2023/12/5

累計500万個販売、イギリス発のオーダーメイド「栄養グミ」が売れている理由

NewsPicks Brand Design Senior Editor
 忙しい日々が続くと、ついついおざなりにされがちな健康管理。
 自分にとってどの栄養素が不足しているのか、自分に必要なサプリは何かを把握し、毎日欠かさず飲み続けるのは、ビジネスパーソンにとってかなり面倒だ。
 そんななか、個々人に合わせた栄養素を配合したグミタイプのパーソナライズサプリメントを提供する「NOURISH3D」(ナリッシュ3D)がイギリスから上陸した。
「NOURISH3D」はウェブサイトで食生活や運動習慣、味の好み、最近の体調、ライフスタイルなどに関する質問に回答すると、その人に合ったオーダーメイドのグミが自宅に届くサービスだ。
 グミは受注されてから、オーダーに合わせて3Dプリンターによって製造されるという。
 3Dプリンターをはじめとした、新しい食の可能性を切り開く「フードテック」は、私たちの食をどう変えていくのか。食のパーソナライズは私たちの生活をどう変えるのか。
 今回は、Rem3dy Health 創業者兼CEOのメリッサ・スノーヴァー氏にインタビューを行い、企業戦略の視点と、食に関する技術の視点から、私たちの食の未来の姿を浮き彫りにする。

最大600億通りの組み合わせ

──まずはじめに、NOURISH3Dとはどのようなサービスなのでしょうか。
 NOURISH3Dは利用者一人一人に必要な栄養素を配合したグミタイプのパーソナライズサプリメントです。
 ウェブサイト上で、ご自身の現在の食生活や運動習慣といった情報を入力いただき、どのような健康管理をしたいかを選んでいただきます。
 その結果をもとに、ビタミンC、鉄分、亜鉛、ビフィズス菌といった30種類以上の栄養素の中から、その方にベストな組み合わせを提示します。
 ご注文いただいてから、選ばれた栄養素入りのグミを3Dプリンターで製造します。グミは1粒7層でできていて、それぞれの層に異なる栄養素が1日摂取量分含まれているんです。
グミは7層からなり、組み合わせは約600億通りにも上る。
──サプリメントのパーソナライズは珍しいですね
 私は過去に、ビーガンおよびアレルゲンフリーのお菓子メーカーのビジネスを立ち上げたことがあります。そこでは同じ製品を大規模に大量生産していました。
 しかし、健康状態や食べ物の好みは人それぞれですし、必要な栄養素も異なります。そのため、大量生産では、消費者一人一人の要望に応えられていないのではないかと感じていました。
 現代では、多くの人がそのことを認識し、自分に足りない栄養素をサプリメントで補っています。しかし、サプリメントも大量生産をしている以上、ある人には栄養素が多過ぎたり、ある人には少な過ぎたりします。
 そこで、栄養素をオーダーメイドで摂取できるサービスが必要だと考え、NOURISH3Dを開発したのです。
──なぜ、グミという形状にしたのでしょうか?
 グミの形態を思いついたのは、私の個人的な失敗がきっかけでした。普段からさまざまなサプリメントやビタミン剤を持ち歩いていたのですが、ある日、空港でカバンを落としてしまい、サプリメントを床に散乱させてしまいました。
 その時に「すべての必要な栄養素がひとつにまとまっていたら便利なのでは?」と思いついたのです。
 そもそも錠剤を定期的に飲むことにストレスを感じる人は多いのではないでしょうか。錠剤を飲むのは面倒だし、楽しくないし、つい忘れてしまいがちです。
 おいしいグミ1粒の方が毎日サプリを摂取するという習慣付けに役立ちますし、持ち歩きや管理も楽なため、出張や外出の多いビジネスパーソンたちにとって便利なのもメリットだと思っています。
──食のパーソナライズは、今後私たちの生活をどう変えるでしょうか。
 食のパーソナライズによって、私たちは自分の体にメリットのある栄養素をピンポイントに摂取できるようになります。
 インターネットで検索すれば、さまざまな栄養素の効果や効能が検索できるようになっていますし、自分の健康状態もアプリや端末などで管理しやすくなりました。
 しかし、自分の健康状態を把握し、必要な栄養を調べ、サプリメントを買い揃えるのはとても面倒ですよね。
 NOURISH3Dをはじめとする食のパーソナライズは、こうした課題をさまざまな場面で解決していきます。パーソナライズされた栄養食品、健康食品の市場は、今後大きく成長するはずです。
グミを3Dプリンターで製造している場面。
──イギリス、アメリカではどのような方が利用していますか。
 NOURISH3Dは2020年からイギリス、アメリカでサービスを開始しています。利用者の性別は男女半々、年齢は20代から50代ですね。
 利用者の多くは都市部に在住しています。イギリスの場合、ロンドンやバーミンガムなど、アメリカの場合、ニューヨーク、ロサンゼルス、オースティン、デンバーなどに在住しています。
 キャリアの面では、マネジメントポジションの人や、修士・博士号を持つ高学歴のいわゆるエリート層が多いです。
 生活に取り入れたい栄養素は、仕事の環境や年齢、ライフスタイル、ライフステージによって変わります。仕事を始めたばかりというまだ若い世代の方ですと、仕事に全力集中しているでしょうし、少し年齢を経てお子さんができると仕事と育児の間のバランスを図るようになります。
 抱えていらっしゃる状況はそれぞれですが、忙しいなかでの栄養摂取として、NOURISH3Dがオーダーメイドでどんな人、どんな生活にも寄り添えたらと思っています。
ナリッシュ3Dの結果画面。30種類以上の栄養素の中から、アンケートに基づいて7種類の栄養素が選ばれる。
──多くの人が「3Dプリンターで作られたグミ」に驚いたのでは?
 3Dプリンターは、工業分野で使われているイメージが強く、食品を作るという利用法に違和感を持たれた方も多かったですね。また、3Dプリンターで食品を作るというサービスを実現するには、安全性や衛生面での課題もありました。
 そこでグミの製造については、世界食品安全イニシアチブ(Global Food Safety Initiative)、英国食品基準庁(FSA)、アメリカ食品医薬品局(FDA)から認証を取得し、ユーザーによるメリットや使い勝手のテスト、さらには臨床医による臨床検査を行いました。
右にあるのが製造用の3Dプリンター。ゼロからの開発のため、ハードウェアの設計からコーディングまで、すべて自社で行ったという。
 また、消費者の方々には、3Dプリンターを使うことによって、ユーザーそれぞれに違った製品をお届けできるというメリットを、熱意をもって説明しました。
 先入観を取り払って見てもらうことで、ユーザーの皆さんからは「3Dプリンターでグミを作る画期的なサービスがあるぞ」とポジティブな反応をもらうことができました。
──現在、どれくらいの方がNOURISH3Dを利用しているのでしょうか。
 2020年のサービス開始以来、グミの個数ベースで累計500万個以上を販売しています。ユーザーのリピート率が85%という非常に高い数字になっています。
 製造拠点はイギリスのバーミンガムにあり、そこでは200人以上の従業員が働き、1日あたり平均50万個の生産しており、生産設備は今後も拡大予定です。
自宅には1日ごとの個包装で届くため、持ち運びなどにも便利。

