2023/11/17

選ばれる都市のカギは「結節点」。森ビルが仕掛ける都市計画とは

NewsPicks Brand Design / Senior Editor
 2023年10月6日、日本有数のビジネスエリア・虎ノ門に「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」が開業。さらなるパワーアップを遂げた。

 合計約30万㎡にもなる最先端のオフィスフロア最上部エリアに設けられたのが、情報発信拠点「TOKYO NODE(東京ノード)」だ。
ⒸDBOX for Mori Building Co., Ltd.(画像提供:森ビル)
“NODE(結節点)”と名付けられたこの施設は、イベントホールやギャラリーのほか、最新技術のボリュメトリックビデオスタジオを兼ね備え、企業やクリエイターとの共創の場となる機能を備えている。

 再開発の要となる、TOKYO NODEの狙いとは。そして、そこからどのような都市計画を描いているのか。

 開館記念カンファレンス「TOKYO NODE : OPEN LAB」のダイジェストと、同施設をプロデュースした森ビルのキーパーソンへのインタビューを通じて、その全貌に迫る。
INDEX
  • 東京の軸線上で、多様な人々が集う
  • 都市を活性化する、唯一無二の情報発信拠点へ
  • 最先端のスタジオで、映像体験の価値向上へ
  • 東京を、世界から選ばれる都市へ
  • 共創の場から、新たな都市体験を創り出す
  • 都市に責任を持ち、街の価値を永続的に高める

東京の軸線上で、多様な人々が集う

 2015年にスタートしたTOKYO NODEの構想。
 その最初期からプロジェクトを牽引したのが、世界の名だたる建築物の設計を手がける建築設計事務所「OMA」の重松象平氏だ。
 森ビル新領域企画部の杉山央氏とのトークセッションでは、TOKYO NODEの設計コンセプトが語られた。
重松象平。建築家、国際的建築設計集団「OMA」のパートナーおよびニューヨーク事務所代表。1973年福岡県生まれ。九州大学工学部建築学科卒後オランダに渡り、1998年よりOMAに所属。2006年ニューヨーク事務所代表、2008年よりパートナーとなる。
 TOKYO NODEは、重松氏の「高層ビルの上部に情報発信拠点を据える」という提案から生まれたという。
「僕のイメージする東京は、個性的な街が集まった都市です。しかし、デベロッパーが中身を決めた、同じような施設で都市開発をしていけば、同じような体験しか得られない街になってしまう。
 そこで私は、単に建物を設計するだけでなく、多様な経験ができる街で、そこにいる人々の会話が発展していくように、建物の機能性まで提案させてもらいました」(重松氏)
 ステーションタワーのあるエリアは、東京には珍しい“都市の軸線”上にある。
 そこで重松氏は、新虎通りから赤坂・虎ノ門エリアに抜ける都市の軸線を意識してデザインし、軸線上に人々の活動が集まるような場を設けた。
「人間の根源的な欲求は衣食住プラス“集”。都市の軸線上の結節点として、東京という都市にないものを表現する建物になれたらいいなと考えました」と重松氏。
 また、「超高層タワーが機能を内包して孤立してしまわないように、周辺のパブリックスペースとのつながりも意識した」と語る。
 ステーションタワーの中心部を大規模な歩行者デッキが貫き、ビルの中心を通ってアークヒルズ方面へと移動できる構造にしたのだ。
虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの外観。特徴的なねじれたフォルムが、眺める角度によって異なる姿を見せてくれるⒸThe Boundary(画像提供:森ビル)
(画像提供:森ビル)
桜田通りにかかる歩行者デッキは、街区ごとに分断されることのない一体感を虎ノ門に生み出す。憩いの場としての機能も兼ね備え、今後マルシェなどのイベントも開かれる予定だという(画像提供:森ビル)
「超高層タワーのコアを、公共性の高いスペースに明け渡しました。地下鉄に接続する広場や地上の歩行者デッキ、そして最上部にももっと公共性が高い場としてTOKYO NODEを設計しました。
 屋上にインフィニティプール、46階にカンファレンスホールなどを設け、タワーの上まで足を運びたくなるようにしたのです。
 このように、足元と高層階に公共性をもたらすことで、タワー全体の活性化を図っています。
 将来的に、虎ノ門ヒルズエリアの象徴として、周辺エリアから多様な人々が集まり、交流が生まれる場所になればいいなと考えました」(重松氏)
(画像提供:森ビル)
オープンエアガーデンとインフィニティプールは、地上250mという都内随一の高さにつくられた。※入場は49階レストラン利用者の方のみ(画像提供:森ビル)

