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Weekly Briefing(スポーツ編)

記者陣を魅了したハリルホジッチ監督の「プレゼン力」

2015/3/22
Weekly Briefingでは毎日、ビジネス・経済、メディア・コンテンツ、ワークスタイル、デザイン、スポーツ、中国・アジアなど分野別に、注目ニュースをピックアップ。日曜日はスポーツに関するニュースを紹介します。

Pick:日本代表新監督が招集メンバーを発表

ハリル監督、17分独演会! 異例ずくめの発表 スポーツ報知(2015年3月20日)

3月19日、文京区の日本サッカー協会において3月下旬の親善試合に向けた日本代表メンバーが発表された。

通常は会見前に招集メンバーが記載されたリストが配られ、監督があらたまって選手の名前を読み上げることはない(読み上げるのはW杯メンバー発表のときのみ)。

だが、ハリルホジッチ監督の流儀は違った。監督自らが席を立ち、スクリーンの前に立って選手の名を告げたのである。

1時間におよんだ会見後──。

優雅なパフォーマンスに魅了され、出席した記者からの評判はすこぶるよかった。

ハリルホジッチ監督の会見に記者から拍手 早速記者の心をつかむ livedoor スポーツ(2015年3月19日)

かくいう筆者も大きな可能性を感じた一人だ。

こういうポジティブな印象は、182cmの引き締まった体でスーツを着こなしていたことに加えて、やはりスピーチのうさまによるところが大きいだろう。

今回はメンバー発表会見で見せた、ハリルホジッチ監督の5つの「プレゼン力」に注目したい。

1. 間を取って、緊張をほぐす

会見が始まり、霜田正浩技術委員長が挨拶を終えると、ハリルホジッチ監督はメモを片手に立ち上がって前のスペースに出て来た。

記者陣は誰が選ばれるのかと固唾をのんで待っている。

だが、ハリルホジッチ監督はマイクの前に立つと、集まる視線をすっとかわして、突然振り返って通訳に飲み物を求めた。ペットボトルの水を一口ふくむと、丁寧にキャップをしてあらためてマイクに向き合う。

会場に張りつめていた空気が、一瞬でなごやかなものになった。

計算でやった行動ではないかもしれないが、焦らず、落ち着いた振る舞いが、切羽詰まっていない余裕を感じさせた。

あなたたち記者を警戒していませんよ、というメッセージを感じずにはいられない。アイスブレイクが成功した瞬間だった。

2. 訳しやすいようにワンセンテンスごとに区切る

ハリルホジッチ監督が会見を通じて徹底していたのが、発言をワンセンテンスごとに区切り、そのつど通訳に訳させるということだ。

えてして外国人監督は伝えたい気持ちが強すぎて話が長くなり、通訳とのタイムラグによって、逆に言葉の熱が失われがちだ。

だが、ハリルホジッチ監督はワンセンテンスごとに切るので、ものすごくリズムがいい。

これを実行するには、思考が整理されているだけでなく、短い文で言い切る勇気が必要だ。ハリルホジッチ監督は、それを兼ね備えている。

とにかく言いたいことがはっきりしており、「もやもや」が残らない。

ハリルホジッチ監督は旧ユーゴスラビア出身で、フランス語はネイティブではない。それでもフランス語で指揮を取っている。

外国で言葉を伝えることに慣れている──。

これはザッケローニ監督やアギーレ監督にはなかった長所だ。

3. いい「もやもや」を利用する

ただし、ハリルホジッチ監督は、すべてを言い切ったわけではない。いい意味の「もやもや」もうまく利用していた。

会見前日、ハリルホジッチ監督はナビスコカップの川崎フロンターレ対名古屋グランパスを視察していた。その試合についてこう語った。

「昨日、試合を観ました。我々のスタッフは誰も教えてくれなかったんですが、ある選手に目がいきました。将来に向けて、いいと思った選手です。この日本代表にすぐにベストメンバーとして入れないですけど、次の試合に向けて注意深く見ていきたいと思います。もし彼が素晴らしいプレーを続ければ、次も呼んでみたい」

