2023/9/14

【必見】学習効果を高める「振り返り」の極意

NewsPicks Brand Design シニアエディター
 人間の働く期間が確実に伸びていく、人生100年時代。会社が個人の雇用を保障する時代は終わり、求められるスキルの変化も加速している。
 多くのビジネスパーソンは、長い人生の中で、キャリアシフトを重ねながら自らの市場価値を高めていくことが求められている。
 だが、ビジネス環境の変化に対応すべくさまざまな方法で学習を続けながらも、その効果を十分に実感できていない人は少なくないだろう。 真に血肉となりビジネスに活かせる学び方と、そうならない学び方の差はどこにあるのか。
 実践的なカリキュラムで知られるグロービス経営大学院教員の山岸園子氏が、学びをビジネスに活かす「実践力」を獲得するための要諦を解説する。
株式会社リンクアンドモチベーションにて人材育成や組織風土変革を担う部署にて施策提案・実行に従事した後、若年層向け教育サービスを提供する新会社立ち上げを担当し、サービス企画・営業企画・採用育成などを推進。その後グロービスに入社。現在はビジネススクール部門のディレクターとして、マーケティングや学生募集企画の戦略策定・実行などを務めている。同時に、リーダーシップ開発と倫理・価値観、クリティカル・シンキングなどの教員、また志領域の研究・コンテンツ開発も行っている。

学びをビジネスでの実践に接続するためには

「リスキリング」という言葉の一般化が象徴するように、近年学び続けることの重要性が各所で叫ばれている。だが、どういう姿勢で何を学べば良いか迷っている人もいるだろう。
 グロービス経営大学院で「クリティカル・シンキング」などの授業を担当する山岸氏は次のように話す。
「ビジネスシーンの最先端の事象を学ぶことももちろん大事ですが、他方で、時代や業種・業界を問わないベーシックな思考法や普遍性の高いビジネスの原理原則を学ぶことのほうが優先順位は高い。グロービス経営大学院には、マーケットから求められ続ける人材となるうえで、学ぶ内容の優先順位を意識している学生が多くいます」(山岸氏、以下同)
 ただし、普遍性が高いことをインプットし続ければ、自然とビジネス実践力が磨かれるわけではない。
「“わかる”と“できる”は違う」と山岸氏は指摘する。
 学び得たことを活かして議論する、他人に教える、仕事で試す、といったアウトプットを繰り返すことで、場面に応じて学びを行動に落とし込む力が磨かれ、“わかる”が“できる”に変わっていくという。
 グロービス経営大学院では、学生が教材やケース(企業事例)を事前に読み込み、「自分が経営者やマネジメントの立場だったら」とケースの主人公になり切って考え抜いた状態で授業に臨む。
 授業ではグループワークやクラス全体討議を重ね、さらに教員やクラスメートからのフィードバックを得ることでアウトプットの質を高め、学びを現場で活かすビジネス実践力を高めていくという。

グロービスが重視する「振り返り」のプロセス

 ビジネス実践力を養うにあたって、授業を受けた後に徹底すべきことがある、と山岸氏は話す。
「グロービスのカリキュラムでは、学んだことを自分の頭で考え直し、言語化するプロセスを重視しています。その表れとして、次の授業までの間に、授業での学びや実務で活用した内容を振り返り、ディスカッションボード(※)に投稿することを仕組み化しています」
※ディスカッションボード:教員とクラスメートに限定された学習コミュニティサイト。振り返り投稿は総合評価の対象にもなる。
  グロービスでの「振り返り」の進め方は次の通りだ。
 まずは自分1人で授業での学びを言語化し、振り返り投稿を行う。
 その後、自主的な勉強会などでクラスの仲間が集まり、授業での学びや疑問点をディスカッション。
 さらに、次の授業の冒頭で、前回の授業での学びや実務で活用した感想について教員も交えて意見交換する。
 自らのアウトプットに対し教員やクラスメートからフィードバックを得ることで、自分自身ではなかなか見えない思考のクセ(先入観や業界の常識などのバイアス)に気づけるところに振り返りの意義がある。
 ただし、やみくもにアウトプットすれば良いわけではない。
  学習効果を高めるためには、次の4つのステップを意識しながら振り返り進めることが不可欠であり、中でも重要なのが「抽象」と「具体」のプロセスを行き来することだという。
「例えば、経営戦略に関する授業で日本の鉄鋼メーカーのケースを学んだとします。でも、自分がまったく異業種の教育機関に勤めていたとすると、ただ言語化しただけでは、授業で学んだ鉄鋼メーカーの戦略を実務で活用することはできません。
 そのケースから学んだことについて一度抽象度を高めて言語化する。その上で、具体的に自分の業界に当てはめてみながら、実務でどう使っていくべきかを考える。この『抽象』と『具体』のサイクルを愚直に行えるかどうかで、学びの習得度合いが変わってきます」
 今回、グロービス経営大学院の卒業生にもアンケートを実施したが、その中には山岸氏が指摘する点の重要性に触れた回答も見られた。
卒業生から寄せられた授業のエピソード
 ここからさらに高次元の振り返りでは、学びを自らのビジネスで実践したときに想定されるリスクや課題をできる限り洗い出し、それらの「難所」を乗り越えるシミュレーションを行う。
 そこまでやってはじめて「意味のある振り返り」になるという。
 こういった振り返りのプロセスが「仕組み化」されているところに、グロービスの実践性を重視したカリキュラムの特徴が表れている。

