2023/12/25

【大木優紀】スマホがあればどこでも行ける。そんな時代の「安全」とは?

NewsPicks Brand Design / Strategic Editor
 子どもからお年寄りまで誰もがスマホでネットにアクセスし、便利なサービスを享受できる時代。コロナ禍を経て社会のデジタル化は一気に進み、悪意ある攻撃も巧妙化している。

「私は大丈夫」。でも、あなたのまわりの人は正しくリスクを理解してデジタルツールを使えているだろうか。

 親として子として、大切な人の安全なデジタルライフのためにどんなことができるのか。海外旅行のDXを進める海外旅行予約アプリ『NEWT(ニュート)』PRの大木優紀氏と、サイバーセキュリティ専門企業トレンドマイクロの荻原夕貴氏、ともに2児の母でもあるふたりに聞いた。

デジタルで暮らしは格段に便利になった

──おふたりは、デジタル化の便利さをどんなところで感じますか?
大木 私の本業の海外旅行に関していうと、まず令和5年3月からパスポートの更新と一部の申請がオンラインでできるようになりました。さらに入国審査も以前のように人による目視の確認ではなく、顔認証システムが導入されて非常にスムーズになっています。
1980年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、2003年にテレビ朝日に入社。アナウンサーとして『GET SPORTS』『やじうまテレビ!』『くりぃむナントカ』などを担当。2度の産休・育休を経て、復帰後の18年からABEMA『けやきヒルズ』、翌19年から『スーパーJチャンネル』を担当。21年末に同社を退社し、令和トラベルに転職。海外旅行予約アプリ『NEWT(ニュート)』のPRに奮闘中。小学生の長女・長男の2児の母。
 当社のアプリ『NEWT』は旅行予約や管理手続きのDXを最大化し、スマホとパスポートだけで海外に行けることを目指しています。入社した当初はまだ当分先の話だと思っていましたが、すでにスケジューリングからパスポートの登録、現地のホテルへのチェックインまで、すべてスマホだけでできるようになっています。
 行列に並んだり手間をかけたりすることもなく、旅行のタイムパフォーマンスはかなり良くなってきています。
荻原 私も今度、初めて子連れで海外へ行くのですが、チケットやホテル手配から、子連れで現地に行った人の経験談を仕入れることまでスマホひとつでできました。これと同じことが、いろいろな領域で起こっていますよね。
2014年トレンドマイクロ入社。コンシューマ商材を取り扱う営業部門に配属後、マーケティング部門に異動し、「パスワードマネージャー」や「ウイルスバスター クラウド」のプロダクトマネージャーを歴任。2度の産休を取得した後、現在は製品プロモーションやGTMプラン立案を担い、「ウイルスバスター トータルセキュリティ」や新製品「トレンドマイクロ ID プロテクション」のPMM(プロダクトマーケティングマネージャー)業務に携わる。私生活では2児の母。
 たとえば最近、保育園の連絡帳が紙からアプリに変わりました。朝に体温や朝食などを入力して送ると夕方には園での様子が先生から届きます。写真も添えられていてわかりやすいし、やはりスマホで完結できる手軽さがあります。
大木 うちの子の小学校でもアプリが導入されました。病欠の連絡も時間を選ばずにパッと送れるから、朝のバタバタしているときにタイミングを見計らって電話して、つながらなくてまたかけて……なんてストレスもなくなりました。確かに、育児や教育はデジタル化ですごく便利になりましたね。
荻原 ただ、便利になる一方でセキュリティリスクも増えています。
 以前のサイバー犯罪は、ウイルスやスパイウェアなどを使ってパソコンやスマホなどのデバイス自体を攻撃して情報を盗む手口が主流でした。しかし、コロナ禍の2020年頃から実在の企業を装って偽のサイトに誘導し、住所や電話番号、クレジットカード情報などの個人情報を抜き取るフィッシング詐欺の被害件数が跳ね上がりました。
 日常のあらゆる場面でデジタル化が進み、オンラインサービスを使う人が格段に増えたことで、攻撃者も狙いやすくなっているんです。

