2023/9/8

【大本命】Google Workspaceの「AI」がビジネスコラボレーションを“爆速化”する

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 ビジネスパーソンの日々の仕事に必要不可欠なビジネスアプリケーション。
 なかでも、Google Workspaceは、生産性とチームワークの向上を実現するクラウドアプリケーションをワンセットで提供し、国内外の多くの企業に導入されている。
 2021年時点で、ユーザーは30億人以上。機能を拡張する一般公開アプリは5,300以上あり、アプリケーションのインストール数は48億件にのぼっている。
 Gmail、Google カレンダー、Google Chat、Google Meet、そしてGoogle ドライブ・ドキュメント・スプレッドシート・スライドなど、普段活用しているビジネスパーソンも少なくないだろう
 そんなGoogle Workspaceが今、ターニングポイントを迎えている。その理由が、生成系AIを活用した新機能「Duet AI for Google Workspace」の登場だ。
 AIによってGoogle Workspaceの各アプリケーションの機能を大幅に強化するもので、生成系AIの特徴を活かし、文書や画像、図表、スライド資料などをゼロから生み出せる。 
 Google Cloudは、2023年3月からDuet AI for Google Workspaceの一部機能をテストユーザーへ開放し、8月に正式リリースをしている。
 Google Cloudが、2016年に「AIファースト」宣言を行ってから、7年。進化のさなかにあるGoogle Workspaceは、私たちの仕事にどんなインパクトをもたらすのか。Google Workspace アジア太平洋地域を統括する佐藤芳樹氏を直撃した。
INDEX
  • コラボレーションのカルチャーがGoogle Workspaceを生んだ
  • Google Workspaceは企業文化をも変える
  • Google WorkspaceとAIがコラボレーションを加速化させる
  • Duet AI=AIをあなたのアシスタントに
  • Duet AIは「一番解決したい課題」を解決する

コラボレーションのカルチャーがGoogle Workspaceを生んだ

──現在、Google Workspaceは世界で30億人のユーザーに使われています。ここまで爆発的にサービスが広がったきっかけは何でしょうか?
佐藤 大きなきっかけの一つになったのが、2004年に登場した「Gmail」ではないかと考えています。
 当時、メールの受信トレイの容量が数十メガだった時代に、1ギガの容量をもつフリーメールサービスが無料で提供された。
 その結果、ユーザーがGoogle Cloud上に一気に集まった。これが後のGoogle Workspaceの礎となりました。
 そして、Google カレンダー、Google Chat、Google Meet、Google ドライブ・ドキュメント・スプレッドシート・スライドなどのツールが次々と誕生しました。
──大容量のメールサービスを無料で開放できたのは、なぜですか?
 Google Cloudは今も昔も、サーバーからラック、チップにいたるまで、あらゆるアーキテクチャを自社で作れます。
 したがって、大きな投資を行う場合でも、自社でサービスを構築できるので、コストを大幅に抑えられる。それが理由の一つといえます。
 Gmailでは、もともとは「社内にこういうメールサービスがあった方がいいよね」という声から、プロダクトの開発が始まりました。
 そのうちに「もしかしたら、社外の方々にも有用かも?」とサービス化して、世界のスタンダードになっていったんです。
──Googleのプロダクト開発は、ユーザー視点で行われるわけですね。
 はい。特に、プロダクトやサービスを開発するにあたり「コラボレーション」を重要視しています。
 つまり、いろいろな人とつながりながら、多様なアイデアを出し合い、ブラッシュアップしていく。それが、大きな推進力となっていると考えています。
 そういった視点に常に立ち、プロダクトを開発してきたからこそ、多くの企業で活用され、支持されていると分析しています。
──コラボレーションから、どのようなツールが生まれたのでしょうか? 具体的に教えてください。
 分かりやすいのがGoogle Workspaceの「Google ドキュメント」。オンライン上で複数のメンバーが文書を同時に編集するのは、今ではスタンダードになりましたよね。
 Googleでは10年以上も前から、共同編集は当たり前に行われてきました。
 多くのメンバーと限られた時間のなかでプロダクトやサービスを作るには、コラボレーションの精度を高める必要がある。だからこそ、Googleドキュメントは生まれました。
 まさに、コラボレーションを促進する代表的なツールです。

