2023/12/18

AI時代でも淘汰されない、クリエイティビティの磨き方

NewsPicks Brand Design Senior Editor
 昨今、急速に拡大している、ChatGPTやAI画像をはじめとした生成AI。会話や動画、音楽などのコンテンツを作成できるAIは、業務効率化やアイデア創出に寄与すると期待されている。
 ただ一方、AIによって自らの仕事が奪われてしまうと危惧する人も多いのではないか。
 今後より技術が進化して、クリエイティビティが汎用化していくなか、ビジネスパーソンやクリエイターは生成AIをどのように使いこなし、存在感を発揮すればいいのか。
 本セミナーはこうした疑問に応えるため、編集者やコンテンツプロデューサーなど4人の有識者が、10月11日に新発売された「ドライクリスタル」を楽しみながら意見を交わした。
「ドライクリスタル」はアルコール分3.5%でスーパードライの躍動感あるうまさを実現し、ビールとの新しい付き合い方を提案している商品だ。
 各登壇者の白熱の議論をもとに、クリエイティビティとは何かという根本的な疑問から、AIと共存しながらクリエイティビティを磨くノウハウ、AI活用術を4人の熱気と共にお伝えする。
佐渡島 生成AIの登場で、より質の高いクリエイティビティが求められるようになりつつありますよね。
高瀬 確かにそうですね。
 ただ、クリエイティビティって「0から1を生み出す天才的なひらめき」のようなものだと捉えられがちじゃないですか。
 でも実際は、何かを創り出すために必要なのは、インプットや知識量だと考えています。人間も知識や経験がないと、面白い企画やアイデアを作ることはできないと思っています。
 同様に生成系AIも、膨大なデータをもとに、自動的に回答を生成するシステムなわけですよね。そこの構造は変わらない。
深津 AIはデータをインプットする能力でいうと、圧倒的に強いじゃないですか。
 2022年、AIを駆使して雑誌の表紙を作るプロジェクトをしていたのですが、コンセプトを伝えておいたら僕が寝ている間に1000〜2000もの案を出してくれました。
 ただ、そうなるとAIが出力したものを精査していく能力が大事になってくる。そこで活きてくるのが人間である自分自身の経験やインプットですよね。
高瀬 いまはアイデアとは、ひねり出すものじゃなくて選ぶものになりつつある。その傾向は今後強くなっていくでしょう。
佐渡島 かつて仕事仲間のカメラマンから、「たくさん撮った写真の中から、究極の1枚を選ぶのが俺の能力なんだ」と言われたのを思い出しました。
 まさに皆さんがおっしゃった、これから求められるクリエイティビティに近いですね。
佐渡島 実際に生成AIって、どんな仕事と相性が良いと思いますか。
深津 いわゆるクリエイティブな仕事でも、コンテンツを創作するのにかかる時間の大半は作業なわけですよ。
 例えば、新しいソリューションを開発するとなっても、一度核となるアイデアが閃いて構想ができたら、残りの98%はひたすらコードを書く作業だったりする。
 その作業をAIにお願いするのが効果的なわけです。クリエイティブな仕事の中にある“作業パート”を任せる。漫画の仕事なら、群衆とか窓ガラスを何百枚も描くコマをAIに任せて、自分はストーリーを練ったり、取材に費やせたりする時間が増えるわけです。
 プロデューサーやディレクターなど仕事のプロジェクトを管理したり、指示を出したりする側の方は、生成AIを使いこなしやすいと思います。
 普段から企画の方向性を出して、具体的なアイデアを詰めていく作業は、生成AIに置き換えやすい。
 逆に指示を受けて作業をする立場のサラリーマンは、生成AIとどう仕事を進めるか把握するまでに時間がかかるかもしれません。
佐渡島 初心者向けに最適な使い方というのはありますか?
