2023/11/8

【山口周】「英語は必要になってから学ぶ」と語る人が逃している人生のチャンス

NewsPicks Brand Design Senior Editor
「グローバルの時代に英語は必須」と感じ、キャリアアップのために自ら英語を学ぶ人は多い。しかしながら、学習を続けていても成長の実感を得られない、実践で使う機会がなく、モチベーションが続かないという人も多いようだ。
 そんな悩みを持つ人たちに向けて、「英語学習こそ、リターンが大きい、もっとも効率の良い投資だ」と断言するのが、数多くのビジネス関連書籍を執筆し、ヒット作を世に出してきた山口周氏だ。
 山口氏によると、仕事の能力のうち、リーダーシップや論理的思考力などは、時間をかけても成長するかどうかわかりにくいのに対し、英語はリターンの約束された、ROI(Return On Investment)の高い投資だという。
 今回は英語ができたことでさまざまなチャンスを得たという山口氏と、商社員時代に英語学習で苦労した経験から、独自のトレーニングメソッドを開発、「受講生の英語力を劇的に変化させる」学習サービスを展開するGSETの是枝秀治代表に、ビジネスで必要になる英語力について伺った。
是枝氏:1976年生まれ。2000年に三井物産に入社。ベインアンドカンパニー、消費財企業で海外担当役員を経て現職。米国・マサチューセッツ工科大学でMBAを取得。2018年4月に英語のトレーニングスクール「GSET(ジーセット)」を開校。英語のほかスペイン語も堪能なトライリンガル。山口氏:1970年生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科美学美術史専攻修士課程修了。電通、ボストンコンサルティンググループ等で戦略策定、文化政策、組織開発などに従事。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』、『ニュータイプの時代』など著書多数。
──山口さんが広告代理店、コンサル、著作家としてキャリアを歩む中で、英語はどのように役に立ってきましたか。
山口 私の経験をもとに、ビジネスパーソンにお伝えしたいことは、「キャリアのチャンスは、いきなりやってくる」ということです。そして、急に訪れたチャンスをつかめるのは、”その時点”で準備万端な人間だけです。
「チャンスが来たら準備します」という人は、絶対にチャンスをつかめません。
 特に英語については、チャンスの量が非常に多いにもかかわらず、その準備をしていないがために知らず知らずのうちに損をしている人が非常に多い。
 とはいえ、僕も英語がネイティブレベルということはなく、どちらかと苦手意識を持っています。
 しかし、急な英語のインタビューや商談に対し、拙いなりに対処できたことがキャリアアップに大きく寄与したと感じています。
是枝 とてもよくわかります。チャンスって、事前準備を与えてくれないんですよね。
 私も以前、ヘッドハンターから「ぜひ会いたい」とホテルのロビーに呼び出され、行ってみたら、某米国の有名企業の採用面接でした。
 当時は英語力がそこまで高くなく、これはチャンスだと気づいたときには、もう手遅れでした。
 相手の方は私の経歴や経験に興味を持って色々聞いてくれたのですが、英語力が足りず、表面的なやりとりにとどまり、大変ふがいない思いをしました。
──お二人と違い、多くの人に英語を使う機会は来ません。なぜでしょうか。
山口 その理由はその人が「英語ができない」からです。
 英語ができる人に対しては、上司も取引先も「この英語を使う案件を振ってみるか」と考えるでしょう。しかし、英語ができない人は、そもそも声をかけてもらう前に「彼には無理」と烙印を押されています。
 だから多くの日本人が、英語を使うチャンスが自分を飛び越して、他の人のところに回っていることに気づくことすらできていないんです。
──山口さんは英語でどんなチャンスをつかめましたか。
山口 大きなものとしては3つあります。
 1つ目が、世界経済フォーラムのダボス会議からの招待です。ある日メールで「イニシアチブメンバーにならないか」と聞かれたときは、大変光栄なことなので、迷いなく引き受けました。
