2023/12/8

人と機械の関係性を再定義する、SaaSベンチャーの正体

NewsPicks, Inc. Brand Design Editor
ロボットやAIの急速な進化に伴い、自動化がますます加速し、企業や社会にさまざまな変化をもたらしている。テクノロジーとの共生を不安視する声もあるなか、ヒトと機械はどのような関係を構築する必要があるのだろうか。
そんななか、「デバイスを通じて人を見守る」をミッションに掲げ、実世界のあらゆるモノ同士がつながるIoTの新たな未来を描くのがインヴェンティットだ。スマホをはじめモバイル端末を一元管理・運用する「MDM(モバイルデバイス管理)」サービスの開発・提供などを通じて人とテクノロジーのより良い関係構築を目指している。
これからの時代にヒトと機械はどのような関係を構築すべきか。2011年にゲーム業界から同社に参画し、16年から代表取締役社長CEOを務める鈴木 敦仁氏に話を聞いた。

スマホ登場に感じた衝撃

──鈴木さんはゲーム業界から、IoTの世界に飛び込まれたそうですね。
鈴木 私のキャリアの原体験は、小学生の頃にSONYのウォークマンを手にしたときのドキドキやワクワク感。
 あのときの経験をきっかけに、どんな製品やサービスにも「楽しい」「面白い」というようなエンターテインメント性が大切であると考えるようになりました。
 それを最もわかりやすく展開しているのが、ゲーム業界ではないか。そう考え、以前はそこに身を置いていました。
 大手ゲーム会社のグループ企業で、経営戦略やM&Aの策定、買収後のPMIなどかなり幅広い業務に携わり、事業も急成長していました。
1968年東京都生まれ。大学卒業後、小売・ゲーム・IT業界にて、営業・管理・経営企画・事業企画業務を経験。2011年にインヴェンティットに参画し、CFO、COOを経て16年に代表取締役社長CEOに就任
 ただだんだんと、ゲーム業界が全体的に自分の考える「面白い」とは異なる方向性に進んでいる感覚がありました。たとえばギャンブル性の強い「ガチャ」で大きく利益を得るビジネスモデルが増えてきたことで、自分にはあまり合わないなと。
 もっと社会的に意義あることが自分にできないか。そんなことを考えていたタイミングで出会ったのが、IoTの世界でありインヴェンティットでした。
──IoTの世界のどこにエンタメ性を感じたのでしょうか。
 私が入社した2011年当時は、スマホが急速に普及した頃です。手に取った瞬間、とても興奮し感動したのをいまでも覚えています。
 スマホは単純なテクノロジーではなく、ユーザーが感情としてとてもワクワクするサービスだった。これまでの経験のなかで、最もテクノロジーの力とエンタメの融合性を感じた瞬間でした。要するに、単純な機能を提供するモノではなく、ユーザーにとって使い心地が良く、ワクワク・楽しいという感情を動かされるサービスだと感じたんです。
 そんななか、当時の創業者と出会い「機械を通じて人を見守る」というコンセプトを聞きました。創業者のお母さまが高齢で、心配だけれども一緒に住むことができないので、「遠隔で見守りたい」という思いがあると。
 だから人と機械がつながり、相互に見守ることができる環境を構築したい。人を見守るテクノロジーを通じてやさしい世界を実現したいと。
 ロボットやAIの進化が加速するなかで、率直にとても社会的に意味あることだと感じました。またそこに、私が大切にするエンタメ性を融合すればさらに面白いサービスになる予感もした。
 そこで人と機械の関係性をより良いものにしようとする世界観に魅力を感じてこの世界に飛び込みました。

人と機械がお互いに協力し合う関係性へ

──インヴェンティットは、人と機械の関係性をどのように変えようとしているのでしょうか。
 機械の力で人を助けたり、またその可能性を拡張したりする。そんなふうに人と機械の間に身体性や感情が伴い、お互いが協力し合うような関係性をつくりたいと考えています。
 たとえば人がやりたくない作業は機械に任せる。一方で、人がやりたいと思うことは機械が支援する。
 単純に技術を提供するだけでなく、テクノロジーを通じて一人一人を見守る手助けができるような社会を目指しています。
──具体的にはどのようなサービスを展開しているのでしょうか。
 主要事業のひとつとして、文教市場No.1シェアのMDM(モバイルデバイス管理)事業『mobiconnect』を展開しています。
 そもそもMDMとは、主にスマートフォンやタブレットなどのデバイスを、遠隔で一元的に管理・運用するソフトウェアを指します。
 いまではスマホをはじめビジネスの場でモバイルデバイスを活用するのは当たり前になりました。
 しかし、どの端末がどのように使われているのか。そもそも端末が何個あるのかなど、端末種類やOS種類、利用アプリケーションなどの管理は決して容易ではありせん。
 また紛失・盗難時の情報漏えいや不正利用といったリスクも抱えます。そこで管理者がそれらを適切に運用し、負担を軽減するサービスとして広まったのがMDMです。
 たとえば遠隔からの端末ロックや初期化が可能なので、社員がパソコンを紛失した際の不正利用対策にもなる。
 デバイスを管理する担当者の手間を大幅に削減するとともに、セキュリティ面での安全性も高くなるなど、まさに人と機械がお互いに協力し合うことでやさしい世界を実現しようとするサービスです。
──なぜ「mobiconnect」は教育分野での活用が特に進んでいるのでしょうか。
 多種多様な業界・企業でご活用いただいていますが、特に文教市場は2019年から始動した「GIGAスクール構想」が市場の追い風になりました。
文教市場No.1シェアの出典:テクノ・システム・リサーチ「2019~2020年版エンドポイント管理市場のマーケティング分析」より
 義務教育段階にある児童生徒に「1人1台の情報端末」と「ネットワーク環境」の整備が進んだことで、一気に巨大な市場が生まれました。
 これまでも順調にサービスは成長していましたが、そこから一気にユーザー数が爆増しました。
爆発的に増えたユーザー数やトランザクション数に対応し、『mobiconnect』は文教市場におけるシェア1位を継続した。
 こうして時代の流れがまず味方してくれたところが大きいと思います。ただ教育領域以外にもデジタルデバイスの普及は今後も加速するはずなので、さまざまな業界をサポートできればと考えています。

