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「プレミアム家電」市場をストーリーで切り開く

ダイソン日本法人社長が語る「世界初の旗艦店を日本に開いた理由」

2015/4/21
4月17日、英国家電メーカーのダイソンが、世界初の旗艦店「ダイソン表参道」をオープンした。ダイソンは成熟市場と言われた白モノ家電市場に“吸引力の衰えない掃除機”を引っさげ参入。高価格帯ながらも世界的な売上を記録した。その後も羽根のない扇風機に加え、ファンヒーターや空気清浄機能付きファンへラインナップを拡大、「プレミアム家電」なるジャンルをつくり上げた。今回、NewsPicks編集部はダイソン日本法人の麻野信弘社長にインタビュー。ダイソンの販売戦略とイノベーティブな製品を生み出す開発体制について聞いた。

──旗艦店を開いた理由は?

ダイソンの製品を体感してもらう場所をつくりたいと思っていたからです。ダイソンの製品が他メーカーより高くても売れてきたのは、製品の機能性が評価されていたからです。ならば旗艦店を構え、体験して購入までできるような場所をつくろうと数年前に発案していました。

また、ダイソンの製品は、今や掃除機だけでなく扇風機、加湿器、空気清浄機と幅広い。となると、家電量販店の売り場では種類ごとにバラバラに配置されてしまいます。それではダイソン製品の「関連買い」も生まれにくくなる。これも旗艦店を開いた動機のひとつです。

創業者・ダイソン氏の「ものづくり大国への敬意」

──では、なぜ世界で最初に日本を選んだのでしょうか。

3つ、理由があります。まず、1つは創業者のジェームズ・ダイソンが日本に非常に親しみを感じているからです。恩義と言ってもいいかもしれません。

ダイソンを起業する前のことですが、ジェームズ・ダイソンがサイクロン式掃除機を発明し、共同製作会社を世界各国で探していました。その中で、最初に日本のある企業がダイソンの掃除機を一緒につくることを提案してくれました。「幻の一号機」と呼ばれる最初の発明品は日本企業の協力で生まれました。

そして一人のメーカー創業者として、ソニーの盛田昭夫氏やホンダの本田宗一郎氏を尊敬しています。

2つ目の理由は、日本市場のもつ魅力です。成熟していると思われがちな白モノ家電市場ですが、実はまだまだ成長余力があります。ダイソンの2014年度の日本市場は売上・利益ともに50%近くの増加となりました。今やダイソンの中で日本は1位、2位を争う成長地域です。

麻野信弘 (あさの・のぶひろ)1965年、大阪府生まれ。関西学院大学経済学部を卒業後、P&Gジャパンに入社。約6年間に渡り国内セールスを担当した後、販売実績を認められ本社機能であるセールス・プランニングを担い、2005年までの間に同社のアイムス、ウィスパーなど数多くのブランドに携わる。その後、ジレット傘下のブラウンの日本国内における販売責任者となった。2010年、海外家電ブランド販売の手腕を買われ、ダイソンへ。セールスディレクターとして高い成果を上げた。そして2012年、同社の社長に選出され、現在に至る。

麻野信弘
(あさの・のぶひろ)1965年、大阪府生まれ。関西学院大学経済学部を卒業後、P&Gジャパンに入社。約6年間に渡り国内セールスを担当した後、販売実績を認められ本社機能であるセールス・プランニングを担い、2005年までの間に同社のアイムス、ウィスパーなど数多くのブランドに携わる。その後、ジレット傘下のブラウンの日本国内における販売責任者となった。2010年、海外家電ブランド販売の手腕を買われ、ダイソンへ。セールスディレクターとして高い成果を上げた。そして2012年、同社の社長に選出され、現在に至る。

日本は家電の「トレンド発信地」

そして3つ目の理由は、消費者の感度が非常に高いということ。日本の消費者は世界の中でも最新技術への理解や受け入れが早く、判断がシビア。家電量販店を訪れる方の多くが、ネットで機能や値段・口コミを調べてから来店されます。それでも、店舗で実機を目にして、使ってみるとさらに悩む。

対照的なのがアメリカで、消費者はここまで悩みません。主な販路である、GMS(大規模小売店)では日本ほどスタッフの人数は多くない。とにかく大量に陳列して、「一箱いくらで売るか」の勝負。そうなると結局、価格だけの争いになります。それでは日本のような、多角的な販売戦略は練ることはできません。

こうした目の肥えたユーザーが多くいる日本は、いわば「家電のトレンド発信地」です。ですから、ダイソンは「新商品はすべて、日本から出す」と決めています。

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旗艦店では畳やカーペット、フローリングなどで実機の性能を試すことが可能だ

たとえば、コードレスタイプの掃除機。2011年に日本で発売しました。当初はサブの掃除機という位置付けで、売上もメインの掃除機の4分の1から5分の1くらいだと見込んでいました。

ですが、自社開発のモーターの技術向上によってサブからメインの掃除機として打ち出すことで、わずか3年でメインの掃除機の売上の80%程度にまで育ちました。それから海外へと徐々に拡大しています。

ここまでヒットした要因は何か。それはコードレス掃除機が単に「お手軽」だったからということではありません。コードレス掃除機にメインの掃除機と同等の吸引力をもたせて、「サブ」ではなく「メイン」の掃除機として使えるようにしたからです。ここにダイソンが大事にしている販売戦略があります。

ダイソンが掲げているのは「製品の付加価値」です。付加価値というのは、要するに「機械が機能することで固有の問題を解決し、ユーザーを驚かせる」ということ。そして販売していくうえでは、「これまで気付かなかった問題を発見→テクノロジーの進化→問題解決」というプロセスを「ストーリーで語る」ことが大事です。

ストーリーで語る販売戦略

それが受け入れられたのは加湿器。開発にあたっての私たちの問題意識は「加湿器から噴射されるミストは衛生的ではないのではないか」というところにありました。繰り返し使われるタンクには菌が繁殖してしまいます。ならば、ミスト化する過程でUV(紫外線)を二度照射、十分に滅菌してきれいなミストを出そう。

こうした成功事例はハンディクリーナータイプの掃除機で、海外に応用していくことができました。

日本ではダニが布団にいるのは当然の認識ですが、海外では知られていないうえに、そもそも布団を干すという文化がありません。だからハンディクリーナーの海外の売れ行きも最初は芳しくありませんでした。

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持ち運び可能なハンディクリーナー

ですが、カナダで「カーペットにはダニがいます、そのダニは健康にもよくありませんよ」という問題点を提示することで、新たな顧客を開拓することができました。

問題の発見から解決までを、ストーリーで示す。そして、最後の購入の決め手となるのが、実店舗での体験です。ここにもダイソンは徹底的にこだわり抜きます。(後編へ続く)

(撮影:福田 俊介)