2023/10/31

【最新レポ】会議ツールを超越したZoomの進化を見逃すな

NewsPicks Brand Design Senior Editor
「ビデオ会議ツール」として、その圧倒的地位を築いてきたZoom。しかし今やZoomはその枠を遥かに超え、ビジネスの核となるコミュニケーションプラットフォームへと変貌を遂げている。

 その進化の最前線が、今年10月にZoomが本社のある米国カリフォルニア州サンノゼで開催した年次コンファレンス「Zoomtopia 2023」で明らかにされた。

 基調講演は、Zoom創業者兼最高経営責任者であるエリック・ユアン氏が、Zoomの新機能と開発姿勢を「ユーザーへの愛を示す方法だ」と熱く語り幕を開けた。その新機能とはどんなものか。時代の変化と共に進化していくZoomは、私たちの働き方をどう変えるのか。Zoomの印象を一変させる講演の内容を、抜粋してお届けする。

Zoom×生成AIで仕事はこう変わっていく

「私たちは、未来を予測することはできません。だからこそやるべきなのは、今を変えることです。皆さんは今、何に困っているのか。どんなことに喜んでくれるのか。
 それらを考え抜いて製品を改善し、皆さんに幸せを届けることこそが私の使命だと考え、Zoomの創業から12年間、走り続けてきました」(ユアン氏)
 Zoomtopiaは、創業者で最高経営責任者のエリック・ユアン氏の言葉で幕を開けた。基調講演では、ここ数年で大きく進化したZoomの全貌が、お披露目されることとなった。
Zoomtopia 2023で基調講演の口火を切った、Zoom創業者兼最高経営責任者のエリック・ユアン氏。
 その中でも最も注目すべきは、「Zoomと生成AIの融合」なのだが、その前におさらいしておきたいポイントがある。
 Zoomはもはや単なるビデオ会議ツールではないという点だ。
 現在のZoomは、ビデオ会議に加え、チャットやメール、クラウド電話、ホワイトボード、カレンダーなどの多様な機能を携えており、ビジネスを根底から支える総合コミュニケーション プラットフォームへと変貌を遂げているのだ。
 そんなコミュニケーション プラットフォームとしてのZoomにAIが統合されることで、ユーザーにどんな価値を提供できるのか。この新たなAI機能について、ZoomのMeetingsプロダクトマネージャー・アリアン氏はこう話す。
「ビデオ会議の議事録を作成する、何百と溜まったチャットを要約する、会議終了後にクライアントへフォローアップのメールを送る。
 これらの全てをZoomが提供するAIアシスタントである『Zoom AI Companion』がサポートしてくれるのです」(プロダクトマネージャー・アリアン氏)
 その利用シーンをもう少し具体的に見てみよう。
 たとえば、チームチャットのチャンネルに途中から参加した際に、Zoom AI Companionに依頼をすれば、これまでのチャットのスレッドを全て要約してくれる。
 さらに、ビデオ会議に遅れて参加した際や一時的に離席をした際には、Zoom AI Companion にチャットで質問することで、それまでの会議の要約や自分の名前がメンションされて議論された内容などを教えてくれる。
 ビデオ会議が終われば、議事録、各担当者のToDoリストが作られる。会議の一部分だけ振り返りたい時は、スマートチャプター機能でトピックごとに細分化された録画データを確認すればいい。
 そしてクライアントへ送るメールの文面まで、AIが提案してくれるのだ。
2023年10月時点では、英語版のみ対応。日本語版も近日中に対応予定。
 さらに、これらの機能は有料ライセンスを持つユーザーなら、追加料金なしで利用できるという。
「AIは、すでに私たちの生活に溶け込んでいますし、今後さらに加速します。そんな時代には、誰もが当たり前にAIにアクセスできるようにするべきです。
 ですからあえて追加の料金はいただかずに、皆さんにこの便利さを享受していただきたいと考えています」(創業者兼最高経営責任者・ユアン氏)
 さらに、このZoomtopia 2023で初めて発表された新機能がある。それは、2024年にリリース予定の新時代のドキュメント、プロジェクト、ワークスペース機能である「Zoom Docs」だ。
 従来の文書編集ソフトウェアが持つ機能は当然搭載されているが、特筆すべき点は、Zoom製品との密な連携だ。
 たとえばZoom Docsを使えば、AI Companionが作ったビデオ会議の議事録を別のアプリを立ち上げる必要もなく、ドキュメントにできる。
 会議中にわざわざ画面共有をしなくても、参加者全員が同じ画面を見ながら編集できるようになるのだ。
顧客の生産性向上を念頭においたZoom Docsを発表する、Zoomの最高製品責任者、スミタ・ハシーム氏。

