2023/11/22

【春風亭昇也】チームプレーを成功させる「間のつかみ方」

NewsPicks+d コンテンツプロデューサー
江戸時代から続く歴史があり、人間力や教養が高まるとビジネスリーダーから好まれている落語。その特性とビジネススキルを掛け合わせ、落語を聴くようにすんなり理解できる「学びになって、面白い」新シリーズがスタート。

「職場で生かせるビジネスハック」「スキルアップのヒント」「キャリアの視座を高めるコツ」をさまざまな人気落語家へのインタビューから探ります。
シリーズ2回目に登場するのは、春風亭昇也さん。BS日テレ「笑点 特大号」の「超若手大喜利」では司会を務め、後輩たちのキャラクターを生かしたファシリテーションに定評があります。
そんな昇也さんに、「チームプレーを成功させるコツ」「若手の個性の生かし方」を伺いました。
INDEX
  • 落語家に転職するビジネスパーソンが増えた
  • 優しい師匠から最初に怒られた弟子
  • 「お茶を出す」で何が培われるのか
  • 大喜利で若手を生かす2つのコツ
  • 落語は団体芸。チームプレーで助け合う

落語家に転職するビジネスパーソンが増えた

最近、寄席に若い人が増えたように思います。コロナ禍で家にこもる中、たまたまYouTubeで落語と出合った人たちが劇場に足を運んでくれている感じがしますね。
若い人に向けた「渋谷らくご(シブラク)」や新宿末廣亭でやっている土曜日の21時からの「深夜寄席」など、気軽に落語を聴く機会が増えたことも影響しているかもしれません。
落語界への弟子入りを希望する人にもまた、変化があります。
昔は落語研究会出身者など、根っからの落語好きが多かったですけど、最近では仕事に行き詰まったタイミングで落語と出会い、会社員を辞めて落語家になる、いわば“転職組”が増えました。
例えば、僕の同期の春風亭柳雀は、IT企業から37歳で落語界に入っています。課長への昇進試験を目前に、「これに受かったらいよいよ会社のレールに乗ってしまう」と焦りを感じて、もともと好きだった落語の世界に入るのを決意した。
桂宮治さんもそうですね。口がうまくて化粧品会社のトップセールスマンになったけど、「相手をだましている気がする」と疑問を感じていた折に、亡き桂枝雀師匠の動画を見て「これだ!」と。それで寄席に行って桂伸治師匠と出会い、31歳で落語界に入っています。
昔は話術でものを売ることに対して人をだましているように感じていたのに、今はしゃべるだけでものも売らずに人をだましている。結果として、よりたちが悪くなったっていうね(笑)。

優しい師匠から最初に怒られた弟子

僕の場合はもともと漫才師をやっていて、コンビ解散をきっかけに悩みに悩んで、26歳で落語界に入りました。
以前から落語が好きで、30歳になった自分を想像した時に、「きっと落語家になりたいと思っているだろうな」と。そう思ったのが大きかったですね。
そうして春風亭昇太に弟子入りしました。「笑点」(日本テレビ系列)の司会者として、師匠をご存じの方も多いのではないでしょうか?
テレビでのイメージ通り、うちの師匠はすごく優しいし、常識人でもあります。
ただ、僕が入った時の師匠は40代後半。働き盛りの忙しい時期でもあったから、僕の1年前に春風亭昇々という1番目の弟子が入るまで、弟子入りはずっと断っていたんですよ。
「弟子を取るとは、自分の時間を削って長い間面倒を見て、ライバルを1人作り上げること。そんな理不尽なことはないから、俺は弟子は取らない」
師匠はずっとそう言っていましたが、小遊三師匠から「お前も柳昇師匠の弟子に取ってもらったんだろう? だったらお前も弟子を取らなきゃダメだ」と言われ、ぐうの音も出ずに弟子を取るようになったそうです。
今では10人の弟子がいて、僕は3番目。いわば僕は師匠の弟子第1世代です。そして、怒るのが嫌いな師匠から、一番最初に怒られたのが僕でした。
僕は漫才師の頃からやっていたブログを、前座になっても続けていたんです。それが師匠の耳に入り、「お前は落語家とお笑い芸人の区別が付いていない。明日から来なくていい」と言われてしまいました。
今振り返れば、当時の僕には「修業中の人間」という自覚が足りていなかったですね。
前座は商品ではなく、自ら世間に対して発信をしていい立場ではない。さらに「昇太の弟子」という肩書もあるわけですから、僕がチャラチャラしたブログを書くことによって、「師匠が弟子を監督していない」と見られてしまう。
そういうことが、あの頃の僕は全然わかっていなかった。結局、そのまま半年間謹慎しました。もう、絶望的でしたよ。1回死んだようなものですね。
あとから聞いたら、「来なくていい」と言われた翌日に謝りに行かなくちゃいけなかったらしいんだけど、誰もそれを教えてくれなかったし、師匠も謝りに来ないから辞めたと思っていたらしくて。
最終的には「年をまたいではいけない気がする」と思い、年末に師匠の家へ行ったことをきっかけに弟子として復帰しました。