 ダボス会議は通訳なしでのコミュニケーションが基本です。英語ができなかったら、最高のチャンスに二の足を踏んでいたかもしれません。
 2つ目が、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)でのヨーロッパツアーですね。
 PwCのサステナビリティの最先端事例を紹介するという広報取材がきっかけでした。
 僕が「経営者向けに海外のサステナビリティの事例を現地で見聞できるツアーを作ってみてはどうか」と提案しました。
 日本の経営者に海外のサステナビリティについて知ってもらうのは、自分としても実現したいことでしたし、国内にも海外にも同じ課題意識を持つ知己を得たのは非常に良い体験でした。
 現地でのディスカッションは、当然すべて英語です。ここで通訳を通して話すか、ディスカッションにどんどん参加できるかで、その後のネットワーク構築にも大きな差が出ると思います。
 3つ目は、チャンスというよりピンチを乗り切った話です。コンサル時代にある米国の大手エンターテインメント企業のプロジェクトに参加していました。
 自分はそこで日本企業の買収計画を進めるプロジェクトに参加しており、CEOをはじめとするグローバルの重鎮たちが来日した際に、チームメンバーとプレゼンテーションを行う予定でした。
 しかし、直前になって英語のできるパートナーが事故で急遽入院してしまったのです。質疑応答は彼に任せようと思っていたので、非常に焦りました。
 CEOから「買収について、あなたの意見が聞きたい」と言われましたが、もし英語がまったくできなかったら、米国からきた重鎮たちに無駄足を踏ませてしまっていたことでしょう。
是枝 ビジネスパーソンには、そういう急に”打席”が回ってきたときでも、周囲の期待に応えられるだけの英語力を保持していることが大事ですよね。
山口 おっしゃる通りです。いくら普段優秀で仕事ができていても、英語というアウェーになった途端、持っている力がまったく発揮できないようでは、非常にもったいない。
 しかも、英語は確実に伸びる数少ないスキルです。リーダーシップや論理的思考力、コミュニケーション能力はそう簡単には伸びません。
 かなり確実性の高い投資対象と言えるでしょう。
──実際にビジネスに使うとなると、どのレベルの英語力が必要になるのでしょうか。
山口 「この人には英語が通じるな」「この人は自分の考えを正確に英語にできてるな」と相手が感じられるレベルではないでしょうか。自分が言うことが伝わる、言いたいことを正確に英語にできている、と思われることが大事です。
 ただ、これって、TOEICやTOEFLで測れる英語スキルとは別物なんですよね。
是枝 そうですね。
 僕自身、前職で海外を飛び回っていた頃も、私の英語を聞いた途端に、交渉相手がトップから部下に交代されることが何度もありました。
 また、話しているときに、ちょっと鼻で笑われたりといった経験もしてきました。
 内心では「生粋の日本人なんだからしょうがないじゃん」と開き直りながらも、一定水準以上の英語のクオリティを持つことは、海外ビジネスの第一関門なのだと痛感させられました。
──ブロークンな表現でも、発音が悪くても伝われば良い気もしますが。
是枝 ブロークンな英語でOKなのは、自分が「お客さん」の立場の時ですね。旅行のようなシチュエーションだったり、仕事でも、こちらがお客さんサイドであれば、相手は売り込まないといけないので、頑張って理解しようとしてくれるでしょう。
 ただ、対等なビジネス関係になるとそうは行きません。身だしなみと同じように、英語力もこちらをジャッジする判断材料のひとつになってしまいます。これは、良い・悪いの話ではなく、そういうものなのだと受け入れないといけないと思います。
 英語が相手にとって第二言語であっても油断は禁物です。相手が苦労して英語を習得していればなおさら、時にはネイティブより厳しく、こちらの英語力を問うてきます。
 GSETは世界のどこに出ていっても通用する英語を効率的に習得するために、「発音」「発声法」「リズム」「英語思考」と「毎日のトレーニング」に徹底的にこだわっています。

