2023/12/22

【ドキュメント】世界の覇者を決する「AI競争」の全内幕(前編)

2023年は「生成AIの年」だった。
前年末にリリースされたChatGPTへの熱狂は、瞬く間に世界を覆い尽くした。その一方で、AIがはらむ可能性への期待と不安のあいだで世界は揺れ動くことになる。
AIを人類の希望と見なすか、脅威と見なすか──11月に起きた「OpenAI事変」は、この相反する立場の確執の深さを世界に知らしめるものだった。
だが、両者の対立は、ChatGPTが誕生するはるか以前から、シリコンバレーにうごめいていた。
本記事では、米ニューヨーク・タイムズ紙が、80人以上の経営者、科学者、起業家の証言をもとに、今日の生成AIブームの立役者たちの「エゴと野望」をつぶさに描き出す。
そこから見えてくるのは、「AIの覇権」をめぐる果てしないパワーゲームだ。その先に待ち構えているのは、どのような未来なのか──。
NYT紙渾身の大長編を、今回NewsPicksでは独自翻訳。全3話でお届けする。
INDEX
  • ①マスクとペイジ、深夜の大喧嘩
  • ②二分される「AIの未来」
  • ③事の起こり──DeepMind誕生
  • ④白熱の「人材オークション」
  • ⑤消滅した「倫理委員会」
  • ⑥波乱──OpenAI誕生
  • ⑦飛躍──ChatGPT公開

①マスクとペイジ、深夜の大喧嘩

2015年7月、サンフランシスコ。
イーロン・マスクは、コテージが立ち並ぶカリフォルニア・ワイン・カントリー・リゾートで、44歳の誕生日を祝っていた。
彼の妻が開いた3日間のパーティーには、家族と友人のみが参加し、会場となったナパ・バレーの豪邸では子どもたちが走りまわっていた。
これはTwitterがXになる何年も前のことだ。この年のTeslaの業績は上々だった。
ちなみに、マスクと妻のタルラ・ライリー(HBOのSFドラマ『ウエストワールド』で美しいが危険なロボットを演じた女優)の結婚生活は、この1年後に2度目の破局を迎えることになる。
👉 AIの発展は進歩か、破滅か
パーティーに参加していたラリー・ペイジは、当時はまだGoogleのCEOだった。
そして、人々がAIの存在を意識しはじめたのも、そのほんの数年前のことに過ぎなかった。GoogleがAIを使ってYouTubeの猫動画を(16%の精度で)識別していたころだ。
パーティーの初日の夕食後、マスクとペイジはプール脇の焚火台のそばに座り、主にAIについて語り合った。
(Warchi/Getty images)
2人の億万長者は10年来の友人で、夜中までテレビゲームをしてはペイジの家のソファで朝を迎えるほどの仲だ。マスクはしばしば、この話を冗談のネタにしていた。
しかし、その澄んだ夜の会話は、「AIは最終的に人類を進歩と破滅のどちらに導くか」という議論になるにつれて、次第にケンカ腰になっていった。