「お茶を出す」で何が培われるのか

もしも「怒られたくない」という若い人が一門に弟子入りしてきたら、ですか?
まぁ、怒るでしょうね。「お前の意見なんか聞いてねぇよ」ってね。
落語界は序列社会です。昨日今日来たやつが何言ったって、「知らねぇよ」でおしまい。この世界に合わせるか、合わせられずに辞めるか。それだけの話です。
落語界は職人の世界でもありますから、学校みたいに教えてもらえると思っちゃいけない。先輩の動き、師匠の背中を見てひたすら学ぶ。うちの師匠も、ああしろこうしろは言わないですよ。
「いい大人なんだから、自分で状況を判断しろ。俺がどうしてもらいたいか、俺の様子を見て考えて、そのために自分が何をすべきか、頭を働かせながら動きなさい」
僕らはそうやって育てられてきました。指示をもらえれば楽だけど、そうすると先回りができず、気の利かない指示待ち人間になってしまう。
そもそも、なぜ修業をやるのか。それは「間をつかむため」です。
楽屋で師匠方にお茶を出すにしたって、その師匠が一番喜ぶタイミングがあるわけです。それを理解するには、ちょっとした表情を見ながら間をはかる必要があります。
要は毎日の修業の中で、「相手が何を欲しているか」を読み取る力を培っているんです。
これは自分が高座に上がった時に、お客さんの反応をつかむ感覚を研ぎ澄ます訓練。毎日一緒にいる身近な人を心地良くできないやつが、初めて会ったお客さんを気持ち良くできるわけがないですから。
もちろん最初に師匠方の好みなど基本的な情報は教えてもらえますけど、それを実践するのは自分です。落語だって同じ話であっても、プレーヤーによって面白かったりつまらなかったりする。その差が生まれる要因の一つが、間をつかむ力にあるわけですね。

大喜利で若手を生かす2つのコツ

そういう間をつかむ力は、ファシリテーションにおいても重要です。全体を俯瞰で見ながら、上手にツッコミを入れられる人がファシリテーション上手なのだと思いますね。
僕は「笑点 特大号」の「超若手大喜利」で司会を務めていますが、あれは団体で漫才をやっている感覚なんですよ。
司会はいわばツッコミであり、「面白くないボケをどう面白く見せるか」が役割。6人の若手が面白くなるかどうかは司会者の腕次第ですから、後輩たちはのびのびやってくれればいい。
じゃあ、司会者として後輩たちをどう生かすのか。
まずは相手のキャラクターを知ることです。この人はいじったら面白いのか、それとも立てたほうが面白いのか。相手が面白く見える方法を模索します。座り位置もまた、それぞれのキャラクターを生かすことを考えて決めています。
大喜利の場合、司会者から離れるほどキャラが濃くなっていく席順が基本。司会者から近い席にいる人は振りの役割であり、一番遠い席に座っている人が大ボケというのが常套手段です。
最初のあいさつにしても、一番手がぶっ飛んだボケをしてしまうと、次の人がやりにくいし、お客さんも引いてしまう。だからスタンダードに始めて徐々にキャラクターを濃くして……というように、グラデーションを意識した座り位置にしていますね。
あとは、いかに緊張を解きほぐすか。事前に楽屋で雑談をしながら、「とにかく何をしてもいい。絶対に全部、オレが返すから」と伝える。
そうやって、「兄(あに)さんがどうにかしてくれるだろう」と、若手が思い切ってやれる状況と信頼関係を作ることを意識しています。

落語は団体芸。チームプレーで助け合う

同時に、若手には「本番中にモチベーションを下げないでくれ」と伝えています。これは過去に僕が師匠から言われたことでもある。
僕は2019年に、円楽師匠の代打で初めて笑点に出ました。お客さんにとっては、いつもの笑点メンバーへの絶大なる信頼があって観覧に来ているのに、一人だけ知らないやつがいるという状況。
とんでもないアウェーなわけで、「まずウケない。だけど絶対に心折れちゃダメだ」と師匠からは言われていました。
そうしていざ本番が始まったら、うちの師匠がむやみやたらと僕に座布団をくれるっていうボケをして、お客さんと僕の距離をグッと縮めてくれた。
他の師匠方も、僕の緊張をいかに軽くするかを考えてくれたんだと思います。そうしたチームプレーのおかげで、どうにか乗り切れました。
特にテレビであれば、その場でウケなくても編集でオンエアは面白くなっているはず。「制作の皆さんの腕とオレの腕を信頼して、本番中はテンションを維持してくれ」と、今では僕も若手に伝えていますね。
そもそも落語自体、実は団体芸なんですよ。
寄席では一人ひとりがバトンを渡しながら、トリを目立たせるための環境を作っていく。トリ前の人はウケすぎてもダメだし、人情噺でしんみりした空気にしてもダメ。程よくウケることが求められます。
若手からベテランまで、それぞれが自分の立ち位置を踏まえ、役割を全うする。いわば寄席は「個人でつなぐ団体芸」なんです。
後編では元漫才師の昇也さんの武器の一つであるツッコミ力をテーマに、「失礼にならないツッコミの神髄」についてひもときます。
※本記事のタイトルバナーで使用している文字は、株式会社昭和書体の昭和寄席文字フォントを使用しています。