2023/11/29

なぜ「2つ上の視点」が、あなたの市場価値を高めるのか

NewsPicks, Inc. Brand Design Editor
「いつかは事業を立ち上げたいが、特別やりたいことがあるわけではない」「いきなり会社を辞めて、独立するのも少しハードルが高い」──。
経験や知識、ネットワーク、技術、資金など山積みの課題を前に、こうした悩みを抱える若手ビジネスパーソンは少なくない。
テクノロジーの進化や働き方の多様化も進み、あらゆる選択肢が考えられる時代において、主体的なキャリア形成にはどのような視点が必要になるのか。また挑戦者を応援する環境や仕組みのあり方とは。
学生時代から起業を志し、2013年にサイバーエージェントの社内ベンチャーとして株式会社マクアケを創業した中山亮太郎氏と、JTBでイノベーション創発プログラムをリードする同社取締役 常務執行役員青海友氏が意見を交わした。

「焦り」と「情けなさ」に苦しんだ20代

──YouTubeやSNSなどで「やりたいこと」や「好きなこと」で成功する人を目にすることが増えたことで、自分のやりたいことがわからずに不安や焦りを感じる若手読者は少なくありません。
中山 私自身も、20代は「野心」と「焦り」と「情けなさ」のトライアングルに苦しんでいた時期がありました。
 私が20代の当時は、ちょうどIT起業家ブームが到来した頃です。ソフトバンクの孫さんはもちろん、楽天の三木谷さん、サイバーエージェントの藤田さんなど、起業家の方々がとにかくかっこよく見えた。
 そこでメッシに憧れてサッカー選手を目指す、そんな感覚でまだ私の就活当時は創業6年だったサイバーエージェントに新卒で就職する選択をしました。
1982年東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒。2006年にサイバーエージェント入社。社長アシスタントやメディア事業の立ち上げを経て、2010年からベトナムにベンチャーキャピタリストとして赴任。現地のネット系スタートアップへの投資を行う。2013年に日本に帰国し、現在の株式会社マクアケをサイバーエージェントの社内ベンチャーとして設立。同年8月に応援購入サービス「Makuake」を開始する。2019年12月、東証マザーズに上場した。
 なので「こんな事業がやりたい!」という具体的なビジョンがあるわけではなかった。世界に影響を与えるような規模が大きい事業をつくる起業家になりたい、とだけ漠然と考えていました。
 そんななか、入社して2〜3年も経つと、歳の近い先輩や同期、後輩までもが、どんどん社内で事業を生み出し始めたり、外に出て起業の道を歩み始めたりします。
 自分で事業をつくりたいという強い気持ちはあるけれど、社会にどんな価値を提供するビジネスをやればいいのか。そんなことを考えながら、焦りを感じていました。
 またどこかで「本当に自分にできるのか?」「土俵際で踏ん張れる人間なのか?」と、情けない感情も油断すると襲ってくる。このトライアングルにもがいていた時期がありましたね。
青海 中山さんでも、そんな時期があったのですね。私自身も、悩みという表現が正しいかはわかりませんが、若い頃は戸惑う瞬間、という場面は数多くありました。
 社員数の多い会社ですから、人事異動で新たなチャレンジの機会が発生することがあります。私自身は、営業やマーケティング、人事、経営企画などさまざまな経験を積んできました。
 新しい挑戦は毎回楽しみな反面、またゼロから学ばないといけないことも多いので、やはり少し戸惑うこともあります。
1993年JTB入社。札幌支店(店頭営業)、法人営業札幌支店(渉外営業)での営業経験、北海道営業本部での経営管理・総務人事担当を経て、JTBグループ本社における旅行マーケティング戦略、グループ経営企画、法人事業企画などでマネージャーを歴任。途中、(株)JTB北海道や(株)JTBコミュニケーションデザインなどでのマネジメント経験へ経て、2021年にJTBグループ執行役員 総合企画担当、2022年より現職。
 それでも何度か異動を繰り返していると、「全体像を掴むためのインプットに必要な時間」がわかってくる。そしてその期間を終えると、そこで自分が何をやりたいか、何ができるかのイメージが湧いてくる。
 それを何度か経験すると、だんだんと新しい学びの吸収に対する戸惑いも減ってきます。そうやって自分のスキルや得意な領域を広げながら、また人事異動という偶発性も楽しみながらキャリアを積んできたように思います。

