2023/9/21

【理解】なぜいつもうまくいかない新規事業

 働き方改革、終身雇用の形骸化、労働人口の減少と高齢化、副業を解禁する企業の増加、リモートワークの普及、AIの台頭、求められるリスキリング、わたしたちの働く環境は「変化という大きな波」に晒されています。それは「新しい何か」を一人ひとりが生み出すことを時代が後押ししているかのようです。

 今回は、起業や事業活動の現場から学んだ体験をもとに、新規事業家の視点から自らの思考や具体的に事業を成功に導く方法を発信している守屋 実さんのトピックス「新規事業家の、未来をつくるメモ」から、記事をご紹介します。

 これまで50以上の新規事業を生み出してきたからこそ書ける、理論や理屈ではない目の前で実際に起きた出来事をもとにされた記事には、どれも内容の重みを感じます。

 2021年10月からトピックスで執筆した記事は157本。今もなお、月に平均4本以上の記事を更新しています。その中でも、多くの人に読まれた厳選の3本をお届けします。
INDEX
  • 賢者の沼地に嵌まりに行くな
  • 企業の成長は「すべてを隠す」
  • 「意志が10割」と痛感した、失敗体験

賢者の沼地に嵌まりに行くな

 私は新規事業家として多くの経営者の方から相談をいただきます。今回は、とあるスタートアップの代表の方から相談を受けたエピソードをご紹介します。その女性の方は、事業の成功に向けて貪欲に学びを得ようとする方でしたが、「若い」「素直」「人懐っこい」という人柄からか、たくさんの方からメンター支援を受けているとお見受けしました。
 その経営者の方が私に相談してきた内容は、「今、こんな感じになっています。どうしたら良いでしょうか?」というものでした。しかし、この訊き方では、答える人に肌感覚のない領域での打ち返しであれば的を射る可能性は低くなるでしょうし、解像度の低い答えしか返ってきませんまして、彼女より年上で経験豊富であっても、彼女の事業ドメインには精通していないような「オジサン」からのアドバイスであれば尚更です。
 私は「それが彼女の迷走の背景なんじゃないか」と思いました。
 そこで、私がお伝えしたのは、「これまでいろいろアドバイスしてきてくれた方々のアドバイスを横に置いて、まっさらな気持ちで顧客との距離を詰めるべきではないか」、「私のアドバイスを訊く前に、顧客の声を訊いた方が良い」ということです。
 アドバイザーが顧客でない限り、経営判断における影響力は「顧客 > アドバイザー」であるべきかと思います。そして、彼女がその事業の代表者であるなら、誰よりもその事業について詳しいはずで、「あなた > アドバイザー」でもあるのです。
 「ヒトの経験談、他者から借りてきた小理屈を、深い思考とセットにせずに、うわべを単純参照すること」は悪手中の悪手で、あなたの事業は、あなたにしか判断できないのです。「アドバイザーのアドバイスに従う前に、自分で考え出した答えに従った方が良い」、「賢者の沼地に嵌まりに行くな」というお話をさせていただきました。
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企業の成長は「すべてを隠す」

