2023/9/1

【レポート】プロダクトデザインを学ぶ。NP for Kids×パナソニックの夏休みワークショップ

NewsPicks for Kids編集長/NewsPicks Studios
NewsPicksからお届けしている、親子向け子ども新聞の『NewsPicks for Kids』

7月30日、パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 デザインセンターおよびアクシスデザイン研究所とのコラボレーションのもと、未来のくらしからプロダクトデザインを考えるワークショップ「みんなで考える 清潔で快適な未来のくらし」を開催した。

本記事では、その模様をレポートする。

「未来の社会」をデザインしよう

「α世代」というキーワードを聞いたことがあるだろうか。
いまSDGsを中心とする世界のメガトレンドからビジネスまでを牽引しているZ世代の「次」の世代のことで、具体的には2010年以降生まれの13歳以下を指す。
このα世代、2025年には世界で20億人に達し、歴史的に見ても最大の人口ボリュームを占めると見られている。
『NewsPicks for Kids』は、そんな次の世界を創っていく彼らα世代に向けて、家庭での対話やアウトプットのきっかけとなるようなイシューをお届けしている。
小紙では今回、未来起点×人間中心の考え方に基づき、あるべき未来を構想するパナソニックデザイン、そしてアクシスデザイン研究所との3者コラボによる夏休みワークショップを開催し、読者16組を限定招待した。
子どもたちが描く未来のくらしから、どのようなプロダクトがデザインできるのか。
子どもたちが主役となり、現役デザイナーとともに頭と手を動かした、濃密な1dayプログラムの様子をお伝えする。
ワークショップは夏休みに入ったばかりの7月30日、東京・六本木のAXIS Galleryにて行われた
本プログラムを設計し、ファシリテーターを務めたのは、アクシスデザイン研究所 デザインストラテジスト(当時)の庄司怜さん。
これからの時代、デザインによって多様な可能性を描くことで、新しいくらしや社会を創造すべく、日々パナソニックと協働している。
NewsPicks for Kids読者の子どもたちの自由な発想、制限されることのない意識や可能性に未来のヒントを探ろうと考え、今回のワークショップが実現した。

社会の発展とプロダクトの関係

未来の社会とプロダクトについて描きだす前に、まずは今の洗濯機や掃除機が、社会や技術の発展とともにどのように進化してきたかを学ぶ。
解説してくれたのは、パナソニック デザイナーの高橋匡嗣さんだ。
洗濯機は、川で衣類を洗っていた古代から、エジソンが電気式のものを発明したことでイノベーションが起こり、今では二層式、縦型、ドラム式と、ニーズに応じてあらゆるバリエーションが生まれている。
掃除機は、発明された当初は横幅8メートルもの巨大な筐体だったのが、今ではキャニスター型からスティック型、ロボット型などに発展してきた。
20世紀初頭のイギリスで発明された、エンジン駆動式の掃除機(写真:Science & Society Picture Library / GettyImages)
こうしたプロダクトの進化によって、くらしは便利になり、人々が家事にかける時間も徐々に短縮され、社会の変革につながってきたというわけだ。

プロダクトデザインのプロセス

社会の発展とプロダクトのヒストリーについて知ったあとは、くらしの「困りごと」をどうデザインに落とし込んでいくかを、現役のデザイナーが紹介していく。
高齢者向けの洗濯機のデザインを例にとって解説してくれたのは、パナソニック デザイナーの若松佳代子さん。
ユーザーが高齢者の場合、既存の洗濯機では「洗濯物を入れるときに、かがむと腰が痛くなる」「ディスプレイの文字が小さいと読めない」「うっかり、洗剤を入れるのを忘れたまま回してしまう」などの困りごとが挙げられる。
こうした課題をデザインでどう解決できるか?というアイデアを、スケッチしながら考えていくのがプロダクトデザイナーの役割だ。
アイデアが固まってきたら、CGや三次元CADを駆使してディテールの検討に入る。
今回のワークショップでは、製品化する前に「美しさ」「重さ」「グリップ感」「取り回しの良さ」などを検討する際につくっている、実機と同サイズのデザインモデル(社外秘)に子どもたちが触れる機会も。
さらに、「プロダクト=モノ」自体だけではなく、そのモノを通して、どのような楽しい体験や価値を生み出すかを考える「コトのデザイン」まで話は及んだ。
「ゲーム」を例に「モノ」と「コト」を解説する、パナソニック デザイナーの宮形春花さん
ハッピーな未来のくらしを創るには「モノ×コト」で考える視点が大切、と子どもたちに伝える、パナソニックのデザインチーム。
こうしたプロフェッショナルの思考を学んだ上で、本題の「清潔で快適な未来のくらし」を考えるワークショップに入っていく。

