2023/12/18

世界は7600社、日本はまだ35社。「B Corp」の現在地

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 公益性の高い優良企業に与えられる認証、「B Corp」(B Corporation)
 日本でも、B Corp認証を受ける企業は徐々に増えており、現在35社(2023年12月15日現在)。一方グローバルでは、2016年に約1700社だったのが現在では7600社を超え、いよいよ動きが熱を帯びつつある。
  あらためて、B Corpとは何なのか。それにより、企業はどんなベネフィットを得られるのか。同認証に関わる2人の対談と、B Corp認証を取得した2社のケーススタディを通して、企業の新しい「価値基準」を浮き彫りにする。
INDEX
  • 「社会性」と「儲け」の両立が大前提
  • 制約こそがイノベーションを生む
  • B Corpは「ムーブメント」だ
  • B Corp認証の取得は「旅」である
  • フランチャイズのオーナーもB Corp認証企業に

「社会性」と「儲け」の両立が大前提

──なぜB Corp認証企業が、ここ数年で大幅に増えているのでしょう?
橋爪 世界的にソーシャルな事業を志向する流れがあるのはもちろんですが、やはり影響が大きかったのが、パンデミックです。
 2020年にコロナ禍が起き、経済・社会格差が浮き彫りになった時に世界でESGへの注目が高まりました。
 同様によい企業の認証であるB Corpにも注目が集まり、認証企業数が一気に増えました。
 特に、B Corp的な価値観と親和性が高いのがZ世代。今後、いい人材を採用するためにも、B Corpの基準に叶う“いい会社”を目指す企業が増えています。
 対して、日本の新卒一括採用システムではどうしても“大きな会社”が志向されやすく、B Corpが広まりにくい一因になっているのかなと。
──あらためて、B Corp認証とは何でしょう? ESG評価とは何が違いますか。
橋爪 B Corp認証には最大200ほどの評価項目があり、いわゆるESG評価の項目と重なるところも多いですが、異なる部分も多々あります。
 大まかにいえば、E=Environmentの部分は問われる項目はどちらもそれほど変わらないのに対し、B CorpではS=Socialの部分が従業員、コミュニティ、顧客とステークホルダーに重きが置かれているのがわかります。
 B Corp認証の特徴は、単純に「実施している」「していない」を問うだけではなく、具体的にどのような形で何人のステークホルダーに配慮しているか、といった定量的なパフォーマンスを問う設問が多い点にあるでしょう。
 B Corp認証を取れているのであれば、概ね組織として必要なESGの取り組みができていると言ってもよいと思います。
──株式会社である以上、利益の追求も求められます。経済性と公益性は、両立できるのでしょうか。
橋爪 そもそもB Corpに関わる人たちの間では、利益、つまり「経済性」と「社会性・公益性」を両立できる認識が前提にあります。
 社会的企業というよりも、社会的「営利」企業というのが良いかもしれません。
 もちろん、IPOを目指している会社もあれば、持続可能な範囲での利益を目指すゼブラ企業など幅はありますが、営利企業であるのが基本となります。

制約こそがイノベーションを生む

 利益と公益性の両立は、まさにイノベーションの範疇。
 イノベーティブな人はそれらを両立できるし、そうして誰かが何かのモデルを一つつくれば、他の人も応用できるようになる。
 いうなれば、B Corpのムーブメントは、イノベーションを増やすことが起きやすくなる。なぜならクリエイティブなアイデアは、制約によって生まれやすくなるからです。
 たとえば、従業員のダイバーシティを実現する必要があるというのはある種の制約で、それによって組織構造や売り方などさまざまな面でイノベーションが起こす必要がある。
 B Corpには、そうした新しい工夫をもたらす制約が、たくさんあるなと感じます。だからこそ、認証を目指すプロセスの中でいろいろな工夫が生まれ、企業を変えていきます。
 したがって、認証を取った企業だけでなく、認証を目指す企業にも目を向けたいところで、その視点も含めれば日本にも成果を得ている企業がけっこうあります。
──B Corpの普及を推進する日本総研自体が今、B Corp認証の取得に取り組んでいます。状況はいかがですか。
橋爪 認証取得を目指し、現在はBIA(B Impact Assessment)と呼ばれるB Corpのアセスメントで80点以上を獲得するべく、社内変革に取り組んでいる段階です。
 おおよそ、当社では何ができて何ができないかがわかったので、制度の変更やデータの取得など、社内の協力を得てできることを地道にやって1点1点上げていきたいです。
 まさに、このプロセスの段階から、会社が変わり始めているんですよね。
橋爪 おっしゃるとおりです。大変な作業ですが、すでに、やってよかったと感じており、社内で応援してくれる方が増えてきました。

B Corpは「ムーブメント」だ

橋爪 改めて感じたのが、B Corpは、認証というより「ムーブメント」なんだなと。
 たとえば、美容業界でB Corpを取得した企業数十社では、グローバルのコミュニティを形成し、互いの取り組みについて共有や議論の場を設けています。
 ある国内のB Corp企業の方は、そういった視座の高いグローバルなコミュニティに入れるのが、B Corpの一つのメリットだとおっしゃっていました。
──そんななかで、早稲田大学ビジネススクール(WBS)と日本総研は、2024年2月に「B Corpを活用したSX人材育成」という講義を開設します。
橋爪 B Corpを取るには、その理念を社内に浸透させることが非常に大切なので、まずは社員研修のようなものを考えました。
 ただ、自社だけでやると閉じてしまうので、それなら社外の方々と一緒にやろうと、牧先生にお声がけしました。
 B Corpは、まさに今のWBSに欠けている分野で、この領域を開拓するまたとないチャンスなので、迷うことなくご一緒させていただく形になりました。
──どんなプログラムになりそうですか?
 たとえばハーバードビジネススクールが作成したB Labのケース・ディスカッションを行ったり、日本でB Corp認証を取得した企業の事例をベースにディスカッションを行ったりすることを想定しています。
──こうした取り組みの先に、どんなゴールを描いていますか。
橋爪 私たちの講義をきっかけに、他の大学にもB Corpの授業が広まればいいなと。B Corpを広めるには、やはり教育が非常に有効な手段になるので、それが一つのゴールです。
 学生の中からB Corp認証のスタートアップを立ち上げる人や、B Corp認証企業に就職する人が出てきてほしいです。
 そして最終的には、公益性と利益の両方を実現している事例をたくさん集め、学生がそういった事例から学んで行けるよう、教育コンテンツをアップデートしていきたいです。
国内にB Corpを普及したいというプロジェクトの思いに賛同し、本講座のケーススタディの教材開発に協力しているのが、B Corp認証を取得している「クラダシ」「エコリング」だ。ここからは、2社のB Corp認証に至るストーリーを紹介する。

