2023/10/26

【ダースレイダー】民主社会の本質と日本の現在地

JTがこれまでにない視点や考え方を活かし、さまざまなパートナーと社会課題に向き合うために発足させた「Rethink PROJECT」

NewsPicksが「Rethink」という考え方やその必要性に共感したことから、Rethink PROJECTとNewsPicksがパートナーとしてタッグを組み、2020年7月にネット配信番組「Rethink Japan」がスタートしました。

世界が大きな変化を迎えている今、歴史や叡智を起点に、私たちが直面する問題を新しい視点で捉えなおす番組です。

大好評だった昨年につづいて、今年は全7回(予定)の配信を通し、各業界の専門家と世の中の根底を “Rethink” していく様子をお届けします。

ダースレイダー×波頭亮 表と裏の社会学をRethinkする

今回のRethinkのゲストは、ラッパーのダースレイダー氏。社会や政権に問題意識を持つ人の多いラッパーの世界から、日本をRethinkするためにどのような提言が飛び出すのか? モデレーターは経営コンサルタントの波頭亮さんです。

隻眼のラッパーが死の淵を経験して見えたものとは?

波頭 ダースレイダーさんはラッパーとして上り調子であった33歳の時に脳梗塞で倒れ、その後、糖尿病の悪化によって左目を失明。さらに40歳の時には腎不全が発覚し、余命5年の宣告を受けるという、波乱に満ちた半生を送られてきました。
のっけから重いテーマで申し訳ないのですが、生死の境を経験された立場から、今、世の中に発信したいのはどのようなメッセージなのでしょうか。
ダースレイダー 僕は脳梗塞で入院する直前に、『HOLD US BACK』という曲をリリースしています。これは、“誰も自分を止められない”というテーマの作品でした。そうしたら直後に入院でぴたっと人生を止められてしまうのですから、やはり人間あまり調子に乗るもんじゃないなと(笑)。
でも、そこで気づいたのは、普段は忘れているだけで「死」はそこら中に溢れているということでした。僕自身、期せずして突然「死」に肉薄しましたけど、それは突然現れたのではなく、もともとずっと隣にいた。そのことに気づかされたんです。
この体験の後には、ご無沙汰している友達の存在をふと思い出した時には「今度連絡してみよう」ではなくて、その場ですぐに電話をするようになりました。
波頭 なるほど。分かる気がします。アクションしなかった後悔は後に引きずりますね。
ダースレイダー 無意識に考えている「今度」というのが、なぜ無事にやってくると思えるのか、疑問に感じるようになってしまったんですよ。でも、人間は将来設計をする生き物です。例えば、3ヶ月後の予定を立てるなど、“あらかじめ計算できる社会”を生きていく中で、実はすぐ隣に死神が歩いていることを忘れることができていた。
そんな社会はどう作られたのかを考えるのが、社会学ですね。人間は安心安全に暮らせる社会作りに邁進してきたがゆえに、自分が病気になったり怪我をしたり、命の危険にさらされるリスクを忘れることがあるということに、興味を持ちました。
僕はいったんそこから外れて死にそうになったので、否が応でも視座が大きく変わりました。そこで伝えたいのは、皆さんも視座の変化を意識して、その自分で尺度を変えられるようになれば、より楽しく豊かに生きられるはずですよ、ということですね。
波頭 よく、虫の目・人の目・鳥の目などと言いますよね。視座を変えると全く違った世界が見えるようになる。ちなみに、ダースレイダーさんは日本社会に対してどのような意見をお持ちですか。
ダースレイダー そうですね。日本は民主社会のはずですけど、改めて日本を眺めてみると「主権は我々にあって、我々が社会を作っていくはずなのに、どうしてこういうことになってるの?」と、思える出来事に溢れています。
なので僕は日本社会は民主社会ではなくて、民主社会という服を着ているだけだ、という立場を取っています。言い換えれば、民主社会というそこそこ走る車は持っているけど、ドライバーはその免許を持っていない、みたいな(笑)。

民主主義はベストな政治の在り方なのか?

