2023/12/18

これまでの常識は通用しない。「デジマ」の"新教養"

NewsPicks Brand Design
 今やマーケティング戦略の要となっている「デジタルマーケティング」。その強みは、PDCAを回しながら効率的に効果を最大化できることにある。
 CPC(クリック単価)、CPA(顧客獲得単価)、LTV(顧客生涯価値)、ROI(投資利益率)といった数値を計測し、施策に活かす。今では同様のスキームが、運用型TVCMなどマス広告にも広がりつつある。
 “獲得”のイメージが強いデジタルマーケティングだが、実は「ブランディング」につなげる方法もある。それを牽引するのが、コンテクスト(文脈)に寄り添ったデジタル広告プラットフォームを展開するGumGumだ。
 どうすればデジタルのアプローチから、ブランドを育てられるのか。そこに取り組むGumGum Japan 代表 マネージング・ディレクターのセルビー健三と、リアルからデジタルまでを統合したブランディング戦略に精通するThe Breakthrough Company GO 代表取締役の三浦崇宏氏の対談を通し、解き明かす。
INDEX
  • デジタルマーケティングはコンバージョンだけの施策ではない
  • 統合的な視点からデジタルマーケティングを行え
  • 生活者にとってピッタリの“文脈”でアプローチする
  • ブランドを育てることが、企業の成長につながる

デジタルマーケティングはコンバージョンだけの施策ではない

──日本のデジタルマーケティングの現状を、三浦さんはどう捉えていますか?
三浦 本来マーケティングとは、顧客の態度変容と市場の変化を生み出すためにあらゆる手段を講じることで、当然そこにはオフラインもオンラインも含まれる。
 つまり、経営の意思決定から顧客接点まで、一貫した総合的プロセスをデザインするのがマーケティング。デジタルマーケティングはその一部です。
 にもかかわらずデジタルマーケティングだけが、そうしたプロセスから切り離され、特別なもののように崇拝されている感じがします。
──なぜ、そうなっているのでしょう?
三浦 一つ挙げられるのは、多くの企業は中期的なビジョンよりも、短期的な結果が求められるから。
 高度経済成長期で、市場自体が成長基調にあった時代であれば、意思決定層が短期で入れ替わっても業績は伸びていったのでよかった。
 対して、この30年でダウントレンドを経験してきたなかでは、中長期的なビジョンより短期的な結果が追い求められやすくなってしまった。
 さらに意思決定層の任期が短いので、もっと目の前の数字ばかりを追い求めてしまう。そういった状況と相性が良かったのが、デジタルなんですよね。
だからこそ、デジタルマーケティングに対する意識が、本来のマーケティングから切り離されていったんだと思います。
──デジタルマーケティングといえば、コンバージョンに強みがあるイメージです。
三浦 実際にマーケティングの現場では、テレビなどのマス広告=ブランディング、デジタル=コンバージョンと分けられている。
 つまり、デジタル広告は商品やサービスの購入のための“刈り取り”専門の方法論になっています。
 でもそれって、デジタルを過小評価してないか? と思うんです。
──過小評価、ですか。
三浦 本来ブランドって、事業戦略のあらゆるポイントで設計していくことで、初めてつくられるものです。
 要は、あらゆるステークホルダーとの接点を通して、ブランドは形作られていくものであると。
 確かにデジタルは資料請求や購入など、広告と求める顧客行動が近いので、コンバージョンには向いています。
 しかしコンバージョンを重視するあまり、たとえばラグジュアリーブランドのデジタル広告がチープだったら、そのブランド価値は一瞬で毀損されてしまう。
 もちろん、目の前の数字はとても大事ですが、広告そのものが嫌われてしまっては意味がないわけです。
 だからこそ、デジタル広告もブランディングの重要な接点であるという認識が、大前提として必要になる。
セルビー まったく同感です。
 特に、現代はユーザーがデジタルツールと接する時間が非常に長い。
 ということは、購買の接点としてだけでなく、ブランディングの接点としてもより重要になっているはず。
 それが世の中的にあまり認識されていない点が、大きな課題だといえます。

