2023/10/3

【必見】生活者が取り入れたくなるカーボンニュートラルサービス

NewsPicks Brand Design シニアエディター
 近年、日々の暮らしの中で感じるようになった気温の上昇や異常気象。これらの主因の一つは温室効果ガスである。
 その排出を制限し、カーボンニュートラルを目指す取り組みが国際的に強く求められているが、この言葉からは大手企業のESGや国の環境政策が思い起こされやすい。
 しかし、実際には個人の日常的な行動や選択も温室効果ガスの排出に大きく関与している。
 エアコンや自動車の利用といった習慣化された行為から食品の選択に至るまで、あらゆるアクションが環境問題に対する私たちのスタンスを反映している。
Viktoria Korobova / gettyimages
 環境に配慮した生活を実践するには、習慣の束縛を乗り越えなければならないが、多くの人はそこに心理的な抵抗が生じてしまう。
 社会が理想とする取り組みと、生活者の現実的な選択との間に明らかなギャップが存在しているからこそ、「意識的な理想の実現」とは別のアプローチがいま求められている。
 その一つが、「生活者が無意識に脱炭素に貢献する方法」を模索することだ。
 気候テックカンパニーのレジルは、その実現を追求している。
 彼らが確立した「無意識の脱炭素」を可能にするビジネスモデルとは、一体どのようなものなのか──。

再エネ普及を目指しているのに、なぜ「捨てられる」?

 「脱炭素」と聞くと太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを積極的に増やしていくことを想像する読者も多いだろう。
 実際、CO2を排出しない再エネの普及は脱炭素に不可欠であり、政府は2030年度に総発電量に占める再エネ比率を36〜38%まで高めることを目標に掲げている。
 これは決して他人事ではない。再エネは現時点で原子力や火力などに比べて割高だが、再エネが普及するまでの一定期間、電力会社が再エネ事業者から電力を買い取るコストを「再生可能エネルギー発電促進賦課金」という形で我々生活者が負担している。その額は年々高まっている。
 そうまでして普及を進めているにもかかわらず、時に再エネが余って「捨てられている」のをご存じだろうか。
 電力需要は季節や時間帯によって変動する。この数年大幅に増えた太陽光発電は、時期や時間帯によっては供給が需要を上回ることも増えてきている。
 余った電気は簡単には貯められない。大型蓄電池の導入などもコストがネックとなる。
 そのため、再エネの供給が需要を上回りそうなとき、電力会社は再エネ事業者に「出力制御(※)」を要請し、作った電気が無駄になるという事態が発生している。
※電気の使用量と発電量を合わせるために、発電量をコントロールすること。電力会社から再エネ事業者などに対し、出力を停止または減らすよう要請する
 これまで電力の需給のコントロールは一部を除き、発電側に委ねられてきた。
 だが、これからは需要側も調整力を持つことで電力供給を最適化し、カーボンニュートラルの実現に近づこうとするのがレジルの発想だ。
 レジルはどんな方法でその仕組みを実現しようとしているのか。
 その説明にも関わってくるため、まずは同社の祖業を簡単におさらいしておきたい。
 2023年9月に「中央電力」から社名を変更したレジルは、創業以来、分譲マンションへの一括受電方式による電力サービスを提供してきた。
「一括受電サービス」とは、マンションを1つのグループとし、専有部、共用部をまとめて1棟単位で電力を共同購買するサービスのことだ。
 レジルがサポートする形で電力会社との契約をマンション全体の一括契約へと変更し、電力を“まとめ買い”することで、各戸の契約時に比べて電気料金を削減することができる。
 具体的には、マンションの電力調達、受変電設備(高圧の電気を実際に使用可能な電圧に変換する設備)の管理・保安、手続きや請求などの運用をレジルが担当し、マンションの共用部や各家庭の電力料金を削減する。
 特に共用部の電気料金は従来比で3〜5割減を実現するなど削減インパクトが大きく、修繕積立金の不足に悩むマンションの課題解消に貢献している。

