2023/8/23

健康経営が不動産会社のサステナブルなインフラになる強さ

編集オフィスPLUGGED
「サステナブルインフラ企業」という目標を掲げて、不動産会社として地域のインフラの価値創造に貢献している「いちご株式会社」は、2008年から現役のアスリートを定年制社員として雇用しています。

トップアスリートの支援がスポーツに親しむ企業風土を生み出し、社員に向けたスポーツ活動や健康推進の取り組みが行われています。企業のCSR活動の一環として、トップアスリート雇用から始まった「スポーツ経営・健康経営」についてリポートします。(第2回/全3回)
INDEX
  • 社員のほとんどが中途採用、“多様性”が企業風土となる強み
  • 創業者の生きざまが経営陣に伝える健康の大切さ
  • 会社をチームとして考え、社員の健康を重視する理由
  • 不動産の価値とは、人を幸せにする場であること

社員のほとんどが中途採用、“多様性”が企業風土となる強み

オフィスビルや商業施設、ホテル、大型マンションなど、さまざまな種類の不動産の投資や運用、クリーンエネルギー創出を主だった事業としているいちご。
同社は、CSRでトップアスリート雇用に取り組んだことをきっかけにトップアスリート支援やスポーツ推進に力を入れていますが、社員の健康を保ち、働きやすい環境づくりの工夫は多岐にわたります。
人財本部副本部長の大井川孝志さんに伺いました。
いちご株式会社 人財本部副本部長の大井川孝志さん
大井川「弊社は不動産業をはじめ、さまざまな事業を行っていることもあり、必然的に多様な人材が集まります。そのほとんどが中途採用です。中途採用では、バックグラウンドや価値観、専門性が違う人間が集まります。それにより、自然と多様性やそれぞれの経験、価値観の違いによって、化学反応が起きはじめます。そういう風土ができてくると、前向きに新しいことをやりたい、チャレンジしたいという人材が集まってくるようになります」
中途採用の人材がチャレンジ精神を持って入ってくることで、自然と多様性豊かな社風が生まれ、忖度なく自由に意見を言い合える環境が育っているようです。
大井川「当社は東証プライムに上場している、いわゆる大企業と言われる会社ではありますが、経営陣と社員の距離が近く、極めてタイムリーに現場のことを相談することができます」
大井川さんも元々は不動産の現場にいて、不動産運用の仕事に携わっていたといいます。
大井川「人財本部に配属されたのは2022年からです。以来、現場で得意としていたアセットマネジメント、ポートフォリオマネジメントの考え方を人材戦略にも生かすチャレンジをしています。マーケットや世の中の変化は当然に起こり、企業も変革していかざるを得ない中、会社としてどう正しく変化できるのかが課題ですが、正しい変化を起こすのも人。まずは社内の相互理解を進めながら、配置や育成の工夫が大事だと考えています」

創業者の生きざまが経営陣に伝える健康の大切さ

不動産を街の持続性を高める存在として、新たな価値を付与したいと考えているいちご。同時にサステナブルなインフラをつくる企業として社会課題に取り組んでいます。その一つが、CSRとしてのトップアスリートの社員採用など人を中心にした組織づくりです。
トップアスリート支援から始まった「スポーツ経営」、健康であることを重要視した「健康経営」を軸にし、さらにチャレンジを大切にする会社でもあります。
「社長になったこと自体が大きなチャレンジだった」という、代表執行役社長・長谷川拓磨さんに伺いました。
いちご株式会社 取締役 代表執行役社長 長谷川拓磨さん
2002年に入社後、ファンド事業、開発事業全般に従事。不動産部門全体の責任者を歴任。2011年1月から、いちご地所㈱を立ち上げ、中小規模不動産を活用した新規ビジネスに主として取り組む。 2015年5月から現職。
長谷川「不動産業界は、2008年のリーマンショックで大打撃を受けました。V字回復を目指している最中に、当時の社長で私の長年の先輩でもあった岩﨑がALSを発症。2015年5月に私が社長を引き継ぎ、岩﨑は会長に就任しました」
20年間弱、一緒に業界を駆け抜けてきた岩﨑謙治前社長は当時すでに余命半年を告げられていたといいます。
長谷川「岩﨑は20代の頃からの先輩でした。いちごを立ち上げてから、私を誘ってくれたのも彼でした。彼と一緒にこの会社をやっていくと思っていましたから、彼からいきなり社長という立場を任されたことが、いちごに入社してから一番のチャレンジだったと思います」
創業者であり、先輩でもあった岩﨑前社長の「できる限りのチャレンジを精いっぱいやろう」という言葉はそのまま風土として根付き、チャレンジするためには健康が何よりも大切であることを生前、創業者自らが社員全員に伝えたのだといいます。