シェアNo.1のプロダクト開発「3つの極意」

──時代の流れが追い風になったとはいえ、シェア1位を獲得できているのはどこに大きな理由があると考えますか。
 プロダクト開発において、私が大切にしているのが「市場との対話」「ホールプロダクト思考」「エンタメ性」の3つです。
 まず1つ目が、「市場との対話」です。
 開発側としては、技術的に可能な機能を全て入れることでハイスペックなサービスだと打ち出したくなることがあります。そうなると、MDMの機能は100〜200ほどになってしまう。
 もちろん、そのほうが喜ばれるパターンもありますが、たとえば教育現場は異なりました。実際に現場で使われる機能を聞くと、10〜20ほどで十分だと。
 むしろ教育機関はハイスペックなものよりも、必要な機能だけを備えた製品でコストを抑えたいというニーズのほうが強い。このようなユーザーのストレートな声は、関係性をつくった上で直接聞かないと出てこない。
 そこでただ単純にアンケート調査をして声を拾うだけでなく、ユーザーや市場と対話する姿勢を大切にしています。
──2つ目のホールプロダクトとは?
 「ホールプロダクト」は、ベンダーが最初に提供する製品・サービスの価値と、顧客が期待する価値には、ギャップがあるので埋めなければならないという考え方です。
 ユーザーはサービス自体がほしいのではなく、そこから得られる価値を求めている。その価値を得るには、サービスを使いこなせる必要があり、そのためにはサポート体制が必要です。
 自分たちが売ったものについて「あとは説明書を読んでやってください」というのは、「サービス」とは呼べない。CSなど全体を整備して初めて「Whole Product(完全な製品)」といえます。
 最後は、やはり「エンタメ性」です。これはキャラクターやゲーム要素だけではなく、ドキドキやワクワク、使用感が心地よいという意味です。
 実はゲーム業界からITの世界に来て驚いたことの一つに、「操作性への価値観のちがい」があります。
 ゲームは少しでも違和感があるとユーザーが離れてしまうので、心地よくプレイしてもらうことをすごく重要視するし、その調整に膨大な時間をかけます。
 しかしBtoBのシステムは、まだまだ機能だけそろっていればOKだと考えているサービスも少なくありません。
 これだけスマホが広がり、感覚的に操作できるものが増えているのに、企業内や企業間でしか使わないシステムは使いにくいものが多いですよね。これではユーザーの気持ちをつかむことはできません。
 iPhoneやMacには説明書がなくても起動して画面に出てくる通りに必要事項を入れていくと、すぐに使えるようになりますよね。その後も基本は感覚的に操作ができる。
 弊社においても、そうした感覚的に操作できるサービス開発を心がけていますし、BtoBの世界でもこの考え方は大切になると考えています。

「データの利活用」を加速する

──今後、インヴェンティットとしてはどのような未来を描き、さらなる挑戦をしていきますか。
 現在、当社のMDMサービスは全体で月間10億近いトランザクションがあります。このデータをうまくユーザーに還元できないかと考えています。
 たとえば教育機関においては、個人のログのデータや学習状況から、生徒のモチベーションを計測する。このデータを提供することができれば、保護者や先生だけでなく、児童・生徒にとっても有益になるのではないかと。
 もちろん個人情報などの観点からさまざまな課題はありますが、データの利活用を加速することで社会的な貢献ができればと考えています。
 また現在は、人力で対応している突発的なトラブルの対応も、トランザクションを分析することで、ある程度自動化できるのではないかと。そうすればサービスコストも下げられるので、やはりユーザーに価値として還元できます。
 他にも踏み込んでいきたいと考えている領域としては、情報システム部門やそれに近い役割を担う方々のサポートです。
 現在さまざまなSaaSサービスが乱立していて、1社につき何十個も利用する企業が少なくありません。それらの膨大なアカウント・セキュリティ管理をするのは、人間の力だけでは認識の限界があります。
 SaaSがなくては日々のオペレーションが成り立たないいま、MDMの重要性は今後ますます高まっています。こうした領域へのチャレンジやデータの利活用を加速することで、これからも人と機械の関係性をよりアップデートできるような企業を目指していければと思います。