2023/12/8
【みずほ・MUFG・SMBC】メガバンクにとってスタートアップとは何か
日本のスタートアップ・エコシステムは、この10年で確かに成長してきた。しかし、諸外国との差は広がるばかり。なぜか。
そんな問いを巡りながら、日本ならではの希望と勝ち筋を探る、NewsPicks主催のカンファレンス『START UP EVERYTIME』が開催された。
カンファレンスの反響を受け、すべてのステークホルダーのリテラシーを上げる大型連載、題して「〝スタエコ〟の論点──日本のスタートアップ・エコシステムの論点」をお届けする。
One Mizuhoで支える、ユニコーンへの道
一般的な融資のみならず、スタートアップ向けのファンド組成、300名規模からなる現場での支援部隊も擁する〈みずほ〉。みずほ銀行でスタートアップ支援を約10年にわたって牽引し、メルカリ、マネーフォワード、BASEなどの急成長と伴走。政府の「新しい資本主義実現会議」の下に開催された「スタートアップ育成分科会」の構成員なども歴任した常務執行役員・大櫃直人氏に話を聞いた。
──ここ数年、メガバンクが次々と大きなファンドを起ち上げ、スタートアップ支援に乗り出している流れがあります。みずほ銀行は取り組みが非常に早かった印象がありますが、こういった動きを、率直にどう捉えていますか。
大櫃 おっしゃるとおり、一定の経験を積んできたなかで、私たちについて言えば、いまは一周回って「原点」に立ち返っているところです。
スタートアップに「お金をどんどん投下しよう」という考え方はもはや古く、彼らにとってもっとも大事なのは、やはり“ビジネスをつくること”。
そのためにはまず、「お金を大事に使おう」と。また、やみくもにバリュエーションが上がっていく時代でもありませんから、「お金を大事に集める」ことも考える必要があります。
そうなってくると、銀行の本来の業務である融資はもちろんのこと、スタートアップが必要とする「信用」を銀行の看板で補完することも重要になってきます。
その信用を背景に、大企業携との連携や、消費者との取引につながるようにビジネスマッチングのお手伝いをすることもあります。直近では、大企業とスタートアップが連携する、いわゆる「共創」への投資にも力を入れています。
たとえば、名古屋大学発のスタートアップに「Photo electron Soul」という独自の電子ビーム技術を持つ企業があります。彼らに対して、私たちの支援策は「融資する/しない」という二者択一だけでなく、多方面に及びます。
その際は、親和性の高そうな東証プライム上場企業の「ウシオ電機(産業用光源をはじめとした光応用製品ならびに産業機械を扱う)」をご紹介したんです。銀行からの紹介といった信用もありますから、ウシオ電機サイドも「ぜひ、会ってみよう」となられた。
結果、お互いに意気投合し、量産や販売リソースの面で協業する話になり、9月のラウンドではウシオ電機とともに、みずほ銀行からも出資しました。
──よく大企業とスタートアップのスピード感や、カルチャーの違いについての話がありますが、みずほ銀行のようなメガバンクで、そうした機動力を発揮できるのはなぜでしょうか。
端的にいえば、「本部の仕事にしていない」のが大きいと思います。
全国の支店ごとに「イノベーション企業支援担当」として若い担当者を置いています。現在、全国で300名ほど。
彼らが「私はスタートアップ担当です! あなたを支援したいので、ぜひお話を聞かせください」というところからスタートアップと取引を開始し、ビジネスモデルを侃々諤々話しながら、一緒に考えることをやってもらっています。
もちろん、一定の知識やノウハウが必要な領域については、本部に専門の部隊や、支援体制を整えています。イノベーション企業に特化した「M's Salon」のようなサービスもあります。それでも思うのは、やはりスタートアップは現場での実践が重要だということです。
全国で毎日のように新しいスタートアップが生まれて、すぐに大きくなる企業もあれば、足踏みする場合もあるし、悩み多きフェーズもある。その時々によって、課題も、進捗も、望む支援も変わってくる。そうなると、もっともお客さまに近い現場の担当者が、日々のコンディションを確認しながら相談に乗るのが健全な姿だと思うんです。
「スタートアップ支援を、特別な仕事にしてはいけない」というのが私の考えです。
