WB_-----_150320

今年はまさかのマイナス成長?

ブラジル政府と石油大手が“オウン・ゴール”で、国民150万人デモ

2015/3/20
Weekly Briefingでは毎日、ビジネス・経済、メディア・コンテンツ、ワークスタイル、デザイン、スポーツ、中国・アジアなど分野別に、この1週間の注目ニュースをピックアップ。Weekly Briefing(ワールド編)では、世界で話題になっているこの1週間の読むべきニュースを各国のメディアからピックアップします。

昨年のワールドカップの準決勝で、サッカー王国のブラジルがドイツに1-7で惨敗したとき、西欧人は自惚れ屋のブラジル代表が熟練のドイツ代表に屈した、と捉えた。また、この敗北を、ブラジルの低迷する経済の“象徴“と言う人もいた。

ある意味、彼らは正しかったのかもしれない。

現在、ブラジルのDilma Rousseff(ジルマ・ルセフ)大統領は、まさに「弱り目にたたり目」の状況にいる。3月15日、全国で60を超える市や地域で、大規模な反政府デモが行われたのだ。そこに集まった人数は、なんと150万人に上った。

ブラジルの経済は昨年から低迷している上、インフレ率は増加している。このままでは、ルセフ大統領が標榜(ひょうぼう)してきた「貧困の削減」が行き詰まる可能性が高い。それに加えて、その前日に、ルセフ大統領が率いるPartido dos Trabalhadores(労働者党)の会計専任者が、汚職の容疑で正式に起訴された。腐敗した政治に、貧困問題、経済の低迷──。国民の怒りは頂点に達しているのだ。

Roughly 1.5 million people protested across Brazil last weekend in response to the Petrobras corruption scandal (Anadolu Agency/Getty)

Roughly 1.5 million people protested across Brazil last weekend in response to the Petrobras corruption scandal (Anadolu Agency/Getty)

Pick 1:ブラジルの経済は今後、“崖から落ちる”可能性

From Bloomberg.

昨年、ブラジルの経済成長率は1%にまで鈍化した。最近、インフレ率はブラジル中央銀行が上限としている6.5%を超えた。ちなみに、インフレ率がインフレターゲットの上限を超えたのは、2011年以来、11回目だ。物価が上昇すれば、公共セクターも民間セクターも当然、支出を抑制する。ブラジルの景気低迷は長期化する公算が高い。

ブラジルはここ数年間、ワールドカップやオリンピックなどの大規模イベントに多額の投資を行ってきた。この“財政刺激策”は、主に鉄道や道路、空港などのインフラ投資や社会福祉制度の見直しに使われ、約5000万人の国民を貧困から救った。だが、この貧困対策にも、差し迫る景気後退が“待った”をかけている。

景気後退の影響は、ブラジルの主力産業にもマイナス影響を与えている。ブラジルは、世界で第4位の農業生産国であり、特に、コーヒーやサトウキビでは世界一の生産量を誇る。資源も豊富であり、鉄鉱石の生産量および輸出量ではオーストラリアに続く世界2位だ。

しかし今、これらの商品価格が暴落している。それに加えて、ブラジルレアルの急落の影響で、今年のブラジルの経済成長率は1%のマイナス成長になる見込みだとブルームバークが報じている。マイナス成長となれば、失業率はさらに上昇するだろう。

また、経済の低迷により、ブラジルの福祉制度は脆弱(ぜいじゃく)になる可能性が高い。福祉を充実させるには、当然、労働生産性を上げて、国内総生産(GDP)を増やし、税収を増やすことが不可欠だ。だが、現在のブラジルの労働生産性は高いとは言えない。

同じ新興国で比較すると、2000年から2010年までの過去10年間で、メキシコは60%、インドは82%、中国では93%も労働生産性が上がり、それにより、経済成長を実現した。だが、ブラジルでは25%にとどまった(英メデイア「The Telegraph」より)。また、「The Telegraph」は、以前の経済成長は、民間が投資資金を金融機関から借りやすいように利子を下げたり、財政政策を拡大したりした結果の、“下駄を履いた経済成長”だったと報じている。

Petrobras CEO Maria das Graças Silva Foster and 5 of her directors resigned on February 4 over corruption allegations crippling Brazil.

Petrobras CEO Maria das Graças Silva Foster and 5 of her directors resigned on February 4 over corruption allegations crippling Brazil.

Pick 2:ブラジル超大手石油会社Petrobrasが賄賂スキャンダルで“爆発”、同社と関係の深いルセフ政権がピンチ

From Les Echos.

