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Weekly Briefing(中国・アジア編)

創刊171年の老舗メディア「エコノミスト」、初の中国語ニュースアプリで課金を開始

2015/4/9
Weekly Briefingでは毎日、ビジネス・経済、メディア・コンテンツ、ワークスタイル、デザイン、スポーツ、中国・アジアなど分野別に、この1週間の注目ニュースをピックアップ。木曜日は、中国・アジアで注目のニュースを担当編集者の解説とともにご紹介します。

4月第1週、興味深いニュースが入ってきた。1つは英国メディア「エコノミスト」が創刊171年にして2カ国語アプリの提供を始めたこと。英語以外で初めて提供する言語として中国語(大陸で使われている簡体字、そして香港、台湾で使われている繁体字の双方)を選んだことに注目が集まっている。

偶然にもこのニュースが発表されるわずか数日前、デジタルメディア「Quartz」が「The New York Times(NYT)」の中国国内における検閲回避の話題を記事にしている。

中国とメディアといえば、必ず出てくる「検閲」というハードル。外国メディアによる中国をターゲットにしたニュース配信の現状をご紹介する。

Pick 1:1883年創刊、「エコノミスト」が中国語アプリによるニュース配信開始

『エコノミスト』が「ニーハオ」、中国語併用の有料課金アプリをローンチ” Tech in Asia(2015年4月8日)

世界の著名英語メディアのうち、現在すでにNYT、「The Wall Street Journal(WSJ)」「The Financial Times(FT)」「Bloomberg」「Reuter」「BBC」などが中国語サイトを展開している。、「エコノミスト」も「Going GLOBAL」のキャッチフレーズで2012年から中国語サイトを運営してきた。

だが、アプリは初めて。それも2カ国語併用で有料配信を前提にした点は西洋メディアの中国語配信としては珍しい。今後は毎月1日に10本を配信、そしてワーキングデイ1日に1本ずつが配信される。利用については、4、5月は全面無料、6月から課金(月額8ドル、年間75ドル)を始め、それ以降無料ユーザーの閲覧は1カ月3本までに制限される予定となっている。

米ニーマン財団が運営する「NiemanLab(ニーマン・ラボ)」でニュースメディアと経済の関係を取り上げているケン・ドクター氏は7日、「Newsonomics: なぜ『エコノミスト』はこの時に中国語を選んだのか」でこの事象について論じた。

今回の「エコノミスト」が中国語の有料課金制度に踏み切った背景はまず、同メディアが購読収入60%を目指している(2014年実績は55%)メディアであることが大きい。この数字はNYTの場合、62%に達しており、デジタル化が進んだ結果、市場を広げた英語メディアは世界的に大きく読まれるようになったとする。

一方で、中国語は中国だけではなく、香港や台湾、マレーシア、シンガポールなどでも使われ、英語以外の市場を広げる強みとなることが今回の決定の一因。ドクター氏が提示するデータによると、実際に同誌英語版は中国で8000部(そのうち64%がデジタル版のみ)、香港で1万1000部、そしてシンガポールで1万1000部を売り上げている。そして、中国では非公式な中国語翻訳がかなり出回っており、その潜在的な読者需要は十分あるとされる。

さらに『エコノミスト』ではシンガポールのアジア本部の他に上海、ソウルでも記者、スタッフの増員を進めており、今後アジア市場に力を入れていく姿勢を示している。今後この市場が求める情報も拡充されていく方向だ。

現実的には中国国内では経済メディアの需要は非常に高い。その背景には、世界的なビジネス展開や海外経済体との協業を視野に入れた企業が増えていること、さらに中国経済自体が世界経済との連携を無視できなくなったことがある。このため、中国国内メディアだけではカバーできない世界経済の動きやトレンドをつかむため、英語を中心とした世界メディアの情報が広く求められるのである。

また、海外留学を終えて中国国内に戻ってきた人材が海外情報として西洋経済メディア記事を紹介する。「エコノミスト」およびその他西洋メディアが「頼み」とするのもこうした、海外メディア情報をうまく拾い上げる人材の中国国内での活躍であり、さらにそこに中国語版が提供されれば、市場は広がっていくはずだ。

