2023/9/6

【アジャイル式】チーム全員が「右腕」になる人材育成

編集オフィスPLUGGED
古くから使われてきた「右腕」という言葉。リーダーが自分の仕事のために部下を使うという意味合いが強かったのですが、マンパワーが圧倒的に足りない地方では、互いのスキルを共有して助け合うほうがうまくいきます。

つまり、互いの「右腕」を必要なチームに差し出し、活用することによって、最高のチームづくりが可能になるということ。

アジャイルスタジオディレクターとして企業の開発チームの支援を行いながら、自治体のCDO補佐官として、AI活用などのDXを支援している岡島幸男さんに、アジャイル思考(チームで短期のうちに素早くPDCAサイクルを回し、価値を高めていく思考のこと)とAIを取り入れた新しい「右腕力」のあり方を伺います。(前編)
INDEX
  • これからの時代の「右腕力」とは
  • 自分も誰かの右腕になり、誰かに自分の右腕になってもらうペア活動
  • リーダーはチームに伴走する
  • 右腕力を磨くための具体的なステップ

これからの時代の「右腕力」とは

深刻な人材不足を抱える地方経済で、良いチームを構築するために何ができるのかーー。
福井県に居を構えながら、日本中の企業にアジャイル開発の支援をしている永和システムマネジメント取締役CTOでアジャイルスタジオディレクター、岡島幸男さんがこの問いに答えてくれました。
岡島幸男さん。ウェブ・組み込み等、様々なソフトウェア開発とマネジメントの現場を経て、現在はアジャイルスタジオで、内製化支援・アジャイル開発支援事業を主に担当
岡島「これからのチーム構築やプロジェクトには、新たな解釈での『右腕』を活用していただきたいと思います。古くから『右腕』といえば、指導者のために行動する実働部隊を想起させるかもしれません。しかし、私は新たな定義を提案します」
岡島さんがアジャイルの視点で提案する「右腕」には2つの種類があります。
岡島一つは、チームに必要な能力を持つ人に外部からサポートしてもらうこと。つまり、右腕を他部署や別の企業、個人に求めたり、提供したりするということです。もう一つは、AIに、自分の右腕として実働部隊として働いてもらうことです」
旧来的な右腕のような仕事はAIに任せることで業務を効率化し、企業が抱える人材不足の課題解決と、チーム強化に努めるという提案です。

自分も誰かの右腕になり、誰かに自分の右腕になってもらうペア活動

岡島さん自身も本業の傍らで2022年度には、自治体のDXをアジャイルの視点でサポートするという経験をしました。いわゆる自分の右腕を自治体に活用してもらうという試みです。
岡島さんはこの経験を通じて、地方の自治体がDXやD&Iへの取り組みが進む中で「人手は足りないがDXを進めなくてはならない」というときに、自治体のために「右腕」を提供する人の存在が必要不可欠だと感じました。
岡島「福井県の高浜町では数年かけてDXを進めようとしています。目標は『ノーコードツール(プログラミングなしでアプリを開発できるツール)』を活用して、自分たちで業務の効率化を進めていくことです。中心メンバーは10名(2023年5月時点)。部署も職務も違う方々によるチームだったのでペアになってもらい、アジャイル開発でよく行われる『ペアプログラミング』を応用して、部署をまたいだ最小チームを結成してもらいました」
岡島さんは、二人三脚で助け合うことで、新しい発想や視点が生まれ、協働することが最高のパフォーマンスを発揮すると言います。
「困りごとの当事者」と「技術を持つ右腕」がペアになることで課題解決への道が開ける
岡島「業務上で困っている当事者Aと、支援できる人Bでペアになってもらいました。この場合、Bの人がAの人の右腕になるわけです。例えば、保育所に通っている子どものアレルギーチェックに時間がかかるという課題を持つ保健福祉課の方と、総務課のシステム構築のスキルの高い方にペアになってもらい、アレルギーチェックのシステムを構築していきました」
腕の立つ右腕が、課題を抱えている人をサポートする形を取ることで、お互い促進し合い、良い結果がもたらされたのです。また、これまで関わることのなかった部署をまたいだペアを構成したことで、互いの仕事への理解が生まれたといいます。
岡島「たくさんのペアで他部署の課題を解決する右腕になり合うことによって、結果的にほかの部署への理解が生まれ、組織力が底上げされます。組織全体の中での居場所、心理的安全性も高まっていきます」
さらに、ペア活動の良さとして、日常的に振り返りができる点があるという岡島さん。
岡島「アジャイル開発では、短期間で素早くPDCAサイクルを回し、価値を高めていくためにKPTなどで振り返りを行いますが、ペア活動の良さは、わざわざ振り返りの時間を取らなくても、朝の5分、夕方に声をかけ合うだけで振り返りができます。これまでチームビルドを考えてこなかった小さな会社でも、理想的なチームづくりの一歩になります」

