2023/12/19

【保存版】“失敗の3要素”から学ぶ、新規事業グロースの心得

NewsPicks Brand Design Creative Editor
 予測不能な現代にあって、企業も常に変化を迫られている。
 そんな中、これまで行っていた事業以外に、新たな活路を見出すために必要となるのが種まき作業、すなわち「新規事業開発」だ。
 既存事業とは異なる新しいビジネスを立ち上げ、それを未来の糧にしようと、多くの予算と人材が投下される。
 しかし、たとえ新しい事業の芽が生まれても、それを年商10億円、100億円といった規模にまで成長させることは極めて難しく、道半ばでクローズする事業も数多い。
 せっかく生まれた事業の芽を摘まないために、気をつけるべきポイントは何か。
 トヨタ自動車、NTTドコモをはじめとした大手企業の新規事業を支援する、株式会社アルファドライブ アクセラレーション事業部のトップに、事業開発で失敗しがちなポイントについて聞いた。

0→1と1→10の明確な違い

──新規事業を立ち上げながらも大きく育たず、途中でクローズしてしまうケースが少なくありません。その理由は、どこにありますか。
加藤 新規事業を生み出すいわゆる“0→1”と、それをグロースする“1→10”では、そもそもの重要なポイントがまったく異なり、後者の方がより難易度の高いことが理由に挙げられます。
 私たちは0→1を「アイデアを検証する段階で、会社が本格的な投資を意思決定する前のフェーズ」、そして1→10を「会社として投資の意思決定がなされ、実際に事業としてモノやサービスを展開するフェーズ」と定義しています。
 まず0→1の段階で推奨されるのが、“多産多死”のアプローチです。
 究極的には、何が当たるかを事前に見立てることができないので、とにかく多くのアイデアを試すことが求められる。
 アイデア1つあたりの投資コストを抑えながら、より多くのアイデアを検証し、その中から良いものを引っ張り上げていきます。
 主な活動内容としては、ニーズをつかむためのターゲットへのヒアリングや、簡易なプロトタイプによるテスト検証などです。
 不確実性が高いという難しさはあるものの、活動の難易度はそこまで高くないのが、この0→1になります。
──それが1→10のフェーズになると、どんな変化があるのでしょう。
 こちらは考え方がガラッと変わります。
  0→1のように多産多死を前提とするのではなく、会社として意思を込めて投資すると決めて選び抜いた事業に、ヒト・モノ・カネをしっかり投入して進めることになるので、結果が求められてくる。
 実際に事業を立ち上げる活動になるので、サービス/プロダクトを完成させる必要がありますし、売っていくためのマーケティングやセールス活動、オペレーション/ロジスティクス構築、経営管理/資金繰りなど、やることが全方位的に増え、求められる専門性も高くなります。
 新規事業がグロースの段階で行き詰まることが多いのは、そうした1→10ならではの特性と難しさが、背景にあります。

