2023/11/16

台湾と日本の「スタートアップ・エコシステム」は、世界に何を発信できるか

NewsPicks / Brand Design editor
 台湾と日本のスタートアップが協力することで、どんなビジネスが拓けるか。
 半導体産業のイメージがある台湾だが、実は起業が盛んな国でもある。台湾スタートアップ界は20年以上前からシリコンバレーと関わりを持ち、グローバルに活躍する人材を多く輩出してきた。技術力も高い。
 一方、日本のスタートアップでは、海外進出に挑戦するも市場を捉えられず撤退するケースも多い。グローバルな協業先を探る機運が高まる中、その選択肢の一つが台湾だという。
 日本はアメリカ、中国に次ぐ世界第3位の実質GDPを誇る国であり、台湾から見てもそのマーケット規模は魅力だ。互いに距離も近く、地の利もある。
 台湾企業と日本企業が今後どのように手を組み、エコシステムを構築していけば良いのか。
 台湾国家発展委員会主催の2023年9月14日~15日に開催された『Japan-Taiwan Startup Summit 2023』のセッション、『台湾と日本のスタートアップ・エコシステム』は、世界に何を発信できるか』の内容をレポートする。

台湾と日本のスタートアップ環境の違い

坂本 日本と比較して台湾のスタートアップ環境は、どのような点が特徴的ですか。
田中 台湾スタートアップには、米シリコンバレーに強いコネクションがあります。
 例えば、米国で最もホットな半導体企業「NVIDIA(エヌビディア)」の創業者兼CEOであるジェンスン・フアン氏は、台湾系アメリカ人です。Yahoo!やYouTubeなどの世界的な企業を辿ってみても、台湾人の共同創業者が多いことが分かるでしょう。
左から、坂本氏、田中氏、ウェン氏、高宮氏
 台湾のスタートアップは、そうした自分たちの持っているコネクションを最大限活用して、アジアだけでなくシリコンバレーの中心でもビジネスを展開しているところに強みを持っています。
 アメリカのテック企業のTOP50に、日本人の共同創業者が名を連ねることは滅多にない日本のスタートアップとはそういった点が異なりますね。
坂本 なるほど。ではなぜ台湾スタートアップは、世界に人脈を作ることが出来たのでしょうか。
ウェン 私は、主に2つの理由があると考えています。
 まず、ハングリー精神が旺盛だということ。私の知る古い台湾スタートアップのエグゼクティブは、創業当時から本当によく働いていました。一方で、ただがむしゃらに働くのではなく、より賢く効果的に動いていたのが印象に残っていますね。
 もう一つは、海外パートナーシップを結ぶことの重要性を理解している点です。
 ご存知の通り、台湾は小さな島でビジネス市場もきわめて小さい。そのため、どのスタートアップ企業も海外のパートナーと連携したい、という欲求を持っているんです。
 国内外のキーパーソンや企業と戦略的なパートナーシップを過去20年間で結んできたことで、シリコンバレーコミュニティに参入する機会が増えていったのだと思います。

台湾と日本、どう協業できる?

坂本 そのような中、台湾スタートアップは今日本市場にも大きく注目していますが、日本企業やベンチャーキャピタルと、どのような協業可能性があると思いますか。
高宮 日本には台湾スタートアップに提供可能な、アジア市場、グローバル市場を創造できるアセットが多く備わっていると思います。
 日本の国内市場は世界的に見ても大きい。商習慣の違いや言語の壁があり参入が難しい側面もありますが、競争の激しすぎるアメリカ市場よりも、協業するメリットが多くあります。
 例えば、日本と台湾のオンライン文化は非常に似ていると言われます。
 同じようなインターネットミームのバズり方や消費者のオンライン行動様式を持つため、そうした習慣は大いにビジネスに活用できるでしょう。
坂本 たしかに元々台湾創業され日本でのビジネスに成功した結果、本社機能を日本に移した「17LIVE(ワンセブンライブ)」などは象徴的ですね。
高宮 そうですね。あと、日本はハードウェア分野にも大きな強みがあります。
 モノづくりの日本と言えば80〜90年代のイメージがありますが、今でもハードウェア面や製造業において、特許や最先端の技術を持っています。
 台湾スタートアップが適切な日本のスタートアップパートナーやVCパートナーを見つけることができれば、ジョイントベンチャー、パートナーシッププログラムによって、最終的には力を合わせてアジア市場、グローバル市場を獲りにいける可能性があると思います。
坂本 ウェンさん、田中さんはいかがですか。
ウェン グローバルなチームの重要性はますます高まっていると感じますね。特に、インターネットビジネスにおいては、国の壁は関係ありません。
 国を超えたパートナー連携が当たり前になる世界では、異なる考え方やコンセプト、文化を取り入れながら、強いチームを作っていく必然性が今後より生まれてくるでしょう。
田中 私はこれまで、日本のスタートアップがグローバルなチームと協業する場面を何度も目にしてきました。
 そうした時にいつも失敗するのは、日本側に国際志向の強いコアメンバーがいないことによるものです。
 会話の全てを翻訳しなければならず、意思決定プロセスが遅くなり、結果的に多くのビジネスサイクルを無駄にすることになる……。
 そうならないために、日本側はグローバル化を目指すのであれば、コアメンバーにグローバル人材が必要であることを認識しなければなりません。ただし、その人材は必ずしも日本人である必要はありません。
 台湾と日本のスタートアップ・エコシステムが融合すれば、より強力なチームになるのは間違いないでしょう。

