もないということです。
池澤 そこにトレンドも掛け合わさると大変ですよね。
 ただ情報発信をはじめたタイミングって、実際「無風」なことが多いと思うんです。結構これが悲しくて、最初に躓くポイントな気がするんです。
みのるん とてもわかります。私の同僚でも、1本目の記事を大作に仕上げたはいいけど、SNSから全くリアクションがなくて落ち込んでいる人を時々見ます。
 頑張れば頑張るほど、無風のショックも大きくなる。だからこそ、肩肘張らずに小分けに情報発信することが大切だと思うんですよね。
 なるべくハードルを下げることが、アウトプットを継続するための秘訣だと思います。
 たしかにいきなりホームランを狙って、大振りしがちな人は多いですよね。空振りした時のショックが大きくなるので、それを軽減するにもこまめにアウトプットするのは大事ですね。
みのるん アウトプットは、間接的な種まき活動に近いと思うんです。すぐに結果を追い求めようとせずに、いつかのチャンスのために種を蒔いておく。
 そしてそれを組織やコミュニティ、社会がポジティブに後押しする雰囲気が大切だと思います。実際、自分自身も地道に細かいアウトプットを重ねてきた結果、所属するKDDIアジャイル開発センターの採用にもつながっています。
 まずは小さなアウトプットからはじめることが、自分自身の今後のキャリアアップや、企業なら自社の認知度向上に長期的にはつながっていくイメージですね。
柴田 Qiitaのユーザーでも、コミュニティに還元したいという思いや会社の方針など、はじめのきっかけはさまざまで、最初は苦労した人もいまは楽しく情報発信に取り組む人が多いです。
 やっぱりアウトプットをすることで、誰かから「反応がある」のは単純に嬉しいことです。それを一度体験するために、まずはSNSや記事を執筆してみるなど、そんなある意味軽い気持ちでスタートしても良いと思うんです。
 そしてきっとあなたの悩みや知見は、誰かが必要としている情報でもある。ぜひまずは気軽にアウトプットの一歩を踏み出してもらえると嬉しく思います。