Lewis Krauskopf

[ニューヨーク 20日 ロイター] - 米株式市場で相場の変動率が大きくなっているため、投資家の間で外部環境の影響を受けにくいディフェンシブ資産を探す動きが活発化している。しかし今回は逃避先があまりなさそうだ。

S&P総合500種株価指数が週を通じて下落する中、投資家の不安心理を示すシカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティー・インデックス(恐怖指数、VIX)は20日に約7カ月ぶりの水準に上昇。S&P500種は年初来で10%上昇しているが、年初来高値を更新した7月下旬以降では8%下げている。

投資家が嵐を乗り切るのに役立つ資産は供給が不足しているかもしれない。市場が不安定になったときに神経質な投資家に選好される公益や消費財などのセクターは、最近のS&P500の下落に飲み込まれてしまった。

円の対ドル相場は約1年ぶりの安値圏で推移。米国債相場は過去に例のない3年連続下落の路線上にあり、指標となる10年物国債の利回りは2007年以来の高水準となっている。このため投資家は、ドル資産や金といった伝統的な安全資産や短期債に逃避している。

エドワード・ジョーンズのシニア投資ストラテジスト、アンジェロ・クルカファス氏は「十分に分散化されたポートフォリオに対して厳しい環境であることは間違いない」と指摘。米国債について、「安全な資産クラスだが、現時点では必ずしも買われておらず、株式市場のボラティリティーに対して手厚い安全性を提供しているわけではない」と述べた。

投資家が神経質になる理由には事欠かない。債券利回りの上昇はリスク選好の意欲を減退させ、企業の資本調達コストを押し上げ、投資対象としての株式との競合をもたらしている。パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は19日、米経済は予想以上に好調であるため、金融引き締め策が妥当かもしれないと述べた。

中東での紛争拡大の懸念がトレーダーの不安をあおっており、18日に発表された米テスラの決算が予想を下回ったことも米株式市場のムードに影を落とした。

株式相場に歩調を合わせて米国債相場も乱高下しており、米国債の予想変動率を示すMOVE指数は4カ月ぶりの高水準となっている。

オプション分析サービスを手がけるスポットガンマの創設者であるブレント・コチュバ氏は「金利がこのようなペースで上昇し、地政学情勢も現在のような状態であるため、ボラティリティーへの買いが入っている」と話した。

22日からの週にはマイクロソフト、アルファベット、アマゾン、メタ・プラットフォームズの決算発表が予定されており、市場は慌ただしい展開になりそうだ。

S&P500種指数のディフェンシブセクターは年初来で低迷しており、公益が約18%、主要消費財が約9%、ヘルスケアが約6%それぞれ下げている。米国債利回りの上昇がディフェンシブ銘柄の魅力を低下させた面もある。

UBSグローバル・ウェルス・マネジメントのアナリストチームは20日、「相反する成長データと地政学的緊張の高まりを受けて、安全資産のパフォーマンスは期待通りではなかった」と振り返った。

投資家にはまだ、ポートフォリオをヘッジする手段がある程度は残っている。今月イスラエルとハマスの紛争が勃発して以来、金は8%高騰している。

通貨では、長年にわたり安全資産とされてきたスイスフランが対ユーロで2015年以来の高値に近い水準に付けている。ドルはこの3カ月で5%上昇している。

一部の投資家は、昨年初めの金利上昇の開始以来、より魅力的なリターンが手に入る短期国債やマネー・マーケット・ファンド(MMF)に資金を移している。

チェリー・レイン・インベストメンツのパートナー、リック・メックラー氏は、「流動性の高い米財務省証券(TB)の金利が5%であれば、インフレや景気の見通しがはっきりするまでTBに投資するという投資家はたくさんいる」と話す。

LSEGのデータによると、米国のMMFには今年6400億ドルの資金が流入している。

UBSのアナリストチームは、債券市場のボラティリティー上昇に備えて、「金利収入を確保しつつ、10年債の利回りが上昇し続けるリスクを軽減するため」、10年よりも5年のデュレーションを選好している。またブレント原油先物で買い持ちポジションを組み、中東紛争の拡大に対してヘッジを掛けることも推奨。地政学的な不確実性、債券利回りの上昇、株安拡大のリスクは「投資家が新たな不確実性に直面している」ことを意味する、と指摘した。