(ブルームバーグ): 中国で最も有名な起業家がアリババグループについて長年の沈黙を破り、従業員に語りかけた。

中国政府と衝突した後、表舞台から姿を消していたアリババの共同創業者、馬雲(ジャック・マー)氏は社内フォーラムへのスタッフ投稿に返答し、アリババに「軌道修正」を促した。

馬氏は電子商取引市場でアリババからシェアを奪っているライバルのPDDホールディングスを称賛する一方、アリババの22万人を超える全従業員が決意し努力すれば、かつての成功を取り戻すことができると自信を示した。

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馬氏は「偉大な企業はいずれも冬に生まれる」と返信。「未来のために改革をいとわない人々、どんな代償や犠牲もいとわない組織こそが真に尊敬される」と呼びかけた。

かつて時価総額で中国トップだったアリババは、ゲームやソーシャルメディアの市場で大きな存在感を示すテンセント・ホールディングス(騰訊)に大きな後れを取っている。

アリババの時価総額は約1870億ドル(約27兆5000億円)。3年前のピーク8500億ドル余りから急減した。ショッピングアプリ「Temu」で成功している電子商取引の後発組、PDDに追い抜かれる可能性もある。そうなれば、アリババは中国の電子商取引会社として時価総額最大という地位も失う。

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アリババ社員を驚かせた馬氏による突然の投稿が、馬氏が表舞台での活躍を再開していいと当局が認めたものなのか、それとも、多くの問題を抱えているアリババの戦略について馬氏がこれ以上黙っていられなかっただけなのかは分からない。

重要な介入

アリババが2014年にニューヨークに上場する前、馬氏は最高経営責任者(CEO)の座を譲った。以来、日々の経営は部下たちに任せてきた。

アリババに関する著書があり投資コンサルティング企業BDAチャイナの会長を務めるダンカン・クラーク氏は「馬氏が3年以上、アリババに関係する発言をしていなかったことを考えると、今回の介入は特に重要だ。馬氏は常に最終的な発言者で、他の人があえて語らない真実を語る社内の道徳的権威と見なされてきた」と指摘した。

馬氏とアリババが見舞われた問題は、馬氏が3年前に金融やハイテクといったダイナミックなセクターに対する中国規制当局の監督を公に批判したことが発端だ。

中国政府はすぐに、馬氏らが設立したアリババ傘下のフィンテック企業、アント・グループの新規株式公開(IPO)を中止させた。その後、馬氏はメルボルンのホテルや東京の会員制クラブなどで時折目撃されるものの、何年もの間、表舞台から姿を消していた。

 

中国政府は国内の大手テクノロジー企業に対する広範な取り締まりの一環としてアリババを狙い撃ちし、実務を変えるよう迫った。自社のプラットフォームを利用し、スタートアップを支配することを控えるよう求められたアリババは、PDDや動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」運営の字節跳動(バイトダンス)などとの競争で苦戦を強いられていた。

今年3月、アリババを6分割する計画を当時の張勇CEOが発表。その後、馬氏が退任し、馬氏に近い蔡崇信、呉泳銘両氏が経営を担う体制に移行したが、クラウド部門の分離・上場計画を棚上げすると発表し、アリババの将来的な方向性を巡り疑念が生じていた。

政府の優先課題

テックモート・コンサルティングのパートナー、ジェフリー・タウソン氏は「組織再編は大きな動きだったが、誰が何を動かしているのかを見せてほしいということだ」と述べた上で、「最も革新的な電子商取引の動きはどこから来るのか。バイトダンスとPDDだ。次世代の主導権を握っているのは誰か。バイトダンスとPDDだ」との考えを示した。

馬氏が何を喫緊の課題としているかは不明だが、異例の社内メモを見る限り、従業員への対応の必要性を感じているようだ。馬氏は11月、アリババの株価が満足できる水準にないとして、自身の持ち株比率を引き下げる計画を撤回した。

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教師から起業家に転身した馬氏は、政府の徹底的な締め付け後、スポットライトを浴びることなく数年を過ごしてきたが、今回の従業員に向け発した言葉は、馬氏がより積極的になっていることを示す最新の兆候だ。

馬氏は今年3月、アリババ本社のある浙江省杭州市の学校を訪問。これは馬氏が表舞台に復帰する準備が整ったことを示すものだと考えられている。馬氏は今、農業と教育のプロジェクトに力を注いでおり、農産物を加工・販売する新会社「杭州馬家廚房食品」を設立したばかりだ。

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馬氏の再登場はアリババの未来にとって楽観的な兆候かもしれないと、クラーク氏はみている。「分社化に失敗し、リセットを必要としているアリババにとって前向きな展開だ。中国政府の優先順位が成長と消費、投資家・民間部門のセンチメント回復に明らかにシフトしている今、大手ハイテク企業締め付けの象徴だったアリババの業績好転を見たいと政府が切望していることを示唆している」と話した。

原題:Jack Ma Returns to Rally Troops After Alibaba’s Troubles Deepen、Jack Ma Returns to Rally Troops as Alibaba’s Troubles Deepen (1) (抜粋)

--取材協力:Zheping Huang.

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