カギは「タグ付け」と「2つ上の視点」

──焦りや不安、戸惑いなどと向き合ううえで、お二人が特に意識していたことはなんでしょうか。
中山 私は、どこかでバッターボックスに立つチャンスがやってくることを信じて、社内外でWillを発信することは意識していましたね。
 たとえば具体的な事業プランはまだ決まらないなかでも、まずはビジネスコンテストに応募したり、新規事業の立ち上げに関われる部署を希望したりしていました。
 そうして徐々にですが、経営陣や社内からも「将来起業したい人」という認識をされるようになったと思います。
 経営者となったいまでは、マクアケ社内でも出来る限り壮大なWillを持っている人へのアンテナを立てるように心がけています。
青海 自分がやりたいことや、なりたい姿といった目標や意思を発信することで、自らを象徴する「タグ」が自然に社内で認知されるようになったんですね。
中山 まさにそうだと思います。また将来の起業に備えて、目の前の一つ一つの仕事にも真摯に向き合うことも大切にしていました。
 仕事をするなかで「社長になったら必要なスキルだな」「こういう戦略や考え方は必要だな」「そのアイデアはいつか試せるかもしれない」など、常に自分が社長になったことをイメージしながらシミュレーションしていました。
青海 いつか絶対にバッターボックスがくるから、そのチャンスを掴み取る準備をしておこうと。
中山 そうですね。そうして将来目指したいことの発信と、目の前の仕事の成果を出すことを意識することで、入社から4〜5年後にベトナムでVCの経験を積むチャンスをもらうことができました。
 そこで将来の起業に備えながら、2年後に社内でクラウドファンディング事業の子会社を立ち上げようというときに、「中山、社長どうだ?」とすぐに声をかけてもらうこともできました。それが、マクアケ創業のきっかけでした。
青海 キャリアの「タグ付け」を意識すると同時に、目の前の仕事に真摯に向き合い続けてきたからこそ、チャンスを掴み取ることができたんでしょうね。
 私自身の話でいうと、「2つ上の立場で考える」ことを特に意識していました。
 新入社員、先輩社員、グループリーダー、課長、部長のように、組織には大なり小なりピラミッドの構造があります。
 「ポジションが人を育てる」という言葉もあるように、いま自分が位置する立場の視点から考えるだけでは、どうしても世界が狭まってしまう。
 かといって経営者視点から常に物事を考えようといっても、立場が遠すぎるとイメージが湧きづらいということもあると思います。だから個人的には、2つ上の立場の視点で考え、行動することが大切じゃないかと。
中山 たしかに経営者視点から考えることをハードルに感じる人にとっても、2つ上の立場であればそこまで無理もないし、自然に視座も上がっていきそうですね。
青海 そうなんです。上司の視点から目の前の仕事の価値も捉えることができれば、自然と仕事も楽しくなってきます。
 また自分が上の立場になったときも、すでにイメージトレーニングをしてきたことなので、そこまで戸惑うこともない。とても取り入れやすい考え方だと思います。

挑戦の総量を増やす仕組みのつくり方

──お二人のように主体的にキャリアと向き合う人材を育むには、どのような環境や仕組みづくりが必要になると考えますか。
中山 そうですね。将来自ら事業を起こしたいと考えるようなリーダー人材とそれをサポートするフォロワー人材がうまく循環するような環境が大切だと考えています。
 というのも、以前、サイバーエージェント社長の藤田さんとの会話のなかで、「リーダー人材だけでは組織はうまく回らない」という話をされたことがとても印象に残っていまして。
 一般的にリーダー人材が注目を集めがちですが、事業開発に関心が高い人材ばかりだけを集めていては組織は回らないし、新しい事業も生まれない。リーダー人材とそれをサポートする人材をどちらも大切にすることで、チャレンジの総量が結果的に増えることになると。
 そしてその循環が、サイバーエージェントの挑戦を後押しするカルチャーを育んでいったようにも思います。このリーダー人材とフォロワー人材のそれぞれへの成長機会の提供を心がけるという学びは、マクアケの組織開発においても意識していることです。
青海 とても学びになりますし、共感します。
 実は、まさに私たちが新たに立ち上げたイノベーション創発プロジェクト「nextender」も、リーダー人材に加えて、それをサポートしたいと考える人材も参加できるような仕組みを意識してプログラムを設計しました。
 具体的には、大きく2つの「CHALLENGE」と「KNOWLEDGE」の軸を用意しています。
 「CHALLENGE」は実践の場。アイデアだけがある状態の方から、いますぐ起業したい方まで気軽に取り組めるよう、3段階のプログラムを用意しています。
 そして「KNOWLEDGE」は、挑戦を応援する場です。
 事業開発を行うために必要な知識を学んだり、人と人とのつながりをつくったり。自分が起業したいわけではないけれど、起業のサポートをしたい方なども参加できます。
 なかでも今回新しく打ち出したのが、「Venture Builder」です。外部サポーターとともに、最大1年をかけて会社を設立、またイントレプレナーを生み出すことを目指します。
 学び、挑戦し、失敗してもその学びをアウトプットする場がある。そしてそれを学ぶ人がいて、また挑戦する人が生まれる。これまでバラバラに実施していた各プログラムを1つにまとめることで、学びと挑戦の新たな循環をつくりたいと考えています。