その選手とは、「次も」という言葉から推測すると、バックアップメンバーに入った大卒ルーキーの車屋紳太郎(川崎フロンターレ)だと思われる。

だが、具体名は言っていないため、川崎対名古屋に出たすべての若手が「自分かもしれない」と感じることができる。

Jリーグを活性化するうえでも、実にうまい「もやもや」の使い方だった。

4. 伝統と歴史へのリスペクト

ハリルホジッチ監督の発言には、日本サッカーの伝統と歴史へのリスペクトもにじんでいた。

メンバー発表を終えたとき、こう付け加えたのだ。

「遠藤保仁の名前がここに入っていないことを、みなさんもお気づきだと思います。私はロシアW杯のために日本に来ました。そのための準備をしています。ただし、ここ数年日本代表のために貢献してきてくれた彼のことを忘れてはいけません。日本代表に貢献してくれた彼に敬意を表することを、ここに付け加えたいと思います」

ドライな決断を、ウェットな思いで包み込む──。今回の会見において、ハリルホジッチ監督の人柄が最も表れた瞬間だった。

5. 年長者への気遣い

年長者への気遣いも見られた。

前方に座った60歳以上と見られる日本人記者が、ずっと手をあげて質問を試みていたが、他にも手をあげる者が多く、司会者から指名されることはなかった。

司会者が会見を終えようとすると、ハリルホジッチ監督が待ったをかけた。

「あのムッシュが、質問があるんじゃないかな?」

年配の記者にマイクが運ばれると、ハリルホジッチ監督は「優しい質問でお願いします」とすかさず合いの手を入れた。会場は温かい笑いで包まれた。

質問はチームにどんな規律を求めていくか、というものだった。

ハリルホジッチは、スタッフへの規律について答えた。

「グラウンド外でもたくさんの準備をしなければなりません。各個人に役割があって、それを要求しています。大きな責任感を持ってやってほしいと思っています。

ただ、日本の皆さんは本当に仕事を丁寧にやるし、規律正しいので、そこは心配していません。協会の多くの方が寝ずに仕事をしているのを見て。ショックを受けました(笑)。

私が期待したいのは、ディテールにこだわって仕事をすること。日本に呼んでもらったことを本当に誇りに思っているし、心の底からありがとうと言いたい。日本代表が大きな仕事を成し遂げられるように取り組んでいきます」

とはいえ、プレゼンテーションがうまいからといって、勝者になれるとは限らない。最も大事なのはピッチでの指揮である。あくまで第一印象が良かったにすぎない。

3月27日のチュニジア戦に向けて、大分で日本代表合宿がスタートする。ピッチ外で示した手腕を、ピッチ内でも示せるのか? NewsPicksでは引き続き日本代表を追って行く予定だ。

【特別テニスコラム 文・上田裕】

◎マスターズ・BNPパリバ・オープン途中経過

先週開幕した男子プロテニスツアー・マスターズの初戦であるBNPパリバ・オープンが佳境に入った。ベスト4にはジョコビッチ、フェデラー、マレーとビッグ4のうち3人が入り、あと一枠にはナダルを準々決勝で破ったラオニッチが食い込んだ。

準決勝ではジョコビッチとマレー、フェデラーとラオニッチが対決する。筆者は準々決勝のフェデラー×ベルディヒ戦(6-4、6-0でフェデラー勝利)と、ラオニッチ×ナダル戦(4-6、7-6、7-5でラオニッチ勝利)をNHKBSで観戦したが、ひときわフェデラーの充実したテニスに目を惹かれた。

基本的にラケットを振りきって打つスタイルのナダルは、このラオニッチ戦のようにボールが伸びてくるハードコートでのビッグサーバー相手にもろさを見せることがしばしばあるが、フェデラーは高速サーブのブロックリターンも得意としている。ラリーの展開力でもラオニッチに対してフェデラーに分があるため、フェデラー優位で試合が進むと筆者は考えるが、どうなるか。

また、日本の錦織圭は4回戦でフェリシアーノ・ロペスに4-6、6-7で敗戦した。ロペスの左利きから繰り出される癖のあるスピン、スライスに最後まで対応しきれず、得意のハイテンポなストロークの打ち合いに持ち込むことが出来ず敗戦した印象だ。

錦織の次の試合は3月25日から始まるマスターズ2戦目、マイアミオープンだ。今大会の敗戦が早かったことで次の大会への準備期間をしっかり取れたとも言える。この春のマスターズ2連戦、上位をキープするためには2大会連続の早期敗戦は絶対に避けたいところだ。