(ブルームバーグ): ソフトバンクグループ傘下の半導体設計会社、英アーム・ホールディングスの新規株式公開(IPO)主幹事に、米欧の大手投資銀行とともに名を連ねたみずほフィナンシャルグループ。世界で今年最大と目されるIPOに一役買うことができた背景には、ソフトバンクGとの長年にわたる蜜月関係がある。

ソフトバンクGに長年尽くしてきたご褒美ディールだ。ある外資系投資銀行の幹部は、みずほの主幹事入りをやゆしてみせた。

米ゴールドマン・サックス・グループ、JPモルガン・チェース、英バークレイズの欧米有力投資銀行と並び、投資家への販売を担う主幹事4社の一角に食い込んだ。ブルームバーグの試算によると、みずほには最大1830万ドル(約27億円)程度の手数料が入る見通しだ。これはアームが目指す最大52億ドル規模の調達額に基づく。

孫氏とは40年来の関係

みずほとソフトバンクGの関係は、孫正義社長がスタートアップとして創業して間もない約40年前にさかのぼる。2016年のアーム買収では、買収資金約3兆2000億円のうち手元資金で対応できなかった1兆円分をみずほ銀行が単独のブリッジローンで提供。06年の英ボーダフォン・グループの日本法人買収や13年の米スプリント買収でも資金の出し手を担った。

ソフトバンクGはボーダフォン買収でモバイル・インターネットの世界に入り、スプリント買収では米アップルから「iPhone」買い入れのバーゲニングパワーを手に入れた。アーム買収で半導体設計の分野に進出し、情報技術(IT)や人工知能(AI)の革新を目指す投資会社へと姿を変えていった。

顧客が取る新たなリスクに及び腰になりがちな邦銀の中で、孫氏がビジネスモデルを転換したり、他の企業や産業が手掛けてこなかった分野に踏み出したりするたびに、資金面でバックアップしてきたのがみずほだった。

ソフトバンクGの株主招集通知によると、みずほ銀は23年3月末時点で6085億円と最大の貸し手だ。複数の関係者によると、みずほのグループ内には、ソフトバンクGに対するエクスポージャーが過大との懸念もくすぶるが、手綱を緩める気配はない。

同関係者らによると、みずほ銀はソフトバンクGとそのグループ企業をカバーするため、東京に10人規模の専門部隊を置き、みずほ証券の担当者とも連携。グループトップの木原正裕FG社長が自ら直接、孫氏に対応しているほか、役員・幹部も日常的にソフトバンクGとの関係構築に努めている。

みずほFGの広報担当者は、個別案件についてはコメントできないとしている。ソフトバンクGの担当者はコメントを控えた。

米国での成長

しかし、他の案件でも主幹事に名を連ねていくには、海外の有力投資銀行との厳しい競争を勝ち抜いていく必要がある。

 ブルームバーグのデータによると、今年の米国株式と同関連商品の引き受けランキングで、みずほは現在10位と年間で過去最高位となる勢い。まだアームの案件などは含まれていない。22年は13位、21年は16位だった。今年の米国社債販売でも10位と昨年の13位から順位を上げている。

みずほは世界最大の資本市場である北米事業に経営資源を投入し続けてきた。15年に英銀ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS、現ナットウエスト・グループ)から北米ホールセール事業の貸出資産などを取得して人員も採用。19年には投資銀行部門のトップにロイヤル・バンク・オブ・カナダ(RBC)で同部門幹部だったミチャル・カッツ氏を迎え入れるなど、ライバルからの有力幹部の引き抜きや企業買収を繰り返して事業を強化してきた。

みずほFGの武英克執行役は6月の投資家向けイベントで、世界の市場規模の約3分の2を占める米国で、「プレゼンスを高めていくことは大変重要だ」と強調。同地域での事業の成長をけん引してきたDCM(債券ビジネス)に加え、今後はECM(株式ビジネス)を強化する姿勢を鮮明にした。

みずほFGの米証券部門の前期(2023年3月期)の経常利益は978億円と過去最高を記録した。同部門全体の利益の88%を占める。金額は既に野村ホールディングスや大和証券グループ本社の国内大手を上回る。今年5月には企業の合併・買収(M&A)助言を手掛ける米グリーンヒル買収も決めた。 

     ただ、国内ではリテール収益の大きさなどで、ライバル金融機関の後塵を拝する状況が続き、海外でもアジアでは出遅れが目立つ。次第に競争力が付いてきた北米で、アームIPOでの主幹事獲得をさらなる業容拡大につなげられるかが問われる。

松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリストは、アームのIPOで「うまく立ち回り、他社並みの販売力を見せ、問題を抱えずに売り切れば評価は上がるだろう」と指摘。今回の主幹事業務は、みずほの今後の評価を左右するイベントになるとみている。

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--取材協力:Gillian Tan、Amy Or、Min Jeong Lee、Liana Baker.

(第9段落にソフトバンクG担当者のコメントを追加して更新します)

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