[上海 27日 ロイター] - 中国が、電気自動車(EV)などのリチウムイオン電池の材料に使われる黒鉛(グラファイト)の一部輸出規制に動き、世界のEVサプライチェーン(供給網)は不透明感が高まっている。

人造黒鉛の中には規制対象にならないものがあり、中国の電池メーカーほどそうした人造品の利用が進んでいない外国の電池メーカーがより深刻な影響を受けると、業界関係者や専門家はみている。

中国商務省と税関総署が20日発表した規制措置によると、12月1日からは天然黒鉛と高品質の人造黒鉛の輸出は許可を申請しなければならない。特定国を意図したものでない、と中国政府は強調している。

複数の中国電池メーカーは、海外で事業を展開している企業も含めて、生産の大半を規制の適用を受けない人造黒鉛が占めている関係で、今回の措置で受ける打撃は非常に限定的だろうと述べた。

黒鉛は電池製造において、単一素材としての最も大きな比重を占める。中国はEV電池のサプライチェーンで支配的立場にあり、天然黒鉛の採掘と加工、人造黒鉛の生産にも多くの国内企業が従事している。

一方、日本や韓国、米国は天然黒鉛と中国製人造黒鉛の双方において最も大口の買い手で、これらの国の企業がEV電池の負極製造に不可欠な黒鉛を手に入れにくくなる恐れがある、と複数のアナリストは警鐘を鳴らす。

中国黒鉛加工大手、青島海達の関係者はロイターに、同社製品にはリチウムイオン電池の負極に使われる黒鉛が含まれ、新たな規制対象になっており、現在は日本と韓国に輸出していると明かした。

同関係者は「中国商務省からまだ輸出許可の申請方法について何も指示を受けていないが、輸出手続きがより面倒になるのは間違いない」と話す。

<中国メーカーは泰然自若>

ただ、海外工場を建設中の複数の中国電池メーカーは、新たな規制が海外事業に及ぼす影響は乏しいと述べた。これらのメーカーが使用している人造黒鉛は、1立方センチ当たり1.73グラム以上という規制が適用される基準よりも低い密度の製品だからだ。

一方、外国の電池メーカーの間では天然黒鉛から人造黒鉛への切り替えはまだゆっくりとしか進展していない。石油ベースの人造黒鉛生産は環境汚染の度合いが相対的に大きいことや、天然黒鉛製の負極の方が低コストという点が理由として挙げられ、今回の規制に対して脆弱な立場に置かれることになる。

実際、ドイツのフォルクスワーゲンが出資し、同国内でリチウムイオン電池を製造している中国の国軒高科は、素材に使っている黒鉛の密度は1立方センチ当たり1.7グラム弱で規制適用外だと述べた。同社は米国でも工場建設を計画している。

負極製造世界最大手、貝特瑞新材料集団(BTR)も上海政府運営のメディアに対して、電池向けの黒鉛密度は1.5─1.7グラムのため、新規制の影響は限られると説明した。

<課題と対策>

調査会社CRUグループによると、天然黒鉛を使用している外国メーカーとしては日本のレゾナック・ホールディングスや三菱ケミカル、韓国のポスコフューチャーエムなどが挙げられる。

レゾナックの広報担当者は、現時点で輸出規制の影響は見えず、事態を注視していると述べた。また黒鉛調達の詳細は明らかにしなかったが、個々の製品によって多様なルートがあると付け加えた。

米EV大手テスラに供給するオーストラリアの資源企業で、米ルイジアナ州に負極の製造拠点を建設中のシラー・リソーシズは26日、中国の輸出規制開始を前に、同国外の電池メーカーによる天然黒鉛の駆け込み購入があると予想している。

インドのエプシロン・アドバンスト・マテリアルズ(EAM)はこのほど、米ノースカロライナ州で人造黒鉛を含めた電池素材を製造する工場を立ち上げる計画を表明。天然黒鉛などの確保に向けたサプライヤーとの協議を行っているとも述べた。

スニット・カプール最高経営責任者(CEO)はロイターに「中国からの黒鉛輸出が限られ、中国産黒鉛の価格が上がりそうなことで諸課題が深刻化し、米国向けの人造黒鉛を開発する必要性が実証されている」と語った。