懸念の1つは「課金」というスタイルだが、実際に中国で課金システムが機能しているのが、「経済メディア」というジャンルだ。

中国語メディアでも「NewsPicks」でお馴染みの「財新網」、あるいは「財経網」や「21世紀経済報道」といった経済に主眼を置いたメディアは、社会報道などにおいても信頼性が高い。これらのメディアのデジタル版の課金も、まだ十分とは言えないものの、一般紙のデジタル版に比べてずっとうまくいっている。経済分野でどれだけ「情報」が価値を持っているかを示すものだろう。

Pick 2:それでも気になる中国政府のニュース検閲

『ニューヨーク・タイムズ』はいかに中国の検閲制度を回避しているか” Quartz(2015年4月5日)

上述の中国語版を展開している主な海外メディアのうち、中国国内からアクセスが可能なのはFT中国語版とBloombergの中国語版である「商業週刊」のみだ。NYTやWSJ、そしてBBCなどは中国の社会問題や政治問題を取り上げた結果、英語サイトのみならず中国語版もアクセスブロックされている(だが、中国語サイトの提供は続いている)。

「生き残って」いるFT中国語版は、中国当局が義務付けているサイト登録において、メディアとしてではなく、商業サイトとして申請を行っている。また「商業週刊」もBloombergと中国国内で多くの商業誌を展開するメディア企業「現代伝媒」とのライセンス契約により、オリジナル記事の翻訳と現地編集部による記事でバランスを図っている。

NYTは2012年10月に温家宝・前首相の家族の蓄財問題を報道した後に完全に国内からのアクセスがブロックされ、また「Weibo(ウェイボ)」など国内SNSでの公式アカウントも削除されている。だが、それでもさまざまな手段で中国人読者の目に触れる工夫が続けられている。その方法とは以下のようなものだ。

(1)ミラーサイトによる記事提供: NYTのサイトで常に最新のサイトアドレスが示され、当局が気付く前に記事を読めるようになっている。ただ、これはイタチごっこで、あっという間にアクセス不能となる。

(2)アプリ提供:中国語記事専用のアプリを提供し、定期読者をゲット。

(3)ソーシャルメディアでのリンク公開:公式アカウントはブロックされたが、さまざまな新しいアカウントや、記者たちが個人的に作ったSNSアカウントを使って拡散。

(4)現地サイトやメディアに記事を提供、翻訳・配信させる:独自サイトはブロックされていても、1本1本の記事は必ずしもブロック対象になるとは限らない。このためにニュースバリューを持つメディアとして積極的に、それを求める中国メディアやニュースサイトとの協力を進める。時には非公式ウェブサイトでの掲載・転載についても目をつぶる形での拡散を狙う。

面白いことに、この記事を書くために改めて調べてみると、中国語の需要を見込んで自社中国語サイトを立ち上げたメディアがことごとく中国語のみならず、英語サイトもブロックされるという皮肉な現象が起こっている。そして、特に中国語サイトを構築していない「The Huffington Post」や「Los Angeles Times」「The Atlantic」などはそのまま英語でSNSに流入する、という事象も生まれている。

もちろん、後者の場合、読者は英語話者に限られるが、それが現地サイトでボランティアによる翻訳が掲載されることで拡散していくのが中国だ。そういう意味で中国語サイトを作るのが得策か、それとも自然流入に任せるのが得策なのか。微妙な判断を迫られるとも言える。

Pick 3: 日本メディアの中国語サイトは?

現在、日本メディアのうち、「日本経済新聞」「朝日新聞」「共同通信」(リンク先は中国サイト)が中国語のサイトを展開しており、朝日新聞はブロックされているが、その他は中国国内でそのまま読むことができる。

このほか日本ではそれほど話題になっていないが、中国でよく読まれている日本発のメディアとして特筆しておきたいのが、「nippon.com」だ。幅広く国内外の解説記事が中国語で収められており、高度で深みのある情報を求める知識層に好まれている。

※来週の本欄は休載となります。