個人情報は、どうやって漏えいするのか

大木 最近、ヒヤッとしたことがありました。クレジットカードの不正利用が2回続いて、カードが止められたんです。自分自身はしっかりしているつもりでも、気づかないうちにフィッシングサイトに引っかかっていたかもしれませんよね。
荻原 大木さんご自身に落ち度がなくても、お店やサービスを提供する企業へのサイバーアタックで個人情報が流出することもあります。トレンドマイクロが把握している被害事例では、2023年1月から6月の半年間で133件。月20件以上の漏えい事故がどこかで起きていることになります。
 そのとき問題になるのは、パスワードの使い回し。1社から情報が洩れることで、複数サービスに不正ログインされてしまうリスクがあります。
出典:トレンドマイクロ「パスワードの利用実態調査2023」
大木 会員になると何%オフとか、メルマガ購読でプレゼントとか、個人情報を登録することでメリットも多いから、ついあちこちのサービスに登録してしまう。でも、パスワードは覚えきれないから、同じものを使いたくなる気持ちもわかりますね……。
 そういえば、うちの小学生の子どもにスマホを持たせているのですが、母の日のプレゼントに、ドーナツの無料クーポンをくれたことがありました。「お金は使えないのに、どうしたの?」と聞くと「いろんなところに登録してポイントをためた」って言うんです。うれしいはずのプレゼントなのに、すごく不安になりました。
荻原 ポイントと引き換えに、お子さん自身の個人情報などを登録してしまったかもしれませんね。
大木 ペアレンタルコントロールで使える機能を細かく制限しても、なぜか許可していないアプリがあったり、私の知らない機能や新しいサービスを使っていたり。子どもたちは親の目をかいくぐって、すごく直感的に、ある意味大人以上にスマホを使いこなしてしまう。これは本当に悩みどころです。
荻原 それだけ使いこなせることは頼もしくもありますが、今は、ネット詐欺もどんどん巧妙化していて、ユーザーの属性やコミュニティに合わせて手口を変えて引っかけるんですよね。
 ウェブサイトを閲覧中に「懸賞に当選しました!」とポップアップが表示され、個人情報や決済情報の入力を求められる。そこで入力してしまうと情報を盗まれることもあります。
写真:kokoroyuki
大木 リンクを踏んだだけだったら大丈夫なんですか? 怪しいサイトを見分ける方法はあるんでしょうか。
荻原 リンクを踏まないようにすることがとても大切です。ただ、最近のフィッシングサイトは本物をコピーしてつくられているものもあるので、見た目で見分けることは非常に難しい。だから多くの人が騙されて個人情報を入力したり、不正アプリをダウンロードしたりしてしまいます。
 まずは一呼吸おいて、「本当にそんな懸賞があるのか」を検索したり、表示されたリンクをクリックするのではなく、普段自分が使っているアプリやブラウザからアクセスしてみる。お子さんにも、「まずは慌てずに調べてみようね」と伝えることが必要かもしれません。
 そのうえで、トレンドマイクロのようなセキュリティ企業にできることは、個人情報やプライバシーを守るツールを提供すること。とくに最近では、IDやパスワードなどのアカウント管理が重要になっています。