林 まず話してみるのが良いと思います。世間話でも愚痴でも良いですし、いろいろ話しかけてみて、反応を見るだけでも興味深い。
深津 初心者だと問いを立てるのに苦労する人が多いんですよ。もっと気楽に「俺こんな書類作ったんだけど読みやすくできないか?」ぐらいの雰囲気で聞くのがオススメです。
 まずは部下に作業をお願いするぐらいの感覚です。
 例えば、全国で最初にChatGPTを導入した自治体である横須賀市は、「行政広報の文章がわかりにくいのでQ&Aを作ってください」とか、「小学5年生にもわかるように翻訳してください」などとお願いしているんです。
高瀬 生成AIって、使う側の質問力が問われますよね。自分がどのような作業を頼みたいのか、何を達成したいのか、はっきり言語化する能力が重要になります。
 AIが膨大な量のアウトプットを自動で作ってくれるようになったので、その質をどう上げるかが非常に重要になってきます。
 少しでも自分の狙いに沿ったものを出させるには、質問の精度を上げる必要があると思うんです。
 自分は質問力を鍛えようと、ChatGPTに企画会議の議事録を読み込ませて、「僕の質問の仕方で、良いところと悪いところを3つずつあげてください」とフィードバックをもらうようにしています。
深津 いま、私たちが話している、この座談会の議事録を読み込ませるのも面白そうですよね。
 そのうえで「もっとうまく喋るにはどうすればいいですか?」とか「質問にうまく答えていない回答はありましたか?」とか、アレコレ質問してみる。
 AIなので忖度ない答えが返ってきますし、自分ごとなので刺さる回答が結構上がってきます(笑)。
林 その使い方は素晴らしいですね。
“AIを仕事に生かす”と聞くと、みんなかしこまってAIにビジネスの格式ばった質問ばかりしてしまう。
 AIに対して、“あの会議の自分の発言、変じゃなかった?”とか“会議の議題からずれている時間が長くなかった?”みたいに人に面と向かって聞きづらい質問をするというのも、一つの活用法だと思います。
佐渡島 ちなみに皆さん、AIにどんな恥ずかしい質問や会話をしたことがありますか?(笑)
深津 僕はAIのカスタムインストラクション(ChatGPTとの対話を自分好みにカスタマイズできる機能)に、「とにかく今日褒めて褒めて。僕の心を折らずにモチベーションを出しまくるような回答をして」とお願いしていることが恥ずかしい(笑)。
林 本当にAIとのやりとりは見られたくないですよね(笑)。AIが間違った提案をしてきたときに、僕がすごい剣幕で「違う!」と怒っているところとかは見せたくないです(苦笑)。
佐渡島 AIが出てきた当初のイメージって、人間の仕事はリプレイスされるという危機感が強かったですよね。ただ、多くの人が実際に使っていくなかで、「労力を軽減してくれて、クリエイターを強化してくれる存在」という認識に変わってきています。
 AIが情報を正確に収集して、アウトプットしてくれる環境下で人間が何をすべきかというと、やはりひらめきや発想を生み出すこと。
 でもそれって、一人ではできないんですよね。
高瀬 僕は情報収集をするときに、いろんな人と短い時間でZoomで話すのですが、その時にお酒を飲みます。
 お酒に酔いたいというよりは、お互いにリラックスした雰囲気でないと出てこないアイデアってどうしてもありますし、お酒飲んでるっていう設定があることで、心のハードルが下がって思いつきのアイデアも言いやすくなる。
林 お酒そのものよりも「飲んでいる場だよね」というある種の合意形成が大事ですよね。
深津 生成AIには、“温度”というパラメーターがあるんですよ。このパラメーターを上げれば上げるほど多様な回答が出やすくなり、低くすると似たような回答が出やすくなる。
佐渡島 今回、座談会中に頂戴していたお酒は、アサヒビールが10月11日に新発売した「アサヒスーパードライ ドライクリスタル」という商品で、アルコール分3.5%というビールです。
 コミュニケーションを図るうえで、適度に“温度”もあげたい。そういう人にとって3.5%という度数はちょうど良いのかもしれません。