2023/12/7

【2024年問題】モノが届かない時代が来る。さあ、どうする?

NewsPicks Brand Design Senior Editor
 アセンドの現在の主軸事業は、トラック運送事業者向けクラウド型ERPシステム「ロジックス」の提供と、物流コンサルティング。
 多種多様な業界の共通課題に対してサービスを提供する“Horizontal SaaS”と比較して、“Vertical SaaS”(業界特化型)と呼ばれる領域に挑む。
 Verticalとは文字通り「縦の深度」を表し、ドリルのように問題の根底に深くアプローチすることで、その業界に根本的なDXを引き起こす可能性を秘めるビジネスモデルだ。
 物流業界の随所に業界変革の可能性を見るアセンドだが、その初手としてローンチした「ロジックス」は、現場業務の効率化とデータによる経営管理を同時に実現。
 リリース以降堅調に成長し、なんと3年間で「解約数ゼロ件」を誇る(2023年11月時点)。
 加えて、アセンドは国土交通省をはじめとした関係省庁のコンサルティング案件や政治家・行政・業界関係者との勉強会を実施するなど、日本の物流変革に向けたルールメイキングをリードする存在でもある。
 アセンドの創業から3年。この短い期間で、なぜ「業界の変革者」になり得る立場にまで駆け上がることができたのか。
 来年以降、物流が停滞することで私たちが当たり前だと信じていた生活が大きく変わってしまうかもしれない──。物流業界の“救世主”となるべく、業界課題の解決に人生を懸ける日下代表の思いを深ぼりしていく。
1990年北海道江別市生まれ、早稲田大学政治学研究科(政治哲学専攻)修了。PwCコンサルティング合同会社にてサプライチェーンマネジメント改革、野村総合研究所にて物流業界に関する政策提言・戦略策定プロジェクトに従事した後、2020年「物流業界の価値最大化」を掲げアセンド株式会社を創業。JILS 「ロジスティクスイノベーション推進委員会」 委員、「ロジスティクス経営指標調査」専門家委員、全日本トラック協会 DX講座 講師、東京大学工学部システム創成科特別講師を務めるほか、国土交通省・経済産業省等でのレクリエーション、国会議員を含めた勉強会等、多くの業界活動を牽引。その他論文・講演多数。

「物流クライシス/2024年問題」の本質

日下 2024年問題を語るとき、「労働時間の管理をきちんとやればいいんでしょう」と、問題を矮小化して捉えているケースが散見されます。
 ですがここで解決しなければいけないのは、労働時間の長さと賃金の低さに代表される業界の構造課題そのものです。
 運送会社のドライバーは、全産業より労働時間が約2割長いにもかかわらず、賃金は1割から2割低い。その結果として人出不足は慢性化しており、高齢化率も高止まりしています。
 テクノロジーの力で生産性の向上を図りつつ、賃金の原資となる運賃を適正に収受できる環境を作りだすこと。これが我々が取り組まなくてはならない「業界課題」です。
出典:「日本のトラック輸送産業現状と課題2023」
 ではそもそも、なぜ物流業界の長時間労働や低賃金問題は是正されないままだったのか。
 1990年の物流二法(貨物輸送の規制緩和のために制定された2つの法律)改正の結果、当時4万社だった運送会社は、6万社まで急激に増加しました。
 日本の物流は総じて品質が高く、サービスの「質」で差別化することは難しい状況です。そういった背景もあり、運送サービスは本質的にコモディティ性を帯びています。
 ですから運送会社の数が増えると、荷主との力関係で必然的に弱い立場になってしまう。市場の適正なルールを欠いたままの自由化による供給過剰は、運賃の値下げ圧力として強く作用しました。
 さらにこれが、過度な無償サービスを提供する文化を生み出してしまった。たとえば、貨物の運び入れ・積み下ろし作業や、荷造り・仕分けなどの附帯業務は、運送価格に反映されていないんです。
 しかし、その構造が大きく崩れるのが2024年です。残業規制によるドライバーリソースの不足で、2030年にかけて運送会社側の物流供給力が大幅に低下する。
 それにより、35%の需給ギャップが発生し、これによる経済損失は10兆円にものぼると言われています。
 供給サイド(運送事業者側)が圧倒的に不足する環境であるからこそ、システムによって運送業の経営改革を実現し、物流業界全体の価値を上げていく。これこそが我々のミッションなのです。
出典:経済産業省「フィジカルインターネット・ロードマップ」