現実のビジネスの世界で求められる「瞬発力」

 山岸氏は、学びを「ビジネス実践力」へと高めるためのポイントをもう一つ挙げる。それは「瞬発力」だ。
「じっくり時間をかけて熟考する振り返りとは逆に、その場で出された問いに対して瞬時に反応し、答えを出す力が瞬発力です。この両者が揃わないと、本質的な思考力は高まらないと考えています」
 グロービスでの3時間の授業は、とにかく速いテンポで進行していく。そして、教員の問いかけに対して学生の挙手するスピードも速い。各自が瞬発力を意識し、考えながら手を挙げているのだ。なぜそうしているのか。
「ビジネスの世界には、必ず時間的な制約が存在します。例えば、会議で上司から突然意見を求められたり、営業の場面で取引先から思いもよらぬ質問をうけたり。じっくりと論理的に思考を深めたいのは山々ですが、必要な情報や根拠が揃わない中で答えを求められる場面も少なからず訪れます。
 だからこそ、授業ではあえて限られた時間の中で、自分なりの意見を絞り出すトレーニングをしています」
  得手、不得手にかかわらず意思決定のスピードが求められるマネジメント層も同様だ。
 インプットした知識を、自分の中で再現できるまで根気よく考え抜き、思考を掘り下げる「振り返り」。プレッシャーのかかる場面で瞬時に意見を絞り出す「瞬発力」。この両者を鍛えることではじめて「ビジネス実践力」が磨かれていくという。

「ビジネス実践力」の磨き方を学ぶ60分

 グロービスでは定期的に「体験クラス」を開催しており、アウトプット重視のクラスを体験できることが特徴だ。
「体験クラスでは、60分という短時間ながらも、自分の考えを発言する機会や、4人~5人でグループワークを行う時間をできる限り設けています。
 また、オンラインの体験クラスではチャットも使ってアウトプットを行うのですが、チャットの場合は発言する心理的なハードルが低く、より気軽にアウトプットにチャレンジすることができます」
 初対面の人が集う中で発言するのは、慣れていない人にとっては勇気のいることだ。
 ただ、山岸氏は「ビジネスに絶対の正解がないように、授業での発言にも正解はありません。まずはアウトプットすることを怖がらず、楽しむくらいの気持ちで参加してほしい」と語る。
「思い切って意見を述べてみると、それが自分の中で一つの成功体験にもなる。その成功体験を積み重ねることで『自分でも変われるかも』『成長できるかも』というポジティブな実感を持つことができます」
 グロービスの体験クラスでは、もう一つの体験が待っている。異業種の「仲間」との出会いだ。
 これまで8,640名もの卒業生(2023年5月現在)を送り出してきたグロービスには、業界、年齢、職種、ポジションを問わず多種多様な人材が学びに集う。
 ビジネス界のみならず、医師や弁護士、さらに現役のアスリートまでさまざまだ。
「自分にとっては普通の意見であっても、業種や職種の異なる人にとっては新鮮に響く、ということはよくあります。逆もまたしかりです。異質の価値観や考え方に触れ、フィードバックを受けることで、学びの質は2倍にも、3倍にも高まります。また、同じ組織の、同質的な価値観の人間と接しているだけでは得られない刺激を得ることができます」
卒業生から寄せられた体験クラスのエピソード
  グロービス経営大学院では、次の3点を教育理念の柱に掲げている。
① 理論と実践を融合した能力開発の場
② 生涯にわたる人的ネットワーク構築の場
③ 自らの志と生き方(キャリア)を見つける場
 目的を持って学びを深めようとするビジネスパーソンに、錆びない知識と実践的なスキルを磨ける機会を提供し、能力の開花を後押しする。
 また、一緒に学び合う仲間の存在が、学びの質を何倍にも高めてくれる。さらに、ここでの学びと仲間の存在が、人生の大きな志の発見につながっていく。
「ビジネス実践力」の獲得にも直結するこの3つの柱が有機的に絡み合うのがグロービス経営大学院であり、そのエッセンスが「体験クラス」で実感できるという。
「私もかつてグロービス経営大学院でかけがえのない仲間たちと出会い、切磋琢磨しました。その2年間は、私の人生にとって、とても大きな財産となっています。そういう場であることは、体験クラスでも感じ取っていただけるはず。ぜひ気軽に参加していただきたいです」
 なお、グロービスでは時代の変化を見据え、2016年より「テクノベート(テクノロジー×イノベーション)」という概念を提唱し、他のビジネススクールに先駆けてカリキュラム化している。
 テクノロジー系のスタートアップへの投資・経営支援の知見も活かし、テクノロジーの実装力やクリエイティビティを磨くための実践的な科目を設けている。
 このテクノベートに興味のある人も、この体験クラスの機会に教員陣に聞いてみるといいだろう。