竹中平蔵の経済がわかる

竹中平蔵の「経済がわかる」

大学改革への道

2015/3/19
「この先の日本経済がどうなっていくのか」「世界経済はどのように動いているのか」ーー経営者にとっても、ビジネスパーソンにとっても、日々の経済動向をウォッチすることが不可欠です。本連載では、竹中平蔵氏が、経済の時事テーマやキーワードについて、鋭くわかりやすく読み解きます。

人材育成と研究開発

成長戦略との関連で注目される一つの分野が大学改革です。強い大学をつくることは、人材育成と研究開発(イノベーション)という二つの点で、成長の基盤をつくります。

残念ながら、日本の大学の国際競争力は極めて低いレベルにあります。これを強化するさまざまな試みが、政府のレベルでも、また大学経営のレベルでも始まっています。しかし、本格改革への道のりは、まだまだ遠いと言うべきでしょう。

事実を確認しておきましょう。

大学ランキングでよく引用されるタイムズ・ハイヤー・エデュケーションの最近のランキングによると、世界のトップ100に入っている日本の大学は、東京大学(23位)と京都大学(52位)の2大学のみです。トップ200でも東京工大(125位)、大阪大学(144位)、東北大学(150位)にとどまっています。

ランキングそのものに対して、評価の偏りがあるといった批判もありますが、評価基準を変えれば日本の大学の評価が画期的に引き上げられる、というものでもありません。やはり日本では、大学改革に対する真剣な取り組みが必要です。

事態を改善するために、いまいくつかの試みが行なわれています。

一つは、大学を三つのパターンに分類し、そのなかでの競争を促して資金配分をしていこうというものです。

昨年、産業競争力会議の作業部会で下村文部科学大臣が明らかにしたもので、86ある国立大学を「世界最高水準の教育研究」「特定分野での世界的な教育研究」「地域活性化の中核」の3グループに分類して、各グループ内で高い評価を得た大学に手厚く運営交付金(補助金、計1兆円強)が支給されます。

一方、私立大学では、生き残りのための競争がより明確になり、いくつかの経営改革が始まっています。

2018年を境にして少子化のために受験者人口が一気に減っていくことが明らかになっているので、この世界ではしばしば、「2018年問題」という表現が使われます。『日本経済新聞』(3月13日付)では、英語で授業を行なう「国際リベラルアーツ学部」を新設した山梨学院大学や、最大受験者を擁する近畿大学の不合格者を一気に取り込もうとしている摂南大学などの興味深い事例が紹介されています。

私は、こうした議論の中で重要な根本問題が抜け落ちていると以前から考えてきました。それは、日本の大学進学率自体が低いことです。別の言い方をすれば、社会全体として高等教育を身につけるというインセンティブが弱いことです。

1990年の時点で、日本の大学進学率は30%、韓国は35%でした。その後、日本の進学率は高まって現状は61%となっていますが、韓国の大学進学率は98%に達しています。

ちなみに他の主要国を見ると、アメリカ94%、オーストラリア86%などとなっています。また地域別の特色としては、北欧が高く(フィンランド94、デンマーク80、ノルウェー74)、西ヨーロッパは日本並み(イギリス62、ドイツ62、フランス58)、新興国は低位(インド・中国は25-26%)となっています。

アメリカと韓国の数字が際立っていますが、これらの国は90年代以降、グローバル化とデジタル革命が本格化した時期に、一気に大学進学率を高めました。しかし日本では、そうした現象が見られなかったのです。

結果的に、日本はアメリカや北欧に比べて圧倒的な低学歴社会となってしまいました。国や家計が教育にかけるコストも、国際的に見ると決して高くありません。高等教育を重視するという価値観が社会全体で高まっていかないと、大学改革の本格化もなかなか難しいと思われます。

今週の経済ニュースの要旨

「崖っぷち大学サバイバル 迫る『2018年問題』」『日本経済新聞』電子版(2015年3月13日)

少子化のために受験者人口が一気に減っていく「2018年問題」が迫り、大学のサバイバルレースが過熱している。すでに志願者減少の現実に直面しているブランド力が弱い大学は、あの手この手で逆襲に転じようとしている。

「箱根駅伝」の外国人留学生らの活躍で全国区の知名度を獲得した山梨学院大学は、最近は受験生集めに苦慮している。そこで、原則英語で「国際的にハイレベルな授業」を行なう「国際リベラルアーツ学部」(愛称;iCLA)を新設した。

2000年前後に1万人近くの志願者を集めていた明星大学は、2009年には半分ほどに落ち込み、理工学部や当時の造形芸術学部は定員割れに追い込まれた。そこで、自らの強みを見極めた「一点突破」型の発想で、「教職免許資格」を得るための大学で生き残りをはかっている。

大阪府寝屋川市にキャンパスがある摂南大学は、入学金(25万円)の支払期限を近畿大学の合格発表の翌日に設定するなどして、近大の併願校としての存在を確立し、2015年度の一般入試志願者は過去最多の2万人を超えた。

※本連載は毎週木曜日に更新する予定です。

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