現在、ブラジル政界は、汚職スキャンダルの渦中にいる。ルセフ政権の閣僚が、収賄容疑で続々と逮捕されているのだ。

国営の石油会社Petrobras(ペトロブラス)が、インフラ・プロジェクトの発注額を政府に増額してもらうかわりに、差額を政治家たちにキックバック。その一方で、談合により不当に公共事業の受注額を釣り上げ、2300億レアル(約8兆3000億円)を着服していたのだ。

現在、両院の議長とリオデジャネイロ州知事を含めた、現職政治家34名が汚職の疑いで取り調べを受けている。これは、2期目入ってまだ5カ月しか経ってないルセフ政権の維持だけではなく、彼女が率いる労働者党、そして30年続いたブラジルの民主主義をも揺るがす大スキャンダルだ。

3月16日には、ルセフ政権をさらなる一撃が襲った。労働者党の会計専任者であるJoão Vaccari(ショアオ・ヴァカーリ)が、ペトロブラスの経営者に数億ドルもの“寄付”を求めた疑いで起訴されたのだ。検察官によると、ヴァカーリの起訴にあたり十分な証拠をつかんでいるという。ヴァカーリに金を渡したとされるペトロブラスの幹部が、スイスやモナコでマネーロンダリングを行った形跡があるというのだ。

起訴された現職政治家34人に加え、26人の政治家や元政治家、ペトロブラスの経営幹部たちも同じ汚職容疑で告発されている。その中には、ルセフ政権の閣僚がまだ存在する可能性は高い。

ブラジル国民は、歴史の中で、2つのことを信頼してきた。一つ目は、サッカーブラジル代表。そして二つ目がペトロブラスだ。同社はそれほどまでの信頼の高い国民的企業だっただけに、国民の怒りは大きい。

とりわけ国民が怒りを募らせるのが、不正行為が行われたとされる2003〜10年の間、ペトロブラス役員会の会長を務めたのが、ルセフ大統領自身だからだ。本人はまだ取り調べを受けておらず、汚職の認識があったかどうかの質問にも否定しているが、国民の信頼を回復するには至っていない。

2月4日には、このブラジルの最大の汚職スキャンダルにより、ペトロブラスのMaria das Graças Foster(マリア・ダスグラサス・フォステル最高経営責任者(CEO)が辞任した。フォステル氏は直接的には不正行為を指摘されてはいないが、経営者や政治家がペトロブラスの契約で大金を着服していることを示した内報を見逃したことを非難されているのだ。

Pick 3:「ルセフ、“退場”しろ!」と大統領の弾劾を求めるブラジル国民

From Les Echos.

もっとも、ブラジル政府はこれまで汚職とは無縁だったとは言えない。最近で言えば、2005年、政府が議会の支持を取り付けるため、政府広報費などを事実上横領して資金を調達し、与党議員を買収した「メンサロン」事件が記憶に新しい。

当時のルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ大統領は、この汚職と自分は無関係だといち早く宣言した。当時のブラジルの経済成長は目覚ましかったこともあり、国民はこの説明に納得した。しかし、ルセフ大統領は、頼みの経済が低迷しているだけに、同じ手法をとることはできない。

ルセフ大統領へのプレッシャーは強まるばかりだ。2月15日、国民が、全国で反政府デモを行ったとき、その多くが「ルセフ大統領、レッドカード(退場)!」とプラカードを掲げ、ルセフ大統領に公聴会に出席するよう求めた。それほどに、国民は現政権を完全に信頼していない。

もっとも、今回のデモに参加した国民の多くは、ミドルクラスの白人層が多く支持基盤が貧困層にあるルセフ大統領に投票する国民ではない。従って、ルセフ大統領は支持基盤を固めるため、今後貧困層にますますバラマキを行おうと考えるはずだが、低成長の経済がそれを許さない。

現在のブラジルは、政治・経済両面でピンチに陥っている。政治面では、反ルセフ大統領とルセフ支持層との間で世論が真っ二つに割れており、経済面では、経済の低迷がスタグフレーションに発展する恐れがある。こうした状況は、ブラジルにとってリスクが大きい。今後のシナリオとしては、政府が政府を批判する国民に情報統制を行う可能性や、反ルセフの国民がクーデターを起こす可能性がまったくないとは言えない。

ブラジルは、軍事独裁政権が終焉(しゅうえん)してから30年が経つ。現在のブラジル政府は汚職スキャンダルと経済問題に揺れているが、それでも、ブラジルの政府機関はベネズエラやアルゼンチンよりは、強固で非官僚的だと言われている。

ブラジルの民主主義は、今回の危機を乗り切ることができるのか。ルセフ大統領の任期が続く今後3年半は、現政権に不満な国民の忍耐力だけではなく、ブラジルの30年間におよぶ民主主義の強さも試すことになるだろう。