 スタートアップ企業は、「急成長」から「ある日突然暗転」という変遷を辿ることがあります。今回はこのメカニズムを解説します。
 ここで言う急成長は、前年比300%成長というような桁が外れた急成長を遂げる時期を指します。そして、この裏に潜む無理が限界を超えたとき、ある日突然モメンタムが反転して凋落が起きてしまいます。
 まず、事業において現れる兆候は、顧客に関する部分で色濃く表れます。事業の開始当初は、事業規模が小さいために顧客との距離が近く、自分たちと近しい距離にあるターゲットから顧客化している場合があります。加えて、新しいものに反応しやすいイノベーターやアーリーアダプターが顧客である場合、自分たちが提供するサービスや商品を応援する気持ちをもっています。
 しかし、事業が成長していくと、顧客が「アーリーマジョリティ」に変化をしてきます。たいていの場合、そこにはこれまでの顧客との差分があり、「応援の気持ちとは違う、懐疑的な見立てが混じってくる」ことがあります。そこに向き合う余裕がないと、知らず知らずのうちに、顧客の満足に不足が生じてしまうのです。
 また、事業の成長過程において、働くヒトの問題も大きくなってきます。私は「起業における最大の難所はヒトと組織の問題」だと思っています。急激に成長する事業、拡大する組織、複雑化し高度化するエトセトラ、これらが一度に短期間で起きると、会社と各個人の成長の足並みが揃わないことがあります。会社だけが成長してしまい、個人の成長が追いつかず、不具合が起きてしまうのです。
 さらに、組織が大きくなれば社内に古株のメンバーと新たなメンバーが混在し始めます。実はそこに大きな差分が存在します。古株の人は「先もまったく見えていないけど、ワクワクする」と夢に賭けて飛び込んできた人です。一方、新たなメンバーは「事業がキラキラした急成長、条件も悪くない」と諸条件を踏まえて入社した人です。
 この差分は、良さを生むだけでなく、悪さを生むこともあります。古参役員と、新マネジメント層の想いのズレなどは、避けることができない難所と言えるでしょう。
 とはいえ、今回挙げたような現象は急成長の企業には付き物です。ではどうしたらよいか。それは、これらは起きるという前提のもと先手先手を打ち「備える」ことだと思います。成長は「すべてを癒す」ではなくて、「すべてを隠す」ということがあることを忘れずにしてもらえればと思います。
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「意志が10割」と痛感した、失敗体験

 いまから7~8年前、まだ新規事業家を名乗っていなかったころ、とある大企業から新規事業の相談に乗って欲しいという案件を受けた話をご紹介します。
 内容は「飛び地の新規事業、予算総額25億円、5事業同時立上げ」という肝入りで、5つの対象市場はすでに決まっており、私の役割はそれぞれの市場の事業責任者5人との壁打ちの想定でした。
 しかし、その実態は「挑戦」とは程遠い「保身と偽り」の顛末でした。
 まず、今回の取り組み全体の責任者である本部長の方は、最初の顔合わせから欠席でした。また、各事業責任者の5人もひとしきりの挨拶ののちにさっさと退席してしまいました。初対面から僅か30分後の会議室に残ったのは事務局の方と私のみになりました。
 そして、事務局の方から改めて説明を受けると、実は5人の事業責任者は全員兼任で、本業があり、主従でいうと圧倒的に本業が主、新規事業が従とのことでした。さらに、実際に事業開発に取り掛かる時間はほぼ無く、事業立ち上げまでに実質あと3カ月しかないという状況でした。
 早くカタチを整えないとまずいと思い、私は「本気でやれば道は拓ける!」という想いで具体的な壁打ち日程などを詰めていきました。しかし、その新規事業責任者は5人ともやる気がなかったのか、私との壁打ちを理由をつけて休むのです。これでは間に合わないと思い、事務局の方に「意図してスキップさせているとしか思えない状況の背景」について聞いてみました。
 すると「担当者の5人は何とかして事業を立ち上げずに逃げ切ろうと思っている」との答えが返ってきました。社内の評価は減点法なので、新規事業を手掛けて失敗したら✕がついてしまうので手掛けないことが賢明と考え、実際、その事業責任者5人は全員優秀で出世レースから外れていないので、今後も外れないように減点評価を何が何でも回避したい、という理由とのことです。
 なぜ私はこの仕事をOKしてしまったんだ。話を聞けば聞くほど絶望感が深まりました。そうしているうちに、5人の事業責任者にやる気を持たせることができないまま、いつしか私自身もやる気を失い、私は業務委託最終日を迎えるのを待つだけの、どうしようもない伴走者に成り下がってしまいました。
 これは私の大失敗談ですが、同時に最大の学びともなりました。
 意志が起点であり、意志がマスターリソースであり、意志が10割なのです。私が「意志」に執拗に拘るのは、この原体験がベースになっているのだと感じます。
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「30年あまり新規事業一筋でやってくると、「たびたび見る景色」があり、残念ながら、必ずうまくいく必勝法は未だ分からないのですが、こういうことをやるとマズいのだなということは、いくぶん分かってきました」と話す守屋さん。
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