都市を活性化する、唯一無二の情報発信拠点へ

 通常、カンファレンス施設やホールは、さまざまなリスクやコストを考慮して、地上近くにつくられることが多い。
 重松氏は「屋上プールは何度も、頓挫しかけました(笑)」と振り返る。それでも、エンジニアリングの力でリスクを減らし、実現へとこぎつけた。
 TOKYO NODEはオープン前から大きな反響を呼び、年内は施設貸出の予約が埋まるほどの人気ぶりとなっている。
46階のメインホール。東京の眺望を背負うステージが、パフォーマンスやプレゼンテーションの演出性を高める(画像提供:森ビル)
45階には、連結可能な3つの巨大なギャラリースペースを備える。「どの展示室も外を向いた構造で、なるべく中と外をつなげるように」という設計の意図が込められている(画像提供:森ビル)
 従来の東京にはないユニークな空間によって、クリエイターはイマジネーションが刺激され、新しいものを生み出しやすくなる。
 12月より、同ギャラリーで展示会を開く写真家・映画監督の蜷川実花氏からは「この空間は、建築家からアーティストへの挑戦状だと言われました」と重松氏は笑顔を見せた。

最先端のスタジオで、映像体験の価値向上へ

開館記念カンファレンスには、多様なジャンルのクリエイターや企業が集結。業界や領域の垣根を越えて、TOKYO NODEから世界に向けた発信のアイデアを語り合った。
施設の目玉の1つが、クリエイターとの共創の場「TOKYO NODE LAB」に併設される「TOKYO NODE VOLUMETRIC VIDEO STUDIO」。
その立ち上げに携わったメンバーによるセッションでは、最先端の映像技術の特徴と、今後の可能性がひもとかれた。
写真左から、朴正義氏(Bascule)、久野崇文氏(日本テレビ)、倉島菜つ美氏(日本IBM)、伊達厚氏(キヤノン)、茂谷一輝(森ビル)
「TOKYO NODE LAB」併設のスタジオでは、キヤノンが開発した「ボリュメトリックビデオ技術」が実装され、収録、編集、配信までが可能だ。
ボリュメトリックビデオデータとは、いわば自由に視点が変えられる3D映像。同社イメージソリューション事業本部の伊達厚氏によれば、これは「空間にあるものを3Dデータに変換できる技術」だと言う。
TOKYO NODE VOLUMETRIC VIDEO STUDIO内の壁をカメラがぐるりと取り囲む。
 数十台のカメラであらゆる方向から撮影し、空間を丸ごと記録。
 被写体の必要な部分だけを残した精緻な3Dモデルデータを生成し、色や質感などの情報を加えることで、自由なカメラワークでの映像制作も可能だ。
 その膨大なデータの処理・配信を支えているのが、日本IBMだ。IBMコンサルティング事業本部 IBMフェローの倉島菜つ美氏は、次のように説明する。
「数十台のカメラから流れてくるデータを瞬時に処理し、3Dデータとしてほぼリアルタイムに合成するには、非常に高速の処理が求められます。
 弊社ではサーバー処理の高速化を長年研究。キヤノンさんの求める、高品質・高速かつ安全な映像データの処理・配信を実現しています」(倉島氏)
アプリ「TOKYO NODE Xplorer」では、VPS(Visual Positioning Service/System)技術を駆使して、虎ノ門ヒルズステーションタワーやその周辺環境を詳細にスキャン。リアルと連動したARコンテンツが楽しめる(画像提供:森ビル)
 森ビルを中心としたTOKYO NODE LABは、同スタジオを活用して、現実世界の街にデジタルレイヤーを重ね合わせ、新たな都市体験を生み出す「ダイナミックデジタルツイン」を構想しているという。
 撮影した3Dデータを使えば、世界中で「ほぼリアルタイムなARストリートライブ」も不可能ではなくなる。こうした未来を見据えた構想は、コンテンツの新たな地平を予感させた。