Google Workspaceは企業文化をも変える

──なるほど。実はこの原稿も「Google ドキュメント」で、ライターとコラボレーションしながら制作しています。実際に、Google Workspace導入企業にはどんなメリットがあるのでしょうか?
 大まかに言えば、業務と組織連携のスピードが、圧倒的に上がります。
 たとえば海外のある大手メディア企業では、Google Workspace導入前まで一つひとつの業務を個別のアプリケーションで行っていました。
 各組織はサイロ化されていて、業務を次の段階に進めるたびに、文書作成ソフトや表計算ソフトをローカルデータで更新し、承認している状況でした。
iStock / greenleaf123
 それがGoogle Workspace導入によって、対象のファイルをクラウド上で共有するだけで、メンバー同士の承認が行えるようになった。
 Google Workspaceであれば、 一つのドキュメント上で、何人もの人たちとコラボレーションできますから。
 アイデアの提案と採用のプロセスも、一つの場所で完結させられる。したがって、ドキュメントをメールに添付して何度もやりとりし、ファイルのバージョンが増えることもない。
 さらに、その企業ではGoogle Workspaceの導入によって生産性向上以外の意外な効果もありました。
──意外な効果とは?
 Google Workspaceによって作業スピードが格段に上がっただけではなく、社内の雰囲気が明るくなったというフィードバックをそのメディア企業から受けたんです。
 コラボレーションの垣根が大幅に低くなったことで、アイデアを出し合いやすくなり、マインドもオープンになった、と。
 組織が大きい企業ほど、Google Workspaceのそうした効果を明確に体感しやすいと思います。
 そうして、今ではさまざまな業種の企業に導入されているわけですが、2023年に生成系AIの実装によって大幅なアップデートをすることになったんです。
 それが「Duet AI for Google Workspace(以下、Duet AI)」です。

Google WorkspaceとAIがコラボレーションを加速化させる

──生成系AIは、研究開発だけでなく、サービスへの導入も、各社がこぞって競い合っています。Duet AIの強みはなんでしょうか?
 まず、いまや広く知られるようになった生成系AIですが、その技術は、当社が2017年に開発したニューラルアーキテクチャ「トランスフォーマー」が端緒となっています。
 トランスフォーマーは、生成系AIの飛躍的な進化を促した技術で、当社でも“なくてはならないもの”として活用しており、Duet AIでも技術基盤となっています。
 つまり、大前提として我々は「AIファースト」な企業であることをお伝えさせてください。
 その上でDuet AIの最大の強みを示すならば、「AIの活用も含めた、あらゆる作業がクラウド上で行える」点に尽きます。
──どういうことでしょうか、もう少し詳しく教えてください。
 たとえば、日本には伝統工芸や美術など、さまざまな匠がいますよね。匠の技を習得したいと思って、アウトプットだけを真似しても、決して匠にはなれません。
 なぜならアウトプットの裏には、失敗も含めた無数のプロセスが存在し、それを積み重ねた末に匠の技となっているからです。
 つまり、Duet AIは100%ウェブ上で実行するので、失敗も含めたあらゆるプロセスのデータが、とりこぼしなく一つの場所に蓄積されます。
 ゴールや目的に到達するための適切なプロセスを、Duet AIで導き出し、テキストやデータを資料にすべて落とし込める。これによって、あらゆるスキルレベルのユーザーに必要な支援を提供できるんです。
──生成系AIの活用にあたっては、セキュリティに対する懸念がなされています。その辺りはいかがでしょうか?
 Duet AIの設計では、お客様のセキュリティやプライバシーに加え、Googleが規定しているAIの原則を遵守しています。
 つまりDuet AIへの入力や、生成されたアウトプットは、Googleのプロダクトや学習や開発に使用されることはありません。
──なるほど。では具体的に、どんなことができるんでしょうか?
 たとえば、GmailやGoogleドキュメントの文書作成をDuet AIがサポートする「Help me write」機能を使えば、文章に含めたい内容を数語入力するだけで、高精度で自然な文章が作成されます。
 「Help me write」は、文脈に沿って名前や関連情報を自動入力する機能や、希望の文書スタイルに沿った校正サポート機能も搭載しています。
 したがって、今までは検索と文書作成を行ったり来たりしながら作成していたものを、AIとの対話をし、クリックするだけでまとめられる。
 ということは、PCだけでなくスマホやタブレットでも文書作成を遜色なく行えるんです。プロジェクトの草案や、ゴールの設定、そこに向けた戦略やスケジュール、予算までも導き出せます。
──文書作成以外ではいかがでしょう。
 プレゼンテーションツールの「Googleスライド」では、オリジナリティのあるプレゼン資料を「Help me visualize」でスピーディに作れます。
 テキスト入力だけで速やかにオリジナル画像が生成され、その調整も自在に行えます。
 これにより、ネット上のフリー画像を探す手間と時間などをごっそりカットできる上、よりイメージに沿った画像を使用できる。
 表計算ツールの「Google スプレッドシート」では、「Help me organize」を使うことで、「このプロジェクトでは、どんな列名やテーブル設計にすると管理しやすいか」と聞くと、最適解が提示されます。
 スプレッドシートでの管理手法は個人のスキルレベルに依拠しがちですが、誰でも最適な図表を効率的に作成できます。
 さらに、アプリ開発プラットフォーム「AppSheet」を使えば、これまでプロに発注していた業務プロセスの自動化アプリを、AIと対話をして「ノーコード」で作ることが可能です。
 いわばDuet AIがエンジニアの役割を果たし、ビジネス部門の人材のみで業務の自動化が進められる。
 そして、AppSheetで作られたツールの裏では、Gmail、カレンダー、ドライブなどが連携・反映されています。
 Duet AIによって、Google Cloudが掲げてきたビジネスのコラボレーションがさらに推進される。
 これはGoogle Workspaceの一つの“究極形”といえます。

