2023/10/31

インボイスや電帳法。で、何が変わる? ビジネスパーソンが知っておきたい最低限のこと

NewsPicks Brand Design Senior Editor
 2023年10月1日、「インボイス制度」がはじまった。フリーランスや個人事業主の負担が増える? 中小企業の経営が厳しくなる?──賛否さまざまな声が飛び交う中でのスタートとなったが、インボイスという言葉を何度も見聞きしたことがあっても、実際に制度の何が変わったのかを正確に理解しているビジネスパーソンは、そう多くないだろう。
「フリーランスの話でしょ? 会社員の自分には関係ない」と、考えている方もいるのではないだろうか。
 インボイス制度とは、複数税率に対応した消費税の仕入税額控除の方式を示す言葉で、正式名称は「適格請求書等保存方式」。ごく簡単にいうと、消費税を取り巻く新しいルールだ。
 つまり、フリーランスや個人事業主、中小企業、大企業など事業形態や企業規模に関係なく、すべてのビジネスパーソンの業務に関係するのが、この制度変更。
 ただ、インボイス制度と聞いても「フリーランスや個人事業主が知っておけばいい話」という反応はいまだ根強い。そもそも、インボイス制度とは何か。加えて、2024年1月から対応が義務化される「電子帳簿保存法」では、何をすべきなのか。
 双方に対応した企業間決済・請求代行サービス「Bカート掛け払い powered by Money Forward Kessai(以下、Bカート掛け払い)」を提供するDai取締役COOの鵜飼智史氏と、同じ「はたらくを変える」未来を共有し、手を取り合ったマネーフォワードケッサイ代表取締役社長の冨山直道氏とともに、改めて、新制度の概要を見ていこう。

「インボイス制度」ってつまり何?

 まず、“インボイス”とは「税の計算が適格にされた請求書を含むもの」を指す。請求書をベースに、納品書、領収書がインボイスに含まれるケースもあり、これまでバラバラだった税計算のやり方を、すべての帳票で統一しようというのが制度の趣旨だ。
 では、制度に対応しないとどうなるのか。
 インボイス制度の前提理解として重要なプロセスは、売り手側が買い手側に「インボイス(適格請求書)を出す」買い手側が売り手側の「インボイスを受け取る」やり取りだ。
 制度に非対応の「適格請求書発行事業者」ではない状態では、買い手側にインボイスを出すことができないため、インボイスを受け取れなかった買い手側は「仕入税額控除*1」を受けられなくなる。
*1 仕入税額控除とは、生産、流通などの各取引段階で二重、三重に税がかかることのないよう、課税売上に係る消費税額から課税仕入れ等に係る消費税額を控除し、税が累積しない仕組みを指す
マネーフォワードの図版をもとにNewsPicks Brand Designが作成
 仕入税額控除ができないと納付税額が大きく計算されてしまうため、10%あるいは8%の消費税分を買い手側が負担する必要が生じ、“損をする”。
 その結果、インボイスに対応しているかどうかが取引先選定にも影響する可能性があり、実際に業務委託先や仕入れ先に対して「御社の適格請求書発行事業者番号を教えてください」と、インボイス対応の有無を聞いた上で仕事をお願いしたり、仕入れを行ったりするケースも増えている。
 6年間の経過措置期間が設けられ、個人事業主やフリーランスなどの免税事業者(課税売上高が1000万円以下)はインボイスに対応する・しないを選ぶことができるため、制度については現在もさまざまな声が上がっている。
 しかし、10月1日からインボイス制度が施行された以上、ある程度の売上規模を持つ事業者サイドとしては対応が必要不可欠な状態だ。

もう一つの難題「電帳法」

 さらに、2024年1月からは「電子帳簿保存法(以下、電帳法)」が施工され、対応が義務化。電子取引情報の保存ルールが変わる。
 今までは、電子データでやり取りした請求書や納品書、見積書は紙に印刷したものを原本として保管しておけば問題なかったが、電帳法の要件に則って、取引情報はすべて電子データで保存する必要が生じる。
 これらの制度変更や法改正について、マネーフォワードケッサイ代表取締役社長の冨山直道氏は「適格に保存し、税計算をするための対応コストが膨大にかかることが企業にとって課題になる」と指摘する。
「インボイス対応のシステム設備投資や人的コストの負担は重く、国税庁のWebサイトを見ると、インボイス制度に関するQ&Aだけでも軽く100項目を超えています。それだけ制度が複雑だということ。
 規模の大きな企業では、経理・法務担当者がチームを組んで、社内外のシステムに新制度を織り込んでいくことができても、人員が限られる中小企業では仕組みを正しく理解することすら難しく、システム導入に数千万円規模のお金をかけることは現実的ではありません」(冨山氏)
 制度が変わる“だけ”なのに、なぜ、膨大な対応費用がかかるのか?
 それは、電帳法で守らなければいけない「保存要件」が難所となり、すべての法人と個人事業主の前に立ちはだかるからだ。
 紙の請求書の保存義務だけでなく、メール添付のPDFやWebサイトからダウンロードする請求書や納品書、見積書などもデータ化した上で「7年間」保存する義務が生じ、電子帳簿保存法の細かな要件をクリアした保管方法を遵守する必要がある。
「令和3年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しについて(国税庁)」をもとにマネーフォワードが作成した図を参照し、NewsPicks Brand Designが作成
「インボイス制度や電子帳簿保存法改正の背景には、企業間取引をデジタル化することでグローバルの常識に対応し、国際競争力を保つ狙いや紙の保存コストを大幅に削減できるメリットもあります。
 ただし、インボイス制度では税計算が、電子帳簿保存法では保存要件が非常に複雑になる。
 関係部署の多い大規模な組織では、事業体別に動いていた受発注システムをすべてインボイス制度に対応させなければならず、人員の限られている中小企業ではそもそも制度を理解し対応できる人材がいないなど、さまざまな課題が山積しています」(冨山氏)