世界で進むパーソナライズの行方

──現在、食以外にもさまざまな分野でパーソナライズが進んでいますね。
 アパレルや保険、筋トレ、教育など、さまざまな商品やサービスが個人に合わせて提供されるようになりましたね。
 ただ、パーソナライズ自体は新しい考え方ではありません。顧客に合わせて服や食事、教育を提供するサービスもこれまでにありました。
 オーダーメイドの洋服やケーキなどを受け取り『自分オンリーの商品を提供してもらった』という体験をしたことがある人は多いのではないでしょうか。
 以前であれば、そういったパーソナライズされた商品やサービスは、金額が高額だったり、量が限定的だったりと、特別なものでした。
 それが、新しい技術の登場などによって、手頃な形で幅広い人たちに供給することが可能になりつつあります。
 NOURISH3Dについていえば、ウェブサイトや3Dプリンターがそれにあたります。
 今後、技術面の進歩は社会のさまざまな場面で、商品やサービスのパーソナライズを支えていくと思います。
──NOURISH3Dは日本人にとって、どんな需要があると思いますか?
 調査の結果、日本の方の多くが「心の健康を維持したい」という欲求を持っていることがわかりました。
 私たちはまだ日本市場に参入したばかりです。この記事の読者の皆様の意見に向き合いながら、日本の皆様により良いサービスを提供できるよう改善を重ねたいですね。
 ただ、NOURISH3Dの最大のメリットは、国籍や性別、年齢などに一切関係なく「あなた自身」に必要な栄養素を補える点にあります。
 サイトにはカウンセリングアンケートがあり、いくつかの質問に答えていただくと、あなたが必要としている栄養素を確認でき、どの組み合わせが一番いいのかという提案が出てきます。
 購入までしなくても、質問に答えていただくだけで、完全無料でどの栄養素を摂ると良いのかがわかるので、ぜひ試してみてください。