STEP1:悩みや想いを取材しよう

未来のプロダクトを考えるには、まず今のくらしの「悩み」や「想い」を知った上で、どのような理想を描くべきかを考える必要がある。
参加している家庭に話を聞くと、次のようなリアルな声が挙がった。
📌家事をしている中での困りごと:
・色移りや、汚れのレベルに応じて洗濯物を分けて、1日に何度も洗濯機を回さなければいけない

・マンションで暮らしているので家電の騒音が気になってしまい、使う時間帯が限られる

・子どもがいると、モノが出しっぱなしになっているので、まず片付けをしてからでないと掃除に取りかかることができない
📌家事の理想状態:
・「洗剤投入〜たたむまで」を全自動でやってほしい

・どうしても家事はワクワク感が薄い。ゲーミフィケーションの要素を取り入れて、家族全体でポジティブに取り組みたい
また、「家庭という小さな社会単位のなかで、一人ひとりに与えられた役割を果たし、共助の心を育んでほしい」「モノを丁寧に使い、メンテナンスすることを通じて、モノの作り手へ思いをはせたり、リサイクルの意識を高めたりしてほしい」といった意見も。
現代の子育て家庭は、家事を単に「家庭の運営に必要な仕事」としてだけでなく、子どもの育ちに価値がある「コト」としても捉えている様子が伺えた。

STEP2:未来のくらしを想像しよう

親世代の「悩み」や「理想」も聞いた上で、ここからは子どもたちが主役となって、未来のくらしを作るプロダクトを考えていく。
家事という枠組みにとらわれずに「10年後のくらし」をイメージしてもらったところ、身の回りの生活から社会、環境のあり方まで、幅広い意見が飛び出した。
・「スローライフを送りたい」(小3女子)

・「家の中に自分だけの秘密基地を作って、指紋認証でお母さんが入れないようにしたい」(小4男子)

・「AIがさらに進化して、今は高価な全自動の家電も、安く普及するのではないか」(小5男子)

・「10年後の自分は25歳。おそらく一人暮らしをしているので、仕事と家事を両立したい。特に洗濯は段階の多い家事なので、そこを短縮できたらうれしい」(中3女子)

・「微生物がマイクロプラスチックを食べてくれる仕組みを作って、きれいな海にしたい」(小4女子)
このように、理想のくらしや社会を起点として未来をデザインするというプロセスは、まさにパナソニックのデザイナーが日々行っている思考そのものだ。
困りごと、理想の状態はグラフィクレコーディングによって可視化された(作・ももこさん)

STEP3:未来のくらしをデザインしよう

では、どのようなプロダクトならば、その未来を叶えることができるのか。いよいよ子どもたちがデザイナーたちとタッグを組み、一緒にスケッチを描いていく
自由に発想を広げる子どもたちに、デザイナーが「こういうイメージ?」とさすがの手つきでスケッチしてみせると、「そうそう! 分かってくれてうれしい」と子どもたち。
最後は子どもたち自らの手でワークシート上にアイデアを具現化し、プレゼンする時間へと移っていく。
人がしてほしいことをテレバシーで感知して家事をしてくれる小型ロボット
ただし小さいぶんパワーが弱く、できない家事もある(この辺りは豊橋技術科学大学・岡田美智男教授が提唱する「弱いロボット」の発想にも通じそうだ)というものや、
快適なくらしを実現してくれる「ロボット集団」がいる生活、
クイズが出題され、正解すればその分だけ運転時間が延長されるお掃除×勉強ロボットなど。
それぞれがイメージする「未来のくらし」を起点にデザインされたアイデアの数々に、子どもたちどうし、保護者、デザイナーたちから拍手が送られた。
▼イベントの様子は動画でもご覧いただけます
参加した家庭からは「コロナ禍で、子どもに何かをインプットはできても、このように同世代とアウトプットしあい、シェアする機会は持てなかったので、いい経験になった」「子どもの自由な発想を大切にしながら、プロのアドバイスをもらえる貴重な体験だった」などの感想が聞かれた。
フランスのSF作家、ジュール・ヴェルヌは「人が想像できることは、必ず人が実現できる」という言葉を残している。
子どもたちが描くビジョンに、今から大人が「本気で」耳を傾け、ともに未来を具現化していくことができるかどうか。
超近未来のビジネスのデザインは、そこから始まるのではないだろうか。
*本記事は、NewsPicksの子ども向け新聞「NewsPicks for Kids」編集部よりお届けしました。