リーダーはチームに伴走する

ペア活動の次に推進したいのがリーダーによる「伴走型」の働き方だという岡島さん。
岡島伴走型とは、文字通り寄り添い伴走するサポート型の働き方のことです。一昔前の働き方は、指示型、命令型でしたが、トップダウンでは今の時代に合わないんです。働き方改革が進みつつある今の時代は、リーダーといえども、チームや個人の右腕となって伴走することで全員が成長していけます」
トップダウンでは人材もチームも育たないため、あくまでも右腕として必要な力を貸しながら、伴走することで常に変革し続け、新しいアイデアが生まれる企業風土もできてくるといいます。
岡島伴走する人間は、同じ部署や、社内に限りません。部門を超えた情報共有によるネットワークを生み出したり、ITを活用して違う部署の知り合い同士をつなげることで、新たな価値を創造したりしていく。そうやって、自分自身が誰かの右腕になることで、その人脈が自分の右腕として自分をサポートしてくれることになります」
一つの会社の中の縦割りの意識を壊し、互いに右腕を差し出し合うことで「伸ばした腕の先には無限の可能性が広がっていると思う」と岡島さん。
「いきなり『右腕力を磨く』といっても戸惑う人も少なくはないでしょう。そこで、達成方法を具体的な5つのステップに分解して説明します」

右腕力を磨くための具体的なステップ

【Step1 自己認識】
自分自身の強みと弱み、興味や情熱を理解する
まずは、自己認識のステップです。自分自身の強みと弱み、興味や情熱を理解することが、自分がどのように成長したいか、どの能力が誰かの『右腕』として生かせるかを明らかにするための基盤となります。
岡島「例えば私の場合は、『アジャイルを広めることで地元に貢献したい』という情熱が基盤となって、CDO補佐官という『右腕』になる道を選びました」
【Step2 学習とスキルの開発】
新しい知識やスキルを獲得するための学習
自己認識で明らかになった弱点を補強したり、強みをより一層強化したりするために必要なスキルや知識を学びます。
岡島「私の場合は、DXやアジャイル、AIに関することを学び、それを人にわかりやすく説明するためのスキル獲得に力を入れています」
【Step3 実践と評価】
獲得したスキルを仕事に生かし結果を評価
新しく獲得したスキルを実際の仕事に適用し、その結果を評価するステップです。スキルが実際の業務でどの程度役立つかを確認し、必要であれば調整や改善を行います。この段階では、ペア活動を実施して、ペアでお互いに意見交換(振り返り)をするのが効果的です。
【Step4 自己表現とブランディング】
自分の「右腕力」を他人に伝える
自分の「右腕力」について、人に伝えるスキルを持つことです。
岡島「自分自身をうまくブランディングし、自分のスキルや価値を正確に伝えることができれば、自己紹介の際や、自分の仕事や業績を話すときに特に役立ちます。自己表現は何もカンファレンスやコミュニティーなどの場に限らず、チーム内でのミーティングや雑談を通じて実現可能です」
【Step5 ネットワーキング】
積極的に新たな出会いを求める

最後に、新しい人々との出会いを求めて積極的にネットワーキングすること。
右腕を必要な場に差し出すことで、自分自身の世界や可能性が広がる
岡島「これにより、あなたの強みや『右腕力』に気づき、それを評価し交流したい人々との新たなつながりを作ることができます」
このようなステップを踏みながら、自分が右腕を差し出して他部署や社外のチームに伴走する立場になっていくことが理想です。そして、その時間を確保するためにも、自分の本業をいかに効率よく回すか、が鍵になります。
後編では、人ではなくChatGPTに代表されるAIに、従来型の右腕を担ってもらい、使いこなすことによって、個人の仕事や、チーム、組織全体の効率と生産性を上げ、成果を向上する方法を岡島さんから伺います。