日本製エリートvsグローバルエリート

塩野誠とMr. サスペンダー、エリートを語る

【Vol.4】まずは日本というマザーマーケットで1位になれ

2015/4/13
3月、新丸ビルのEGG JAPANにて「日本型エリートは、どうすればグローバルエリートに勝てるのか?」と題した、NewsPicksの特別セミナーを開催。経営共創基盤(IGPI)のパートーナーでIGPIシンガポールCEOの塩野誠氏と、NewsPicksでMr.サスペンダーは見た!を連載するグローバル・メディア・クリエイターのMr. サスペンダーが、日本と世界のエリートについて語り尽くした。セミナーの模様を9回連続で掲載。第3〜5回は塩野氏とMr. サスペンダーによる対談をお届けるする(モデレーター:佐々木紀彦NewsPicks編集長)。
【Vol.1】:エリートとは、恵まれてしまったがゆえに、みんなのために貢献する人
【Vol.2】:日本人は「意識高い系」ですら、全然努力していない
【Vol.3】:私はアメリカをあまり好きになれない

若い人が粗相をしても、叱ってくれない

塩野:日本のサービスは最高だといいますけれど、一方で若い人の気遣い度の落ちっぷりは半端ではないと私は思っています。

Mr. サスペンダー:どういう時にそういうことを感じられますか?

塩野:ごく普通の常識的なことです。大人から怒られなくなったのでしょうか。

昔は会社もすごく厳しかったから、私なんかタクシーからお客さんを降ろす時、ドアを押さえていなかったというだけで、六本木通りで思いっきりお尻を蹴られましたからね。前につんのめって、もう少しでほかの車にひかれそうになりましたよ。

Mr. サスペンダー:お尻を蹴られて、ついでに後続の車にひかれそうになるとは…けっこうひどい目に遭ってますね。

でも、そこまで極端でなくても、若手はマナーのできている人、できていない人で、出世のスピードが全然違うと、塩野さんの新著に書かれています。

塩野:本当に、世の中怖いですよ。例えば、財界人とか高級官僚の方なんか、若い人が粗相をしても全然注意してくれないし、怒ってくれない。ただ、「あっ、こいつダメだな」との心の中で切って終了なんですよね。

あの恐ろしさ。今の若い方は怒られてないから知らない。それはそれでかわいそうだなと思います。出版業界も多いんじゃないですか? そういう声は。

佐々木:厳しい人は昔より少ないかもしれません。すごくゆるくなっているというか。私自身がゆるいっていうのもあるんですけど。

塩野さんの本にはそういう名刺の渡し方から、タクシーでの席次みたいな細かいところまで書いてあるのが面白さですね。

塩野:辛い経験が役立ちました。

Mr. サスペンダー:ここは日本とグローバルで大きな違いがあるところですね。海外のいろいろな人が集まるカルチャーだと、マナーがどうとかもうドントケアですよ。頭取に対して、「ハイ! ジョン」の世界じゃないですか。

塩野:そうですね。でもそういうのは、アメリカンな感じですね。そうじゃない国もありますから。

ローカルマーケットごとの作法

Mr. サスペンダー:私は長らく海外市場で働いてたものですから、久しぶりに日本で働いてびっくりしたことがあって。日本の伝統的な金融機関で働かれてた方と仕事した時、細々と注意されたことがあります。

その時は、「何を言ってるの?」と思ったんですけれども。例えば日本の銀行の偉い人と会う時は、私のようにサスペンダーなんかとんでもないんですよ。

塩野:今日はサスペンダーだけでなく、ネクタイも鮮やかな黄色ですからね。

Mr. サスペンダー:してもいいネクタイは薄い色で、幅の狭いやつ。スーツはグレーで、シャツは柄物御法度とか、小さな決まりがたくさんある。

例えば、誰かに連絡する時も「この方に連絡する時は、うちの部門のこの人を通して、まず秘書さんに連絡して」みたいな、連絡網の作法も厳しい。

迎えの車が来た時は、お客様と一緒にのこのこ歩いていくんじゃなくて、自分から、もうオリンピックのスプリントの試合が始まったぐらいの勢いで、猛ダッシュで走っていかなければならないわけです。それで、タクシーを拾う時は、止まらなくてもいいから、ずっと一生懸命手を挙げるわけですよ。

それで誠意を見せるんだと。やっぱり各ローカルマーケットによって、そのビジネスのお作法っていうのは全然違うんだなっていうのを思い知った経験がありますね。

エジプトで「造りかけの家」が乱立する理由

佐々木:ここまでの話で、いろいろな社会構造の違いや、得意分野の違い、日本とほかの企業、特にアメリカの企業との違いが見えてきたと思います。それを踏まえた上で、個人としては、どうやって生きていくのがいいんでしょうか?