会社をチームとして考え、社員の健康を重視する理由

では、いちごのトップアスリート支援は健康経営とどうつながっているのでしょうか。
2008年からCSRの一環としてスポーツ部を創設し、現役アスリートを社員に迎えたことによって、より健康とスポーツを通じた役職員の心身の健康を追求するようになっていきました。
現在、同社のウエイトリフティング部、ライフル射撃部、陸上部を創部し部長を務めている石原実執行役副社長兼COOに伺いました。
いちご株式会社 取締役 執行役副社長兼COO 石原実さん
青山学院大学を卒業後、建設会社で国内大型ダム工事など全国の建設現場の工務、施工管理に従事。2007年にいちごに入社し、ウエイトリフティング部、ライフル射撃部、陸上部を創部。2011年、執行役副社長に就任。
石原「トップアスリート支援を行っていることによってスポーツを身近に感じられ、身体づくりなどに関心が湧きます。さらに、チームメイト、つまり同じ会社で働く仲間がスポーツをし、元気で活躍できていることを目の当たりにしていると、自然と刺激を受けて自分も健康でいること、運動することに関心が持てますよね」
いちご陸上部のメンバー。左から石原さん、中尾あゆみさん、清山ちさとさん、串間顧問
同じ会社で働く仲間がアスリートとして世界のトップクラスで活躍しているのを目にしたり、人事から健康情報や健康診断のお知らせや体操の案内が届いたり、社内にはぶら下がり健康器や「足跡カーペット」があったりする。
健康や運動を常に身近に感じられることで、自然と社員が健康でいることを意識するようになっているようです。
石原「ただ、すべての人が健康ではなく、病気をお持ちの方、身体が不自由な方もいます。そういう方にもスポーツを楽しんでもらえたり、笑顔になってもらえたり、すべての人が心豊かになれる仕掛けを、部活動を起点として生み出していくことを目指しています。創部当初から、部活動の存在意義は健康経営でありスポーツを通じた社会貢献であるという意識のもとに監督、コーチ、選手たちと活動をしています」

不動産の価値とは、人を幸せにする場であること

長谷川社長は不動産という価値についてこう語ります。
長谷川「不動産はそれだけで価値を出そうとしても難しい。基本的に建物の中にいる人たち、周辺の人たちと共生してこそ、価値があるものです。また、そこで働いたり、ビルと触れ合って生きる人たちにとって、不動産は生活インフラそのものなんです」
現役アスリートを含め、すべての役職員が健康で、自分の「仕事」を全うして社会貢献をしていくという、企業としてのサステナブルなあり方が見えてきました。
長谷川「文化も、価値観も当然違う中で、自分の意見も相手の意見も尊重しながら良い方向に持っていくためには、相互理解が必要です。これは、事業そのものにも同じことが言えます。いちごの技術とノウハウを活用して、一件一件の不動産の価値向上を図り、現存不動産に新しい価値を創造する事業を私たちは『心築』と呼んでいますが、人との関係性も全く同じ。心で築くことを大切にしています」
サステナブルインフラ企業を掲げているいちごですが、社には既にD&I(Diversity and Inclusion)とSDGsの考え方が浸透しているように思えます。いちごが考えるサステナビリティー経営とは、自社の取り組みや理念を従業員すべてが理解して、自らの「仕事」に結びつけ実践し社会貢献していくことです。
企業がその一歩を踏み出すには、どう考え、体現していけばいいのでしょうか。
石原「人が大事。人にはファミリーがあり、成育したり居住する地元があります。それらを含めて豊かになっていくことを考えるのが第一だと思っています」
長谷川「『日本を世界一豊かに』を目標にしています。それには、自社の社員が健やかで豊かで幸せであることが前提です」
いちごのトップアスリート支援はサステナビリティー経営の根幹になる考え方が一つの形として表れたものだと言えそうです。