波頭 面白い表現ですね。ダースレイダーさんが凄絶なご体験を踏まえて、「友達にすぐ連絡しよう」となったのは、人として非常に大切な生き方のひとつだと思うのですが、その半面、ラップで政治のことを積極的に扱われるようになったというのは、視座の変化という点で象徴的な気がします。
ダースレイダー 僕はよく社会派ラッパーと言われますけど、社会や政治が日常とは別次元にあると錯覚している人が多いんです。でも僕らは社会の中でしか生きられないですから、政治は人の生活に欠かせないものであるはずです。だから僕自身は自分のことを社会派ラッパーではなく、日常派ラッパーだと思っています。
日常で起こっていることは、社会で起こっていることのはずなのに、自分たちが社会の中で生きていることを忘れさせるのが、社会システムの巧妙な落とし穴ですね。
民主社会に対する僕のスタンスとしては、チャーチルに言われるまでもなく、民主主義が最も優れたシステムだとは思いませんが、この社会で生きていく上では比較的良いシステムなのではないか、と考えています。
しかし、10人や20人で物事を決める時にはいいかもしれないけど、1億人でやるのはどうか、というのが問題なわけです。面識もないどこかの誰かの意見を尊重しなければならないことに対し、なぜそうすべきなのかを答えられなければ民主政権は機能しませんから。
波頭 日常は政治と繋がっているというのは名言だと思います。経済が停滞した今の日本は、国民が望んだ姿ではないはずです。なのに、30年間同じことを繰り返している。これは明らかに民主制の失敗ですよね。
ダースレイダー それは民主制が我々にとって自分で獲得したものではないからでしょうね。日本はある日突然、アメリカに民主主義という服を着せられたのであって、そのうち着こなせるようになるだろうと思いきや、80年近くたってもそうではない、と。いわば、フランスや韓国と違って、民主制の絶対的なスタートラインを満たしていないわけです。
波頭 おっしゃる通りですね。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の時だって、あれだけ猛反対を公約に掲げていた自民党が、選挙を終えてすぐに「TPPを推進していきます」と手のひらを返しました。これは普通の民主主義国家だったら、一発アウトです。それにも関わらず粛々と政権が続いていることに、僕は1回目の絶望をしたんです。
そして2回目の絶望が、黒塗りの公文書です。公文書を偽造したと認めた時点で、即座に内閣が吹き飛ぶかと思ったら、メディアも国民もさほど騒がないままやり過ごされてしまいました。メディアと官僚機構と政治家という仕組み自体が国民の日常と繋がっていない。民主主義の仕組みがもう完全に壊れているのだなとがっかりしました。
ダースレイダー そうですね。投票率を上げようと言ったところで、なんとなく投票に行くのでは何も変わりませんから、自分で物事を決める主権者が増えなければ意味がありません。
例えば増税の話になると主権者意識のない人でも大いに反対の声をあげますが、これも本来はおかしな話です。民主主義国家では税金は自分たちのお金なので、増税や減税というのは単に自分たちのお金の配分に過ぎません。
社会を作る上でどこにお金をかけるべきかの話なのにも関わらず、税金とは年貢を取るものだと捉えて国民が増税に反対したり、政治家が増税を掲げると選挙に落ちたりする社会は、とても民主主義国家とは言えないですよ。
波頭 マッカーサーはかつて、日本社会を12歳くらいだと表現していましたけど、もっと退行しているように感じますね(苦笑)。
ダースレイダー 今は5歳くらいじゃないですか(笑)。そういうと、5歳児に失礼かもしれませんけど。経済指標や報道の自由度ランキング、ジェンダーギャップなどを見ても、もう国として崩壊していると言っても過言ではないのに、国民は主権者として危機感を持っていない。

「果たして、あなたは主権者ですか?」

波頭 本当は自分たちで社会を変える仕組みを持っているのに、主権者意識の欠如によってどんどん貧しくなっていくというのは、あまりにも残念です。どうすればいいんでしょうね。
ダースレイダー ひとつにはメディアの問題が大きいでしょう。これだけメディアが多様化していながら、社会全体の声を反映する大手メディアが、日本では非常に弱くなっています。オリンピックの騒ぎの時も、スポンサーに大手マスコミがこぞって参加していたおかげで、構造的な欠陥を報じることができませんでした。
これは政治についても同様で、選挙期間中はメディアがみんなおとなしくなり、候補者の名前だけを発信するにとどめています。でも、選挙は自分たちが社会を作るタイミングですから、本当は逆にメディアがブーストをかけて、議論を活発化させなければなりません。欧州諸国はみんなやっている当たり前のことを、日本はできていないんですよね。
そこで僕は、政治を「エンタメにして面白くする」ということが今の社会にアプローチする有効な手段なのではないかと思っています。政治に対する怒りの声はいつの時代もありますが、それでは共感できない人もいるので、ユーモアに変換して分かりやすくする。
そして聴衆たちは笑った時に“自分たちが何に対して笑ったのか”に気づく。そんなプロセスに、日本社会に風穴を開ける可能性を感じています。
波頭 まずは関心を持ってもらうために政治をエンタメにするというのは有効な戦略だと思います。一方で、我々としてはこんな社会で若い世代の将来は大丈夫なのかなと心配しているのに、若い人の方が現状を継続していこうとする政権与党への投票率が高い現実があります。
ダースレイダー その根本にあるのは教育問題なのでしょう。テストの点数をいかに取るかというテクニックよりも、自分で考えるという思考力を育まなければなりません。小学校の教育をいま改革したとしても、効果が出るのは10年後ですから、これは喫緊の問題です。
ところが、日本の教育というのは“正解を答える”ことに縛られすぎています。おかげで官僚にしても、不正解を出すことを極度に恐れていますから。
波頭 そうですね。増税反対ならどうすればいいのか、背景からちゃんと考えられるようにならないといけません。そうしたお話を踏まえて、ダースレイダーさんのRethinkするキーワードをお願いできますか。
ダースレイダー はい、「民が主になってはじめて民主社会です!」で。日本は民主主義だと当たり前のように信じられていますが、本当は人々が主になってこそ、本当の民主社会になるんです。そこで問いたいのは、「果たして、あなたは主権者ですか?」ということ。あなた自身が社会のことを考え、作ろうとしていますか、と。
波頭 本当におっしゃる通りだと思います。仕組み上、日本ではすべて国民が決められるのですから、その仕組みを全部ちゃんと使いましょうよ、ということですね。私自身もまったく同感。本日は貴重なご意見をありがとうございました。
Rethink PROJECThttps://rethink-pjt.jp

視点を変えれば、世の中は変わる。

Rethink PROJECTは、JTがパートナーの皆さまとともに行う地域社会への貢献活動の総称です。

私たちは、心みたされるよりよい明日の実現に向けて、「Rethink」をキーワードにこれまでにない視点や考え方を活かしながら、地域社会の様々な課題に向き合っていきます。

「Rethink」は2023年5月より全7話シリーズ(予定)毎月1回配信。世の中を新しい視点で捉え直す、各業界のビジネスリーダーを招いたNewsPicksオリジナル番組「Rethink Japan」。

NewsPicksアプリにて無料配信中。

視聴はこちらから。