2023/9/22

【LINEヤフー】デジタル広告の限界を超える、最新マーケティング手法

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突然ですが、質問です。
多くの方が、広告を通じて素晴らしい商品やサービスに出会った経験を有していることでしょう。
結果の数値化・分析が難しいマスマーケティングと比較し、細部まで数値化でき検証可能なデジタルマーケティング。
リターゲティングやデータトラッキングなどのデジタル技術の向上によって、より最適化された広告が私たちの目に届くようになりました。
一方で、私たちが接する情報には偏りがあり、新たな商品やサービスに出会う機会は相対的に減少している。そんな側面もあるのではないでしょうか。
そんな中、Yahoo! JAPAN(現LINEヤフー、以下同)が新たなマーケティング手法として打ち出したのが、生活者が意識していない「潜在関心」を捉え、無関心層と顕在層の間に存在する「真の潜在層」にアプロ―チできる「セレンディピティ・マーケティング」です。
生活者には、どんなメリットがもたらされるのでしょうか?
そして、事業会社やマーケターにはどのようなインパクトを及ぼすのでしょうか?
今を動かす知と出会う『NewSession』。今回は「狙いは”潜在関心” Yahoo! JAPANのデジマ最前線」と題し、マーケティング業界のプロフェッショナル3人を招聘。
明日から使える新たなデジタルマーケティング手法の可能性について、議論を交わしました。
本記事では、番組の様子をダイジェストでお送りします。

費用対効果が右肩下がり、広告の現状とは

──現在、日本のデジタル広告業界はどのような課題を抱えているのでしょうか。
宮村 課題は2つあります。
宮村 壮/ヤフー株式会社 マーケティングソリューションズ総括本部 営業推進本部 販売推進部長(取材当時)
1つ目は、生活者にとって偶発的な出会いが減少していること
背景として、「フィルターバブル現象」の広がりが挙げられます。生活者がまるで泡に包まれたように、フィルタリングされた偏った情報だけが表示されるような状況ですね。
偶然の新しい出会いをつくることが、マーケティングが持つ大きな役割の一つだと思いますが、近年それが崩壊してきている。
出会いをつくるメディアとして大きな力を持っていたテレビCMですが、近年テレビ離れの傾向が見られ、デジタル広告はそれを十分に補完できていません。
2つ目の課題は、広告の費用対効果が明らかに落ちてきていることです。
ブランディング領域では、広告投資に対して年々効率が悪化し、画一的な手法では世の中で話題になる広告キャンペーンの実行が困難になってきています。
 日々の業務の中でも、認知や話題化が難しくなっていると強く感じます。
辻 愛沙子/株式会社arca 代表取締役社長
奥谷 おっしゃる通り、広告は年々効率が悪くなっていますよね。
「広告費を最適にアロケーションしたいけれど、どう最適化すべきかわからない」といった課題を抱えるマーケターは多いと思います。
奥谷孝司/オイシックス・ラ・大地株式会社 専門役員COCO

現状打破の一手「セレンディピティ・マーケティング」

──従来の手法が非効率化していく中で、何が打開策となり得るのでしょうか。
宮村 「偶然の新しい出会い」がキーワードになると思っています。我々はそれを、思いがけない出会い、何気ない出会いという意味を持った「セレンディピティ」という言葉で呼んでいます。
宮村 曖昧なニーズや機微を捉えることは、手法論として非常に難度が高い。
そこを「ニュース閲覧」という行動データを活用することで突破できないか、という取り組みが「セレンディピティ・マーケティング」です。
例えば、検索するほど引っ越したいわけではないが、「住みたい街 5選」みたいな記事はなんとなく読んでいる。そういった緩やかなモチベーションを、ニュースの閲覧行動から捉え、そこにアプローチできると思っています。
──セレンディピティ・マーケティングの可能性を示す5つの事実があるんですよね。
宮村 はい、こちらが、弊社で分析した結果わかったことです。ニュースの閲覧を「潜在行動」、検索行動を「顕在行動」と定義しています。
宮村 例えば、自動車のニュースを見ている人は、高確率で同時期に自動車の検索もしていると思いますよね。
しかし実は、潜在関心層と顕在層の重複率は10%以下で、自動車の検索をしていないけど自動車のニュースは見ているユーザーがたくさんいる。
つまり、潜在関心層のボリュームがしっかり担保されていることがわかりました。
──それを受けて、奥谷さんと辻さんに伺います。
潜在関心と顕在行動の違いや、まだ訴求できていない潜在関心層がいるという実感はありますか。
奥谷 ありますね。弊社のサービス(食品のサブスクリプションサービス「Oisix」)を求めるユーザーの潜在的なニーズはいくつかあって、例えば「子供に安心安全なものを食べさせたい」、「家事を効率的にしたい」というものです。
定期的にユーザーへのインタビューを実施しているので、認識している潜在ニーズもあるんですが、バナー広告や、5秒や数十秒のCMでは訴求しきれないんです。
自分たちが助けになれる顧客がいることは分かっているんですが、どうしても接点を作るのが難しい。
 ブランディングか獲得か、みたいな話がよくあると思います。伝えたいメッセージか効率か、という表現も近いですね。
 獲得を追求してPDCAを回していくと、例えば、コンプレックス訴求など直接的なものになりがちです。でもそれは本当に伝えたいメッセージなのか。いつも悩んでいます。
クリエイターとしては、ブランディングで物が売れるコミュニケーションをしたい。その方がブランドを好きになってもらい、長く続くお客さんになりやすいためです。
その観点で、セレンディピティ・マーケティングを活用すると、本当にかゆい所に手が届くマーケティングができるようになるだろうなと思いました。
 性別や年代で切り分けるのではなく、顕在化していない価値観や生き方、多様化するひとりひとりのニーズをちゃんと捉えて、「こんな痛みがあるんですね。これで解決できるかもしれません」と寄り添える。
広告は約7兆円の予算がある市場です。
7兆円という莫大な資本を、少しでも良い使い方をしたいという思いで日々活動しているので、ニュースあるいは社会と広告が近くなるというのは、本当に意義のある取り組みだなと思いますね。