運送の「経営改革」を支援する

 ここまでお話ししてきた問題に加え、運送業界はかなりアナログな業界です。日本各地に根ざした中小企業が多く、全産業の中でもクラウド利用率は「最下位」。
 多様な紙資料の転記やFAX業務、エクセル、電卓による集計など、アナログ作業が未だに当たり前、という世界です。
 業務がアナログなので、データも正しく蓄積されず、収支の細かい分析や経営改善へのアクションを起こすことも難しくなっています。
 そこでアセンドが提供するのが「ロジックス」。運送業特化のオールインワンSaaSとして受注から配車、労務管理や車両管理、経営分析まで、運送業の管理業務を一気通貫で支援するサービスです。
 というのも運送業は本質的に、「サービスのコモディティ性」と「アセット産業」という特性を持っています。
 品質で勝負しようとしても「荷物を運んでくれたらいい」と価格勝負になってしまう上に、トラックとドライバーという重い固定資産を抱えている。
 その意味で運送業は、鉄道や飛行機などのインフラ産業に近く、運送コストを極力削減し、保有するアセットをフル活用することが求められます。
 だからこそリアルタイムで数値を管理し最適化を目指す、データによる経営管理が必要不可欠な産業なのです。
 しかし、紙やエクセルによる業務では転記や集計作業に手間がかかります。あちこちに散らばったデータの照合も難しく、データを効率的・正確に収集することも困難になってしまう。
 また、仮にデータが存在しても、具体的なユースケースがなければ宝の持ち腐れ状態なのです。
 そこで我々は業務とデータを繋ぎ、現場を効率化すると同時に経営の高度化を実現すべく、オールインワンの運送管理SaaSを開発する選択肢を取りました。
 ただ業務の効率化を図るだけではなく、データを整えることで経営管理までサポートしていく。いわば、運送業の“経営改革”を支援することがロジックスの責務です。
「ロジックス」では、受注・配車・請求・労務・車両管理に至るまでの現場の管理業務を一気通貫で効率化し、そこで蓄積されたデータをもとに、売上改善・経営管理を実現できます。
 トラックの実働率や実車率、積載率など、業界特有の業務上のKPIまで分解することで、結果指標である財務数値の分析にとどまらない、高度な管理会計を実現できるのです。
 加えて、荷主や運送会社との運賃交渉支援など、実際の経営改善に資するコンサルティングサービスまで提供している点も、私たちの大きな強みです。
 SaaS企業としてシステム導入にとどまることなく、コンサルタントとして、利益率の改善といった経営アクションまで入り込んでいく。プロフェッショナルの力がなければ解けない問題に伴走していくことが、アセンドにしかない提供価値だと思っています。
 実際に、「ロジックス」のデータをもとに、運送会社のお客様が運賃交渉をするためのレポート作成を進めたり、人材を適正に評価する仕組みが必要という声から、人事制度(等級・評価・報酬制度)の策定を手掛けたりしたケースもあります。
 SaaSによって業務コストを下げることはもちろん大切ですが、「物流業界の価値最大化」というミッションに向け、ありとあらゆる手段を使って運送業者様の「経営改革」を支援していくつもりです。

「ルールメイキング」で業界を牽引

 さらにもう一つ、アセンドの大事な取り組みに「DXの普及・啓発」や「ルールメイキング」といった業界全体に対する活動があります。
 まだ小さなスタートアップであるにもかかわらず業界活動を精力的に行っているのは、アセンドという会社が、物流業界全体の課題を解決するというある種の社会性を持った会社であると考えているからです。
 実際、全国のトラック協会様及び関連団体・都道府県庁での講演会、業界団体の有識者会議、行政関係者との会合など、多くの活動にお声がけをいただいています。
 最近はこれらの普及啓発活動に加え、全国の有志の運送会社の経営者の方たちと一緒に、政治・行政に対する意見発信などの活動も精力的に行っています。
 運送だけではなく物流業界全体を俯瞰した知識を持ち、自社の利益だけではなく業界全体のあるべき姿を追求する。このように本気で物流業界の改革に挑戦する我々のスタイルが、みなさまからお声がけいただいている理由なのかもしれません。
 創業当初は「DXってなんだ、カタカナ語を使うな」「現場も知らない奴が何様で言っているんだ」「この業界から金を奪っていくのか」などなど、さんざんに言われてきましたし、テクノロジーに対する現場の抵抗感もすさまじかった。
 未だにそういう場面に出くわすことも、ままありますが(笑)。
 ただ、それ以上に、本気で業界を良くしたいと我々の想いに共感してくれるお客様や仲間にもたくさん出会えたことで、自分たちの方向性が間違っていないと自信も持てました。今ではある種の「業界に対する責任」という意識も持ちながら仕事に向き合っています。