従業員も顧客もハッピーに

 AI機能を携えた総合プラットフォームとしてのZoomは、実際に人々の働き方をどう変えているのか。
 世界でもトップクラスの売上を誇る電子部品受託企業であるFlex社では、Zoomの導入により従業員の生産性が大幅に高まったという。
 世界30ヶ国以上に拠点を持つ同社は、迅速で信頼性が高く、従業員がトレーニングなしで始められる使いやすいコミュニケーションプラットフォームを探していた。そこに合致したのが、Zoomだ。
「これまでは、生産ラインを担当する従業員は、事務作業をするために工場からPCのある執務室に戻っていたんです。
 ですがZoom導入後は、生産ラインの現場からも、スマホで会議に参加したり、ドキュメントを開いたり、会議室を予約したりできるようになりました。その結果、従業員の生産性は見違えるほど高まったんです。
 またZoom Phoneで内線電話を使えるようになったことも、非常に画期的でした。
 自宅にいてもオフィスにいてもスマホから内線電話を発着信できるし、世界各国の拠点と簡単に繋がれるのですから」(Flex社 Vice President of IT・ディオ氏)
 さらにZoomは従業員のみならず、その先の顧客体験を高めることまで見据えている。その特徴的な事例の一つが、メジャーリーグにおけるMLB™とのパートナーシップだ。
 野球の試合に、アウトかセーフかの判定が難しいシーンはつきものだ。これまでは、どのような根拠で判断がなされたのか、観客がリアルタイムで知ることはできず、それが観客の満足度を下げる要因であった。
 しかしMLB™とZoomとの提携により、主審がリプレー検証をしている最中に、観客は Zoom を通して、判定の審議にライブアクセスできるようになったのだ。ファンの満足度を高めるとともに、判定の透明性を高める取り組みだという。
 Zoomtopia 2023に登壇したMLB™のニール氏は、Zoomを通じたファンとのコミュニケーションについて、以下のように語る。
「判定へのリアルタイムな接続はもちろん、Zoom Contact Centerによるファンへのサポートも、ファンの満足度を高める上で大きな役割を担っています。
 ビデオ会議やクラウド電話、チャットなどを切り替えながら、ファンの問い合わせに対して、迅速に回答できるようになったんです。」(MLB™ Chief Information Security Officer・ネール氏)

オープンな開発思想は、ユーザーへの愛

 次々と発表された、進化していくZoomの形。それらを通底するZoomの姿勢が、創業者兼最高経営責任者であるユアン氏から語られた。
「当社は創立1日目から『顧客ファースト』の文化を掲げており、この12年間でその考えは変わるどころか、一層強まったと感じています。
 だからこそZoomのプラットフォームは、常に『オープンであること』を大切にしています。お客様が最も心地よく使えるよう、カスタマイズ性を重視しているのです」(創業者兼最高経営責任者・ユアン氏)
 顧客によって解決したい課題も異なり、すでに多様なサービスが存在するなか、クローズドで画一的なプラットフォームでは、企業によって異なるニーズを完全に満たすことは難しい。
 そこでZoomは、さまざまな外部のアプリやサービスをZoomに統合できる、オープンエコシステムを提唱しているのだ。
Zoomtopia2023の会場の様子。2600人以上のZoomユーザーやパートナー企業がリアルイベントに参加し、Zoomの新たな世界観を体感した。
 Zoomとの新たなアプリ連携の一事例が、デザインツールとして知られる「Figma」だ。
 これまでは複数のメンバーでデザインの検討を行う際、ビデオ会議ツールを開きながら、誰かがFigmaを画面共有する。
 その場で編集を行いたいメンバーが他に出てきた場合は、一度画面共有を譲って……といった手間が発生していた。
 これをZoomに統合することで、一つのプラットフォームでビデオ会議をしながらFigmaでデザインを制作し、その画面を共有したり共同で編集したりすることも可能になった。
 このようにZoomに統合可能なアプリは、すでに2,500を超えている。Zoomプラットフォームにアプリを追加するだけではなく、他社のアプリにZoomを組み込むこともできるという。
 この考え方は、ZoomのAIにおけるアプローチとも通底している。他社のAIも組み込まれた「フェデレーテッド」なあり方を表明しているのだ。
「ZoomのAIは、Zoom独自の大規模言語モデルに、OpenAIやAnthropicなどのAIモデルを動的に組み込んで設計されています。
 もはや1社の技術で顧客を囲い込む時代ではありません。技術を最適に組み合わせ、最も高品質なサービスを提供することが何より重要なのです。
 これらの方針は、Zoomからの皆さんへの愛を示す方法の一つに過ぎません。私たちはこれからも、皆さんの困り事を解決し、より大きな幸せを届けるため、業界の先頭に立って導いていきます。
 それがZoomであり、これから先もZoomがやるべきイノベーションなのです」(創業者兼最高経営責任者・ユアン氏)