曖昧な価値観の可視化が、広告を変える

宮村 記事の閲覧は価値観ベースの行動なので、社会性の高いテーマや生活者の悩みは、ニュース記事との親和性が高いですよね。
Oisixに関連して家事というカテゴリーを例にとると、Yahoo!ニュースには「ワンオペ育児」や、「主夫」などのテーマがあり、そのテーマ関連のニュースを閲覧している層を捉えることができます。
宮村 また、ほかにも新規事業を始める時、特定の社会課題やテーマに関心を持っている層が、自社ブランドや他社ブランドとどのくらい重複しているのか、規模はどのくらいなのか、そういった調査の材料としても、相性がいいと感じました。
 その活用方法は、とても助かります。
弊社はまさに、「クリエイティブ・アクティビズム」と題して、社会課題を軸にした企業のブランディングやコミュニケーションに取り組む会社なので、ど真ん中で力を借りたい部分です。
多様性や社会課題に取り組む商品のニーズは間違いなくあるんですけど、現状は「ソーシャルグッド」という、とてもふわっとした軸で語られがちなんです。
そこを数値化して「潜在的だけど、実はこんなニーズがあります。」と可視化できると、納得感を得られやすくなります
宮村 セレンディピティ・マーケティングによって、これまでと異なるユーザーの捉え方ができると思いますが、ユーザーへのアプローチはどのように変わると考えられますか。
 例えば化粧品は機能と世界観が重要視されがちな商材です。生活者目線に立つと、特に機能訴求的な「発色がいい」とか「ここが安い」とか、どうしてもそういった言葉が前に出ます。すると当然、機能で比較されて選ばれるんですよね。
そうすると、「動物実験をしない」とか「ビーガンにこだわって作っている」とか、安さよりも大切にしている価値観がある素敵な商品も、デジタルの世界では機能で戦うことを求められます。
機能や値段ではどうしても大手に勝てないところが、より価値観を軸にマーケティングできるようになると、すごくいいなと思います。
宮村 ありがとうございます。
奥谷さんには、ブランドが抱える葛藤についてお聞きしたいです。事業会社では、社内の宣伝部とデジタル部でKPIが異なるため、部署同士が繋がっていなかったり、やっていることが矛盾したりすることが往々にしてあると思います。
そういった場面で、セレンディピティ・マーケティングを活用できるポイントがあればご意見を伺いたいです。
奥谷 部署間のコミュニケーションにも応用可能だと思いますね。
デジタルでの獲得をKPIに持つ人と、ブランディングにKPIを持つ人では考え方は異なります。それはデジタルと比較してブランディングが数値に落としにくいことも一つの要因としてあります。
セレンディピティ・マーケティングにより、これまで数値として落とし込めなかった部分が明確になることで、相互理解が進みますし、デジタル側が見るデータや視点も増えて好影響が出ると思いますね。
──改めて本日ここまでの議論を振り返って、いかがでしたか。
奥谷 今後、曖昧なこともデータによって示せるような分析手法やAIが加速するのがすごく楽しみになりましたね。
ただ、テクノロジーが進化する中で自分たちが受け身でいたら真の顧客課題解決にならないと考えているので、仮説を持って適切なマーケティングができるように努力していきたいと思います。
 デジタル広告は、もちろん功罪どちらもあると思っています。課題や効果を見える化して、最適なマーケティングを再現性を持って実施できるようになったことがデジタルの優れたところです。それは説得材料になるし、共通言語にもなる。
一方で、最適化だけではない人間の好奇心とか、あるいは新しく生まれる偶発性を信じることも大事だと考えます。改めてセレンディピティ・マーケティングを勉強してすぐに活用したいと思います。
宮村 ありがとうございます。
広告は嫌われ者として扱われている側面もありますが、「セレンディピティ・マーケティング」は、その解決策にもなると思っています。
生活者が「こんな素敵な提案をしてくれるんだ」と思えるような、広告というよりは一つの提案してくれる情報として、しっかりと機能させたい。そして素敵な出会いをもたらしていく。そんなマーケティングの未来を創っていきたいと思います。
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