東京を、世界から選ばれる都市へ

ユニークな設備や技術で構成されるTOKYO NODE。森ビルはどのような都市計画を描き、この施設をつくったのだろうか。キーパーソンの杉山氏に話を聞いた。
──「結節点」を意味するTOKYO NODEという施設名に込めた思いを教えてください。
杉山 都市にどのような仕掛けがあれば、人々の創造性を高めていけるのか──それを深く考えていった結果、人や文化をつなぐNODEというコンセプトにたどりつきました。
2000年に森ビル株式会社へ入社。2018年「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless」室長を経て、2023年10月に開館した虎ノ門ヒルズの文化発信拠点「TOKYO NODE」の施設責任者として様々な企画を行っている。
 森ビルは虎ノ門ヒルズエリアを進化させるために、2014年頃から議論を重ね、ステーションタワーのプランが完成した時点で、高層階に“新しいものを生み出し、情報を発信する場所”をつくると決めました。
 アートやエンターテインメント、ビジネスなど、あらゆる領域を超えて結びつくところに新しいものが生まれるのではないか、と。
 そういったものが混じり合い、人間のクリエイティビティを刺激するのが都市の機能であると、私は考えています。
──ビジネスの中心地・虎ノ門エリアに、クリエイティビティを刺激する仕掛けをつくった先に、森ビルはどのようなビジョンを描いているのでしょうか?
 東京を世界から選ばれる都市にすることです。そのためには、多様な人々を惹きつける施設が欠かせません。
 TOKYO NODEでさまざまな刺激を受けた人たちが、今度は新しいアイデアやコンテンツを創造し、TOKYO NODEで自由に表現もできる。
 そんなサイクルがつくれれば、まだ見たことも体験したこともない“この街ならではの価値”が次々と生み出され、人々に選ばれる都市になっていくでしょう。
──表現の場としては、トップレベルのクリエイターやアーティストでなければ出展が難しいようにも感じます。
 クリエイターやアーティスト、企業に対してこの空間をどんどん開放していくつもりです。
「ギャラリースペースでは、グループ展などの形で、これからの時代を担う若手アーティストが発表できる空間をつくっていきたい」と杉山氏は語る。
 たとえば2023年12月から翌年2月に開催を予定しているハッカソン「TOKYO NODE “XR HACKATHON” powered by PLATEAU」は、森ビルと国土交通省の主催で、特に学生や若手を中心としたクリエイターやアーティストに門戸を開き、デジタルを使った街の新しい表現を募集しています。
 森ビルは審査にも携わるほか、集まったアイデアの実現をサポートするために、街やインフラなどに加えて、私たちの持つデータも開放します。
 TOKYO NODEの中だけで完結せず、虎ノ門ヒルズエリア全域を活用したサービスやエンターテインメントにも、いろんな方を巻き込みながら挑戦していく予定です。