──最新のファンドの話もお伺いしたいです。他行ではシード期やアーリーステージに特化したファンドが多いなか、〈みずほ〉はレイトステージへの投融資にも力を入れていますね。
ええ、そこは果敢にやっております。まず、2019年に「THE FUND」という上場を控えたレイトステージに向けたファンドを、シニフィアンと一緒に立ち上げました。2年で200億ぐらい。これは私たちとしても大いなる挑戦でした。
ミドルやレイトステージになると、より戦略的な志向が必要ですし、一定の分析力も求められます。さらに、グローバルの投資家へのリーチも問われます。
「THE FUND」を通して、高い知見と経験が得られました。そこで、シニフィアンの方々とは一定の協力関係を保ちながら、今度は自分たちで2022年10月に、後続ファンドの位置付けとして「みずほグロースパートナーズ 1号ファンド」を立ち上げました。現在、順調に投資が進んでいる状況にあります。
さらには、マーケット動向に左右されず安定した資金供給を実現していくため、2023年8月に「みずほベンチャーデットファンド」を立ち上げています。直近では、UPSIDERとの新たな取り組みも発表しました。
グロースステージへの投資は株式市場のボラティリティに影響を受けやすいため、リスクが高い、と言う人もいます。それでも、なぜ手を伸ばすかというと、「途切れない支援態勢」こそが〈みずほ〉の特徴だと思うからです。
既存のVCにLP投資を出して、「はい、一丁上がり」ではなく、銀行として融資も、ベンチャーデットも、ビジネスマッチングも、提携のお手伝いも行い、さらに民間の支援が手薄になりがちなグロース期もしっかり支えていく。そして、上場した後も、ファイナンスのお手伝いする。あるいは、M&Aを支援し、そこにまた資金を提供する。
スタートアップのお客さまの強い思いとしては、銀行やキャピタル(CVC)、証券、信託に関係なく、「みずほグループ一体で支援してほしい」というニーズがあります。なので、“One Mizuho”で動ける私たちのビジネスモデルがピタッとはまるんです。
なぜ、〈みずほ〉はそこまでやるのか? その心としては、「本当の意味でのユニコーンを育てたい」んです。
時価総額1兆円を目指す過程におけるグロースファンド、という位置付けだと思っていただければ、そんなに難しい話ではない。
加えて、その結果、日本のレガシーの企業の足元を揺るがすような、あるいは危機感を促すようなことができればとも思うんです。
もちろん大企業も私たちにとっては非常に重要なお客さまですが、残念ながら一部にはまだスタートアップのことを軽く見るような風潮があると思います。そうした企業のおしりに火をつけ、日本の産業全体が前向きに成長していくことは大事だと思っています。
──今後の課題についてもお伺いしたいです。
大上段としては、とにかくチャレンジャーを増やすこと。若者にかぎらず、「起業」という文化をより深く根付かせていくことが重要です。
そのためには、しっかりお金を流し込み、私たち金融機関やVCも含め、サポートする人たちの思いも大事です。かつ、大企業がスタートアップからモノを買わないかぎり市場は大きくならないですから、大企業側の姿勢も問われるでしょう。
もう少しテクニカルなところに落とし込むと、起業したり、出資を受けたりしたからには、「出口戦略」も重要です。ただ、残念ながら、今の日本にはイグジットの手段がほぼIPOしかない状況が続いています。
この課題について、私が思うことは2つです。
M&Aがより活性化することが求められるわけですが、買う側の企業にとっていちばんのネックになるのは会計制度です。のれん償却が重いことが、M&Aを阻害している。たとえば、国際会計基準「IFRS」のような仕組みで、企業会計の健全性は崩さないようにしながら、M&Aを活発にする工夫はできないか、というのが1つ目。
それから2つ目は、セカンダリーマーケットの創出や拡充が求められていると感じます。
起業して8年目、9年目になっても資金に余裕がないままで、VCからの調達の期限も迫り、ここで上場して一発当たれば……というような“ゼロ or ヒャク”では厳しいと思うんです。
アメリカやヨーロッパでは、セカンダリーマーケットで一部を現金化できるので、時間をかけてユニコーンを目指すことができます。こういった資金循環の仕組みを、日本でも発展させていかないといけない。
