2023/12/15

【楠木建が迫る】急成長を遂げる、日本リビング保証とは何者だ

NewsPicks Brand Design editor
 近年、SDGsの気運の高まりを背景に、販売促進・CRM(顧客関係管理)の観点から各企業が力を入れ始めている「アフターサービス」。そして、その取り組みを“黒子役”として支え急成長を遂げている企業がある。それが日本リビング保証(JLW)だ。
 同社は、2009年に創業し、2018年に現:東証グロース市場に上場。以降、5年間で売上高は約3倍に急成長しつつ、創業以来連続増収/7期連続増益を達成している。
 連続的・安定的な利益構造を確保しつつ、高成長も両立するビジネスモデルはどのように成り立っているのか。そして、更なる飛躍的成長を目指し、同社がチャレンジするマーケットには、どんなポテンシャルがあるのか。
 日本リビング保証 代表取締役社長 安達慶高氏と、経営戦略を専門とする一橋ビジネススクール特任教授 楠木建氏に語ってもらった。

急成長を支える2つの事業

楠木 御社は長期的成長を遂げているだけでなく、トップラインの伸びを利益の伸びが上回っています。それを実現している事業がどのようなものかを、まずは簡単に教えてください。
安達 我々の事業は各企業のアフターサービスの企画設計・運営支援を軸に、主要2事業は展開領域によって分かれています。
 そのうちひとつ目は、社名に「リビング」とあるように、創業以来、重点的に取り組んでいるのが住宅領域(HomeworthTech事業)です。
 住宅設備を対象にスタートした保証サービスは、住宅事業者がお客様に提供したいと考えるアフターサービスの進化とともに、現在では建物・地震・資産価値と、その幅を年々拡げています。
 そして、住宅領域で培ったノウハウを基に展開をスタートしたのが、非住宅領域への保証提供(ExtendTech事業)です。現在は、太陽光発電・蓄電関連やEV(電気自動車)などの再生可能エネルギー領域において、非常に多くのお引き合いをいただいており、事業として急成長を遂げています。
楠木 ありがとうございます。ちょっと基本的な質問をしたいのですが、そもそも「保険」と「保証」は何が違うのですか?
安達 保険も保証も本質的な提供価値は同じだと考えていますが、対象事故が発生した際に、保険は現金で支払いが行われるのに対し、保証は対象物の原状復旧などサービスや技術を提供(役務提供)する点がひとつ大きな違いだと思います。
楠木 要は機能の違いということですね。
 たしかに、生命保険や火災保険など取り返しのつかない事故が発生した場合は現金給付が適していますし、一方で、住宅設備にネガティブな問題が起きた時には、保証で原状復旧してくれた方が自然ですよね。
安達 保険に比べて、保証はもっと「普段づかい」していただけるサービスだと私は考えています。保証が提供されている製品の場合、アフターサービスの窓口があるのが一般的です。
 たとえ大きな故障でなくとも、気軽に修理やメンテナンスの相談ができるのもユーザーメリットだと思います。
楠木 そうした保証サービスが、なぜ今、世の中で必要とされているのでしょうか。
安達 まず、消費者が製品やサービスの購買判断をする際にアフターサービスを重要視していることが挙げられます。特に住宅はその傾向が顕著で、長期保証を掲げる事業者がここ数年急増しています。
 また、事業者サイドからしても人口減少に伴い年々縮小していく国内市場への対策として、自社商圏をいかに強固なものにするかという点に関心が高まっています。
 そうした背景もあり、アフターサービスを通じて顧客と継続的に接点を持ちたい企業からのニーズが増えていると分析しています。
楠木 事業者が保証をはじめとするアフターサービスを検討するタイミングにおいて、御社の出番というわけですね。その中で御社の役割や価値をどのように捉えていますか。
安達 保証サービスにおける我々の役割・価値は、「リスクとオペレーションのアレンジメント」にあると捉えています。究極的には、事業者単独で保証制度を運営することは可能です。
 しかし、実際に自社の製品やサービスに保証を組み込んで運用するのは、事業者側の負担が大きいのです。
 保証リスクについては損害保険でバックアップするのが一般的ですが、そこには企業向けの損害保険等に関する専門的な知識・ノウハウが必要とされます。
 また、「役務提供する」という保証サービスの特性上、修理受付や物流・修理ネットワークなどの体制整備やそのクオリティ管理も重要な要素となりますが、そこにも専門性が必要となり、事業者にとって大きな負担になっています。
 そこで私たちが事業者に代わって、保険会社への対応やオペレーションを行い、各社が「アフターサービス」をなめらかに展開できるようにコーディネートすることが我々の提供価値だと考えています。
楠木 なるほど。私たちが普段利用する保証サービスの裏には日本リビング保証がいると。
 昔、オリックスを手伝わせていただいていた頃、当時の経営者の宮内(義彦)さんに「オリックスってなんで儲かるのかわからないんです」と尋ねたら、「だから儲かるんじゃねえか」と返されたのを思い出しました(笑)
 御社も同じパターンだと思うんです。複雑性の高い業界の中で、事業者とユーザー・オーナー双方にメリットのあるポジショニングというのは、外から見るとその優位性が伝わりづらいですよね。
 一体どのようにこのビジネスを着想されたのですか。
安達 当社の創業メンバーは、私を含め第1号認可の少額短期保険業者の立ち上げメンバーが中心でしたので保険に関しては高い見識を持っていました。
 その会社では地震保険を専門に扱っていたのですが、それを販売する住宅事業者と対話する中で、「いつ発生するかわからない地震に対する保険より、生活に直接影響する住宅設備に関する保証サービスを作れないか」そう言われたのがきっかけでした。
 そこから、当時では業界初の住宅設備の延長保証サービスの開発に着手するわけですが、住宅事業者のサービスに保険を組み込むことで、より使いやすいサービスモデルが作れないかと苦心する中で着想したのが、現在の保証サービススキームなんです。
楠木 「保険が苦手とする部分」も熟知していたからこそ、保証という新しいサービススキームが生まれたのですね。
 まさに、現代でいうところの“※エンベディッド・インシュアランス(組み込み型保険)”の走りですね。
※保険を企業が提供する商品やサービスの中に組み込んで提供する、新しい販売手法のこと