新規事業のグロースを失敗させる、3つの要因

──具体的にどんな要因で、新規事業のグロースが失敗するケースが多いのでしょう?
 もちろん例外はあるのですが、主に以下の3つの要因が挙げられます。
 失敗論と成功論は、表裏一体です。基本的にこれらをカバーすることで、1→10フェーズが成功する確率をグッと高められると考えています。
 まず挙げられるのが、事業を推進する人間の熱量の方向性がズレてしまっているケースです。
 例えば、新規事業をやること自体に熱量が向いているようなケース。
 もちろん熱意を持って臨むことはすばらしいのですが、そこだけに向いてしまうと、新規事業を育て上げるまでの壁や苦しみに対して「なんでこんな大変なことをやらないといけないんだ」というように、意義と推進力を失ってしまいやすいんです。
 また、ソリューションやビジネスモデルにこだわりすぎるのも落とし穴に陥りやすくなります。
 マッチングビジネスを作りたい、SaaSモデルのビジネスを作りたいなど、特定の事業モデルに固執しすぎると、諸般の前提状況が変わった時に柔軟に事業転換ができなくなってしまいます。
──では、どのようなマインドならいいのでしょう?
 理想は、熱量を「顧客課題の解決」に向けることです。ターゲット層の困りごとをなんとしても解決したい、それが達成されるのであれば手段は問わない、というマインドを持つべきです。
 このようなマインドであれば、苦しい局面でも顧客に立ち返って、意義を持って前に進めることができるし、目的思考のもと、変化にもしなやかに対応できます。
 2つ目の失敗要因は、仮説検証を正しく回せないことです。
 0→1フェーズでさまざまな検証を行って、1→10フェーズに突入したとしても、想定していた仮説が外れることの方がはるかに多いです。
 例えば買ってくれると想定していた人たちが買ってくれない、買ってくれても半分しかお金を出してくれない、など。
 だからこそ、1→10フェーズでも仮説検証を続け、その結果を受け止めて常に方向転換していくことが大切になります。
 にもかかわらず、仮説検証のサイクルが正しく回らず、検証結果を事業に正しく反映できず、そのまま突き進んで行き詰まるケースが少なくありません。
──仮説検証の結果を正しく事業に反映できないのは、なぜでしょう?
 まず考えられるのが、単純に「忙しい」ことです。
 前述の通り1→10フェーズは、開発・セールス・マーケティング・ファイナンスなど全方位的に忙しくなるので、目の前のひとつひとつのアクションやタスクをこなすこと自体が目的となりがちです。
 結果、事業を俯瞰的に見られず、思考停止となり、ただただ進むだけになってしまう。
 また、事業責任者の心理的な問題もあります。
 なんといってもこれまで自身で仮説検証を行って大切に温めてきた事業なので、顧客から否定されて形をガラリと変えるようなことはできる限りしたくない。
 それに加え会社のリソースもしっかり投じられていることから、短期的に結果を出さなければというプレッシャーもかかります。だからこそ、市場からの厳しいフィードバックに、無意識的に目をつぶってしまう。
 投じたコストのもったいなさから合理的な判断ができなくなる「サンクコスト効果」が働いているとも言えます。
 そして3つ目は、事業における重要論点を見定めきれず、適切な意思決定ができなくなってしまうことです。
 1→10フェーズでは、プロダクト開発やマーケティングなど、専門性の高いアクションも求められるだけに、多くの場合、外部パートナーの力も借りながら事業推進をすることになります。
 その際に、事業の重要論点が見極めきれていないと、ディレクションの“勘どころ”がつかめず、適切に機能させることができません。そうなると、無駄の多い投資になってしまうことがあります。
 例えば、最初期のプロダクトをローンチする際には、フルスペックではなく、本当に肝となる機能さえあればOKです。
 しかし、「ちゃんとしたものを出したい」という思いから、いわゆる過剰な要件となってしまい、必要以上な時間とお金を投じてしまう。さらに、そもそもの仮説が間違っていたために、作ったものの、まったくマーケットに刺さらず、資金だけ溶かしてしまった…なんてこともあります。
 マーケティングを行うにしても、はじめはさまざまなWHO(誰に)×WHAT(何を)×HOW(どう伝えるか)のパターン出しをしながら、小さく小さく試していきたいところです。
 しかし、いきなり大がかりな広告をドンと出してしまい、狙う方向性がズレていてコストほどの効果はまったく出ず、さらには何の知見も得られなかった…なんてこともありえるのです。
──それを避けるために必要なのが、事業の肝を見極めることだと。
 そうです。それさえ見極められていれば、例えば外部の協力会社に対しても「とにかくこの論点だけは検証/達成したいので、今回はこの範囲で開発をお願いします」といった形で依頼でき、適切なお金の使い方ができます。
 また、事業自体の撤退か継続投資かを判断する際も、その重要な論点さえクリアしていて、その結果によって事業成功の兆しを伝えられれば、たとえ他の部分は芳しくなくても継続投資を勝ち取れる場合もあるんです。