例えば「見えないもの系」が苦手ということなら、苦手なところで戦っても負けるだけじゃないですか。そうすると、グローバルエリートを真似するだけじゃしょうがない。

彼らのいいところも取り入れつつ、日本的なところもうまくミックスさせていくことが個人としても大事になると思うんですけれど、塩野さんは、そこはどういうふうに考えますか?

塩野:うーん、どうですかね。ただ、よく私が申し上げる概念は、マザーマーケットですね。自分の国の、例えば今、日本でビジネスされているんだったら、自国のマザーマーケットのGDP(国内総生産)のデカさをどうやって使うかという話です。

ただ、一方では、皆さんもご経験あるかもしれないですけれど、あんまり日本人ということさえも気にされないんですよね。「君、香港から来たんだっけ?」とか言われて、「あっ、全然わかってないんだな」っていうことはよくあります。

そういう意味では、多様性、ダイバーシティの話で。良くも悪くも、日本の社会構造はそれなりに均質的なので、海外に出て「世の中かなりいろいろなやつがいるな」ということに、早めに出会わないといけないと思います。

例えば、イスラエルとか行くとマシンガンを持った若い子が、ずっと携帯でくっちゃべってたりしている。それから本にも書いたんですけど、この前知って衝撃だったのが、エジプトでは税金を回避するために、家を途中までしか造らないそうなんです。

途中までしかできてない家が、超並んでるんですよ。完成しちゃうと課税されるんで。本当にきれいに、一番上が造られてないんですよ。そこにもう住みまくってて。こういうのって、日本人には考えられないでしょう。こういう驚きを早めに体験することが必要ですし。

一方で、まだヨーロッパ諸国と比べると、日本って意外とデカいんですよ。人口も1億3000人近くいて、国土もけっこうデカくて。このデカさを、デカいうちに使わなきゃなとは思っています。

たいていの人が、それまで全然「私は日本人」と思ってなかったのに、海外に出るといきなり相対化されて、まるで、日本の代表になった気分になっちゃいますけど、外形的にはそんなこと全然ないんですけどね。

ビジネスパーソンはみんな芸人

Mr. サスペンダー:国際的環境で働いていると、やはりマザーマーケットを極めることが大切なのだと痛感します。グローバルに仕事するには、自分のローカルマーケットでナンバーワンになることが基本だと思います。

例えばアメリカからお金を引っ張ってきて日本に投資するとか、ヨーロッパの技術と提携して、日本の会社と組んで中国に進出するとか。各国のトップギアの企業が、「日本でビジネスするんだったら、お前と組む」というふうにならないと、トップティアのグローバルのビジネスは回ってこないわけですよ。

私の周りで成功している「あっ、この人はグローバルに活躍してるな」という人、例えば竹中平蔵先生とかいらっしゃいますけれども。

竹中平蔵先生の場合は、いろいろな世界中の学会や投資家の集まりで呼ばれて、「日本の経済がどうなっているか聞きたい」ということがあると、よく竹中先生に声がかかるんですね。

なんでかというと、もう政策政府で、政策もちゃんと作って、ローカルマーケットも非常にわかっていて、かつ、それを英語で発信できる。そういう人が1人いれば、2番手の人は、全然名前が出てこないんですよね。

だからグローバルでお声がかかるには、「これを聞くなら、この人しかいないだろう」というくらいローカルマザーマーケットで1位にならないと。そしてそのインサイトを共通の言語で発信する。そうでないと、海外の人が日本で何かやろうという時に、(自分の)名前が出てこない。この“マザーマーケットで第一人者と認識されること”が、一つ大きなポイントだと思いますね。

塩野:その話でいうと、ポジショニングは掛け算じゃないですか。例えば、「会計士×金融×実はインドネシア語もできるよ」っていうと、いきなり100人が1人に絞られていく。

そうしたら、この人に詳しく話を聞こう、みたいな掛け算でキャラ立ちしていく。先に申し上げたように、30歳過ぎぐらいからキャラ立ちしないと、社内でも社外でも売れない。ビジネスパーソンはみんな芸人ですから、キャラを立てるには掛け算です。

※続きは明日、掲載予定です。

(構成:長山清子)
 塩ペンダー_プロフ