ここについては、銀行も含め、今スタートアップ・エコシステムを形成している人たちが、それぞれの役割でよりチャレンジしやすい環境を育んでいくことが大事だと思います。
世界をつなぐハブになる
2020年の東南アジアのスーパーアプリ「Grab」への出資、またイスラエルのフィンテック企業と立ち上げた「Mars Growth Capital」が2023年9月に最大5億ドル(約750億円)のエクイティファンドを立ち上げるなど、活発な動きが目立つ三菱UFJフィナンシャル・グループ。経営戦略立案、サステナビリティ経営の実践などを歴任してきた、MUFG代表執行役常務で、三菱UFJ銀行・取締役常務執行役員を務める宮下裕氏に、スタートアップ・エコシステムに関するスタンスを聞いた。
──近年、メガバンクのスタートアップ支援に関するニュースが目立ちます。MUFGとして融資・出資の資金調達支援以外に特徴的な取り組みがあれば教えてください。
宮下 まず、重要だと考えているのは、スタートアップの事業拡大を支援することです。
本邦随一の顧客基盤と世界50ヵ国以上に及ぶグローバルネットワークをスタートアップのみなさまにも最大限活用してほしいと思っています。
──具体的には。
1つ目は、大企業や海外と接続するハブ機能です。
我々はグループとして多くの大企業のお客さまとの取引にも厚みを持っています。スタートアップと大企業を含む取引先企業をお繋ぎする「ベンチャー商談会」を年3~4回開催しているほか、「海外商談会」では海外のグループ会社とも連携した現地企業との商談会を実施しています。
海外、特にアジア市場への接続については、2013年のタイのアユタヤ銀行の子会社化、2020年の東南アジアのスーパーアプリ「Grab」への約7億ドル(当時約783億円)の出資といった活動が目立ちますが、本邦のスタートアップを、アジアのスタートアップや市場に繋げていくためにも、それらのネットワークが活かせると考えています。
2つ目は、人材支援です。我々の現役の行員をスタートアップを含めた他社に派遣する「オープンEX制度」という仕組みを2019年からスタートしています。2023年3月末時点で累計75人の内、約50人がスタートアップに出向にして、社員として仕事をさせてもらっています。
出向者が銀行とはまったく違う環境とスピード感の仕事で身をもって成長できるという体験は、本当にかけがえのないものであり、更には出向者が帰任後に銀行に新たな風をもたらすことも期待しています。
人材交流を介してスタートアップとMUFGがWin-Winの関係になる取り組みを行っています。
──本業といえる、資金調達支援の融資(デット)・出資(エクイティ)についてはどうでしょうか。
MUFGは、三菱UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、三菱UFJキャピタルと、グループで銀行・信託・証券・VCまで持ち合わせた金融機関であり、スタートアップの成長ステージに合わせて、創業期から上場後まで、各社が一体となり一気通貫で支援できるところが特徴です。
国内・海外スタートアップへの投融資の金額規模で言いますと、出資については、プレスリリースを出しているものだけで、2023年9月末時点で約6,400億円の枠があります。
三菱UFJキャピタルでは、2023年4月に総額300億の基幹ファンドと総額200億のライフサイエンス分野に特化した国内最大級のファンドを設立しました。また、三菱UFJイノベーション・パートナーズは投資先スタートアップとのビジネス共創を加速化したいという想いから2019年にMUFGのCVCとして設立し、既に約3号ファンドまで組成しています。
融資については、2023年5月にイスラエルのフィンテック企業Liquidity Capital社と合同で立ち上げた「Mars Growth Capital」のファンドだけでも約1,600億円の規模があり、銀行によるスタートアップ向け融資残高は2023年3月末時点で約1,000億円を突破しています。
出資と融資の金額を足し合わせると1兆円に近い規模のファイナンスを提供しています。
──スタートアップ向け融資についても、積極的に支援している事例が増えてきました。スタートアップは、大きな成長が期待される一方で、先が見えないリスクもありますが、難しさはありますか。
先ほどお伝えした「Mars Growth Capital」での取り組みではAIによる審査を活用して、迅速な判断が可能になってきてはいます。