挑戦する人を受け入れ、応援するカルチャーへ

中山 リーダー人材だけではなく、フォロワー人材も育てていく観点がとても面白いですね。私自身、社内起業であることにすごく感謝したのは、まさに人材の観点なんです。
 社内起業は資金面などがフォーカスされがちですが、私は何より社内の優秀な人材をすぐに巻き込めるのが、大きなメリットだと考えています。
 その意味でも、リーダー人材と優秀なフォロワー人材をともに育む仕組みはとても大切ですし、社内のカルチャーを育む観点でも重要な取り組みだと感じました。
青海 おっしゃる通り、このプログラムをきっかけに、JTB社内にも挑戦するカルチャーを育んでいきたいと考えています。
 一般論ですが、大企業では所属する組織から受動的に仕事が振られやすいため、活躍の幅を広げにくい構造的な側面があります。しかし、新しいチャレンジをするには、組織の枠を超えて活動することが不可欠になる。
 そうした私自身も挑戦の幅を広げてもらってきたこともありますし、より社員のWillに基づく自律的な活動が生まれやすい環境を用意したい。
 そのためにもオープンなコミュニケーションを推奨したり、異なる意見を歓迎する姿勢を大切にしたり、失敗を恐れず挑戦する人を賞賛したりと、そういったイノベーションを生み出すためのカルチャーづくりに真摯に取り組んでいきたいと思います。
──最後に、イノベーション創発プロジェクト「nextender」を通じて目指す未来についてお聞かせください。
青海 ツーリズム産業は、世界的に見ても10人に1人は関連産業で働くと言われるとても社会的に影響力が大きい業界です。一方で、コロナ禍によりツーリズム産業は大打撃を受けました。
 当然、複雑な思いを持った社員は少なくなかったと思いますし、同時に会社や業界全体、一人ひとりのなかにもそれぞれの熱が湧き上がっている感覚も受けています。そうした想いに応えたいという気持ちもありました。
 JTBはこれまで110年間、旅行を含めてさまざまな交流を生み出す「交流創造事業」を生み出してきましたが、今後もそれは変わらない。そしてその培ってきた経験やアセットはもっと社会に還元したいという思いがあります。
 世界が直面する難題の数々を解決するには、これまでの枠組みを大きくこえた共創が必要です。そのためにJTBは、社会のパートナーのみなさまと新しい価値を作るべく、イノベーション創発プロジェクト、nextenderを始動しました。
 プロジェクトを通じて世界に展開する独自ネットワークやこれまでのノウハウを活かし、これまでにない規模で企業横断の共創を加速させます。
 nextenderでは、みなさんのアイデアや情熱を形にするための、ヒト・モノ・カネ・情報などを支援できる仕組みは用意しています。Venture Builderも最初、JTBグループ内のみの公募からスタートしますが、今後は社外からも公募を募る計画です。
 ぜひ起業したい、経営者になりたいと考えるような若者ビジネスパーソンのみなさまに、JTBも挑戦と可能性にあふれていることを知っていただき、興味を持っていただけると嬉しいです。
 また社員の新たな挑戦意欲なども高まっている感覚を受けており、JTB社内の意識変革も加速しています。ぜひ興味を持っていただいた方には、JTBという環境やアセットを使い倒してほしいですし、一緒にこのプロジェクトを盛り上げられるとありがたく思います。
中山 イノベーションというと、ゼロから生まれたベンチャーが起こしていると思われがちですが、でも実際は個人や産業のなかでインフラになるほど大きく成長しているサービスは大企業発のものも多いんですよね。
 今日のお話を通じて、挑戦心を持つ人をどんどん社内外から受け入れる姿勢は、今後より多くの企業がアップデートすべき点だと感じましたね。
 またJTBという社会的に影響力が大きい会社から、このような取り組みがはじまること自体が個人的にもとても楽しみです。ぜひ今後の動きもウォッチさせてください。
青海 ありがとうございます。中山さんのように起業家として活躍する人も出てくると思うと、私自身もこれからがとても楽しみです。
 ぜひ私たちの新たな挑戦、またプロジェクトそのものに興味を持っていただいた方には、一度詳細をチェックいただけると嬉しく思います。