シャドーイングでは話せるようにならない

──今回、GSETを体験して、一番印象に残ったレッスンはどんなところでしたか。
山口 非常に合理的な教え方だなと思いました。
 特に特徴的だなと感じた点が2つあります。
 まず、口の形から入り、舌の位置も細かく指示していただいたこと。その通りにやると、確かにネイティブらしい音が自然に出るという実体験ができました。
 もうひとつが、英語の音の流れがわかったこと。
 英語には意味を持つ「Content Word」と、意味を持たない機能的な「Function Word」があり、Function Wordは、「弱く、速く」発音し、Content Wordは「低く、ゆっくり、強く」話すとリズムがつくりやすいと説明を受けました。
 今まで、感覚的に習得してきたものをシンプルなルールで説明していただき、とても頭に残りやすいと感じました。
是枝 最初に皆さんに体験レッスンを受けていただくのは、このように、英語と日本語の違いを体感いただくことにあります。
 言語学的に日本語と英語は言語のリズムがまったく異なります。
 日本語は各音を全て等間隔で発声する「モーラ」という拍のリズムの言語なんです。例えば「柿くえば鐘が鳴るなり法隆寺」という俳句を見てみても、それ自体が意味を持たない助詞なども、大事な名詞や動詞と同じリズム、間隔で読みますよね。
一方、英語はストレスという「強勢」のリズムの言語です。一つの文章で短く発音するものと長く発音するものが明確に分かれます。英語を「モーラ」リズムで話してしまうと、日本人以外には非常に聞きづらい英語になります。
 ひとつひとつの音をマスターした後、今度は音の強弱をどのようにつけるのか、ひとつひとつの音の特徴などについても学んでいく必要があります。
──理屈は学ばなくても、話す練習を数多くこなすことで話せるようになりませんか。
山口 僕の場合、膨大な映画を見て表現を丸暗記していました。『トップガン』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、『摩天楼はバラ色に』などは、今でもほとんどセリフを覚えています。
 2010年以降はTEDトークを見て学んでいた時期もあります。20代のうちかなりの時間を英語に費やしたので、英語を話せるようにはなりました。
 それでも語学力の伸びに天井を感じていたし、「習うより慣れろ」というやり方は効率が良かったかはわかりません。
是枝 私は「習うより慣れろ」の代表例が、シャドーイングだと思っています。
 実はシャドーイングは、ほとんどの日本人には向いていないと思っています。日本語と英語は、言語的な共通項が非常に少ない。英語には、日本語にない音素がたくさんあるうえに、リズムも異なる。
 そのため、シャドーイングを通じ、耳で聞いた音を間違いなく身体で覚え、そして再現できるようになるというのは、無理があるんです。
 たとえるなら、野球をやったことがない人が、プロ野球選手のスイングを真似しながら野球選手を目指すみたいなものです。
 そうではなくて、必要なのは、野球であれば、グリップの握り方、バットの振り方、基礎からひとつずつ反復練習して身体に定着させていくような”積み上げ”のやり方で、英語でもそういう段階的なアプローチが大事になります。
「Fの音は口をどう動かしたらいいんだろう」とか「この母音って舌をどこに置けばいいんだろう」「ここを弱く発音する際には、どう音を出せばいいんだろう」とひとつひとつ一つ一つ英語を話すために必要な構成要素に分解して、積み上げで身に付けていくことが大事です。
 シャドーイングが効果的なタイミングがあるとすれば、英語の音やリズムなどの土台が全部身体に定着した後です。上級者の最終調整用と言っていいでしょう。初心者の段階から「全部真似して身に付けよう」は、残念ながら、間違ったクセがつくのが関の山でしょう。
山口 実は私の弟は僕よりも英語が堪能なのですが、ネイティブのコーチを付けて口の動きをきちんと学んだことで、格段に会話が通じるようになって、発音もできるようになったと話していました。
 なので、先ほど授業を受けた際に、あの時、弟が言っていたのはこういうことだったのかと感動しました。

 英語上達は“自由になる”ということ

──とはいえ、上達して仕事に使えるようになるまで、かなり時間がかかりますよね。
山口 英語は「ここから先のレベルになれば仕事で使えます」というものではありません。
 いきなり転職やポジションアップを考えると難しいでしょうが、最初はニュースでBBCを見て仕事に活かしたり、海外からの来客を案内したりといったことからでも十分だと思います。
是枝 日本の英語学習者の英語力の分布はかなり歪で、帰国子女をはじめとしたネイティブレベルと、英語に苦労している人たちの二極化していると思います。ネイティブかそうでないか、白か黒かの世界です。
 そうではなく、私たちはその中間の層、「世界のどこでも活躍できる英語力を持った人たち」がもっと日本には必要だと思っていますし、正しくトレーニングすれば、誰だってそうなれると考えています。
──GSETに通った場合、「自分の英語が変わった!」と実感できるようになるまでには、平均してどのぐらいでしょうか。
是枝 3カ月通うと、結構実感される方が多いですね。他の学習法で頭打ちを感じてきた人ほど、伸びを実感いただけている印象です。
山口 私は初日で効果が実感できました。自分に足りなかったのは、この視点だったのかと。
 僕は先ほどの授業がすごく楽しかったですし、今まで効率悪い学習してきたなとショックを受けました。何より体験しないと伝わらないので、ぜひ一度授業の感動を味わってほしいですね。