2023/8/23

オリンピック選手が社員として働く企業が得た健康経営の秘訣

編集オフィスPLUGGED
「サステナブルインフラ企業」という目標を掲げて、不動産会社として地域のインフラの価値創造に貢献している「いちご株式会社」は、2008年から現役のトップアスリートを定年制社員として雇用しています。

トップアスリートの活躍がスポーツに親しむ企業風土を生み出し、社員に向けたスポーツ活動や健康推進の取り組みが行われています。企業のCSR活動の一環としてのトップアスリート雇用から始まった「スポーツ経営・健康経営」についてリポートします。(第1回/全3回)
INDEX
  • トップアスリート支援から始まったスポーツ経営
  • トップアスリートの仕事に対する意欲を評価しての採用
  • スポーツとの関わりで根付く「応援マインド」
  • トップアスリートを公私で支える人々
  • 社員の活躍を健康経営で支援

トップアスリート支援から始まったスポーツ経営

スポーツ庁の「スポーツエールカンパニー」と、東京都が定める「スポーツ推進企業」に6年連続で認定されている会社、いちご。社名は「一期一会」に由来しています。一つひとつの出会いを大切にしている同社が、スポーツ活動推進に力をいれるきっかけは2008年、CSR活動の一環として、現役トップアスリートを定年制社員として雇用し始めたことにありました。
現在、同社のウエイトリフティング部、ライフル射撃部、陸上部を創部し部長を務めている石原実執行役副社長兼COOに聞きました。
いちご株式会社 取締役 執行役副社長兼COO 石原実さん
青山学院大学を卒業後、建設会社で国内大型ダム工事など全国の建設現場の工務、施工管理に従事。2007年にいちごに入社し、ウエイトリフティング部、ライフル射撃部、陸上部を創部。2011年、執行役副社長に就任。
石原「2008年にウエイトリフティング部を創設して、三宅宏実選手と三宅義行監督を社員として迎えたことがきっかけとなり、ライフル射撃部や陸上部を創部。2019年には、Jリーグのトップパートナーとなりました」
石原さん自身は、2007年入社。いちごグループがCSRとして取り組むことを決めたウエイトリフティング部を立ち上げ、部長に就任。さらにライフル射撃部と陸上部を創部し、部長・監督を務めています。
大企業の最高執行責任者(COO)が自ら部長や監督を務めることは稀有ですが、いちごグループのトップアスリート支援と健康経営はここから始まりました。

トップアスリートの仕事に対する意欲を評価しての採用

いちごのトップアスリート採用もまた、これまで多くの企業によってなされてきたCSRとしてのスポーツ支援とは大きく異なっています。
石原「当社の社員はそれぞれが様々な業務を担っています。トップアスリートの皆さんにとって、現役であるときは競技を通じた社会貢献がメインの担当業務です。職場に配置しておりますから、そこでも担当業務はあります。ウエイトリフティング部の三宅宏実コーチの現役時代は通年、強化指定選手としてナショナルトレーニングセンターに詰めていました。その場合は、担当業務は競技だけとなります。専業でトップアスリートとして働く方に対しても、定年制社員として採用しています」
最高執行責任者が部長でもあるのがいちごのスポーツ部の特徴の一つ。
トップアスリートとしての人生の先にある働き方まで見据えたサポートがなされています。日々の練習とメールでの報告の中で励ましや改善点などのやり取りがなされ、企業の1on1のように将来のことについても、経営側と話ができるのは、働きながら競技を続けるトップアスリートにとってこれ以上ない環境と言えるかもしれません。
石原「引退後の人生、仕事についても入社時から継続的に話すようにしています。トップアスリートはいつか引退しないといけない。引退した時に突然『これからどうしよう』と悩まなくて済みます」
いちごグループの宮交シティに勤務し、2020年12月まで、ライフル射撃部に所属していた持永洋壮さんは、現役時代から「仕事との向き合い方、引退後の将来」を見据えたサポートを受けてきたといいます。
現役時代の持永洋壮さん
持永「企業がアスリートを採用する際、これまでの競技成績やその実力などを重視するのが一般的かと思いますが、当社は競技面に加えて仕事面での能力や意欲も重視して採用が行われています」
持永さんのように、仕事をしながら競技を続ける選択をした場合は、採用されれば仕事と競技の両輪で結果を出すことを求められるといいます。
持永さんは、現役時代から、宮崎の商業施設の運営、農業やスポーツビジネスの推進、横須賀のいちご よこすかポートマーケットの開発などに携わりながら、不動産を共通項にしたビジネスを創出する仕事をしています。
持永「競技引退後のセカンドキャリアを考えれば、現役時代から一般業務でも戦力として活躍できるよう仕事面での成長もサポートしてもらえる環境は、選手という一側面だけでなく個人の将来に全力で向き合ってくれる、これ以上ないサポートでした」