統合的な視点からデジタルマーケティングを行え

──では、デジタルマーケティングをブランディングもふまえた施策とするには、どうすればいいでしょう?
三浦 「短期的な成長」と「中長期的な成長」の両方をバランスよく見られる人材や施策が必要だと思います。
 たとえばテレビCMで「サステナブルなブランドです」とうたっている会社があるとしましょう。
 ただ同社のデジタルマーケティングの担当者は、テレビCMの作り手も知らないし、目の前のCTR(クリック率)を1%でも2%でも改善することに必死です。
 そこで、
「今だけ15%オフです。買ってください!」
 といったデジタル広告を打つ。
 でも中長期的に見れば、顧客を増やせないのは自明の理ですよね。
 そうではなく、継続的な成長を支えるブランド像をしっかり明確化した上で、目の前の数字にもアプローチする。
 これらの施策は個人が一人でやるのではなく、チームとして取り組めばいいのですが、それにはマーケティング全体を統合的に俯瞰できるクリエイティブディレクター、ビジネスプロデューサーといった人材が求められます。
 そうした統合的な視点を持てば、デジタル広告のアプローチはガラッと違うものになります。
 先ほどのサステナブルブランドであれば、アプローチはこう変わります。
「私たちはサステナブルなブランドなので、このブランドを使えば地球のためになり、あなたも幸せになります。しかも、今であれば15%オフなので、より低ハードルで実現できます」
 といったアプローチになります。こうした設計ができるかどうかが、マーケティングではとても重要になっています。
セルビー その通りですね。
 そして、三浦さんのおっしゃるアプローチを最適化していくためには、様々なハードルを乗り越えなければなりません。
 まず、ユーザーが接するデバイスやメディアがどんどん変化しているために、それに合わせてマーケティングの設計をしなければいけない。
 加えて、広告の数も手法も増え、そのチャネルも多くなっている。したがって、消費者の心をつかむことが、非常に難しい環境になっているんです。
 さらにデジタル広告の世界では、GDPR(一般データ保護規則)や、サードパーティCookieの廃止によって、個人データの取り扱いが難しくなるなど、法やルールも変わってきています。
──広告のチャネルや量が増えて人のアテンションを取ること自体も難しいし、ルールの変更によってアテンションを効率化するデータも取りづらくなってしまった。
セルビー そう。だからこそ、広告主や代理店は「商品やサービスのアテンションをどう取るか」ではなく、「商品やサービスがいかにユーザーに適しているか」を伝える必要があるんです。
 つまり、いかに“自分事”にしてもらうかが、デジタル広告においてはより重要性を増している。
 しかし、デジタル広告の世界では、あらゆる面において、これまでの手法は通じなくなった。では、どうするか?
 その解決策の一つが「コンテクスト=文脈」です。
三浦 コンテクスト、ですか?
セルビー 私たちGumGumは、デジタル広告において「コンテクスト」に基づいた施策によって、それらを実現できるプラットフォームを持っています。
 つまり、過去の行動履歴ではなく、現在進行形の心理状況(マインドセット)を理解することで、広告体験と効果の最適化を実現するアプローチです。