IDとプライバシーを守るには

荻原 2023年11月にリリースした「トレンドマイクロ ID プロテクション(以下、IDプロテクション)」には、個人情報流出を予防するためにパスワードの使い回しを防止したり、より強力なパスワードを生成したりする機能があります。
大木 すごい、これいいですね。
 パスワード作成機能を使えば解読にかかる推定時間が「数百年」と言われると、安心感があります。私が生きている間は大丈夫そう(笑)。
荻原 もうひとつはこういったパスワードやメールアドレス、クレジットカード情報などの個人情報がダークウェブ上に流出していないかを監視し、情報漏えいがあればアラートで通知します※。
 ダークウェブというのは通常の検索や一般的なソフトウェアではアクセスできない匿名性の高いインターネット領域で、個人情報やサイバー犯罪のツールなど非合法な情報の売買に使われて問題視されています。クレジットカード情報やネットバンキングのアカウント情報なども売買されています。
 IDプロテクションはFacebookやInstagram、Googleなどのソーシャルメディアアカウントも監視して、アカウントの乗っ取りや不審な挙動があれば警告します。このようにデジタルのアカウントに危険がないかを可視化してプライバシーの安全を保つ防犯・警報装置のようなサービスなんです。
 ※すべての個人情報の流出や不正利用を検知することを保証するものではありません。

デジタルを遠ざけずにバランスを取る

大木 セキュリティの話から少し離れますが、うちではSNSの使い方についてよく話します。
 お友達同士のコミュニケーションについて、「文字だけだと表情やトーンがわからなくてきつく感じるから、直接しゃべるよりも丁寧に伝えないとダメだよ」と教えると、企業からのSNS広告に対しても丁寧にお返事しているんですよね。ファッションセールの案内に対して、「カーディガンがすごく素敵ですね」とか。
荻原 かわいらしいけど、怖くもありますね。
大木 そうなんです。子どもは、どれが必要でどれが必要のないコミュニケーションか区別がついていないこともある。もしも一所懸命に返信している相手が悪意を持っていたら怖いですよね。名前や住所を聞かれても丁寧に答えてしまうかもしれません。
写真:blackCAT
 だから、「実生活で会ったことがある人と、そうじゃない人とのコミュニケーションは全く違うから、気をつけないといけないんだよ」って、基本的なことから話し合いました。
 危ないからといってスマホを取り上げたり、ネット環境から遠ざけたりすることは、根本的な解決にはなりません。
 オンラインサービスやSNSを使う立場で考えると、情報をレコメンドしてもらったり、クチコミや本音を聞けたりすることってものすごくありがたいんです。誰もが個人情報を隠し始めたら、インターネットやSNSの良さもなくなってしまいますよね。
荻原 どのサービスにも個人情報を一切登録せず、行動履歴の利用を許諾せず、トラッキングさせないとするとオンラインサービスの利便性は大きく損なわれるでしょうね。
「自分の求めている情報をお薦めしてほしい」「ストレスなくすぐにログインしたい」「忙しいときにワンクリックで買い物したい」。そういった体験を実現するために、私たち生活者はサービス側に情報を渡しています。
 そのとき、運営会社を調べたり、クチコミをチェックしたり、トラッキングを許可する前にどんな情報が使われるのかを確認したり。安全に使うには「どのサイトなら登録しても大丈夫なのか」を見極めるしかありません。
 実際にツールやサービスを使う経験を積んで、ベネフィットとリスクのバランスを取るためのリテラシーを養っていくしかないのかなと思います。
大木 そうなんですよね。大人も子どもも、デジタルと無縁では生きられない時代です。押し寄せる情報の波にさらされながらも、うまく乗りこなせる力をつけていくしかない。
  一方で、スマホのロック解除がパスコードから指紋認証、顔認証へと進化してストレスなく解錠できるようになったみたいに、サービスの側からより安全に、便利なやり方でオンラインにアクセスできる技術が出てくることにも期待しています。
「私が唯一の私である」ことをよりスマートに認証できれば、日々の生活から海外旅行まで、もっと手軽にたくさんのことができるようになりますよね。
荻原 そうですね。ユーザー自身がリテラシーを身につけることも非常に大切ですが、安全を守ることはサービスを提供する企業の役割だと思います。
 トレンドマイクロは、それが本業。デジタル化から人を遠ざけたり制限したりするのではなく、もっと自由にデジタルライフを楽しんでもらうために、企業やユーザーをサポートしていきたいですね。