(ブルームバーグ): 中国の李克強前首相の突然死は、習近平国家主席に新たなリスクをもたらしている。習主席に次ぐ中国ナンバー2として10年間首相を務め、改革派として人気のあった李氏への市民の思いが、景気減速に対する不満に波及する恐れがあるからだ。

中国の李克強前首相、心臓発作で死去-改革重視し習主席と距離

中国では不動産危機で多くの人が資産を減らし、若年層失業率は記録的高水準に達している。こうした中、習主席が外相と国防相を相次ぎ解任したことで、すでに政権の安定性には疑問が投げかけられている。

中国が李国防相を解任、外相に続く主要閣僚交代-政権の安定性に懸念

李氏の死去に乗じて反体制の声が広がれば、政情不安への懸念は一段と強まりかねない。中国市民は実際に過去、共産党指導者の死去をきっかけに党の権力掌握への抗議を示したことがある。

アジア・ソサエティー政策研究所の中国分析センターで中国政治を研究するニール・トーマス研究員は「習氏は恐らく、追悼を率先して行うことで、李氏の死が政治的主張に利用される可能性を封じようとするだろう」と指摘。「李氏の死を利用して習体制に反対しようとする企てを押さえ込むための協調的な取り組みもあるだろう」と述べた。

中国では1976年、周恩来氏の死去が広範な抗議行動のきっかけとなった。1989年4月に胡耀邦氏が死去した際には、天安門広場での民主化要求デモにつながった。共産党指導部は天安門広場とその周辺に軍部隊を送り込み、抗議者たちを武力で排除。死者数は最大2600人に上ると推定されている。

中国外務省の毛寧報道官は27日の定例記者会見で、「突然の心臓発作による李克強前首相の悲劇的な死に深く哀悼の意を表する」と述べ、李氏の葬儀の段取りについては「しかるべき時に」発表されると説明した。

中国のインターネット上では李氏を悼む声が広がり、ソーシャルメディアの微博(ウェイボ)では訃報の閲覧回数が約13億回に上り、多くのユーザーがショックと悲しみを表していた。

アメリカン大学の歴史学者、ジョゼフ・トリジアン氏はX(旧ツイッター)への投稿で、中国指導部が直面する当面の課題は、李氏の遺族を満足させながら習政権の政治的アジェンダにも配慮しつつ、民衆の感情を煽らないような方法で李氏の死去を扱うことだと指摘した。

中国政治に関するニュースレター「内参」を発行しているアダム・ニー氏は、李氏の死去は「重要かつデリケートな政治的節目」になる可能性はあるものの、全体的な影響は限定的とみている。

「周氏や胡氏の死去時のような政治的潮流が生まれるほど、民衆の不満が高まっているとは思わない。平均的な中国人は、来月の今頃には李氏の死を忘れているのではないだろうか」と語った。

原題:Xi Faces ‘Delicate Political Moment’ in Handling Grief Over Li(抜粋)

--取材協力:Xiao Zibang、Jacob Gu.

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