スポーツとの関わりで根付く「応援マインド」

競技をしながら仕事を続けるトップアスリートたちがいる一方で、トップアスリートではない社員らは、現役のトップアスリートと共に働くということについてどう感じているのでしょうか。コーポレート本部ブランドコミュニケーション部の木村真紀さんに伺いました。
木村「交流も結構あって、忘年会や、本社での活動報告などでお会いすることもあります。ウエイトリフティングの三宅宏実さんは、五輪の後に本社に出社し、役員や社員たちの首にメダルをかけて記念撮影などをしてくれました」
監査部・担当部長の岩嵜亜紀さんが、実際に、三宅宏実さんのメダルを首にかけてもらい、記念撮影をしたときの様子を語ってくれました。
岩嵜「オリンピックで活躍するトップアスリートが働く仲間としているというのは、非常に刺激的だと感じている社員が多いですね。『元気をもらった』『自分も頑張ろうと思う』という声もよく聞きますし、同じチームの一員として同じ目的に向かっている仲間だという意識が強いように感じます」
社員から三宅さんへの応援メッセージが書かれた横断幕
また、いちごの社内には、三宅宏実さんをはじめとした社員として働くトップアスリートのポスターがたくさん貼られています。働く中で、自然と会社が「自分のチーム」であるという意識と、応援マインドが根付くのだといいます。この応援マインドが、社内でのチーム力を高め、いちごグループが目指す「日本を世界一豊かに。」に向けた活力になっているようです。

トップアスリートを公私で支える人々

ライフル射撃部に所属していた持永洋壮さんは、いちごグループのショッピングセンター「宮交シティ」に勤務していた頃、同社代表取締役会長兼社長であり、ライフル射撃部の部長で監督でもある石原実さんに、軸となるあり方を教えられたといいます。
いちごのイベントに参加する石原さん(写真一番右)と持永さん(左から二番目)
持永「入社時から今日に至るまで公私にかかわらず、監督として、そして上司として、兄貴分として、大切な考え方や、働き方、あり方について教えていただきました。人を大切にすること、地域を大切にすること、自分のやるべき役割をきちんと務めること。そして、相手が大切にしている価値観を大切にすること、起きている様々なことに興味を持って想像や連想をすることなどです。練習中や遠征時に教わったことではありますが、引退した今も教えていただいたことは全て生きていて、いちごというチームの一員としてどう働いていくのかを考えながら働いています」

社員の活躍を健康経営で支援

CSRとして始まったトップアスリート支援は、いちごグループ全体にスポーツを応援する土台を醸成しました。
「自然とスポーツに親しむこと」「健康であること」が、企業というチームづくりの土台になっていますが、社員に向けたスポーツ推進の取り組みや、健康経営が進んでいます。
木村「ゴルフやフットサル、ランニングなどの社内の部活動も活発です。オフィスには、健康的な歩幅の目安をカーペットに記した『足跡カーペット』をはじめ、ぶら下がり健康器やスタンディングミーティングテーブルを設置するなど、社員が健康でいられること、自然と運動ができることを意識しています」
コーポレート本部ブランドコミュニケーション部の木村真紀さん(左)。スタンディングテーブルでの打ち合わせの様子
2023年5月には、東京都の「Enjoy Sports推進事業」と連携して、オリジナル体操「いちごゆるふわ体操動画」を製作。毎週のオンライン朝礼のスタート前に流して、役員も社員も一緒に体を動かしているといいます。
オリジナル体操「いちごゆるふわ体操動画」
このように、いちごグループはCSRをきっかけにスポーツ支援を行いながら、社員のスポーツへの意識を高め、スポーツ活動や健康推進を図っていますが、これはそのままいちごグループが社会の中で果たす役割にもつながっているようです。
石原「2019年からは、Jリーグのトップパートナーに就任し、サッカー業界にとっての不動産、つまりスタジアムや練習場などが、地域の人たちが健康や長生きのために運動する場として活用されたり、スポーツ観戦で得られる感動のために人々が集まったりすることができるよう、人を中心にしたサステナブルインフラの整備に取り組んでいます」
企業の存在意義は社会貢献であるという考え方の下、全社員が、地域貢献のために全力を尽くす。そのためにはまずはチームメンバーにこそ健康であってほしいという思いが伝わってきます。
足跡カーペット。身長別に理想の歩幅が記されている
次号では、いちごグループが役員や社員の健康を重要視する理由を掘り下げながら、健康経営が与える影響についてリポートします。