B Corp認証の取得は「旅」である

中野 当社は2014年創業の会社で、ショッピングサイト「Kuradashi」を通し、フードロスの削減に取り組んでいます。
 クラダシは、賛同メーカーから買い取ったフードロスになる可能性がある商品を、お得な価格で一般ユーザーに販売するプラットフォーム。
売上の1~5%をさまざまな社会貢献団体に寄付するほか、当社が運営するクラダシ基金に充てています。現在、従業員は70名ほどです。
──B Corp認証を取得するまでの経緯を教えてください。
中野 B Corpを取ろうと決めた理由は、その理念がクラダシのミッション・ビジョンにフィットしていたからです。
 当社がサステナブルであり、ソーシャルグッドカンパニーを目指していることを、あらためてグローバルな第三者機関に認めてもらうのは有意義だなと感じました。
 2021年2月から取得に向けて動き始め、4月にはBIAの提出を終えました。ただ、そこからが長かった……。
getty images / bee32
 結局、認証プロセスは翌22年の2月頃にスタート、同年の6月に認証を取得しました。そして2023年6月、日本のB Corp認証企業で初めて、上場を果たしました。
──B Corp認証後、何か変化はありましたか?
中野 大きな変化があったかというと、正直ありませんが、いくつかのいい影響は実感しています。
「B Corpを取られているんですね」と新たにサステナビリティに関心の高い食品メーカーさんと取引が始まったり、B Corpをきっかけに採用へ応募して社員になってくれた人がいたり。
 あるいは上場をきっかけに、海外のインパクト投資家に株主になってもらったり。あわせて、日本のB Corp初の上場ということもあって、様々なメディアでも取り上げていただきました。
 他のB Corpとコミュニケーションを取ったり、一緒に発信する機会もできたり、じわじわといい影響というか、B Corpムーブメントを感じられている状況ですね。
──B Corpに興味を持っている企業に伝えたいことは?
中野 B Corp取得は「旅」に例えられるのですが、BIAに回答して、自社の経営や取り組みの現在地を知ることに大きな意味があります。
 トライしようか迷っているのであれば、現状では取得が難しそうでも、足りないところを知り、改善しながら認証取得を目指したほうがいい。
 気になっている企業さんは、より「良い」会社に近づく一つの手段として、少しでも早く動いてもらえればと思います。

フランチャイズのオーナーもB Corp認証企業に

大和田 当社は2001年創業で、不用品の買取専門店を、全国に230店ほど展開しています。
 あわせて、古物商の資格を持つ方が参加する、BtoBのオークションを運営しています。
「なんでも買取」「全て売り切る」がポリシーで、リユースを通して環境問題や社会課題の改善に取り組んできました。従業員は約520名です。
──B Corp認証を取得することになったきっかけは?
大和田 リユース事業を展開する私たちとしては、 ソーシャルグッドな取り組みをしている自負がありました。
 以前はあえてPRすることはありませんでしたが、やはりしっかり公言していくべきではないかと考え直し、2018年よりB Corp認証取得に取り組み始めました。
 実は、そこから認証を受けるまでに3年を要しましたが、そのプロセスこそがいい社風を醸成する契機になったと感じています。
 とりわけ当社では、社員から「こんなふうにしましょう」といった提案がさまざま挙がり、それがよりよい会社に変わる原動力となっています。
──たとえば、どのような変化でしょう?
大和田 たとえば、可能な限りの店舗で筆談を可能にしたり、バリアフリー化を実現しました。業務改善レベルでは、もっとたくさんあります。
getty images /  nimis69
 また、何でも買い取ることが私たちのコアコンピタンスですので、お客さまが気軽に来店できる店舗設計やデザインに、シフトを行っています。
 他にも、ボランティアなど社会貢献活動を行いたい社員に有給が付与されたり、社会課題を解決することが人事評価に連動されたりしています。
 B Corp認証取得によって、お客さま満足度をきちんと測るはじめ、あらゆる業務を見直す契機となりました。
──今後の展望を教えてください。
大和田 全国230店舗のうち約半分を、フランチャイズのオーナーに営業委託しているのですが、オーナーさまを少しずつでもB Corp認証取得企業にしたいと考えています。
 オーナーさまには本業があるので大変ではありますが、そうしたプロセスを経て「いい会社」がどんどん増えていったらすばらしいなと考えています。
「B Corpを活用したSX人材育成講座」は国内で初めてのB Corpを主題にした実践的な学びを提供する産学連携講座だ。

 上記2社の他にも、この新しい取り組みに共感をしてくれた、国内のB Corpコミュニティの方々の存在があり、講座が解説される運びとなった。こうした取り組みが国内のB Corpムーブメントの成長を後押しすることが期待される。

日本総研の「B Corp」への取り組みはこちらをチェック