「保証の新領域」は無数にある

楠木 保証を基軸に成長し続けてきたわけですが、今後もこの成長を維持できそうですか。
安達 当社としてはそう確信しています。そう考える根拠のひとつは、現状の住宅領域(HomeworthTech事業)に「深耕」できる余地がまだまだ大きく存在することです。
 これまでは、新築・中古の販売時に付帯するアフターサービスを中心に展開してきましたが、それに加えて直近は既存の住宅マーケットに対して、住宅事業者とタッグを組んだアプローチを推進しています。
 具体的には、OEM型でスピーディーに専用アプリとして利用いただける「おうちマネージャー」を中心にさまざまなSaaSプロダクトや、Fintechサービスの提供を既に開始しています。
 保証ビジネスで生まれるキャッシュを元手に、継続的かつ積極的に投資を続けてきたデジタル領域がこれからの事業を牽引するものと確信しています。
楠木 保証の拡張性を考えると、住宅領域以外でも有形無形を問わずあらゆる製品・サービスに保証ビジネスの可能性があると思いますが、非住宅領域(ExtendTech事業)にも今後さらに力を入れるお考えですか。
安達 はい。特に社会的ニーズの高い再生可能エネルギー領域においては、これまで太陽光モジュールや蓄電池、電気自動車など家庭用機器への保証提供が中心でしたが、直近は産業用機器への保証付帯もスタートしています。
 例えば海外の再エネ機器メーカーが日本に来て事業を展開する際、運用する設備に問題がなくても、想定した発電量が環境的な要因で確保できない可能性も考えられます。
 特にファンドを組成して発電設備を運用するような場合、投資家からすると収益のシミュレーションがしづらいですし、資金が集まらなくなってしまう。そこで我々が発電量の保証提供をサポートすることで、その懸念を解消できるというわけです。
楠木 保証サービスによってビジネスの不確実性を削減できるわけですね。面白い。
 御社のような会社があることで、これまで保証サービスをつけられなかった世のさまざまなプロダクトに、保険ではなく「保証」をつける可能性がグッと広がります。
 それも有形の商品だけでなく、原理的には無形のサービスにもつけられる点が非常に興味深いなと。
 また、お話を聞いていて気づいたのは、一口に保証といっても、二つの面があることです。ひとつは、たとえばエアコンや給湯器が壊れてしまい、そのままだと生活がままならないので、きちんと原状復旧してもらいたいというタイプの保証。
 そしてもうひとつが、たとえば海外企業などの新しいブランドや、高額商品など、良さそうだけどちょっと信用性に疑問を感じるので、壊れた場合の保証がほしいといったタイプ。
 後者のような領域やセカンダリーマーケットへの保証提供は可能なのでしょうか?
安達 はい、もともと住宅領域においては、中古住宅売買時の保証サービスを提供しています。
 これは仲介事業者向けに、第三者による設備点検と建物と設備の保証をセットで提供するサービスで、中古物件であっても売主と買主の双方が安心して取引できることから、複数の大手仲介事業者様に導入いただいています。
 また、実は非住宅の領域でも中古保証提供の取り組みを始めたところで、2023年10月から、トヨタ自動車さんが運営する自動車整備機器の中古売買プラットフォームで保証の提供を始めています。
楠木 中古住宅売買や自動車整備機器というバーティカルな領域では既にスキームが出来上がっているんですね。もう少し消費者に近いCtoC取引という面ではどうですか。
安達 CtoC取引においては情報の非対称性が課題として存在しており、売り手・買い手の双方がリスクを感じているのが実情です。
 だからこそ、その取引に保証をつけることでより市場を活性化できる可能性があると考えていて、具体的な仕組みを検討中です。