制度をすべて理解「しなくてもいい」

 BtoBの受発注業務をクラウド化するECカートサービス「Bカート」を展開するDaiの鵜飼智史氏は、「現場の担当者が複雑な制度をすべて理解した上で対応する必要が、本当にあるのでしょうか」と疑問を投げかける。
「約60万社にBカートをご利用いただいていますが、実はECの受発注をデジタル化できている先進的な企業であっても、7〜8割が請求書を紙で郵送しているのが現実です。
 BtoBの取引では、受け取ったモノを請求書や納品書と照らし合わせて『検品』する文化があり、発送時に商品と一緒に請求書を同封するケースが少なくありません。モノが届いているのに、『請求書の確認や支払いを忘れていました』とは言えないため、そうした確認漏れを防ぎたい意図もあるでしょう。
 BtoB-ECの業界は、FAX注文が当たり前だった紙文化からデジタル化にだんだんと移行が進んできましたが、請求書に関してはまだまだ紙でのやり取りが根付いている。
 内税・外税、8%・10%の消費税の細かな計算や請求書を電子データで保存し、かつ改ざんできないようにタイムスタンプを押さなければいけない……など、インボイス制度や電帳法の要件の細かな規定をすべて現場で理解し、網羅的に対応しろというのは、多くの中小企業ではほぼ不可能に近いのが現状でしょう」(鵜飼氏)
 日本の国際競争力を高めるために、グローバルスタンダードであるインボイス制度を導入し、税金の扱いを精緻化しよう──。その論理には納得できても、紙文化をはじめ長くローカルルールが続いてきた業界で一斉に適正化するにはマンパワーが追いつかない。
 対応業務量が膨れ上がり、現場は疲弊してしまうと、両者は懸念する。
「Bカートは、もともと『はたらくを変える』というミッションのもと、BtoB-ECの受発注業務にともなう煩雑な作業を、どんな事業者も即日でスモールスタートできるサービスとして展開してきました。
 インボイス制度、電帳法の複雑な対応についても、『このシステムを使っておけば大丈夫』という世界を作っていかないと、現場の生産性が急落してしまう。売り手にも買い手にも、不利益が被る結果になると考えています」(鵜飼氏)

