2023/11/11

【寝る前の画面】頭が冴えていても、無理やり寝るべきか?

編集者・NewsPicks
毎日決まった時間に起きて寝る。それが仕事柄できない人もいます。日勤と夜勤がランダムに入るシフト勤務やローテ勤務は、その典型例です。

プロ野球・埼玉西武ライオンズで今季、中継ぎ投手から先発に転向した平良海馬投手(23)も、実はその一人。中5日や中6日ペースの登板で心身に大きな負担がかかる“働き方”となって、睡眠のあり方を初めて意識し始めたといいます。

ゲーム実況のYouTuberとしての顔も持つ平良投手は「毎晩ゲームして寝たい。でも、睡眠の質も高めたい」という一見、矛盾した悩みを抱えています。

睡眠ペースが乱れたときは、どうすれば? 本人インタビューと睡眠の専門家による解説をお届けします。
INDEX
  • オールスターを沸かせた西武の剛腕
  • 「寝ないといけないと思っても、なかなか寝られない」
  • 山本由伸投手らに「睡眠時間は?」と聞いたら...
  • ゲーム中継で「もう光を見たくない」
  • 睡眠の専門家「調子がいい時ほど丁寧に寝る」

オールスターを沸かせた西武の剛腕

広島のマツダスタジアムで7月20日にあった「マイナビオールスターゲーム2023」の第2戦、パ・リーグから出場した西武の平良投手が8回にマウンドに立ちました。
わずか4球で三者凡退にすると、続く9回も無失点に。この2回で投じた19球のすべてが、150キロ以上の直球でした。剛腕で球宴を沸かせます。
平良投手がキャリアを飛躍させたのは、開幕から一軍に定着した2020年度のこと。救援投手としてリーグトップタイとなる54試合に登板し、パ・リーグ最優秀新人賞を受賞しました。西武では17年の源田壮亮選手以来の快挙です。
埼玉西武ライオンズの平良海馬投手=球団提供
リリーフ投手としての評価を得た平良投手ですが、今季、志願して先発に転向しました。
「チームに与える影響は、先発のほうが中継ぎに比べてやっぱり絶対大きいです。活躍すればチームも勝ちやすくなりますし。短い野球人生で自分の価値を最大限に高められるように頑張っていきたい」と思いを打ち明けます。

「寝ないといけないと思っても、なかなか寝られない」

この転向で、“働き方”は大きく変わりました。
中継ぎ時代は、出番が午後8時半や9時ごろ。練習が午後3時半ごろに終わってから長い時間があるので、その間に昼寝をしていました。球団側がパワーナップ(積極的仮眠)のために用意したリラックスルーム(記事)も活用していたのです。
それが先発としてナイターに登板する日は、練習後の時間は短く、より長い時間を投げ込むことになりました。帰ってから寝るのは未明の3時ごろ。次の日は昼の11時半に起きるようになりました。
一方、試合がない日でも、先発陣は午前10時に集まって練習することがあるといいます。「中5日や中6日の登板」でリズムを作るのが難しく、さらにランダムに入ってくるのが朝練習です。
寝ないといけないと思っても、なかなか寝られないっていうことが結構つらい。朝練習にちょっと寝不足っぽい感じで行くこともあって。まず先発のほうが体のきつさはあって、早く回復するために、以前よりも睡眠を大事にするようになりました。
先発登板の翌日、調整をする平良海馬投手=ベルーナドーム

山本由伸投手らに「睡眠時間は?」と聞いたら...

パフォーマンス発揮のために、平良投手が重視するのは3つ。
食事とトレーニング、そして睡眠です。一般のビジネスパーソンに置き換えても、食事と体調管理、睡眠の3つはやはり大事です。
野球に限らずプロスポーツの世界では、食事面では栄養士が付き、トレーニングもトレーナーがいます。ただ、睡眠は「本当に分かんないんで、探り探りな状態です」。
インタビューに応じた平良海馬投手=ベルーナドーム
同じ屋根の下で過ごさない限り、他人の睡眠は見えないもの。平良投手は7月のオールスター戦の機会に目をつけました。
球宴に集った他球団の先発投手たちに、睡眠時間を聞いて回ったのです。
山本由伸(オリックス)やバウアー(DeNA)ら各投手。覚えているだけで5〜6人に、こんな直球の質問をしました。
「今年から先発を始めたんですけど、疲れが全然取れなくて。何時間ぐらい寝てますか?」
所属こそ違えど“同じポジション”である他球団の投手たちから返ってきた回答は、平良投手が想像していたよりも、長い睡眠時間でした。
だいたいみんな、9時間から多い人で12時間ぐらいは寝るって言ってました。僕は今まで7時間とか、朝練がある時は6時間ぐらいしか寝てない時とかがあって。早く寝る、そして寝ること自体を今までより大事にしてみました。
そこでオールスター後、「寝られる時は長めに寝る」を実践した結果、回復が早く、球速も上がってきた実感があるといいます。「筋量もちょっと増え、パフォーマンスがちょっと良くなったかなと。睡眠もその要因の一つかなと思います」
azerberber / iStock