メンターとの二人三脚によって、新規事業は加速していく

 こうしたグロースを失敗させる落とし穴は、新規事業の経験をたくさん積んでいれば回避できるものが多い。
 だからこそ、企業戦略として新規事業に注力していくのであれば、社員に事業づくりをたくさん挑戦させ、専門家として育てていく必要があると思います。
 実際、新規事業の立ち上げを何度も経験した人材がいる企業では、その方が他の新規事業のアドバイザーとしてサポートに入るようなサイクルを作ることで、良い循環ができているケースもあります。
 ただ、そういった人材が社内にいなければ、外部の専門的なメンターを頼ることも1つの手です。
──外部メンターを頼ることで、どんなメリットがあるのでしょうか。
 初めて責任者として新規事業を進める方に多いのが、現状を正しく把握できない状態になってしまうことです。
 自分の事業が今どんな状況にあるかを見失ってしまったり、思考停止でタスクをこなすだけになってしまったり。そんな時に、全体俯瞰と現在地をセットで示しながら、道を踏み外さないようガイドするメンターがいることで、着実な前進がしやすくなるでしょう。
 また、不安や迷いを解消する役目も大きいです。
 状況を適切に整理してもらいながらさまざまな助言を受け、不安や迷いを打ち消してもらえる。それが、事業の大きな推進力となるはずです。
──新規事業の支援会社/メンターはたくさんいると思います、どんなところに頼ればいいのでしょう。
 最も見るべきは、そのメンターがどれだけ事業開発の経験をしているかですね。
 例えばAlphaDriveでは、これまでに120社・1万3000件の新規事業を支援し、120件を超える投資採択を獲得した事業を生み出しています。
 私も含めたメンバーの多くが、起業・経営・社内新規事業立ち上げの経験者で、自身の失敗経験も活かしながら、手触り感のある事業伴走ができるチームを作っています。
 また、「メンタリング」のみでなく「実働/機能的なサポート」もしてもらえるのか、という点を見てもいいと思います。
 最初に述べた通り、1→10フェーズは、専門性の高いスキルが求められます。
 AlphaDriveには、「AXL TECH STUDIO(プロダクト開発支援)」「AXL PROTOTYPE STUDIO(プロトタイプ支援)」「AXL MARKETING STUDIO(マーケティング支援)」の3つの組織を設け、プロフェッショナルたちによる機能支援をより強化し、実務までサポートできる体制を構築しています。
  新規事業フェーズにおいては、事業戦略とプロダクト戦略/マーケティング戦略を、全て繋げて、連環させながらブラッシュアップしていくことが重要です。
 事業全体のメンタリングのみでなく、各種機能での支援をシームレスに連携して支援ができれば、新規事業グロースの成功確率はグッと上がると思います。
──逆に外部の支援会社/メンターを頼る時に、注意すべきことは何でしょうか。
 頼るべき部分とそうではない部分を、きっちりわけて考えるべきだと思います。
 私たちの場合、その新規事業を推進する事業責任者やチームに、「新規事業をつくり上げる力を実装したい」との思想で支援をしています。
 その背景には、外部のメンターやコンサルティング会社に全てを任せすぎて、自社では何も進められない状態になってしまうのが非常にもったいないという思いがあるんです。
 その観点でいえば、事業自体の解像度を高めるための顧客開発のアクションや、重要な意思決定に関わる部分は、絶対に外部に手放すべきではないポイントだと考えています。
 自分の事業の顧客に対する理解を定める作業や、その深い理解をもって骨子となる戦略を描く部分までを外部に任せたら、その事業からは自分たちの意思がなくなってしまいます。
 自ら仮説検証したり、意思決定を行ったりすることでこそ、事業に対する当事者意識や解像度は上がっていくものです。
 たとえ外部の支援会社/メンターに頼るとしても、事業の核となる部分は自分たちでしっかり意思を持って進めるべきだと考えます。
──最後に、これから新規事業のグロースをする人が意識しておくべきことを教えてください。
 新規事業は、終わりなき仮説検証の旅であると考えています。
 いかに仮説検証を行い、そのフィードバックを正しく反映することを繰り返すか、に尽きますが、未知の世界を手探りで進むだけに、道をふみ外したり暗中模索になったりするリスクとは隣り合わせです。
 そんな中で、どれだけ確からしい確証を持って、チームで納得する腹落ちを作って、前に進んでいけるか。
 マーケットから目を背けずに、私たちのような支援会社/メンターをうまく活用していただきながら、ぜひ大切な事業を10億円・100億円の規模まで成長させていってほしいですね。