“非効率”なオペレーションが参入障壁に

楠木 御社は2009年に保証事業を始めて、そこから毎年利益を積み上げるなど実態の伴った成長を遂げ、保証をはじめとするアフターサービスの「黒子役」という新しいカテゴリーを作りました。
 これほどはっきりとした成功モデルを、特定の1社が作り上げているケースも珍しいと思いますが、どんな競争戦略と差別化要因を描いていますか。
安達 コアのひとつは、サービスの品質にあると自負しています。
 たとえば、効率だけを考えれば、コールセンターは比較的運営コストの安い地方部に設置し、修理は格安なベンダーに外注するのが合理的です。ですが、私たちは東京本社にコールセンターを構え、修理は一定程度の内製化を行っています。
 コールセンターを東京本社に構える理由としては、住宅の専門家である建築士をはじめとした各領域のエキスパートを常駐させることでプロフェッショナル性を高める点にあります。
 そして、修理の内製化に関しては、修理業務のどんなところが負担になるのか、その要諦を自社で体感し、習熟することが目的です。
 創業以来、サービス品質向上に向けて継続してきたこのような取り組みが「クリティカルコア」となり、事業者から信頼をいただいていると考えています。
 実際に、金額面だけを見て他の保証会社を選ばれる事業者で、後に改めて当社を選び直してくださるケースも多いのです。
楠木 ただひたすら業務標準化・効率化を行うのではなく、必要な部分を見極めて効率と反するオペレーションもあえて採ることで、模倣しづらいスキームを構築しているわけですね。

B for Bの精神でさらなる高みへ

楠木 他にはどんな差別化要因がありますか。
安達 変化を恐れない企業カルチャーと「BforB」の姿勢も私たちの強みだと考えています。
楠木 BforBとは、より協業や相互利益を重視したBtoB取引のことですよね。御社の目指すBforBは、どんなものですか。
安達 クライアントのニーズや関心に常にアンテナを張り、サービスの提供を通じて、クライアントの事業に最大限貢献するということだと考えています。
 その意味では、事業者の声から着想を得た新サービス開発は年間ふた桁にのぼりますし、年々サービスラインナップを拡充することでクライアントの期待に応えたいと思っています。
楠木 近年は特に、デジタルにリソースを振り向けているとお聞きしましたが?
安達 はい、私たちは自社を「WorthTechCompany」と表現しているように、デジタルを活用した業務効率化・CRM支援に現在最も力を入れています。先般公表した中期経営企画でもSaaS事業の強化と、Fintech事業の開発について言及いたしました。
 そうした背景を基に、企画開発を担うデジタル人材も積極的に採用していて、今期から社内のデジタル戦略を統括するデジタル戦略推進本部を新設しました。
楠木 積極的な攻めの投資はきちんとしながらも、利益もきちんと付いてきている点はやはり着目すべきポイントですね。その先に見据えている戦略を伺えますか。
安達 まだ詳しくは申し上げられないのですが、先ほどもお話しした既存住宅マーケットに向けて、新たなFintechサービスを今期内に投入する計画です。
 これからも、あらゆる製品・サービスの価値を維持し高められる、今までにないサービスを開発していきたいと考えています。
楠木 私は「競争戦略」を専門としています。御社が確固たる競争ポジションをとっているということを認識しました。これまでは意識して観察することがないビジネスを知ることができてよかったと思います。