最近はキャッシュフローなどの情報開示も進んできましたが、やはり決算分析が難しい側面はあります。
一方で、難しいからやらないというわけにはいきません。
──なぜでしょう。
まず、マクロな視点で考えると、産業構造の変化が各所で起こっています。20年前にはまったくなかった商品サービスがたくさんあります。
その変化の起点の1つは、みなさんご承知のとおりスタートアップです。
社会構造、産業構造が変化する中で、やはり私たち金融機関の事業構造も変わらないといけません。我々のお客様が発展していくことで、日本経済全体がよくなり、金融機関も発展していくという大きな動きであると捉えています。
また、スタートアップをお取引先ではなく、MUFGとの協業先・ビジネスパートナーとして捉える視点もあります。
新たなビジネスモデルや先進的な技術を持つスタートアップと協働することで、MUFG自身としても競争優位性の高い新商品開発や銀行内の効率化を進めることができ、ひいてはMUFGの成長に繋がることになる。自前主義に固執することなく、スタートアップとはお互いに価値を提供し合い、お客さまや社会に対して還元していきたいと思います。
──メガバンクといえば保守的な印象がありますが、チャレンジを推奨する文化は強いのでしょうか。
チャレンジする姿勢は、現行の中期経営計画でも、MUFGの役職員が共有すべき価値観の1つに位置づけています。
もちろん、挑戦すればなんでもいいということではないですが、例えば、大口の投融資を単発で行うのではなく、挑戦の「量と多様性」を担保する、すなわち、様々な新しい取り組みを積み重ねることで、ポートフォリオとしても分散し、結果としてリスクの軽減につながります。
なお、私どもMUFGグループのパーパスは、「世界が進むチカラになる。」というものです。その文脈では、将来の根幹先となるようなスタートアップを多く輩出し、日本の産業発展のために貢献すべく、総合金融グループとして共に歩んでいきたい。
そういう意味でも、我々自身がみなさんを「つなぐ」存在になるために、一歩先に踏み出さないといけないと思っています。今後のMUFGに期待いただければと思います。
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シードからポストIPOまで抜けのない支援体制を
日本発ユニコーン企業を創出するため、グローバル・ブレインとグロースファンド「SMBC-GBグロースファンド」を設立、また、インキュベイトファンドと組んだ「SMBC Asia Rising Fund」ではアジアへの投資を拡大するなど、国内外でスタートアップ支援に注力するSMBCグループ。アプリ開発の経験も多く、「スタートアップの肌感」をよく知るSMBCグループのCDIO、磯和啓雄氏に話を聞いた。
──磯和さんは経営会議役員としてスタートアップを担当しているとのこと。SMBCがグループとしてスタートアップ支援に力を入れている背景からお伺いできますか。
磯和 いまSMBCとしては中期経営計画の1年目で、3つの目標を掲げています。1つ目は「社会的価値の創造」、2つ目が「経済的価値の追求」、3つ目がそれを支える「経営基盤の格段の強化」です。
1つ目については、ご存じのとおり、日本の銀行や企業はトップラインや粗利を伸ばすだけでは、社会から企業価値を認めてもらえない時代がきています。
まだ、世間にそこを測る確固たるモノサシはないので競い合うところまではきていませんが、すでに会社の成長は、社会的価値の創造と重なる部分が多いと思います。ここを抜きに、日本の再成長もないでしょう。
そして、この「社会的価値の創造」という目標に、スタートアップへの注力という要素も入ってきます。
そもそもスタートアップに関しては、いろんな意味で社会的にケイパビリティが足りていないのではないかと考えています。
例えば、政府の「スタートアップ育成5か年計画」では、これから5年で投資額を10倍にすることが言われていますが、現状では難しいと思います。まず、それだけの投資、あるいは融資を受けるスタートアップの数自体が少ないですし、10倍の規模に見合ったエクイティを投入できるベンチャーキャピタルも、現時点ではほとんどありません。
では、そこで私たちメガバンクは何ができるのだろうか? というのが私たちに課せられた命題です。
──現状のお考えは?