生活者にとってピッタリの“文脈”でアプローチする

──「コンテクスト」に基づいた広告とは、どのようなものですか?
セルビー コンテクストを綿密に捉え、適切なタイミングで配信をする広告です。
 現代では、コンテンツをリアルタイムで消費するよりは、自分の好きな時に好きなコンテンツを見ますよね。
 そうなると、ユーザーが没入するモーメント=瞬間を捉えて、それにフィットした広告を配信したほうが効果を得られると考えるのが自然です。
 航空会社のハワイ便の広告であれば、Webメディアのワーケーション記事に出てくるハワイの写真のすぐ下に表示される。
 チーズ製品の広告であれば、イタリアンの料理番組でチーズを材料として使う瞬間に配信される。
 ユーザーが本当に好きなものを見たり、聞いたりしているタイミング=コンテクストで広告が表示されるので、UX(ユーザー体験)を阻害せず、企業や商品・サービスに対してより好意的な認知を形成できます。
──なるほど。ただ、コンテクストを解析できるツールは他社にもありますよね?
セルビー そうですね。しかし、我々のソリューションは他社と一線を画します。
 それを可能にしているのが、GumGumのAI解析ソリューション「Verity™」です。
 これは、画像解析(CV)と自然言語処理(NLP)の2つのAI技術を組み合わせた技術になります。
 他社でも文章情報だけであれば、解析できるサービスはあります。
 しかし「Verity™」は文章に加えて、画像・音声・動画を統合的に、かつ人間に近いレベルで解析できる。
 ゆえに、PCやモバイルなどの様々なコンテンツから、高精度なコンテクストを特定して、広告配信が可能です。
 あわせて、Webページ内に含まれるブランドリスクも検知し、安全性が確保できないページへの広告配信を回避します。
 こうした解析データを活用し、個人情報を一切取らない形で、健全で良質な広告環境を提供しています。
三浦 Cookieも含めて、企業が個人情報を持つことが非常にデリケートな問題となっているタイミングですが、御社はモラルを高く持ちながら、事業展開しているわけですね。
セルビー ありがとうございます。また、コンテクストに特化した技術だけでなく「クリエイティブ」「アテンションタイムの計測」も、我々の大きな強み。
そのメディアに適したリッチなコンテンツをつくり、クリック率ではなく、広告が本当に見られている時間を計測する技術を活用し、デジタルにおけるブランディングを最大化させる。
 このように、コンテクスト・クリエイティブ・アテンションの3つの視点から広告キャンペーンの最大化を可能にするのが、当社のコアコンピタンスです。
 そして、広告が「広告主」「配信主」「ユーザー」にとって“三方良し”となる。新しい広告のエコシステムの構築を目指しています。
三浦 これまでは、ユーザーが何を見て、何を買ったのかといったデータを得るだけだったのが、すべてのコンテンツの文章や画像、動画の内容を精緻につかめるようになったのは、大きな転換点ですよね。
セルビー そうなんです。ただよく考えてみると、アプローチが“原点”に戻っているともいえます。
 もともとテレビやラジオの広告が主流だったころは、コンテクストに沿った広告が配信されていました。
 それが、デジタルが主流になったタイミングで、個人情報を活用したターゲティングの方向へどんどんシフトしていった。
 そしてプライバシーの問題もあり、またコンテクスト重視に戻り始めている。
 ただ、かつてのテレビやラジオと違うのは、AIを使って自動で配信できる点です。
 その意味でGumGumは、プライバシーを侵さない形で、デジタルにおけるブランディングを推進できる。
 新しいデジタル広告を打ち出す企業として、存在感を示していきたいですね。

ブランドを育てることが、企業の成長につながる

三浦 ブランディングを考える上で、僕が一番よく考えるのが、企業と社会の関係です。
 つまり、今の社会において、その企業は何の役割を果たしているのか。僕らはそれを「コアアイデア発想」と呼ぶのですが、最も重視しています。
 GumGumのコンテクスチュアル広告は、これまでのデジタルマーケティングにはない形で、コアアイデアに寄り添ったものにして、ブランディングを着実に高めてくれるツール。
 また、ブランドや企業が社会的にどんな役割を果たしているのかは、意外と外の人間だからこそ見えたりもします。
 長期的な視点でのマーケティングや、ブランドをしっかり育てることが、結果的にどれだけ企業の成長につながっているのか。
 僕らや、GumGumさんのような企業が、そうした視点を今後も事業を通して、世の中にどんどん共有していきたいですよね。
セルビー 私たちとしても、これまでのデジタルマーケティングの認識を払拭し、ブランドを育てるためにも欠かせない戦略の一つであることを、コンテクスチュアル広告を通して世に広めていきたいです。
三浦 いい企業が、いいマーケティングを学び、それを実行していくことで生活者は幸福になる。
 そのサイクルの真ん中に、我々のようなクリエイティブエージェンシーがいると考えています。
 だからこそ、GumGumさんのような広告プラットフォーマーとともに、従来のデジタルマーケティングに囚われない、広義のマーケティングを広告に携わる多くの人に広めていく必要があると思います。
セルビー もちろんです。三浦さん、ぜひ一緒にやりましょう!