共創の場から、新たな都市体験を創り出す

──クリエイターとの共創の場という点では、8階にはカフェや3D映像スタジオを併設した「TOKYO NODE LAB」というスペースも設けています。
 現在コミュニティとして、業種や領域を超えた20社近い企業やクリエイターに参画いただき、それぞれに自社のビジネスを広げようという試みが始まっています。
 多様なリソースを掛け合わせることで、1社では突破できないようなことでも実現できる時代です。それぞれの課題に向き合いながらも、リアルの空間を活用し、お互いの技術を掛け合わせた新しいものを生み出そうとしています。
 ラボの参画企業は、自社のアセットを活かして、共同プロジェクトの実現に必要な役割を担ってもらっています。施設の開業に先立ち、2022年8月の立ち上げからメンバーがどんどん増えてきました。
TOKYO NODE LABの参画企業(2023年11月現在)
──今後ラボへの参画を期待する領域はありますか?
 今後、街を使ったコンテンツやサービスをつくっていくときに、人々に親しみやすいインターフェイスとして、映画やアニメ、ゲームなどのIPを活用していけると、より多くの体験のきっかけになるのではないかと考えています。
 ほかにも、ファッションやスポーツなど、街を使っておもしろい取り組みをしてみたい領域の方には、この虎ノ門を舞台にぜひ一緒にチャレンジしてもらいたいですね。

都市に責任を持ち、街の価値を永続的に高める

──ユニークな設備で構成されるTOKYO NODEのなかでも、屋上のインフィニティプールには驚きました。
 これも、ここでしか得られない体験を提供するための設備です。
 屋外プールは、東京だと入れる時期が限られてしまい、コストが大きくなる。経済合理性だけでは説明のつかない設備でしょう。
 しかし、このプールやそこに併設するレストランがあることで、「東京を見渡せる、この空間だからこそ」と感じてもらえる可能性が生まれます。
 以前に、ある新入社員から「ほかの不動産デベロッパーと比べて、森ビルはどこが優れていると思いますか?」と質問されたことがあります。
 僕の答えは「長期にわたって“都市に責任を持つ会社”であること」です。
 まちづくりは時間のかかる仕事。虎ノ門ヒルズも、完成して終わりではありません。
 私たちは都市に責任を持っているからこそ、この街の価値を永続的に高め、選ばれ続ける街にすることを本気で考えています。
──TOKYO NODEの一つひとつが、選ばれ続ける街をつくるための投資なのですね。
 そうですね。私は現在のまちづくりには、いち不動産デベロッパーとして課題を感じています。
 新しい街をつくっても、人々のニーズに応えようとすると、どうしても同じようなテナントを集めたビルが立ち並び、均質化しがちなのです。
 だからこそ、テナントビジネスを超えた“街の個性”を生み出す必要がある。
 それに挑戦できるのは、街のプラットフォーマーである不動産デベロッパーだと思います。
 森ビルが自らの施設を運営してコンテンツを創出すれば、人やモノ、情報が集まります。すると、周辺施設が利用されたり、街のブランド価値が高まったりする。
 デベロッパー自身が新しいビジネスに取り組むことで、マネタイズのスキームを多次元化できるわけです。
 アートやカルチャーは単体ではマネタイズしづらいのですが、森ビルならば、新しいビジネスに活用できる。TOKYO NODEも、こういった考え方に基づいています。
「日本を代表するビジネス街である虎ノ門エリアと、アートやカルチャーといった要素の融合から、この街でしか体験できないような価値を発信できると考えています」と杉山氏。森ビルの姿勢は、六本木ヒルズ最上階の「森美術館」をつくったことにも象徴される。
──2014年から段階的に進化し続けてきた「虎ノ門ヒルズ」。その完成という節目を迎えた今、改めてビジョンを教えてください。
 まちづくりの観点でいえば、さまざまな都市機能が徒歩圏内に集約されることで、六本木ヒルズエリアからアークヒルズエリア、虎ノ門ヒルズエリアまで、今後ますます密接につながっていくでしょう。
 東京が世界から選ばれる都市になるには、この街に来ることでしか得られない新しい価値を生み出さないといけません。
 そのために、不動産デベロッパーである森ビルがTOKYO NODEを活用しながら、新たな価値につながる出会いを仕掛けていきたいですね。