日台のエコシステムは、グローバルにどう発展できるか

坂本 高宮さんは、メルカリやジョーシスのようなグローバルに事業を展開する日本のスタートアップに投資されています。最近の日本のスタートアップのマインドの変化についてどう思われますか。
高宮 日本のスタートアップもようやくグローバル市場を見据えるようになったと思いますが、まだスタート地点という感じですね。
 日本のスタートアップシーンの変遷を簡単におさらいしておくと、シリコンバレーのモデルをコピーしたタイムマシン経営が横並びで一斉に流行ったゼロ年代から始まり、第二世代ではいくつかの小さな企業が上場しはじめ、メルカリやスマートニュースのようなメガベンチャーと呼ばれる企業になっていきました。
 直近の事例では、坂本さんが今おっしゃった「ジョーシス」というSaaSの統合管理クラウドを展開するスタートアップに注目しています。
 彼らが興味深いのは、創業時から世界を見据えているという点です。
 メルカリやスマートニュースのような世代の企業は、日本市場で成功してから海外の国内市場、例えばアメリカ市場に参入し、ニーズを取り込もうとするマインドセットを持っていました。
 しかし、ジョーシスは、はじめから世界共通のペインやニーズという真のグローバル市場を特定することに関心があるのです。
 これはある意味で、たまたま日本で起業したグローバル企業に過ぎないということを意味します。そういったマインドのスタートアップが日本にも出てきて嬉しく思いますね。
田中 ジョーシスのような会社には勇気付けられますね。創業2年ですでに世界40カ国で事業を開始しているわけですから、これは台湾と日本の両方が望む重要な傾向だと思います。
 私からは、近年のヨーロッパのスタートアップ事情についてシェアさせてください。
 今から15年ほど前、フランスやドイツのインターネット企業は、.frや.deといった国内向けのECサイトなどを作っていましたが、どれも大きくは成長しませんでした。
 ところが、先日ベルリンで大きな変化を目の当たりにしました。いくつか訪問したほとんどの企業は、.comや国際ドメインに移行し、チームも非常に多様性に富んでいました。創業者を含めドイツ人だけで構成されている、といった企業には一つも会いませんでしたね。
 近年、ヨーロッパからユニコーンが数多く登場しているのも、その一因だと思います。
 ヨーロッパ各国の市場を見ると実際は非常に小さい。どの国も日本より小規模。しかし、国際的なビジネスを展開することで、それを克服することができた。
 そういった意味では、台湾と日本にも同様に大きなチャンスがあると思います。
高宮 以前は、各国の市場を横断してスタートアップ同士がシナジーを発揮することはあまりありませんでした。
 しかし、コロナ禍を経た近年のトレンドでは、オンラインでいろいろなことが出来るようになり、情報の流れも格段に早くなっています。
 オンライン販売やオンボーディングなどで、さまざまな国の共通の課題を見つけやすくなりましたし、リモートワークが発達したことでファイナンス面でもアクセス出来る人脈も増えました。
 特に最近では、世界の大手成長ファンドはグローバルファンドを持っていて、ユニコーンのようなステータスに成長できるグローバルな機会を探しています。
 ですから、世界はさまざまな国で共通のシーンを探すようになり、その動きはますます大きくなっていると思います。
ウェン おっしゃる通りですね。私は2年前から中東欧諸国にも目を向け始めました。
 それぞれの国に独自のエコシステムや小さなコミュニティがあることは知っていますが、私たちはこれらのコミュニティがアジアとつながることができると考えています。
 まさに新たなシリコンバレーです。

日台イノベーションの夜明け

坂本 非常に興味深いお話をありがとうございます。最後にウェンさん、台湾と日本のスタートアップ・エコシステムがつながることによって、どんな発展を期待しますか。
ウェン 私は今、日本と台湾の間にイノベーションが生まれる時だと信じています。
 これからは、AIの時代です。AIはエネルギーから医療、高齢化問題まで、サービスやアプリケーションを通じて私たちが共通して直面している多くの問題を解決するヒントを与えてくれます。
 あとイノベーションに必要なのは、献身的な起業家精神、最初のアイデア、独創的なアイデア、そして台湾や日本という枠を取り払い、すべての才能を素早く集める方法だけです。
 どうすればもっと協力的になれるか、もっとディスカッションができるようになるか。そうした掛け合いがそのまま私たちに力を与え、日台スタートアップの未来を加速させるでしょう。