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上場後初めての買収案件は吉と出るか凶と出るか

リクルートは、豪州でリンクトインに勝てるのか?

2015/3/26
Weekly Briefingでは毎日、ビジネス・経済、メディア・コンテンツ、ワークスタイル、デザイン、スポーツ、中国・アジアなど分野別に、この1週間の注目ニュースをピックアップ。Weekly Briefing(Eyes on Japan編)では、世界のメディアが日本のニュースをどう伝えたかについて、各国のメディアからピックアップします。

最近、オーストラリアで“買い物に浮かれている”と豪州人が言う日本企業の一つが、リクルートホールディングスだ。

同社は、1月にオーストラリアでは第二位の人材会社「Chandler Macleod(チャンドラー・マクラウド)」とIT派遣分野に強い「Peoplebank(ピープルバンク)」の2つの人材会社へ買収を提案した。リクルートが提案した買収合計額は、3億5860豪ドル(約338億円)だ。

今年入り、オーストラリアでは企業のM&Aが活発化している。特にオーストラリアが海外企業に買われるケースが増えている。金利の下落、GDPの低成長や商品価格の引き下げなどが、“割安感” を海外投資家に与えている。

しかし、リクルートにとって、このディールが成立したとしても、オーストラリア市場で成功するのは容易ではないだろう。

実は、この買収提案の時点で、チャンドラー・マクラウドの株価は過去4年で最安値近くに低迷していた。お世辞にも、同社は成功している会社とはいえない状況にある。

Pick 1:リクルートは、豪・大手人材会社を苦境から救い出せるか?

From The Australian and the Australian Financial Review.

オーストラリアの大手メデイア「The Australian」には、「リクルートはようやくチャンドラー・マクラウドを引き継いでくれた。買収後の、業績、利益に期待する」と報じた。

2005年、チャンドラー・マクラウドは、人材業界を再編するという野望を抱いて、オーストラリア証券取引所に上場した。初値は1豪ドル(その時点約83円)を付けたが、2006年と2007年の短期間を除き、チャンドラー・マクラウドの株価はIPO時の水準を上回ったことがない。特に近年は低迷が続いており、30豪セント(約28円)と50豪セントの間で取引されている。

3月25日、チャンドラー・マクラウドの株主は、リクルートによる「1株=53豪セント」という価格での買収提案について投票を行った。オーストラリアの大手メディア「Sydney Morning Herald」によると、多くのアナリストはチャンドラー・マクラウドの株主は圧倒的賛成を集めることを、期待していると報じた。

また、株主に承認された場合、チャンドラー・マクラウドは4月中旬までにオーストラリア証券取引所(ASX)で上場廃止となり、リクルートの傘下に入る見込みだ。チャンドラー・マクラウドの最高経営責任者(CEO)はリクルートの買収提案について、「我が社の今の状況を鑑みれば、適正価格だ」と語っている(The Australian Financial Reviewより)。

しかし、業界2位のチャンドラーは、上場後の10年間、なぜ、経営が軌道に乗らなかったのだろうか?

Pick 2:オーストラリア大手企業は採用ツールを「LinkedIn」に限定しつつある

From the Australian Financial Review.

近年、チャンドラー・マクラウドは、厳しい事業環境にさらされている。

同社は2000年から10年続いたオーストラリアの鉱業ブームに乗った会社だ。その結果、チャンドラー・マクラウドが紹介する人材(候補者)の大半は鉱業界の人材であり、同業界の派遣ビジネスに依存している。

しかし、「The Australian Financial Review」によると、2010年以降に鉱業ブームが幕を下ろすと、「BHP」 や「Rio Tinto(リオ・ティント)」などの大手鉱業企業はコストカットに力を注ぎ始めた。これらの企業が最初に行ったコストカット策のひとつは、チャンドラー・マクラウドなどの人材会社の利用を中止することだった。

オーストラリアを含む欧米では、人材紹介および派遣会社を利用する人や企業はそもそも多くはないが、最近ではますます減少する傾向にある。なぜなら、「LinkedIn(リンクトイン)」などのSNSを利用して、就職・転職活動をする人が急増しているからだ。

たとえば、オーストラリアの大手銀行「ANZ(オーストラリア・ニュージーランド銀行)」は、採用をリンクトイン経由のみで行う制度の導入を検討している。また、オーストラリア最大の通信会社「Telstra(テルストラ))」には、昨年1年間だけで、リンクトイン経由で1万5000もの応募が寄せられたという(The Australianより)。

リンクトインなどを介した、「SNS採用」は欧米を中心に増えている。オーストラリアの人材SNS「Launch Recruitment」によると、現在、オーストラリアでの採用の59%がSNS経由で行われている。また、リンクトインが2014年12月に行った「2015 Global Recruiting Trends」調査によると、ヘッドハンティングなどにより潜在転職者層を採用する場合、アメリカの企業の72%が、オーストラリアの企業の49%が、SNSを介したリクルーティングを行っているという。

また、日本郵政によるトールへの買収提案にかぎらず、近年、日本の企業がオーストラリアの会社を買収する流れが定着してきている。

たとえば、キリンホールディングスは2009年に33億豪ドル(約3200億円)でオーストラリアのビール大手企業「Lion Nathan(ライオン・ネーサン)」を買収。その他にも数社のオーストラリアの乳製品会社も買収した。

さらに、2011年、アサヒビールは11億豪ドル(約1000億円)でオーストラリアの清涼飲料大手「Schweppes Australia(シェウェップス・オーストラリア)」を買収。それに続き同年に、10億20万豪ドル(約1020億円)でアルコール飲料大手「Independent Liqour(インディペンデント・リカー)」のカクテル飲料部門も買収した。

また、保険業界においても、2010年に第一生命が12億豪ドル(約1100億円)で「Tower Australia(タワー・オーストラリア)」を買収している。これらのM&Aは、オーストラリア国内ではいずれも成功例と見られている。

リクルートもこれらの成功例に続けるか?LinkedInが人材採用の圧倒的な手段になりつつある豪州で、人材会社の存在意義を発揮することはできるのか? リクルートのPMI(Post Merger Integration経営統合)の力量が試される。

※参考:海外子会社にリクルート流経営を導入する方法