ゲーム中継で「もう光を見たくない」

平良投手は、ゲーム実況をするYouTuberでもあります。
好きなのはシューティングゲームで、自らチャンネル運営をして、編集いらずの生配信を続けています。
「なかなか、同じような存在はいないので。それにプロに質問できる機会ってあんまりないので、やったら面白そうだなって始めました。実際は、私生活のことばかり聞かれて、野球の質問って案外こないですけど」
気になるのは、本業の野球以外にもゲームという「寝る前にもひと仕事」があるなか、睡眠の質をいかに維持して上げるかです。
ゲームで画面を見るのはあまり良くなさそうだなと思いながら、趣味なんで、毎晩寝る前に2時間ぐらいはしたいです。寝る時はいつも、目をあえて疲れさせて、『もう光を見たくないみたいな状態』で寝ています。
今季は先発転向1年目にもかかわらず、チーム最多の11勝を挙げた平良投手。プロ野球でのキャリアの短さを冷静にとらえています。「どっちかと言えば、僕はドカンと行きたいタイプ。性格的にやりたいことがいっぱいあるんで、いろんな所に注意が行っちゃうんです。野球はドカンと短く。結果を残して、次のステップに進みたいです」
平良海馬投手=球団提供

睡眠の専門家「調子がいい時ほど丁寧に寝る」

ベストセラー『あなたの人生を変える睡眠の法則』の著者で、作業療法士の菅原洋平さんに平良投手の課題感について解説してもらいました。
──深夜にゲーム実況をする平良投手のように、就寝前に活動的で眠りに悩む人がいます。
菅原「すごく高揚している時に無理に『長く寝よう』とする必要はありません。興奮していると寝られないので、そういう時は睡眠時間は短くなってもいいんです。逆に、寝られる時に起きている、という必要もありません。
そこで睡眠時間はトータルの『累積睡眠量』という考え方でみるのが大事です。例えば、仕事で自分に大きな負荷がかかるまでの1週間や2週間のサイクルで、1日30分間の睡眠を累積睡眠量として、どれほど増やせるか?ということです」
──寝る時間を増やすというと「何時に寝ればいい?」と聞きたくなります。
菅原「はい、そうして就寝時間を決めようとする人がとても多いのですが、結構ストレスになります。いつもより5分、10分早く寝ても、それはトータルの睡眠量(累積睡眠量)を増やすことになるので、何も決まった時間にきっちり寝る必要はありません。
逆に起床は、出張や遠征がない限りは、ズレても3時間以内にそろえる意識を持つといいでしょう。これは、夜に眠くなるリズムをつくるためです。人は朝起きて光を浴びてから16時間後に眠くなるため、朝のラインをそろえることは入眠にもつながります」
DGLimages / iStock
──ゲームやSNSで寝る直前まで液晶を見る人が増えています。やっぱり、睡眠に影響はありますか?
菅原「確実に影響を与えます。脳には、外敵に注意を向けて覚醒させる安全管理のシステムがあります。寝ることは、リスキーなことです。襲われるかもしれませんので。そこで注意を向ける時、『ノルアドレナリン』という物質が放出されます。
このノルアドレナリンですが、就寝30分前から急に減るというリズムがあります。減っているのに、『画面という敵が来ました!』となれば当然、減少邪魔します。そうしてノルアドレナリンが減らないと、不安になって寝られなくなるんです。
ちなみに『画面オフは就寝30分前』とよく言われますが、ノルアドレナリンが急に減ってきて『安全確保ができました』というのが大体、就寝30分前だからです」
──仕事で寝る前に活発にならざるを得ない人もいます。対策はありますか?
菅原「画面を見ると脳の温度が上がるので、温度を下げて寝る、といった対策を1つ行うことをお勧めします。負担がかかった分だけ、ケアする考え方です。
それと、そもそも寝る前に負担がかかる日と、負担がかからない日があるはずです。ゲーム実況をやらない日の睡眠の質が高ければ、寝る直前まで画面を見ている別の日の睡眠の質が少し乱されても、ペースは戻ります」
──シフト勤務などでペースが乱れやすい人に睡眠のコツがあれば教えてください。
菅原「『調子がいい時ほど丁寧に寝る』という考え方がすごく重要です。みんな『疲れている時ほど、手数を加える』と考えがちなのですが、逆です。調子がいい時に手数を加えて、睡眠の質を上げていけば、調子が悪い時が減っていきます。
完全休養日と言われる日に睡眠の質を上げていこう、と考えましょう。オフの日に注力する考え方が大事です」