生活者が取り入れたくなるカーボンニュートラルサービス

 レジルは約2,200棟のマンションとの取引があり、既存顧客の脱炭素化の促進や、日本全国のマンションの脱炭素化に取り組んでいる。
 「分散型エネルギーマネジメント」と同社が呼称するこのビジネスモデルを通じて、家庭から排出される二酸化炭素の約7割を占める電気とガソリンの脱炭素化に挑戦する。
 具体的な仕組みはこうだ。まずはレジルがマンションを対象に、従来の受変電設備に加え、太陽光発電、蓄電池、EV充電設備を設置する。
 戸建て住宅に比べ、マンションでは太陽光や蓄電池の導入ハードルが高く、特に屋根や設置場所の調整が難しくなるが、このサービスを利用すれば、マンション全体での再生可能エネルギーの導入が実現できる。
 使用電力のデータ収集からAIによる需給予測、蓄電池を使った電力制御まで、それぞれの設備はデジタル技術によって最適に制御される。
 蓄電池を活用した制御とは、電力使用量の少ない深夜や太陽光発電量が多い昼間など調達価格が割安な時間帯に電気を蓄電池に充電しておき、価格が高い夕方の時間帯に放電することで、調達価格を低減する方法だ。
 これにより電気料金を節約することが可能になる。
 また、太陽光と組み合わせることでさらなる効率化も図れる。
 太陽光発電は天候の影響を受けるが、レジルは翌日の太陽光の発電量やマンションでの電力使用量をAIにより予測する仕組みを導入し、効率よく電力を蓄電池に貯め、電力使用の最適化を促進する。
 これらの設備の導入にかかる初期費用はレジルが全額負担するので、マンション居住者にコストがかかることはない。
 効率的な電力の調達や蓄電池の制御が生み出すコスト削減分を充てる形で、レジルは設備代を回収する。
 このサービスは、マンション居住者に多面的なメリットをもたらす。
 わかりやすいのは、太陽光発電や蓄電池の導入により、災害時の予備電源を確保できること、つまり居住地の防災力が高まることだ。
「こうしたメリットが無意識な脱炭素貢献の入り口になる」とレジルの丹治保積代表は語る。
「消費者や中小企業向けのアンケートからは、少なくない人々が脱炭素に関心がある一方、自身の手間や負担が増えることを嫌う傾向が読み取れます。
 誰もが日々の暮らしで精一杯ですから、脱炭素社会のために生活習慣を変えてください、と正論を言われても簡単には変われません。
 だからこそ、脱炭素を実現する仕組みの中に生活者のニーズを満たすサービスを取り入れることが不可欠です。
 生活者は自分にメリットがあるからこそ、新たな仕組みを取り入れる。その結果として環境負荷の低い生活が自己負担の少ない形で実現する、そんなビジネスモデルを構築することが重要です」
「分散型エネルギーマネジメント」サービスは、地域電力の規制料金メニュー(主に一般家庭向けの電気料金プラン)と同水準に設定されていることから、多くの家庭で電気料金は従前と変わらないという。
 つまり経済負担を増やさないまま、停電や断水、エレベーターが利用できなくなる等の災害時のトラブル対策を打てるというわけだ。
 一連の設備の導入は、マンションのレジリエンス(回復力)の向上に加え、建物の資産価値の向上にも貢献し得る。
 その点も居住者にとってはメリットだろう。

日本全体の脱炭素化に向けた秘策

 レジルはこれまで多くの発電事業者と取引をしてきている。その中で日々変動する約2,200棟のマンションの電力需要に合った電源を効率的に調達するノウハウが蓄積されてきた。
 加えて、自社開発の低圧太陽光発電所や再エネ発電事業者から電力を調達し、変動する再エネ電源を積極的に活用してきた。
 今後は徐々に再生可能エネルギーの導入比率を高め、最終的にマンションでの実質的な再生可能エネルギーの100%運用を目指している。
 この取り組みが実現すれば、マンションの居住者は、家庭の電気利用や、設置されたEV充電設備を通じて電気自動車でも再生可能エネルギーを活用できる。
 まさに居住者が「無意識のうちに」脱炭素に貢献できる仕組みだ。
Petovarga / gettyimages
 同社が新たなビジネス展開を進めている背景には、長年にわたる電力業界でのノウハウと経験に加え、DX領域に精通している経営陣や社員が多数在籍していること、さらにはエネルギーテック企業やDX関連のベンチャー企業と積極的に連携を深めていることがあげられる。
 同社はDXの知見を活用して、既に複数のエネルギー事業者の業務改革などを支援しているが、今後は一層支援先を増やしていく方針だという。
 他のエネルギー事業者のDX化を支援する理由は、日本全体の脱炭素化を目指す思いから。
 レジル以外の事業者も「分散型エネルギーマネジメント」サービスを提供できるようになれば、同社だけではカバーできない日本全国のマンションや戸建て住宅、ビルなどの脱炭素化が加速する。
 レジルの丹治代表は、今のエネルギー業界の状況を、かつてのインターネットの黎明期と似ていると評す。
 エネルギー業界は未来への可能性が大きく広がっているが、従来のエネルギー大手がさまざまな課題に直面し、なかなか身動きが取れないでいる。
 その中で、気候テックカンパニーとして業界のハブとなることでビジネスチャンスを広げ、業界全体を変革していくことが、レジルが目指す世界だ。
 高すぎるハードルゆえに世間には諦めムードも漂うが、そんな空気に抗い「無意識な脱炭素」を目指す同社の挑戦は、今後も業界内外から注目を集めるだろう。