「Bカート×マネフォ」が見る同じ未来

 そのBカートが、2023年9月より提供をはじめたのが「Bカート掛け払い」である。
 マネーフォワードケッサイは、企業の与信管理から請求書発行、代金回収までの決済業務を一括して代行する企業間後払い決済・請求代行サービスを提供。BカートとのAPI連携を2018年から進めている。
 Bカート掛け払いでは、マネーフォワードケッサイのサービス基盤を活用し、Bカートを利用する企業を対象に、各社が運営するECサイト上で発生する請求業務や掛け売り決済の効率化を目指していく。
 インボイス制度、電子帳簿保存法に対応したインボイスを発行できる点で、「利用企業のお客様が煩雑な制度への対応を一つひとつ心配しなくていい状況を必然的に手に入れられる」と鵜飼氏はいう。
 決済代行サービスを展開する数多くの会社の中で、マネーフォワードケッサイの強みはどこにあるのか。冨山氏は「会計のバックグラウンドを持つ」点をあげる。
「会計の世界では、2年に一度ほどの高頻度で法改正が起こります。会計を主なバックグラウンドとして成長してきた我々にとって法改正への対応は“当然やるべきこと”。
 インボイス制度にも2022年12月には対応を開始し、電帳法への対応は2022年8月には終えていました。決済代行サービス事業者の中で、もっとも早く投資を決め、システムを整えてきたと自負しています」(冨山氏)
 制度への対応スピードだけでなく、カバレッジの広さも信頼につながっていると鵜飼氏はいう。
「BtoB-ECの業界では、返品やキャンセルなどが日常的に起こります。それらに対応するためには、適格請求書を出せるだけではなく『適格返還請求書』も出せるシステムになっていなくてはいけない。
 ほかの決済代行サービスでは『そこまでは対応していません』というところも少なくありません。
 ここまで対応できていたらOK、という話ではないのがインボイス対応の難しいところ。事業者のみなさんが税理士並みの知識を持つ必要はなく、サービスとして『これを使っておけば安心』な状態を提供できるかどうかが大事でしょう。
 Bカートは、BtoB取引の受発注業務に特化してサービス展開をしてきましたが、受発注を取り巻くお金のやり取りまで、すべてを私たち一社でカバーするのは難しい。
 この領域で実績を持つマネーフォワードケッサイと協業しながら『Bカート掛け払い』をリリースし、公式のサービスとしての提供を進めています」(鵜飼氏)
 一方、マネーフォワードケッサイがBカートとの協業を進めるキッカケは何だったのか。
「はたらくを変える」思いに共感したという冨山氏は「企業にとって、“売上が上がらないのにやらなくてはいけないこと”が多すぎる」と課題感を口にする。
「マネーフォワードは、中小企業をメインとした数十万社のお客様に支えられてきました。『お金を前へ。人生をもっと前へ。』という私たちのミッションは、BtoB領域で考えると製品開発や販売など売上につながるところに時間と労力を費やし、クリエイティブな発想を生み出していくことだと思うのです。
 Bカートも『はたらくを変える』をミッションにされていて、フォーカスしている課題感が共通しています。
 インボイス制度や電帳法はまさにそうですが、売上が上がるわけじゃないのに対応せざるを得ず、作業工数だけが増えていく。BtoB決済代行を通じて、その負の解消に取り組むことが、個社にとってはもちろん、日本経済全体を底上げしていくことにつながると考えています」(冨山氏)
 創業以来、会計制度に則った仕組みづくり、法律に準拠した仕組みづくりを法改正や制度改定に応じて「当然やるべきこととして対応してきた」と言い切る冨山氏。
 Bカート掛け払いは、インボイス制度と電帳法の両方に対応している、唯一の決済代行サービスだという。
「売り手側の企業や事業者が導入しても、買い手側に料金負担がなく、電子取引のデータ保存も無償で提供しています。保存までカバーされるとなれば、安心してデジタル化に舵を切れる中小企業は多くなるでしょう。
『あとはBカートに任せて、自分たちの商売に集中しよう』と思う企業が増えることが、私たちが望む社会のあり方です」(冨山氏)

はたらくに「違和感」はいらない

「はたらくを変える」を目指すBカートと、「企業間取引を安心で、なめらかに」を目指すマネーフォワードケッサイ。両社は、DXで実現するこれからの社会にどんな期待を持っているのか。
「紙からデータへの移行は、会計・請求・受発注へと進んできました。事業づくりという観点で何の生産価値も生み出していなかった社内業務はどんどん圧縮され、今後、バックヤード業務はすべてデータが一気通貫で流れていく世界になるでしょう。
 実際に、Bカートやマネーフォワードのサービスを使っているお客様に話を聞くと、『本当に楽になった』『アナログには戻れない』と口をそろえます。
『在宅で子どもを見ながら仕事ができるようになった』『今まではお客様からクレームを受けるのが仕事で“ミスしないように”とばかり考えていたけれど、その時間が空いて新規開拓や商品のご案内までできるようになった』と。
 働いている方たちの目がすごく変わっていくのです。
 かつてはFAXに支配されていた業務から解放されて目線が変わり、紙による書類保存から解放され電子によるやり取りが進めば、さらに時間が生まれる。そうした世界観を作ることに貢献していきたい」(鵜飼氏)
  マネーフォワードが創業以来一貫して大事にしてきたのは、企業バリューにも掲げる「User Focus」の姿勢だ。お客様の声を拾い上げ、サービスに反映していく。そんな愚直な試行錯誤を重ね、Bカートとの協業にもつながっている。
「お客様の声をもとにサービスを作っていくことが、論理的にも経済的にも正解だと思っています。正直、インボイス制度への対応には非常に工数がかかりました。でも、お客様にとって最善なサービスの形、価値は何かを考えると、複雑な制度すべてに対応した仕様を作らなければ意味がない。
 お客様が、制度対応に時間とパワーをかけなくてもいいように、負を少しでも感じるところがあるのなら、それを解消していく。その軸はぶれません。
 会計の制度は今後2年、3年ごとにまた変わっていく可能性がありますが、私たちは先回りして対応していく。『Bカート掛け払いがやってくれるから大丈夫』という信頼を作ることが、私たちの役割だと思っています」(冨山氏)
 鵜飼氏もまた「お客様の本来の仕事に時間を使える環境づくりこそ、協業で追求したい価値」と賛同する。
「仕事だからやらなくてはいけないけれど、業務が煩雑すぎて、なんだかおかしいんじゃないか……。そんな疑問を抱えながら働いている方は少なくないでしょう。
 私たちは、違和感を持ちながら働くのはもうやめませんか、と提案したいのです。
 お客様が本当にやりたい仕事に向き合い、『目が変わる』人が一人でも増えていけば、世の中はもっと生きやすくなる。
 それが、私たちの考える『はたらくを変える』ことだと考えています」(鵜飼氏)