Duet AI=AIをあなたのアシスタントに

──Duet AIによって、実際に私たちの仕事はどのように変わるのでしょうか?
 たとえばDuet AIで、メールの内容を要約し、そこからいくつかの指示をもとにプレゼン用のスライドを作り、画像も自動で生成する。
 さらにプレゼン用のスクリプトも作ってもらう。それらすべてを終えるのに1~2週間かかっていたのが、数十分でできるようになります。
 またビデオ会議ツールのGoogle MeetでDuet AIを使えば、話者の判別もふまえたミーティングの議事録が自動で行われ、求められるタスクと各人への割り振り、期限などネクストアクションも自動で設定できる。
 従来であれば、ミーティングをして誰かが議事録を数時間から数日かけて作り、それをメンバーがレビューして修正を行い、議事録をベースに次のミーティングで必要なアクションを決める、といったプロセスが主流でした。
 当然、メンバーの予定が合わず「次の会議は来週ですね……」なんてことになりかねない。
 しかしDuet AIを使えば、その日のうちにすべてを終えられる。浮いた時間は、新しいアイデアの創造や、チームメンバーとの対話に使えます。
 このように、Duet AIによって、チームメンバーとのコラボレーションの形も進化します。
 特に多国籍のメンバーやクライアントとコミュニケーションする場合は、言語や時差なども影響されるので、生産性が圧倒的に高まるのではないでしょうか。

Duet AIは「一番解決したい課題」を解決する

──今後、Google Workspaceとして力を入れていきたいことは?
 今、私はアジア太平洋地域の各国に赴き、Duet AIをどう使えばいいか、アイデア出しとブレストのワークショップを開催しています。
 というのも、Duet AIがデモとして美しくても、現場の業務を知らなければ、適切に使いこなせず、絵に描いた餅になってしまう。
 だからこそ、現場の業務を一番知っているユーザー自身に、徹底してヒヤリングを行おうと。
 既にこの1ヶ月ほどで500以上のアイデアが集まり、今それを分類・整理してどれをソリューション化するか検討しています。
 ユーザーから声を聞くことは、もともとGoogle Cloudのユーザー会「Jagu’e’r(ジャガー)」を通して、日本で先行して行ってきました。 
 課題解決のナレッジが共有されれば、他のユーザーも自社の解決に置き換えられますし、その結果、Duet AIやGoogle Workspaceの利用率が上がって有用なデータも集まりやすくなるはずです。
──最後に、企業がDuet AIを最大限に活用する上で「やってほしいこと」を教えてください。
 Duet AIを使って「一番解決したい課題」に取り組んでほしいですね。
 もしかすると、課題が複雑で一発で解決しないかもしれませんが、そのプロセスから得られる失敗やナレッジは、今後AIと歩んでいく上でとても貴重な資産となります。
 もちろん課題が改善されれば、企業や組織にもたらす成果とインパクトは計り知れません。
 だからこそ、「ここを抜本的に変えられたら、すばらしい世界が待っている」のような、コアなビジネス課題の解決にぜひDuet AIを活用してチャレンジしていただきたい。
 もし、今から取り組んでいただければ、5年後、10年後に、きっと圧倒的な差を生み出せるはず。
 企業が抱えるビジネス上の課題に対して、Duet AIを活用いただくことで、ビジネスの更なる成長を遂げてほしいですね。