私たちがこれまでやってきたのは、どちらかといえば、IPOの何年か手前にあるスタートアップへの事業支援や資金支援でした。
逆に言えば、IPOした瞬間に少し温度感が下がるんですね。
なぜかというと、先ほどの中期計画で言えば、2つ目の目標である「経済的価値の追求」の部分ですよね。上場直後の企業については、資金需要も少なくなり、どうしても熱が下がる。これは当行だけではなく、他の銀行はもちろん、証券会社さんもみな似たようなところがあると思います。
これをスタートアップ側から見れば、上場まではいろんな人がきて、共創や体制整備など力を貸してくれる。でも、上場したあとはサーッと人がいなくなる。これが、偽らざる状況じゃないでしょうか。
これでユニコーンを増やす、などということは夢のまた夢ですし、結果として、日本の経済成長も難しくなってしまう。
そこで、1つ目の「社会的価値の創造」という目標に立ち返るわけです。現状、私たちメガバンクのするべきこととして考えているのは、IPO後、すなわちポストIPOのケイパビリティをもっと広げなくては、ということです。
私たちの例として、直近ではグローバル・ブレインさんと組んで、300億円のグロースファンド「SMBC-GBグロースファンド」を設立しました。また、海外では、インキュベイトファンドさんと共同で「SMBC Asia Rising Fund」というのをシンガポールで起ち上げました。
SMBCグループ一体となって、シードからポストIPOまでシームレスにお手伝いできる体制をさらに整えていく予定ですし、どこに穴があるかを洗い出して、パーツを埋めていくこともどんどんしていきます。
──細かな話ですが、スタートアップは大手銀行で口座をつくりたいけど、審査や手続きに手間がかかるといった声があります。
じつは2、3年ほど前、まさにそうした要望を耳にしまして、SMBCでは、一度も来店せずに法人口座の開設ができる体制をつくりました。また、スタートアップを意識した施策として、口座を開くと自動的にインターネットバンキングの機能も付いてくるようにしています。
──心強い対応です。
今年4月に私がスタートアップの担当になってからは、直接スタートアップの方々のところに足を運んで直に声を聞くこともしています。
すでに半年で100社以上、訪問しました。とにかくいろんなステージのスタートアップに会おうということで、各営業店には、「シードでもいいし、ポストIPOでもいい。どんどんアポを入れてくれ」とお願いしています。
私たちは法人営業部の窓口が全国で100ヵ所ぐらいあり、そこで対象顧客となるのは、基本的に年商30億から1,000億ぐらいの間の法人です。しかし、スタートアップについては、銀行内でスタートアップ支援に特化した成長事業開発部という部署に法人営業部との兼務者を置いて、まだ売上の立っていないような会社でも、どんどんアプローチしていく体制にしています。
──磯和さん自身も、フットワーク軽く動かれているようですね。
私はもとは普通の銀行員だったんですよ。それが9年前、法人営業部長だったのですが、IT戦略部というものをつくるから部長をやれ、と急に言われたのです。そこがデジタル分野へのとっかかりでした。
IT戦略部で主にやったことは、いま「Olive」となっているアプリの現代化です。当時もアプリはあったのですが、仕様やUIがまったくなっていなかった。これらをすべてアップデートしました。
そこで実感したのが、コーディングもデザインも自前でないと上手くできないということ。結果、数人でスタートしたIT戦略部が、1年で10倍になりました。でも、10倍に増えた部分は、銀行員ではないのです。外部から出向してもらったり、委託で来てもらったり、とにかく多種多様な方たちに集まってもらった。彼らにどんどん企画してもらい、かなりアジャイルにプロジェクトを進めていったのです。
2018年からはトランザクション・ビジネス本部の決済企画部長として、法人決済が所管となりました。ここでは、BtoBtoCの領域で銀行が提供できるものが欠落していると感じたので、「Bank Pay」というアプリを開発しました。
すると今度は、このBank Payをベースにして個人送金の仕組みができるのではないかと気づいて、「ことら送金」というアプリも生まれたのです。
つまり、私自身デジタルで新しいサービスをつくるということを10年近くやってきました。
開発から、想定外の事態、そこからのレジリエンスなど、様々な経験があります。ですから何をすればスタートアップがスケールするのか、というところは肌感としてわかっている部分もあります。この蓄積が、スタートアップの方々とビジネスをするときの強みになっているとも感じています。
かつ銀行は、資金調達だけでも融資と投資の両方があって、事業開発もできるし、決済のお手伝いもできる。
とくに法人決済は非常に得意です。スタートアップも、上場前になると決済関係や経費専用カードなど、社内の体制整備が喫緊の課題になってくると思います。そここそ、まさに私たちが最も得意とする部分です。
銀行、証券会社、カード会社といった棲み分けなく、グループ一体で、スタートアップさんの資金調達、社内体制整備までを支援する。そのことが「社会的価値の創造」につながると思っています。
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取材:樫本倫子
デザイン:月森恭助
執筆:梅山景央、中島洋一
デザイン:月森恭助
執筆:梅山景央、中島洋一
〝スタエコ〟の論点
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