リリース以来解約0件を継続、圧倒的な「実装力」

 ロジックスの開発を構想してから3年間、ひたすらお客様の声を聴き、開発を続ける日々を積み重ねてきました。
 配車や請求といった部分的な機能提供にはとどまらず、受注、配車、実績、勤怠、請求、車両管理といった運送事業者の基幹業務をオールインワンで解決するSaaSを開発すべく、全社一丸となって取り組んできました。
 その努力が実り、今では全国の多様な業態のお客様にご利用いただける状態になりました。もちろん「永遠のベータ版」というSaaSの宿命がありますから、今も常にお客様のペインや要望に一つ一つ向き合いながら改善を続けています。
 その具体例として、我々は1日平均6回のリリース実績を保持し続けています。クラウド開発に特化したアーキテクチャ及び開発体制を敷いているからこそできることであり、「あれ、また便利になったね!」とのお客様の声を日々いただいています。
 もう一つの特徴は、徹底したカスタマーサクセスの追求です。デジタル・ITに強くはない業界だからこそ、常にお客様の目線に寄り添いながら、プロダクトの定着までを伴走支援するのが弊社のカスタマーサクセスチームです。
 カスタマーサクセスの担当者は全員「運行管理者資格」を保持しており、専門知識を持った担当者が導入後の定着化まで徹底して支援しています。
 開発力と定着力を掛け合わせた“実装力”こそが、弊社最大の強みだと考えています。
 その結果、システムリリース以来、未だ解約はゼロ件です。
 SaaSというサービス提供の仕方は、お客様のサクセスと会社のサクセスがイコールであり、愚直にお客様と向き合い続けることが、会社の評価にそのまま跳ね返ってきます。
 だからこそ、良いプロダクトを正しく作り、誠意をもって導入支援を続けていく、当たり前のことを当たり前にやり切ることができるカルチャーこそが、弊社の最大の強みかもしれません。

物流の未来を創り、日本社会全体に貢献する

 運送業は全国に6万社もあり、20兆円に迫る巨大産業です(注)。しかし、クラウドの利用率は全産業平均で最下位であり、その中でも物流管理における利用率はわずか10%程度にとどまっています。
 さらに今後、2024年問題が到来すれば、3分の1以上の貨物を「運びたいけれど運べない」状況がやってきます。
 それだけ大きな社会課題があるということは、逆にそれだけ大きな市場機会も開かれているということです。
 物流は、古今東西なくならない、社会を支え続けてきた基幹産業です。デジタルとデータを徹底して活用していけば、物流業界は日本の一大産業として大きく飛躍していくポテンシャルを秘めています。
(注)全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業-現状と課題-2022」
 アセンドは、創業以来「業界課題の解決」に正面から取り組み続けてきました。
 我々は“運送会社向けのSaaS事業と、それをコンサルしている会社”で終わるつもりは、まったくありません。
 業界課題のど真ん中にある、運送業の基幹業務のデジタル化及びデータ生成に成功しているからこそ、そこを基軸とした他領域への展開に向け、すでに具体的な動きに着手しています。
 物流業界全体の課題に向け、Verticalに特化した専門性とデータ・サービス基盤をてこに、物流業界全体の価値向上貢献していくことが、私たちが見据える未来です。
出典:総務省「情報通信白書令和5年版」
 2023年秋には、シリーズAラウンドとして、グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)をリード投資家として、約3億円の資金調達を実施し、累計調達額は6億円近くになりました。
 GCPは「産業DX」という巨大テーマを得意とし、長期的な目線でユニコーン・デカコーンの創出を目指す日本有数のVCです。業界課題の解決を志す我々にとっても、とても心強い仲間が加わってくれたと思っています。
 2024年、2030年はもうすぐ。圧倒的な業界へのコミットメントと強い組織力をもって日本の一大産業の変革をリードしていく。我々のチャレンジに期待いただきたいですし、一緒にアセンド(成長)していく仲間を求めています。